女装少年は占いがお好き

２４ 初めての相談者

「占いの、才能……ですか」
　サツキくんは、ぼくに聞かれた言葉を小さく、くり返す。
　ぼくが真っ直ぐとサツキくんを見ると、サツキくんも見つめ返してきた。
　目を合わせたまま、無言の時間が流れる。
「え……占い……？」
　ぼくの相談内容に、みのるくんだけが、意味がわからないとばかりに首をかしげる。
　先に沈黙を破ったのはサツキくんのほうだった。
「じゃあ、ここでボクの代わりに占いをしてみてよ」
　と、椅子から立ち上がった。
　その表情は、占い師用の顔から、いつもの何を考えているか分からない笑顔になっていた。
「代わりに占い……？　如月……？」
　クエスチョンマークが頭の周りに浮かんでいたみのるくんだったけれど、
「……まさか、お前、如月ちゃん！？」
　ようやくパズルのピースが全部ハマったみたいに、ぼくを指差して大声を出した。
　やっと、如月ちゃんが男だと気づいたようだ。
　最初はバレたくなかったけれど、今となっては女装仲間みたいなものだし、いいか。
「そうだよ、ぼくは同じクラスの神崎如月。あらためて、よろしくね、みのるくん」
　ぼくは一応自己紹介をする。
　みのるくんは目を見開いたまま、ぱくぱくと金魚みたいに口を開け閉めしている。
　聞こえているのか、聞こえていないのか。
　如月ちゃんが男だというだけで、ショックを受けすぎでは……？
「みのるくん、如月くんが占いやるから、相談者が来たらサポートしてあげてね」
　サツキくんはみのるくんの様子を気にもせずに、指示を飛ばす。
「……はい」
　心なしか、みのるくんの返事に元気がない。
　ぼくはロッカーに向かい、自分のバッグをしまって、カツラとセーラー服を取り出す。
　男しかいないので、ためらいなくズボンを脱いでスカートを履いた。
　ワイシャツも脱いで、セーラー服を頭からかぶる。
　ネットを被って髪の毛をおさえ、カツラを頭にすっぽりとはめた。
　女装する手順に慣れてしまっている自分に気づいて、少しビミョーな気分になる。
「うわ、マジで如月ちゃんじゃん……」
　着替えの一部始終見ていたみのるくんが、感心したような声をあげた。
　……弥生くんも言ってたけれど、もしかして、似合ってるのかな。
　サツキくんは部屋の隅に陳列されている使っていない椅子を一つ引っつかんで、窓ぎわに座った。
　ぼくもさっきまでサツキくんが座っていた占い師の位置につく。
「みのるくんも、となり、座って」
「お、おう……」
　二つ結びのカツラを揺らしながら、みのるくんも自分用に椅子を持ってきた。
　となりに座ったはいいが、ジロジロと顔を覗き込んでくる。
「？　どうしたの？」
「いや、本当に女子にしか見えないなと思って……」
　つまり、似合ってるのか。
　……喜んでいいのかなぁ。
　女装も、サツキくんと出会わなかったら気づかなかった才能の一つかもしれない。
　占いとは関係ないし何の役に立つかどうかもわからないけれど。
　ポジティブに受け入れて、ぼくはお礼を言う。
「ありがとう」
　首をかしげて笑うと、みのるくんは「うっ！」とうめいて胸を押さえた。
「如月ちゃんは男子……如月ちゃんは男子……オレが好きなのは女子……オレが好きなのは女子……いや、もう性別なんてどっちでもいいかもしれない……」
　何やら呪文のように唱えている。
　……ちょっと不気味だからやめてほしい。
　ぼくがうずくまるみのるくんの肩をさすろうかと手を伸ばしたとき――コンコン、とノックの音がした。
　ノックの音に続いて、女の子の声がする。
「ごめんください、占い師さん」
　相談者だ。
　――助手じゃなくて、占い師として、初めての相談者。