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25 サツキくんが好きなんです
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「どうぞ」
ぼくはドアの向こうに立っているであろう、相談者に呼びかける。
緊張して、口の中が一瞬でカラカラになった。
ぼくの声を受けて、ドアがゆっくりと開かれる。
知らない女子生徒が入ってきた。上履きの色は三年生のカラー。
ゆるやかにウェーブがかった胸元までのロングヘアとたれ気味のひとみ。雰囲気からして、おとなしそうな人だった。
ぼくは後ろの窓ぎわに座っているサツキくんをちらりと見る。
全校生徒の情報を頭に叩き込んでいるサツキくんのことだから、きっとこの相談者の女の子とは下手したら知り合いだろうに、サツキくんは素知らぬ風に足を組んでいた。
……パンツが見えそうだから、今すぐやめたほうがいい。
「お座りください」
おどおどした様子の彼女を安心させたくて、ぼくはにこりと笑いかける。
着席をうながされて、彼女はびくびくしつつもぼくの正面にある椅子に座った。
「占いの前に、誰かの秘密を教えてください」
サツキくんがこれまでやっていたのを真似て、占いのお代を要求する。
彼女はある男子の志望校の高校名を教えてくれた。
ぼくはその情報に、少しだけびっくりする。
うちの学校は、中高一貫校だ。中学受験をした分、高校受験をしないで中学から高校に進学できる。
それなのに、高校の志望校があるってことは……わざわざ外部の高校に受験するってことだ。
──よっぽど、自分の夢や、将来やりたいことがあるんだろう。
春の今の段階で志望校が決まっているってことは、その男子も相談者と同じ三年生なのかな。
いや、相談者からもらった情報よりも、目の前の相談者の悩みに集中しよう。
ぼくは座り直して、相談者を見る。
「ありがとうございます──それでは、お悩みをどうぞ」
相談者の先輩は、こほん、と一つ咳払いをした。
そして、彼女の口から告げられた言葉に、ぼくはおどろきを隠せなかった。
「……わたし、同じクラスの藤野サツキくんが好きなんです」
……えっ!?
サツキくんって、後ろにいるサツキくんのこと……!?
サツキくんに片想いしてるって、言った!?
ぼくはサツキくんに振り向きたい気持ちを、必死で抑えた。
振り向かないようにしているぼくとは違って、となりに座っているみのるくんは思いっきり振り向いた。
振り向きの勢いに乗った彼のツインテールが、ぼくの頬をペチンと叩く。
「みのるくん……!」
「あ、ごめんごめん」
小声でみのるくんを叱ると、みのるくんは悪びれた風もなく、座り直した。
振り向いていないぼくは、サツキくんがどういう顔をしているのかわからない。
……目の前に、自分のことを好きだという女子が現れたとき、サツキくんはどんな気持ちになるんだろう。
きっと、サツキくんは男子だけど女装することが好きで趣味っぽいなとは思っていた。
けれど、だからと言って、恋愛対象が男子か女子かまではわからない。
「…………」
当然、サツキくんから何か言葉が発せられることはない。
──サツキくんは、今、何を思っているんだろう……?
「でも、わたしは彼に釣り合わないってわかってるんです」
相談者は、ぼくやみのるくんの行動を気にする素振りもなく、話を続けた。
「というと?」
「サツキくんは成績トップだし、クラスでも人気者なんです。やりたいことにずっと悩んでいるわたしなんかとは、大違い……」
だんだんと下を向いていく相談者の先輩。
……やっぱり、サツキくんは学年でも有名人なんだ。
そりゃそうか、とぼくは考えをあらためる。
サツキくんは以前、成績が学年一位だと言っていた。
定期テストの度に、廊下に名前が張り出されている様子が、簡単に想像できる。
膝の上で拳を握った相談者は、覚悟するようにパッと顔を上げた。
「どうしたら、サツキくんは私を好きになってくれますか?」
彼女の両目は、ふるふると震えていた。
相談者がサツキくんに憧れる気持ちは、いやでもよくわかる。
──ぼくがそうだったから。
だけど、彼女の話を、ぼくは簡単にうなずけなかった。
ぼくはドアの向こうに立っているであろう、相談者に呼びかける。
緊張して、口の中が一瞬でカラカラになった。
ぼくの声を受けて、ドアがゆっくりと開かれる。
知らない女子生徒が入ってきた。上履きの色は三年生のカラー。
ゆるやかにウェーブがかった胸元までのロングヘアとたれ気味のひとみ。雰囲気からして、おとなしそうな人だった。
ぼくは後ろの窓ぎわに座っているサツキくんをちらりと見る。
全校生徒の情報を頭に叩き込んでいるサツキくんのことだから、きっとこの相談者の女の子とは下手したら知り合いだろうに、サツキくんは素知らぬ風に足を組んでいた。
……パンツが見えそうだから、今すぐやめたほうがいい。
「お座りください」
おどおどした様子の彼女を安心させたくて、ぼくはにこりと笑いかける。
着席をうながされて、彼女はびくびくしつつもぼくの正面にある椅子に座った。
「占いの前に、誰かの秘密を教えてください」
サツキくんがこれまでやっていたのを真似て、占いのお代を要求する。
彼女はある男子の志望校の高校名を教えてくれた。
ぼくはその情報に、少しだけびっくりする。
うちの学校は、中高一貫校だ。中学受験をした分、高校受験をしないで中学から高校に進学できる。
それなのに、高校の志望校があるってことは……わざわざ外部の高校に受験するってことだ。
──よっぽど、自分の夢や、将来やりたいことがあるんだろう。
春の今の段階で志望校が決まっているってことは、その男子も相談者と同じ三年生なのかな。
いや、相談者からもらった情報よりも、目の前の相談者の悩みに集中しよう。
ぼくは座り直して、相談者を見る。
「ありがとうございます──それでは、お悩みをどうぞ」
相談者の先輩は、こほん、と一つ咳払いをした。
そして、彼女の口から告げられた言葉に、ぼくはおどろきを隠せなかった。
「……わたし、同じクラスの藤野サツキくんが好きなんです」
……えっ!?
サツキくんって、後ろにいるサツキくんのこと……!?
サツキくんに片想いしてるって、言った!?
ぼくはサツキくんに振り向きたい気持ちを、必死で抑えた。
振り向かないようにしているぼくとは違って、となりに座っているみのるくんは思いっきり振り向いた。
振り向きの勢いに乗った彼のツインテールが、ぼくの頬をペチンと叩く。
「みのるくん……!」
「あ、ごめんごめん」
小声でみのるくんを叱ると、みのるくんは悪びれた風もなく、座り直した。
振り向いていないぼくは、サツキくんがどういう顔をしているのかわからない。
……目の前に、自分のことを好きだという女子が現れたとき、サツキくんはどんな気持ちになるんだろう。
きっと、サツキくんは男子だけど女装することが好きで趣味っぽいなとは思っていた。
けれど、だからと言って、恋愛対象が男子か女子かまではわからない。
「…………」
当然、サツキくんから何か言葉が発せられることはない。
──サツキくんは、今、何を思っているんだろう……?
「でも、わたしは彼に釣り合わないってわかってるんです」
相談者は、ぼくやみのるくんの行動を気にする素振りもなく、話を続けた。
「というと?」
「サツキくんは成績トップだし、クラスでも人気者なんです。やりたいことにずっと悩んでいるわたしなんかとは、大違い……」
だんだんと下を向いていく相談者の先輩。
……やっぱり、サツキくんは学年でも有名人なんだ。
そりゃそうか、とぼくは考えをあらためる。
サツキくんは以前、成績が学年一位だと言っていた。
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──ぼくがそうだったから。
だけど、彼女の話を、ぼくは簡単にうなずけなかった。
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