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40話~59話
49:「着地」 小惑星探査
しおりを挟む「高度八百メートル」
探査機のフラットなアクセントで高度の報告がされた。ヘッドマウントディスプレイの視野いっぱいには小惑星表面が映し出され、視野の隅には探査機の状態を表す各種モニターが表示されていた。
この小惑星、正確には地球の二番目の衛星『ルナツー』であった。ルナツーは三年前に発見され各国の観察の結果、天文学的に奇妙な特徴を示す事が分かっていた。
まず、『永遠の新月』と言われる太陽と地球のラグランジュポイントに存在するルナツーは、その軸線上に存在する筈の衛星であったが、四百年を超える太陽黒点観測の歴史の中で発見される事がなかった。にも拘らず、三年前に突如として軸線上に現れ発見された事。
シルエットから長径十キロメートル程度の大きさがあり表面は石と礫で覆われていると推測され自転をしているが、自転軸上に重心が存在しない事。
レーザー測量の結果、岩石で構成されている筈のルナツーの表面が、水面のように波打っている事だった。
これらの謎を解明する為に、極秘裏にルナツーの有人調査計画が立ち上がったのであった。
「高度六百メートル」
探査船の周回運動はルナツーの自転は同期されている。世界一高いビルから見下ろすより低い高度になっている。
船外カメラの倍率を高くして着陸地点を確認すると、中流の河原の様な光景が広がっていた。河原と違うのは、放射線と温度差によって崩壊した岩石は角ばっていると言う事だった。
小惑星は微弱な重力しか持たないために、地球の場合地殻に沈み込んでしまうレアメタルが表面にも多量に存在している。そのため、資源開発に必要なプラントを設置できるだけの大きさと経済的に重力圏外に運び出す事が出来る小ささを備えている事。且つ、地球から遠くない事。この三条件を備えた小惑星が資源開発に凌ぎを削る各国の前に現れたのであった。
「高度四百メートル」
ヘッドマウントディスプレイ上に表示された起動ボタンをクリックすると、探査船全体が爆発音と僅かな振動に包まれ、着陸脚がバネの力で少しずつ伸びていった。
南極とは違い国際法が確立していない宇宙空間では、その地にナショナルフラッグを立てたものが開発権を主張できる暗黙の了解が成立していた。我が国も月、火星の出遅れを挽回する為にルナツーには一番にナショナルフラッグを立て資源開発の既得権を確立する必要があった。
「高度二百メートル」
着陸脚が伸び切ると、金属を叩く鈍い音と共にストッパーが掛かった。見かけ上探査機が降下しているようにする為のロケットを停止した。ここからは、更に降下速度を遅くした上で着陸地点の調整を行う必要があった。
ルナツー探査計画は、三年と言う極めて短期間で準備を整えるのはどこの国であっても困難を極めるものである。その為、意図的に計画をリークし他国のミスを誘う方法を採用していた。幸いにも目論み通りに一週間早く打ち上げをした某国は、打ち上げ時の船体の振動で配線の一部が外れると言う初歩的なミスにより探査機の姿勢制御が機能しなくなっていた。
そして、亡国の探査機は宇宙空間を彷徨っていた。
「高度百メートル」
ここまで降下すると、距離感が分からなくなる。遠くにある巨石なのか? 近くにある小石なのか? 視野の隅にある高度を確認しながら探査機のAIの行動承認を出していった。
今回の探査にはナショナルフラッグを掲げる大目的以外に、技術評価案件がいくつかあった。それは、約三十メートルの厚さが推定されているレゴリス層でも船体を固定できる技術の確立であった。レゴリス層は砂の堆積物とイメージすると分かりやすく、微重力下だと水が蒸発する様に宇宙空間に拡散していくものである。そこに着陸する場合、僅かな衝撃で宇宙空間に漂い出てしまう危険性があった。
「高度九十メートル」
微重力のルナツーに探査機を着陸固定させるために、開発されたロケットアンカーの発射シークエンスが開始した。視野の下部に表示された自己診断項目が瞬く間に確認されていった。
次の瞬間。
「ロケットアンカー発射」
探査機から斜め下に、二本のロケットアンカーがルナツー表面に向かって伸びていく。
バーン
ヘッドマウントディスプレイに大きく波打つルナツー表面が映し出された後、有人探査機は鈍い軋む音で包まれると打ち返されたボールのように回転しながらルナツーから離れて行った。
着陸の様子を地球から実況していたテレビには、ルナツーが破裂した後にアダムスキー型宇宙船のシルエットが映し出されたのであった。
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