上 下
30 / 31

アレクシアの古代魔法

しおりを挟む
 翌朝、朝食を済ませてからアレクシアにラスデア語を教えることにした。
 方針としては基本的な文法を最初に教えて、あとは生活のなかでラスデア語を習得していくというものだ。
 どういう流れで言語を理解するのが良いか昨晩考えた結果、何かに関連付けて覚えるのが一番ではないか? という結論に至り、この方針に決定した。

 俺とアレクシアは机に向かって隣り合わせに座っている。

『まずはルーン語とラスデア語の違いを説明するね』
『うん。分かった』

 机の上に置かれた紙に言語のイメージを記していく。

『ルーン語は1文字の持つ情報量がとても多いのが特徴だね。だからある程度、文を省略しても意味が伝わると思うんだよ』
『確かに』
『アレクシアがこれから覚えていくラスデア語は文を省略すると、ルーン語に比べると意味が伝わりにくい。だからその分、文法をしっかり理解しておく必要があるね』
『分かった。よろしくお願いします』

 アレクシアはペコリ、と頭を下げた。

『ははっ、頑張るよ』


 ◇


 ラスデア語の基本的な文法を教えたあとは街に向かった。
 現代の常識を学ぶこととラスデア語の語彙を増やすことを兼ねている。
 その都度、単語を教えるってわけだ。

 アレクシアの服装はルーン族の衣装だと目立ってしまうので、現代のものに着替えている。
 白いブラウスがアレクシアの雰囲気にとても似合っていた。

『いい匂いがする……』

 露天商から漂う匂いをかいで、アレクシアは呟いた。
 焼き鳥の匂いだ。
 俺もルベループに初めて訪れたとき、焼き鳥を食べたな。
 あのときは冒険者ギルドの場所を尋ねることが目的だったけど、アレクシアも俺と同じことをしていると思うとなんだか面白い。

『これは焼き鳥って言うんだ』

 その後、ラスデア語で「焼き鳥」と発音してあげるとアレクシアはそれを復唱した。

『私、食べたい』
『そうだね。近くにベンチがあるからそこで一緒に食べようか』
『うんうん』

 アレクシアはコクコクと頷いた。
 昨日からアレクシアは現代の食事の虜になってしまっている。
 露天商から焼き鳥を3本ずつ買って、噴水の前にあるベンチに座る。
 アレクシアに焼き鳥を渡すと、美味しそうに食べ始めた。

 はむはむっ。

『どう?』
『美味しい……!』

 アレクシアはすぐに3本を食べてしまった。

『あ、もっと買えばよかったかな?』
『ううん。これぐらいで丁度いい。それにノアにも悪いから』
『そんなの気にしなくていいよ』
『……本当?』
『うん』
『……じゃあもう3本だけ食べたい』

 アレクシアは少し恥ずかしそうにお願いした。

『ははっ、分かったよ。買ってくるね』
『ありがとう』

 ぱあっとアレクシアは表情を明るくさせた。
 露天商のもとへ行き、再び焼き鳥を3本買う。
 そしてアレクシアのもとへ戻ると、見慣れない男性3人がアレクシアの周りを囲んでいた。

「君、可愛いねぇ~」
「俺達C級冒険者なんだけどさ、ちょっと遊んでいかない?」
「悪いようにはしねえよ? へへっ」

 会話の内容を聞くに3人は冒険者のようだ。
 アレクシアは何を話しかけられているのか分からない様子で首を傾げている。

「すみません、彼女ラスデア語が分からないんですよ」

 俺はその場に駆け寄った。

「へぇ、ここら辺じゃ見かけない顔つきだと思ったらそういうことかぁ~」
「言葉が分からないんじゃ仕方ないよな。強引に連れていかせてもらうとするかな」
「それがいい。言葉が分からないならそれはそれで都合がいいわけだしな」

 3人は勝手に話を進めている様子。
 話が通じていなかった。

「すみません、彼女はまだラスデア王国にも慣れていないので」

 俺は3人とアレクシアの間に入る。
 ……殴りかかってきたらどうしようか。

「あぁん? ガキが邪魔すんじゃねーよ。俺達はC級冒険者だぞ?」
「痛い目見たくなかったらさっさとそこをどきな」

 なにやら一触即発な雰囲気だ。
 とっととこの場から逃げてしまった方がいいかもしれない。

『ノア、この人たち悪い人?』

 背後でアレクシアがそう尋ねてきた。

『かもしれないね』
『そう。じゃあこうすればいい。──《突風》』

 アレクシアは古代魔法を唱えた。

「おい、何喋ってんだよ!」
「早くどけっつてんだよ!」

 突如、3人の横方向から強烈な風が吹いた。

「うわああああぁぁっ!?」
「なんだこの風ぇぇぇっ!?」
「なんで吹き飛ばされんだよぉっ!?」

 3人は吹き飛ばされ、ちょうど噴水に落ちた。
 周囲は何が起きたんだ? という様子で少しざわつきながら、3人を不思議な目で見ていた。

 ……考えてみれば当たり前かもしれないけど、アレクシアも魔法が使えるんだな。
 上手く魔法の威力をコントロールして、吹き飛ばし過ぎないようにしているのだろうか。
 だとすれば、なかなかの腕前だろう。

 ……まぁそれは置いといて、これは逃げた方がよさそうな雰囲気だ。

『ア、アレクシア、ちょっと場所を変えようか』
『分かった』

 俺は少し動揺しつつもアレクシアの手を取って、この場から逃げ出した。


──────────────────

【あとがき】

本作はカクヨムにも投稿しております!
カクヨムではかなりの話数、先行して投稿してあります。
続きが気になる方は是非、カクヨムでご覧になってください!
フォロー、★評価で応援して頂けると大変嬉しいです!

URL:https://kakuyomu.jp/works/16816452221072870067
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋
ファンタジー
 その日を境に、人類は滅亡の危機に瀕した。  数多の国がそれぞれの文化を持ち生活を送っていたが、魔興歴四七〇年に突如として世界中に魔物が大量に溢れ、人々は魔法や武器を用いて奮戦するも、対応しきれずに生活圏を追われることとなった。  そんな中、ある国が王都を囲っていた壁を利用し、避難して来た自国の民や他国の民と国籍や人種を問わず等しく受け入れ、共に力を合わせて壁内に立て籠ることで安定した生活圏を確保することに成功した。  魔法師と非魔法師が共存して少しずつ生活圏を広げ、円形に四重の壁を築き、壁内で安定した暮らしを送れるに至った魔興歴一二五五年現在、ウェスペルシュタイン国で生活する一人の少年が、国内に十二校設置されている魔法技能師――魔法師の正式名称――の養成を目的に設立された国立魔法教育高等学校の内の一校であるランチェスター学園に入学する。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

僕はその昔、魔法の国の王女の従者をしていた。

石のやっさん
ファンタジー
主人公の鏑木騎士(かぶらぎないと)は過去の記憶が全く無く、大きな屋敷で暮している。 両親は既に死んで居て、身寄りが誰もいない事は解るのだが、誰が自分にお金を送金してくれているのか? 何故、こんな屋敷に住んでいるのか……それすら解らない。 そんな鏑木騎士がクラス召喚に巻き込まれ異世界へ。 記憶を取り戻すのは少し先になる予定。 タイトルの片鱗が出るのも結構先になります。 亀更新

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...