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18 止めよう、彼女を
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音無麻子さんは、不良生徒らしい。
出席率はあまり良くなく、口より先に手が出て、カッとなると手をつけられなくなるんだとか──その実、とっても妹想い。
そんな彼女に、みのるくんは『妹は三番目の彼女になら、なれる』と伝えてしまった。
それを聞いて静かに去った音無先輩が、これからどういう行動に出るかというと……。
「多分、妹さんの片想い相手の森下を、ぶん殴りに行くと思うんだよね」
二股している彼がもちろん全面的に悪いけど……。
直接、二股をされているわけでもない第三者が暴力を加えるのは、良くないんじゃないかな……。たとえ、二股をされている彼女たちだって、暴力を振るうのは良くないのに。
サツキくんは言う。
「一発殴って気が済むならまだいいけど……、そのままケンカになったり、大ケガ負わせたりしかねない、彼女なら」
弥生くんが真面目な顔でうなずいた。
音無先輩のクラスメイトである弥生くんから見ても、その可能性があるってことだ。
「止めよう、彼女を」
サツキくんが言って、ぼくはうなずいた。
「止めるって、どうやって……」
呆然とするみのるくんの問いに、サツキくんが答える。
「今の時間は、森下の入ってるテニス部の活動時間だ。音無麻子はそこに行ったんだと思う」
「じゃあ走れば間に合うかも!」
ぼくとサツキくんは女装から着替えることもなく、廊下を走り出した。
「おい、如月!」
弥生くんがぼくの名前を呼びながら、ついてくる。
「え、え、みんな行くの?」
一人取り残されそうになったみのるくんも、困惑しながら駆け出した。
ぼくらは、校舎から道路を挟んだ向かい側にあるテニスコートを目指す。
すぐに、テニスコートは見えてきた。
そのテニスコートの端に、タオルで汗を拭きながら談笑している男子テニス部員たちの姿が見える。
すでに部活動は終わっていて、これから引き上げようとしているようだ
だ、誰が森下先輩なんだ……!?
男子が数人いるせいで、誰が誰だかわからない。
水晶玉で未来を視たみのるくんと、森下先輩と同級生のサツキくんしか、彼の顔を知らない。
ど、どの人を守ればいいんだ…!?
「は、はぁっ、さ、サツキくん……!」
「うん!?」
走りながら、息切れしながら、ぼくはサツキくんに声をかける。
「も、森下先輩って、どの人……!?」
「あの……、あっ、今、出てきた男子!」
ぼくがサツキくんに聞くのと、テニス部の団体から、一人の男子が道路に出てきたのは同時だった。タオルとテニスラケットを手に、校舎のほうへ走っている。
「!」
その背後から、勢いよく音無先輩が近づいているのが見えた。
けわしい表情。恨みがあるのがとても伝わってくる。
――まずい!
彼女の拳が強く握られ、大きく振りかぶった。
「森下ぁ!」
「え?」
音無先輩の雄叫びに、森下先輩がなんの危機感もなく振り向く。
危ない、と思う前に体が動いていた。
ぼくはさらに加速して、音無先輩と森下先輩の間に入った。
ドガッ!
「っ!」
音無先輩の拳は、ぼくの頬に叩き込まれた。
女子とは思えないほどの強い力。
ぼくはそのままコンクリートの地面に倒れ伏した。
「えっ、えっ? 何、なに!?」
「森下、逃げろ!」
自分を襲おうとしていた女子と、身代わりになって殴られたぼく。
その異様な光景に困惑する森下先輩に、サツキくんが怒鳴った。
「え、えぇぇ!?」
状況を整理する暇も与えられず、サツキくんに言われるがまま、森下先輩は校舎に向かって再度走り出した。
「テメェ、なに邪魔してんだよ!」
音無先輩の標的が森下先輩からぼくへ移動する。
彼女は地面にうずくまっているぼくの胸ぐらにつかみかかってこようとした。
出席率はあまり良くなく、口より先に手が出て、カッとなると手をつけられなくなるんだとか──その実、とっても妹想い。
そんな彼女に、みのるくんは『妹は三番目の彼女になら、なれる』と伝えてしまった。
それを聞いて静かに去った音無先輩が、これからどういう行動に出るかというと……。
「多分、妹さんの片想い相手の森下を、ぶん殴りに行くと思うんだよね」
二股している彼がもちろん全面的に悪いけど……。
直接、二股をされているわけでもない第三者が暴力を加えるのは、良くないんじゃないかな……。たとえ、二股をされている彼女たちだって、暴力を振るうのは良くないのに。
サツキくんは言う。
「一発殴って気が済むならまだいいけど……、そのままケンカになったり、大ケガ負わせたりしかねない、彼女なら」
弥生くんが真面目な顔でうなずいた。
音無先輩のクラスメイトである弥生くんから見ても、その可能性があるってことだ。
「止めよう、彼女を」
サツキくんが言って、ぼくはうなずいた。
「止めるって、どうやって……」
呆然とするみのるくんの問いに、サツキくんが答える。
「今の時間は、森下の入ってるテニス部の活動時間だ。音無麻子はそこに行ったんだと思う」
「じゃあ走れば間に合うかも!」
ぼくとサツキくんは女装から着替えることもなく、廊下を走り出した。
「おい、如月!」
弥生くんがぼくの名前を呼びながら、ついてくる。
「え、え、みんな行くの?」
一人取り残されそうになったみのるくんも、困惑しながら駆け出した。
ぼくらは、校舎から道路を挟んだ向かい側にあるテニスコートを目指す。
すぐに、テニスコートは見えてきた。
そのテニスコートの端に、タオルで汗を拭きながら談笑している男子テニス部員たちの姿が見える。
すでに部活動は終わっていて、これから引き上げようとしているようだ
だ、誰が森下先輩なんだ……!?
男子が数人いるせいで、誰が誰だかわからない。
水晶玉で未来を視たみのるくんと、森下先輩と同級生のサツキくんしか、彼の顔を知らない。
ど、どの人を守ればいいんだ…!?
「は、はぁっ、さ、サツキくん……!」
「うん!?」
走りながら、息切れしながら、ぼくはサツキくんに声をかける。
「も、森下先輩って、どの人……!?」
「あの……、あっ、今、出てきた男子!」
ぼくがサツキくんに聞くのと、テニス部の団体から、一人の男子が道路に出てきたのは同時だった。タオルとテニスラケットを手に、校舎のほうへ走っている。
「!」
その背後から、勢いよく音無先輩が近づいているのが見えた。
けわしい表情。恨みがあるのがとても伝わってくる。
――まずい!
彼女の拳が強く握られ、大きく振りかぶった。
「森下ぁ!」
「え?」
音無先輩の雄叫びに、森下先輩がなんの危機感もなく振り向く。
危ない、と思う前に体が動いていた。
ぼくはさらに加速して、音無先輩と森下先輩の間に入った。
ドガッ!
「っ!」
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その異様な光景に困惑する森下先輩に、サツキくんが怒鳴った。
「え、えぇぇ!?」
状況を整理する暇も与えられず、サツキくんに言われるがまま、森下先輩は校舎に向かって再度走り出した。
「テメェ、なに邪魔してんだよ!」
音無先輩の標的が森下先輩からぼくへ移動する。
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