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クローディア第二王女
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ノアに助けられた二人は、アルデハイム家の屋敷に訪れた。
「わざわざ我が屋敷までお越しいただき、ありがとうございます。クローディア殿下」
ヒルデガンドはノアが助けた女性に向かってお辞儀をした。
その女性の名はクローディア。
──アルデハイム領が属するラスデア王国の第二王女である。
「こちらこそお招き頂き、ありがとうございます」
クローディアもヒルデガンドのお辞儀に応え、挨拶を返した。
「クローディア殿下、お初にお目にかかります。わたくし、グレン・アルデハイムと申します」
ヒルデガンドの隣に立つグレンも続け様に挨拶をした。
「ええ、よろしくお願いしますね」
クローディアはグレンに微笑んだ。
(な、なんて可愛い子なんだ……!)
その笑顔にグレンは一目惚れしてしまった。
(ふふ……こんな可愛い子が将来は俺の奥さんになるとはなぁ!)
クローディアがアルデハイム家に訪れた理由はお見合いだった。
アルデハイム家が更なる地位を築くための政略結婚だ。
本来ならばアルデハイム家の者が王都へ出向くはずだった。
しかし、クローディアの我儘で王女側が出向く形となったのだ。
いつも宮殿内で生活するクローディアにとって、このような遠出をする機会など滅多に無かった。
だからクローディアはあまり気乗りしなかったお見合いも受け、アルデハイムの屋敷に訪れたわけだ。
「しかし、道中何事もなかったようで何よりです」
ヒルデガンドは王族のような自分よりも地位の高い者の前では高圧的な態度を一切取らない。
ノアに対する態度とは真逆だった。
「いえ、それが……実はウィンドタイガーに襲われてしまいまして」
「ウィ、ウィンドタイガーですと!? A級モンスターではございませんか! よくぞご無事で……」
「実は護衛が手も足も出ない中、一人の男性に助けて頂いたのです。魔法で紫の炎を放ち、ウィンドタイガーを一撃で仕留めてしまったのです」
クローディアはその時のことを思い出すと、少し胸が高鳴った。
「ほう。紫の炎……ですか。そのような魔法使いがいるとは驚きですな」
「とても礼儀の正しい方でした。綺麗な黒髪で真っ直ぐとした目をしていました。その者はノアという名の魔法使いなのですが、ヒルデガンド卿はご存知ですか?」
クローディアの発言にヒルデガンドは内心焦る。
(黒髪で名前がノアだと……? まさかアイツのことじゃないだろうな……。ふっ、そんなわけがない。アイツは魔法も使えないような無能だ。同一人物であるはずがなかろう)
そう判断したヒルデガンドは冷静さを取り戻した。
「知りませんなぁ。しかし、火属性の魔法の使い手ならグレンも超一流と言えるでしょう。クローディア殿下のお眼鏡にかなうと思いますぞ」
ヒルデガンドがそう言うと、グレンは表情を引き締めた。
彼らの反応を見て、クローディアは冷ややかな気持ちになった。
「──では、アルデハイム家の長男であるノア・アルデハイムはどこにいらっしゃるのでしょうか?」
クローディアの発言にヒルデガンドとグレンは面を食らった。
まさか、ここでノアの名前が出てくるとは予想だにしていなかった。
クローディアは一度ノアの姿を見たことがあった。
それはノアが才能を鑑定される前のこと。
城で開催されたパーティにアルデハイム家の長男としてノアは出席していた。
そのときの記憶をクローディアは思い出したのだ。
アルデハイムに向かう、という状況下でなければ記憶の引き出しを見つけるのは難しかっただろう。
クローディアがノアのことを思い出せたのは完全にタイミングが良かった。
「……クローディア殿下、我が家にノアという者はおりません。それに長男はここにいるグレンでございます」
「ええ、そうですとも。そのノアという奴が使った魔法が何なのかは知りませんが、よろしければ私がそれ以上の火属性魔法をお見せして差し上げましょうか?」
グレンはドヤ顔でそう言い放った。
(決まった……ッ! 今の俺めちゃくちゃカッコいいだろ! これはクローディア殿下も惚れること間違いなしだぜ!)
──と、グレンは思っていたのである。
だが、クローディアはそれを一瞥(いちべつ)して流す。
「そうですか。では、お見合いの話は保留にさせて頂きます。一度王都に戻ってからアルデハイム家の事情を調べ上げてきます」
「な、なにをおっしゃるのですか! そんなことをせずともノアという者は我が家におりません! それに道中で出会した魔物もウィンドタイガーでは無かったのかもしれません。気のせいという可能性も否定できないでしょう。このあたりは滅多にA級モンスターが出現することもないですから。そのノアという者はE級、D級のモンスターを一撃で倒しただけかもしれません」
ヒルデガンドは慌てて、クローディアの説得を試みた。
しかし、それはクローディアの逆鱗に触れるだけであった。
「……なるほど、ヒルデガンド様は私の護衛がE級、D級のモンスターに遅れを取る、相手にならない、と言いたい訳ですね」
「い、いえっ! そのような意図は一切ありませんっ……! あくまでも可能性の話をしただけであって……!」
「分かりました。とにかくここでの会話は何も意味を持たないようですね。一度王都に帰らせて頂きます。それではご機嫌よう」
クローディアは護衛を引き連れて、ヒルデガンドの声を聞くこともなく去って行った。
ヒルデガンドは地面に伏して、悔しそうに拳を握りしめていた。
「……父上、私の結婚はどうなるのでしょう?」
「バカもんッ! そんなことを言っておる場合ではないわ!」
「は、はいっ! も、申し訳ございません!」
「……これはただちにノアを連れ戻さねばなるまい! くっ……、こうなっては俺が直々に探しに行くしかないか」
ヒルデガンドに残された時間はそう多くはない。
クローディアよりも先にノアの居場所を突き止めないと、アルデハイム家が落ちこぼれを追放したという事実が広まってしまい、一気に評判が落ちてしまうことだろう。
それだけは阻止しなくてはならない。
ヒルデガンドはアルデハイム家の当主に恥じないレベルの超一流の魔法使いだ。
ノアをクローディアよりも先に我が家に連れ戻すことぐらい造作もない。
すぐさま捜索の準備を終え、ヒルデガンドは屋敷を出発するのだった。
「わざわざ我が屋敷までお越しいただき、ありがとうございます。クローディア殿下」
ヒルデガンドはノアが助けた女性に向かってお辞儀をした。
その女性の名はクローディア。
──アルデハイム領が属するラスデア王国の第二王女である。
「こちらこそお招き頂き、ありがとうございます」
クローディアもヒルデガンドのお辞儀に応え、挨拶を返した。
「クローディア殿下、お初にお目にかかります。わたくし、グレン・アルデハイムと申します」
ヒルデガンドの隣に立つグレンも続け様に挨拶をした。
「ええ、よろしくお願いしますね」
クローディアはグレンに微笑んだ。
(な、なんて可愛い子なんだ……!)
その笑顔にグレンは一目惚れしてしまった。
(ふふ……こんな可愛い子が将来は俺の奥さんになるとはなぁ!)
クローディアがアルデハイム家に訪れた理由はお見合いだった。
アルデハイム家が更なる地位を築くための政略結婚だ。
本来ならばアルデハイム家の者が王都へ出向くはずだった。
しかし、クローディアの我儘で王女側が出向く形となったのだ。
いつも宮殿内で生活するクローディアにとって、このような遠出をする機会など滅多に無かった。
だからクローディアはあまり気乗りしなかったお見合いも受け、アルデハイムの屋敷に訪れたわけだ。
「しかし、道中何事もなかったようで何よりです」
ヒルデガンドは王族のような自分よりも地位の高い者の前では高圧的な態度を一切取らない。
ノアに対する態度とは真逆だった。
「いえ、それが……実はウィンドタイガーに襲われてしまいまして」
「ウィ、ウィンドタイガーですと!? A級モンスターではございませんか! よくぞご無事で……」
「実は護衛が手も足も出ない中、一人の男性に助けて頂いたのです。魔法で紫の炎を放ち、ウィンドタイガーを一撃で仕留めてしまったのです」
クローディアはその時のことを思い出すと、少し胸が高鳴った。
「ほう。紫の炎……ですか。そのような魔法使いがいるとは驚きですな」
「とても礼儀の正しい方でした。綺麗な黒髪で真っ直ぐとした目をしていました。その者はノアという名の魔法使いなのですが、ヒルデガンド卿はご存知ですか?」
クローディアの発言にヒルデガンドは内心焦る。
(黒髪で名前がノアだと……? まさかアイツのことじゃないだろうな……。ふっ、そんなわけがない。アイツは魔法も使えないような無能だ。同一人物であるはずがなかろう)
そう判断したヒルデガンドは冷静さを取り戻した。
「知りませんなぁ。しかし、火属性の魔法の使い手ならグレンも超一流と言えるでしょう。クローディア殿下のお眼鏡にかなうと思いますぞ」
ヒルデガンドがそう言うと、グレンは表情を引き締めた。
彼らの反応を見て、クローディアは冷ややかな気持ちになった。
「──では、アルデハイム家の長男であるノア・アルデハイムはどこにいらっしゃるのでしょうか?」
クローディアの発言にヒルデガンドとグレンは面を食らった。
まさか、ここでノアの名前が出てくるとは予想だにしていなかった。
クローディアは一度ノアの姿を見たことがあった。
それはノアが才能を鑑定される前のこと。
城で開催されたパーティにアルデハイム家の長男としてノアは出席していた。
そのときの記憶をクローディアは思い出したのだ。
アルデハイムに向かう、という状況下でなければ記憶の引き出しを見つけるのは難しかっただろう。
クローディアがノアのことを思い出せたのは完全にタイミングが良かった。
「……クローディア殿下、我が家にノアという者はおりません。それに長男はここにいるグレンでございます」
「ええ、そうですとも。そのノアという奴が使った魔法が何なのかは知りませんが、よろしければ私がそれ以上の火属性魔法をお見せして差し上げましょうか?」
グレンはドヤ顔でそう言い放った。
(決まった……ッ! 今の俺めちゃくちゃカッコいいだろ! これはクローディア殿下も惚れること間違いなしだぜ!)
──と、グレンは思っていたのである。
だが、クローディアはそれを一瞥(いちべつ)して流す。
「そうですか。では、お見合いの話は保留にさせて頂きます。一度王都に戻ってからアルデハイム家の事情を調べ上げてきます」
「な、なにをおっしゃるのですか! そんなことをせずともノアという者は我が家におりません! それに道中で出会した魔物もウィンドタイガーでは無かったのかもしれません。気のせいという可能性も否定できないでしょう。このあたりは滅多にA級モンスターが出現することもないですから。そのノアという者はE級、D級のモンスターを一撃で倒しただけかもしれません」
ヒルデガンドは慌てて、クローディアの説得を試みた。
しかし、それはクローディアの逆鱗に触れるだけであった。
「……なるほど、ヒルデガンド様は私の護衛がE級、D級のモンスターに遅れを取る、相手にならない、と言いたい訳ですね」
「い、いえっ! そのような意図は一切ありませんっ……! あくまでも可能性の話をしただけであって……!」
「分かりました。とにかくここでの会話は何も意味を持たないようですね。一度王都に帰らせて頂きます。それではご機嫌よう」
クローディアは護衛を引き連れて、ヒルデガンドの声を聞くこともなく去って行った。
ヒルデガンドは地面に伏して、悔しそうに拳を握りしめていた。
「……父上、私の結婚はどうなるのでしょう?」
「バカもんッ! そんなことを言っておる場合ではないわ!」
「は、はいっ! も、申し訳ございません!」
「……これはただちにノアを連れ戻さねばなるまい! くっ……、こうなっては俺が直々に探しに行くしかないか」
ヒルデガンドに残された時間はそう多くはない。
クローディアよりも先にノアの居場所を突き止めないと、アルデハイム家が落ちこぼれを追放したという事実が広まってしまい、一気に評判が落ちてしまうことだろう。
それだけは阻止しなくてはならない。
ヒルデガンドはアルデハイム家の当主に恥じないレベルの超一流の魔法使いだ。
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