上 下
3 / 31

《終極の猛火》

しおりを挟む
 さて、屋敷を飛び出してきたが、これからどうしようか。
 俺はうーん、と腕組みをして考えた。

 まずはウチが統治しているアルデハイム領の外に出ていくのは確定として、行き先を決める必要がある。

 所持金は金貨1枚。
 とりあえず当分の生活は凌げるが、どこかで稼ぐ手段を見つける必要があった。

「……うーん、ちょっと自分のやりたいこととかをまとめた方がいいよなぁ」

 という結論に至ったので、アルデハイム領の商業区域にある酒場に足を運んだ。
 酒場の中はとても賑やかだ。
 こんなに賑やかなところに来るのは初めてで新鮮だった。

 席に座り、サンドウィッチを注文した。
 お酒を飲んでみたいと思ったが、考えをまとめようとしているときに飲むものではないだろう。

「さて、どうしたもんか」

 俺は腕を組み、運ばれてきたサンドウィッチをつまみながら真剣に今後のことを考えた。


 ■やりたいこと
 ・世界を旅して色々な文化に触れたい

 ■やらなければならないこと
 ・お金を稼ぐ


 ……こんな感じか。
 色々な文化に触れたいのは昔から本を読んでいた影響かな。
 それに世界を旅するのは単純に楽しそうだ。
 考えただけでもワクワクする。

 でも世界を旅することと並行して、お金も稼がなければならない。
 自給自足の生活をするのも一つの手段だろうけど、便利な生活を送りたいのならば金は必要だ。

 この二つを満たすには……うん、冒険者が一番だろうな。
 冒険者という仕事は人気が高く、実力社会だ。
 実力があれば富と名声を手に入れられる。
 なんとも分かりやすい。

 よし、決まりだな。

 とりあえず冒険者になって、世界を旅しながらお金を稼ぐ。

 これが俺の生き方だ。


 ◇


 酒場を後にした俺は乗合馬車に乗り、アルデハイム領から出ていくことにした。

 アルデハイム領内にも冒険者ギルドは存在するが、ここで冒険者に登録すると俺の素性がバレてしまう可能性が高い。
 そうなればアルデハイム家に迷惑がかかってしまう。
 なので、少なくとも領内を出てから冒険者に登録しようという訳だ。

 魔法で移動してもいいけど、一度乗合馬車に乗ってみたかった。
 銀貨2枚を払って、東にあるルベループに向かう。
 ルべループはワジェスティ領だ。
 ここでなら冒険者登録をしてもよいだろう。

 乗合馬車の中には7人の客がいた。

「アンタ、どこまで乗っていくんだい?」

 背中に大きなバックパックを担いだ青年が声をかけてきた。
 バックパックには色々な物が入っている様子だ。
 商人かな?

「ルベループに行こうかなと」
「ほぉ~、ルベループか。あそこはなかなか栄えている街だよな」
「ええ。なんでも枯れた土地を豊かにしたとか」
「おぉ! 詳しいねぇ!」
「たまたま本で読んでいただけですよ」
「いやいや、謙遜するなよー! 俺は商人で結構世界を回っているんだけどな、街の今を知っている奴は沢山いるが、歴史について知っている奴は中々いないもんよ。だからアンタすごいぜ」
「はは、ありがとうございます」

 彼はエドガーという名前らしい。
 乗合馬車での移動中は退屈だからよくこんな風に乗客と話すらしい。

 やっぱり乗合馬車に乗って良かった。
 これは本を読んでいるだけだと分からない知識だ。
 やっぱり実際に色々なものを見て回らないと、本質は分からない。
 尚更、世界を見て回りたくなった。


 それにしても商人か……。
 冒険者になる以外にもお金を稼ぐ方法はいくらでもあるな。
 でも、一番心が躍るお金の稼ぎ方は冒険者だと思う。
 うん、俺は冒険者になってお金を稼ぐんだ。


 ◇


「ヒヒィィーーーン!」

 馬車が急に止まり、乗客は姿勢を崩して前のめりになった。

「おいおい、一体何があったんだ?」

 エドガーは馬車から顔を出して、前方の様子を確認した。

「ありゃ魔物じゃねーか……しかもめちゃくちゃ強そうだぞ! それに誰かが戦ってるな」

 俺も馬車から顔を出して前方の様子を確認する。
 エドガーの言うように魔物と鎧を着た騎士が戦っていた。
 魔物はA級モンスターのウィンドタイガーだ。
 風を纏った巨大な虎である。
 この付近にはE~D級のモンスターしか出ないため、A級モンスターの出現は異常事態だ。

 すぐさま馬車は反転し、来た道を引き返し始めた。

「やれやれ、戦っている奴らには悪いが今のうちに逃げさせてもらうのが一番だよな」

 エドガーは冷や汗を拭って呟いた。

「……いえ、俺は助けに行きます」
「は、はぁ!? 助けるって死んじまうぞ!? 命を無駄にすることはねえよ!」
「放っておけないんですよ。心配してくださってありがとうございます」
「馬鹿野郎……ッ!」

 俺はエドガーに微笑んで、馬車から飛び降りた。

 《着地》

 その場に俺は着地をして、ウィンドタイガーのもとへ駆け出した。

 理屈じゃなかった。
 何かに突き動かされているような、そんな感覚だ。

 ウィンドタイガーとの距離は30mほど。
 この距離なら魔法を当てることが出来る。

 攻撃系統の古代魔法を使うのは初めてだ。
 だけど、やるしかない。
 やらなきゃ誰も助けられない。

「《終極の猛火》」

 メラメラと燃え盛る紫の火炎がウィンドタイガーに向けて放たれた。
 ウィンドタイガーは瞬く間に紫の火炎に飲み込まれ、黒焦げになり、骨だけが残った。

 俺はウィンドタイガーと対峙していた人達に近寄り、安否を確認する。

「あの、大丈夫ですか?」

 唖然とした様子で騎士がこちらを見ていた。
 その後ろには、高貴なドレスを着て、まるでどこかの国のお姫様の様な美しい女性が座り込んでいた。

「これは其方がやったのか……?」

 騎士が兜を脱いで言った。
 女性だった。

「ええ、お二人とも無事なようでなによりです」
「……こちらこそ危ないところを助けていただきありがとうございます。あ、あの……お名前はなんと言うのですか? さぞ高名な魔法使いだと見受けられるのですが……」

 ドレスを身に纏ったお姫様のような女性は言った。

「名前はノアと言いますが、そんな大した者じゃないですよ」
「ノア様……素敵な名前ですね。助けて頂いたお礼をしたいので、これから私とアルデハイム家の屋敷にご一緒してもらえませんか?」

 アルデハイム家だって!?
 俺はもうアルデハイム家を追放された身分だ。
 戻ることは避けた方がいい。
 この二人には悪いが、逃げさせてもらおう。

「お二人が無事だったことが何よりのお礼です。先を急いでますので、これで失礼します」

 《空間転移》

 俺はさっきいた場所から姿を消して、3km先の道まで転移した。

「ふぅ……人から感謝されたのは初めてだったな。お礼を蔑(ないがし)ろにするのも悪かったよなぁ……。まぁ仕方ないか。気を取り直してルベループに向かおう」

 古代魔法の《疾駆》を詠唱して、走ってルベループに向かう。
 整備された街道を走っていては他の人に迷惑をかけるかもしれないので、街道から外れた道を走った。
 正直、馬車よりもこちらの方が速いのですぐにルベループに到着するはずだ。

 そして、そこから俺の冒険者生活が始まる。

 将来のことを思い描くと、今からとても楽しみで、すごくワクワクした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

役に立たないと冒険者クランをクビになった俺は、実は転生した最強の古代魔法使いだった

ゆゆぽりずむ
ファンタジー
冒険者のジェイドは努力を重ねて入ったSAランククランを解雇され、失意の底へと突き落とされた。 しかしある時、彼は自分の前世が古代魔法の使い手だったことを思い出した。 その規格外の強力さ故に歴史の闇へと葬られた古代魔法。 ジェイドは現代で自分だけが使える力で、冒険者の頂点への道を歩み始める。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...