6 / 13
6
しおりを挟む
「邪魔したいって言っても、そもそも三咲が今、何をやりたいのか知らないのよね……陸くんは、何か知ってるかしら?」
「三咲先輩の、やりたいこと……?」
三咲先輩、なんか言ってたっけな……?
『クリスマスなのに勉強しなきゃって、言ってなかった?』
「あ、そうそう! なんか、勉強に力を入れたいみたいですよ」
空に言われて思い出す。勉強したい、という中学二年生に似合わない言葉に、沙耶さんは眉をひそめるでもなく、「なるほど」とつぶやいた。
「あいつの家、確か、お姉さんが東大に合格したのよ。だから、自分も何か結果を出さなきゃって、焦ってるんじゃないかしら」
「お姉さんが、東大……!」
そりゃあ、焦る。その気持ち、すごくわかる。
小学生の頃、オレと空は同じ塾に入れられていたから。
塾で成績一番だった空と、同じ顔なのに、中の下くらいだったオレ。
もともと勉強は好きじゃなかったっていうのに、さらに嫌いになりそうだった。
「そうだわ!」
パン、と嬉しそうに沙耶さんが手を叩く。
「あいつの勉強を邪魔するのよ!」
いやいやいや……!
三咲先輩の境遇を聞いた後に、勉強の邪魔って──気が引ける~!!
「勉強の邪魔って……何をするんですか……?」
恐る恐る尋ねる。ふふん、と沙耶さんは名案があるとばかりに、人差し指を立てた。
「遊びに誘うの!!」
よかった~! それだけか~!
ホッと胸を撫で下ろす。一日遊ぶくらいなら、三咲先輩だって、勉強の息抜きにもなるだろう。そんなに罪悪感もない。
それに……。
「たぶん、後輩に突然、二人で遊びに行こうって誘われても、普通来ないと思いますよ」
同級生ならともかく、とオレは付け足す。
しかし、沙耶さんの笑顔は崩れなかった。
「大丈夫よ、作戦があるわ」
と言って、沙耶さんが自信ありげに作戦を説明する。
説明を全部聞き終わっても、「いい作戦だ!」とは思えなかった。
オレは眉をひそめる。
「え、えぇ~? それで、三咲先輩来ますかね?」
「あいつならきっと来るわ! なんだかんだ、優しいもの」
確かに、三咲先輩は部員の投票でキャプテンに選ばれた人だから、人望はあると思うけれど……。
「とにかく、言った通りにメッセージ送ってみて」
「わかりましたけど……」
オレはスマホを取り出す。沙耶さんの作戦に則って、三咲先輩宛にメッセージを作成した。
『お疲れ様です!
相談があるんですけど、実は、好きな人がいて、今、入院してるんです。
退院祝いに、行きたいって言っていたカフェに連れて行ってあげたいんですが……もしよかったら下見についてきてもらえませんか?
こんなこと、三咲先輩にしか頼めなくて……。
一応、カフェのサイト貼っておきます』
送信……と。
「これでいいんですか?」
「完璧よ!」
グッと、親指を立てる沙耶さん。
……本当かなぁ?
『ぼくなら行かないな』
無慈悲な感想を空がつぶやく。
だからそういうこと言うなっての。
オレが心の中で思ったことを、沙耶さんはそのまま「余計な一言ね」と一蹴した。強い人だ。
オレは三咲先輩に送った文面を読み返す。
……まぁ、この内容、オレだったら、たぶん行く。
オレにしか頼めない、とか、病気の好きな子を喜ばせたい、とか。後輩にそんなこと言われたら、力になってやりたいって思っちゃうな。
あくまで、オレだったら、の話だけど。
──ぶぶっ、とスマホが揺れた。
「え、返信はや!?」
通知で震えるスマホを見る。画面には、三咲先輩から「いいぞ」と淡白なメッセージが表示されていた。
いいのかよ!?
「ほらね。そのカフェ、わたしのお気に入りなの。クリームブリュレが絶品よ。ぜひ、食べてみてね」
「は、はい……」
呆気に取られるオレに、沙耶さんは「明後日の日曜のお昼に行きましょ」と、カフェに行く日程と時間を指定して、去っていった。
「……空はどう思う?」
沙耶さんの後ろ姿を見届けてから、オレは空に尋ねた。
『どうっていうか……まぁ、どこまで本当なのかって感じだよね。三咲先輩と知り合いなのは嘘じゃないみたいだけど……』
「だよなぁ……」
空の言うことも一理ある。だからこそ、なんとなく違和感が残るのだ。
沙耶さんの言葉を、全部信用していいのだろうか?
『まぁ、陸が下心と親切心で引き受けたなら、いいんじゃない? ぼくにもメリットがあるみたいだし?』
「下心って……! お前なぁ!」
『あはは』
恥ずかしくなって殴るふりをすると、空はオレの拳を大袈裟に避けたのだった。
「三咲先輩の、やりたいこと……?」
三咲先輩、なんか言ってたっけな……?
『クリスマスなのに勉強しなきゃって、言ってなかった?』
「あ、そうそう! なんか、勉強に力を入れたいみたいですよ」
空に言われて思い出す。勉強したい、という中学二年生に似合わない言葉に、沙耶さんは眉をひそめるでもなく、「なるほど」とつぶやいた。
「あいつの家、確か、お姉さんが東大に合格したのよ。だから、自分も何か結果を出さなきゃって、焦ってるんじゃないかしら」
「お姉さんが、東大……!」
そりゃあ、焦る。その気持ち、すごくわかる。
小学生の頃、オレと空は同じ塾に入れられていたから。
塾で成績一番だった空と、同じ顔なのに、中の下くらいだったオレ。
もともと勉強は好きじゃなかったっていうのに、さらに嫌いになりそうだった。
「そうだわ!」
パン、と嬉しそうに沙耶さんが手を叩く。
「あいつの勉強を邪魔するのよ!」
いやいやいや……!
三咲先輩の境遇を聞いた後に、勉強の邪魔って──気が引ける~!!
「勉強の邪魔って……何をするんですか……?」
恐る恐る尋ねる。ふふん、と沙耶さんは名案があるとばかりに、人差し指を立てた。
「遊びに誘うの!!」
よかった~! それだけか~!
ホッと胸を撫で下ろす。一日遊ぶくらいなら、三咲先輩だって、勉強の息抜きにもなるだろう。そんなに罪悪感もない。
それに……。
「たぶん、後輩に突然、二人で遊びに行こうって誘われても、普通来ないと思いますよ」
同級生ならともかく、とオレは付け足す。
しかし、沙耶さんの笑顔は崩れなかった。
「大丈夫よ、作戦があるわ」
と言って、沙耶さんが自信ありげに作戦を説明する。
説明を全部聞き終わっても、「いい作戦だ!」とは思えなかった。
オレは眉をひそめる。
「え、えぇ~? それで、三咲先輩来ますかね?」
「あいつならきっと来るわ! なんだかんだ、優しいもの」
確かに、三咲先輩は部員の投票でキャプテンに選ばれた人だから、人望はあると思うけれど……。
「とにかく、言った通りにメッセージ送ってみて」
「わかりましたけど……」
オレはスマホを取り出す。沙耶さんの作戦に則って、三咲先輩宛にメッセージを作成した。
『お疲れ様です!
相談があるんですけど、実は、好きな人がいて、今、入院してるんです。
退院祝いに、行きたいって言っていたカフェに連れて行ってあげたいんですが……もしよかったら下見についてきてもらえませんか?
こんなこと、三咲先輩にしか頼めなくて……。
一応、カフェのサイト貼っておきます』
送信……と。
「これでいいんですか?」
「完璧よ!」
グッと、親指を立てる沙耶さん。
……本当かなぁ?
『ぼくなら行かないな』
無慈悲な感想を空がつぶやく。
だからそういうこと言うなっての。
オレが心の中で思ったことを、沙耶さんはそのまま「余計な一言ね」と一蹴した。強い人だ。
オレは三咲先輩に送った文面を読み返す。
……まぁ、この内容、オレだったら、たぶん行く。
オレにしか頼めない、とか、病気の好きな子を喜ばせたい、とか。後輩にそんなこと言われたら、力になってやりたいって思っちゃうな。
あくまで、オレだったら、の話だけど。
──ぶぶっ、とスマホが揺れた。
「え、返信はや!?」
通知で震えるスマホを見る。画面には、三咲先輩から「いいぞ」と淡白なメッセージが表示されていた。
いいのかよ!?
「ほらね。そのカフェ、わたしのお気に入りなの。クリームブリュレが絶品よ。ぜひ、食べてみてね」
「は、はい……」
呆気に取られるオレに、沙耶さんは「明後日の日曜のお昼に行きましょ」と、カフェに行く日程と時間を指定して、去っていった。
「……空はどう思う?」
沙耶さんの後ろ姿を見届けてから、オレは空に尋ねた。
『どうっていうか……まぁ、どこまで本当なのかって感じだよね。三咲先輩と知り合いなのは嘘じゃないみたいだけど……』
「だよなぁ……」
空の言うことも一理ある。だからこそ、なんとなく違和感が残るのだ。
沙耶さんの言葉を、全部信用していいのだろうか?
『まぁ、陸が下心と親切心で引き受けたなら、いいんじゃない? ぼくにもメリットがあるみたいだし?』
「下心って……! お前なぁ!」
『あはは』
恥ずかしくなって殴るふりをすると、空はオレの拳を大袈裟に避けたのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ナミダルマン
ヒノモト テルヲ
児童書・童話
だれかの流したナミダが雪になって、それが雪ダルマになると、ナミダルマンになります。あなたに話しかけるために、どこかに立っているかもしれません。あれ、こんなところに雪ダルマがなんて、思いがけないところにあったりして。そんな雪ダルマにまつわる短いお話を集めてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる