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遺跡の最深部

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 扉の先に足を踏み入れれば、緋色のゴーレムは俺を敵として認識するだろう。
 すぐに対応できるように心の準備をしてから、俺は先へ進んだ。

「……なにも起こらない?」

 扉の先に足を踏み入れても緋色のゴーレムが襲ってくる様子はない。
 壊れているのか?

『ふむ。どうやら壊れておるようだな。先へ進むとするか』

 ファフニールが扉の先に侵入したとき、緋色のゴーレムの瞳が紅く光った。

『下がれ! ファフニール!』

 一瞬のうちに緋色のゴーレムは入り口まで移動し、ファフニールの顔の前に拳が置かれていた。
 ファフニールは俺の言葉を聞いて、扉の後ろに下がっていた。

『壊れておらんではないか!』
『どうやらそうみたいだね』
「なにコイツ……! とんでもなく危ないじゃない! でも、どうしてノアには攻撃をしなかったのかしら?」

 ユンは不思議そうに呟いた。

「たしかに、俺を敵と認識しないのはどうしてだろう……」

 ただ、それならばゴーレムをすぐに倒すことが出来る。
 なんだか申し訳ないけど、このゴーレムをなんとかしなくちゃファフニールとユンは先に進めないから。
 緋色のゴーレムに記されている古代文字(ルーン)の位置は胸部。
 形状は変わっても位置は同じだ。

「うん。これでゴーレムは大丈夫だね」

 ゴーレムを《アイテムボックス》の中に入れて、とりあえず一安心。

「壁が扉になったり、ゴーレムはノアを攻撃しなかったり、謎だらけだわ……。もしかすると、ノアは古代遺跡と深い関わりがあるのかも?」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「でも、ノアだけが古代文字を読み解けるわけじゃない? それに古代魔法だって使える。それが何か影響していたりしないかしら?」
「俺もあの類いのゴーレムを作ろうと思えば作れるけど、多分ユンの言うことは関係ないはずだよ」
「サラっと凄いこと言ってくれるわね。でも、そっか。関係ないとなると、更に謎が深まるわね! ふふ、なんだかとても面白いわね! まぁゴーレムもノアが倒してくれたことだし、先に進みましょう!」
「分かったよ。これ以上の仕掛けは遠慮してもらいたいところだけど……」

 奥には道が続いている。
 進んだ先にはいくつもの魔導具が置かれていて、青白い光を発していた。
 その中心には前面をガラスで覆われた魔導具があった。

「な、なんだこれ……」
『これは驚いたな……』

 ユンも俺達に続いて目の前を魔導具を見ると、驚愕した。

「こ、これ……

 そう、目の前の魔導具には人が入っていたのだ。

 銀髪にきめ細かく美しい肌。
 華奢な身体に長いまつ毛。
 高い鼻に小さな口。

 この世のものとは思えないぐらいに美しい少女がガラス越しに眠っていた。

「最深部にきて、こんなものが待っているとはね……」
『うむ……。我もこれには驚きを隠せん……』
「凄い……信じられない。古代遺跡の奥でまさか女の子が眠っているだなんて……。でも、この子……呼吸をしていないんじゃないかしら? 全く身体が動いている様に見えないけど……」

 少女は何一つ動いていない様子だ。
 呼吸をしていない……?
 いや、違う。
 時が止まっているのだ。

 この魔導具は時間の流れを止め、少女を眠らせる装置になっているのだろう。

 ……つまり、この魔導具の効果を止めてやれば少女は眠りから目を覚ますことになる。

「彼女は生きているよ。この魔導具は時間を止めているんだ。魔導具の動作が停止次第、すぐに活動を再開すると思う」
「そんな魔導具が本当に存在するの……? 実現不可能にしか思えないわ……」
「それが古代文字(ルーン)使えば出来てしまうみたいだね。……どうしようか? 彼女を起こすのはそれなりのリスクがあると思う。襲ってくる可能性も低くはないだろうし、もしかすると彼女は封印されているのかもしれない。……でも、俺は起こしてあげたいなって思ってしまう。こんなところで一人なのは寂しいだろうから」
『うむ。我も封印されているときは孤独との戦いだったな。あれは寂しいなんてものじゃないぞ』

 ファフニールはウンウン、と首を縦に振った。

「ふふ、こんなものを見せられて冷静な判断なんて私には出来ないわ! ノア、是非この魔導具の動作を停止してちょうだい!」
「ああ、分かったよ」

 魔導具に触れて、操作すると、ガラスが横にスライドした。
 これで彼女の時間は動きだすだろう。

 さて、理想を言うならばこれで何も争いが起きなければいいが……。
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