上 下
31 / 31

魔導具作りのお手伝い

しおりを挟む
 屋敷に戻ってきた。

『私のしたこといけなかった?』

 アレクシアは申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。

『……うーん、あの場合は別に仕方なかったかもね。でも、なるべくああいうことは他の人にしない方がいいと思うよ』
『分かった。気を付ける』
『うん。えらいね』

 そう言うと、アレクシアはじーっと俺の目を見つめていた。
 たまにアレクシアから見つめられる機会はあった。
 ラスデア語を教えてるときも今のように見つめられていたことを思い出す。
 そして、アレクシアはゆっくりと口を開いた。

『現代の人は頭を撫でたりしないの?』

 ……頭を撫でる?
 一体どういうことだろうか。
 俺はアレクシアの発言を何度も咀嚼して、意図を分析する。

 その結果、どう考えてもアレクシアが褒めてほしいと言っているようにしか思えなかった。

『え、えーっと、俺がアレクシアの頭を撫でればいいのかな?』

 アレクシアはコクコクと頷いた。
 表情には恥ずかしそうな様子など微塵もない。
 ……ルーン族は褒めるときによく頭を撫でていたのだろうか。
 俺は頭を撫でられたことが一度もない。
 むしろ褒められるようになったのも最近になってからだ

 それに比べて、アレクシアはルーン族の王女様だ。
 よく褒められて育てられてきたのかもしれない。
 俺の褒め方では、アレクシアの満足のいくものではなかった可能性が高いな。

『じゃあ撫でるよ?』
『うん』

 アレクシアの頭に触れる。
 サラサラな髪の毛だ。
 手の平でアレクシアの頭を撫でると、とても触り心地がよかった。

『褒めてくれないの?』

 やっぱりアレクシアは褒めてほしいようだった。
 褒めるって言ってもなんて褒めればいいんだ……?
 さっき言ったようなことを繰り返せばいいかな?

『アレクシアは偉いね。今度から気をつけようね』
『うん。そうする』

 満足そうな表所を浮かべるアレクシアはとても可愛らしかった。

 それから俺達はユンの工房へ向かった。
 ユンがアレクシアと会話したいらしいので、俺に二人の内容を翻訳してほしいとのこと。
 屋敷の一室がユンの工房となっており、そこには色々な魔導具が置かれていた。

「ユン、連れてきたよ」

 工房に入ると、ユンは魔導具と睨めっこしていた。
 魔導具を作成中のようだ。
 話しかけても気付かないとは凄い集中力だ。

「あーもう! わからーん!」

 集中力が切れたのか、ユンは両腕をあげて、身体を伸ばした。

「あれ? ノアとアレクシアじゃない! いつの間に来ていたの?」
「今来たばかりだよ」
「あ、覚えててくれたのね! 私がアレクシアと話したいって言ってたこと」
「そうそう。ちょうど屋敷に戻ってきたからユンに会いに行こうと思って」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない!」

 ユンと会話することはアレクシアの勉強にも繋がる。
 アレクシアもユンと会話したいと言っていて、丁度いい機会だった。

『ユンは何を作っていたの?』

 アレクシアは俺の袖をちょっと引っ張って、ユンの作成中の魔導具に指先を向けた。
 それを翻訳してユンに聞いてみると、

「ああ、これは魔物探知機を作っているのよ。冒険者ギルドから依頼があってね。魔物を探知する仕組みを考えるのがとても難しいわ! 良いところまで来ているんだけどあとちょっとが上手くいかないわ!」

 これをアレクシアに翻訳。

『魔物? 魔物ってなに?』

 すると、アレクシアは不思議そうに頭を傾げた。

『アレクシアは魔物を知らないのか?』
『魔物なんて聞いたことも見たこともない』
『アレクシアが暮らしていた時代に魔物は存在しなかったのか……』
『うん。多分』

 これが事実なら魔物はどのようにして生まれたのか。
 歴史を見ても魔物は当たり前のように生息している。
 アレクシアが眠ってから魔物は生まれるようになったのか……?

「なになに! 何を話しているの!?」
「……いや、ユンが作っている魔導具の説明をしたら、アレクシアが魔物を知らないって言うんだ」
「え!? そうなの!?」

 驚くユン。
 そしていつの間にかアレクシアはユンの魔導具を手に持っていた。

「あら、アレクシアは私の魔導具に興味を持ってくれたのかしら!」
『これは私が見たことない技術。とても面白い』
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ! このボタンを押すと魔物を探知できるようにしたいんだけど、中々上手くいかないのよね! それさえ乗り越えれば一気に完成まで近づくんだけどね」

 二人は楽しそうに話しているが、その裏に俺の頑張りがあることを忘れてはいけない。

『そう。ならこうすれば完成する──《刻印》』

 そう言って、アレクシアは《生体反応分析》の古代文字(ルーン)を記し始めた。
 条件を付けて、魔物だけを検出するように絞っている。
 俺がさっき『魔物』と翻訳した情報だけで見事な古代魔術を一瞬にして完成させた。
 手際が良くて、つい見惚れてしまうほどだった。

『はい。多分完成したよ』
「ははは、またまた~! そんなにすぐ完成するわけないじゃない」

 冗談半分でユンは魔導具のボタンを押した。
 画面に魔物が検出される。
 画面に映る反応は1体。
 多分ファフニールだろう。

「か、完成してる……!?」

 ユンは更に驚くのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(18件)

まりっか
2021.09.08 まりっか

新作も面白い

解除
花雨
2021.07.23 花雨

お気に入り登録させてもらいました(^o^)陰ながら応援してます。

解除
RoseminK
2021.07.19 RoseminK

まあ、何やらさらに面白い展開に!
古のお姫様ですって⁉️浪漫ですわ

解除

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

【完結】そんなに怖いなら近付かないで下さいませ! と口にした後、隣国の王子様に執着されまして

Rohdea
恋愛
────この自慢の髪が凶器のようで怖いですって!? それなら、近付かないで下さいませ!! 幼い頃から自分は王太子妃になるとばかり信じて生きてきた 凶器のような縦ロールが特徴の侯爵令嬢のミュゼット。 (別名ドリル令嬢) しかし、婚約者に選ばれたのは昔からライバル視していた別の令嬢! 悔しさにその令嬢に絡んでみるも空振りばかり…… 何故か自分と同じ様に王太子妃の座を狙うピンク頭の男爵令嬢といがみ合う毎日を経て分かった事は、 王太子殿下は婚約者を溺愛していて、自分の入る余地はどこにも無いという事だけだった。 そして、ピンク頭が何やら処分を受けて目の前から去った後、 自分に残ったのは、凶器と称されるこの縦ロール頭だけ。 そんな傷心のドリル令嬢、ミュゼットの前に現れたのはなんと…… 留学生の隣国の王子様!? でも、何故か構ってくるこの王子、どうも自国に“ゆるふわ頭”の婚約者がいる様子……? 今度はドリル令嬢 VS ゆるふわ令嬢の戦いが勃発──!? ※そんなに~シリーズ(勝手に命名)の3作目になります。 リクエストがありました、 『そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして』 に出てきて縦ロールを振り回していたドリル令嬢、ミュゼットの話です。 2022.3.3 タグ追加

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

私が悪役令嬢? 喜んで!!

星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。 神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。 だったら悪女を演じてやろうではありませんか! 世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。