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40話~59話
41:「あとがき」 本音
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「ねぇ、豊彦くん。『あとがき』ばかり読んでいて面白いの?」
私の彼は同じ文学部。そして今年から同じゼミ。
「面白いよ」
ぽつりと言うと、『あとがき』に目を戻す。
豊彦くんは興味の湧いた作者を見つけると、初版日順に作品一覧を作る。同じ題名でも単行本や文庫本、出版社が違うもの、改稿したものを丹念に調べて作成する。良くある事が絶版になっている本。その時には近くの図書館から一つ一つ確認をしていく。探してみるとかなり見つかると言っていた。
豊彦くんは入学の時から目立っていた。教室では黒板全体が見渡せる場所に座って講義を聞いている。少ない男子は教室の端の方に固まっている事が多いのに、女子の真ん中でも周りに誰もいないかの様に振る舞っている。いつも彼は独りだった。
豊彦くんと始めて話をしたのは、図書館だった。それは、授業で取り上げた作品とは違うのを読みたくて本を探していた時だった。その著者の作品、書棚を探しても本はなかった。図書検索をすると書棚にあるはずだったのに。
探していた著者の本、全てが閲覧コーナーに積み上げてあった。
「ごめん、誰も借りに来ないと思ったから」
私に気が付くと謝った。豊彦くんは積み上げた本の横で読書をしていた。
ページをめくる手を休めると、積み上がった真ん中あたりから一冊の本を引き抜くと渡してくれた。
「授業での作品を読みに来たんだよね? あの本の前作だよ。これがお勧め」
「ありがとう・・・。もう読んだの?」
「こっちの山はね」
図書館に来てから読んだ? のに、読了が七冊も積んであった。手元の本もあと数ページ。
「この本のお勧めのポイントは?」
豊彦くんが勧めるポイントにも興味があった。
「授業で取り上げた作品から、『あとがき』に謝辞が添えられている。それまでは天狗だった。彼もまだ若かったから。でも、処女作を超える作品が書けずに世間からは忘れられ、売れない期間を苦しんで、もがいて・・・・どん底を這いまわっていたんだよ。この時の『あとがき』には、前衛過ぎると評価が付いてこれない、助言は悪魔の囁きとかと書かれている」
「夜明け前が一番暗い・・・・だよね」
「そして、授業で取り上げられた作品。本文からは読み解けない作者の本音が『あとがき』に集約しているよ。たぶん、出版社に原稿を見せた後で『あとがき』を書いたんだろうね。助言への感謝が出て来る」
そして、手元の本を読み終え、次の本の後ろのページを開くと・・・、『あとがき』を読み始めた。
豊彦くんは、どの作品も『あとがき』だけを読んでいた。作品中に込められない思い。例えば物語の展開上本文に入れられない思い。ある意味オフィシャルな本文に対してオフレコ的なもの。これこそが、時代を映す鏡であり、作者の内面の吐露であると言っていた。
誰も来ない図書室で、一覧表を見ながら本を探し出すと閲覧コーナーで『あとがき』を読んでいる彼の隣に本を置く。
一冊読み終わると、『あとがき』よりも長い講釈を豊彦くんの横顔を見つめながら聞く。
ゆったりした時間を誰も来ない図書館で過ごしていた。
「ねぇ、豊彦くん。『あとがき』ばかり読んでいて面白いの?」
本文には書かない作者の本音。それに魅了されて『あとがき』だけを読んできた。
「面白いよ」
ぽつりと言うと、『あとがき』に目を戻す。
「本文があっての、『あとがき』だと思うよ」
豊彦くんは、驚いたように私を見ている。
私の彼は同じ文学部。そして今年から同じゼミ。
「面白いよ」
ぽつりと言うと、『あとがき』に目を戻す。
豊彦くんは興味の湧いた作者を見つけると、初版日順に作品一覧を作る。同じ題名でも単行本や文庫本、出版社が違うもの、改稿したものを丹念に調べて作成する。良くある事が絶版になっている本。その時には近くの図書館から一つ一つ確認をしていく。探してみるとかなり見つかると言っていた。
豊彦くんは入学の時から目立っていた。教室では黒板全体が見渡せる場所に座って講義を聞いている。少ない男子は教室の端の方に固まっている事が多いのに、女子の真ん中でも周りに誰もいないかの様に振る舞っている。いつも彼は独りだった。
豊彦くんと始めて話をしたのは、図書館だった。それは、授業で取り上げた作品とは違うのを読みたくて本を探していた時だった。その著者の作品、書棚を探しても本はなかった。図書検索をすると書棚にあるはずだったのに。
探していた著者の本、全てが閲覧コーナーに積み上げてあった。
「ごめん、誰も借りに来ないと思ったから」
私に気が付くと謝った。豊彦くんは積み上げた本の横で読書をしていた。
ページをめくる手を休めると、積み上がった真ん中あたりから一冊の本を引き抜くと渡してくれた。
「授業での作品を読みに来たんだよね? あの本の前作だよ。これがお勧め」
「ありがとう・・・。もう読んだの?」
「こっちの山はね」
図書館に来てから読んだ? のに、読了が七冊も積んであった。手元の本もあと数ページ。
「この本のお勧めのポイントは?」
豊彦くんが勧めるポイントにも興味があった。
「授業で取り上げた作品から、『あとがき』に謝辞が添えられている。それまでは天狗だった。彼もまだ若かったから。でも、処女作を超える作品が書けずに世間からは忘れられ、売れない期間を苦しんで、もがいて・・・・どん底を這いまわっていたんだよ。この時の『あとがき』には、前衛過ぎると評価が付いてこれない、助言は悪魔の囁きとかと書かれている」
「夜明け前が一番暗い・・・・だよね」
「そして、授業で取り上げられた作品。本文からは読み解けない作者の本音が『あとがき』に集約しているよ。たぶん、出版社に原稿を見せた後で『あとがき』を書いたんだろうね。助言への感謝が出て来る」
そして、手元の本を読み終え、次の本の後ろのページを開くと・・・、『あとがき』を読み始めた。
豊彦くんは、どの作品も『あとがき』だけを読んでいた。作品中に込められない思い。例えば物語の展開上本文に入れられない思い。ある意味オフィシャルな本文に対してオフレコ的なもの。これこそが、時代を映す鏡であり、作者の内面の吐露であると言っていた。
誰も来ない図書室で、一覧表を見ながら本を探し出すと閲覧コーナーで『あとがき』を読んでいる彼の隣に本を置く。
一冊読み終わると、『あとがき』よりも長い講釈を豊彦くんの横顔を見つめながら聞く。
ゆったりした時間を誰も来ない図書館で過ごしていた。
「ねぇ、豊彦くん。『あとがき』ばかり読んでいて面白いの?」
本文には書かない作者の本音。それに魅了されて『あとがき』だけを読んできた。
「面白いよ」
ぽつりと言うと、『あとがき』に目を戻す。
「本文があっての、『あとがき』だと思うよ」
豊彦くんは、驚いたように私を見ている。
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