マッドサイエンティスト真理子さん

エピローグ：俊くんの疑問

　そこそこ近くのスーパーが閉店した。既に徒歩圏のスーパーは全滅である。
「別のスーパーを探しましょう」
　真理子さんは助手席に戻ると地図アプリを開いた。

　新宿から三十分の過疎の都市。市の五分の一の土地を所有する海洋研究所は荒れ果てた市道の袋小路にあった。人口減少の連鎖が行政サービスの劣化を顕著にしていた。
　まとまった土地を所有していると大手不動産が近寄ってくる。大規模開発で高層マンション群を建てたい。テーマパークを造りたい。ショッピングモールを造りたい。データセンターを造りたい。色々な要望が色々な手土産を持って現れたが、対応した春陽にお土産を仕込まれて帰って行った。
　日本中にナノマシンが広がるけど、素直に可哀想だと思う。

「俊くん、ここにスーパーがある」
　真理子さんが指さす場所は隣の市のスーパーだ。
「ここはファミリー向けだからまとめ買いには便利なお店ですね」
「決まりね」

　郊外型のスーパーには広い駐車場がある。平日はガラガラだ。店内もガラガラだ。今までと違う品揃いに一喜一憂しながら見て回る。
「旬の野菜なら、家庭菜園もありですね。食べきれない分は寄付すれば喜ばれる」
　横で頷いている。
「鶏肉なら除草を兼ねて飼育できそう。食べきれない分はレストランに売ればいい」
　横で頷いている。
「ここの調味料は、レアなメーカーを揃えていますね」
　横で頷いていたが、視線が定まるより先に一番上の段のソースを手渡した。
「なぜ、分かったの？」
　頷いて見せる。
「前から訊きたい事がありました・・・」
　横で頷いている。
「なんでマジックハンドは作らないの？」
　横で見上げている。
「だって、俊くんを頼りたいからだよ」
　マジックハンドの価値か・・・。それも良いかも。


　　了