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6 あとはよろしく

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 占いにやってきた松原さんを見て、ぼくはおどろくと同時に、彼女が言っていたことを思い出した。
 そうだ、占いに行くって言ってたじゃないか……!
 松原さんの背後には、いつも一緒に登下校している幼馴染の秋本くんもいる。
 彼は、松原さんを外で待つつもりのようだ。
 ぼくはうすら笑いを顔面に貼り付けながら、心の中で祈る。
 ――どうか、ぼくだと気づかないでくれ……!
「お座りください」
 サツキくんが言った。
 松原さんは、うなずいて、うながされるままに占い師と対面する椅子に座った。
 行き場のないぼくは、サツキくんのとなりに執事のように立っていることにする。
 松原さんの緊張をほぐすように、サツキくんは、ほほえみを浮かべた。
「占いの前に、誰かの秘密を教えてください」
「……はい」
 松原さんはぼくの知らない女子の、好きな人を教えてくれた。
「ありがとうございます。秘密は誰にも言わないので、安心してくださいね。……では」
 ごくり、と松原さんがつばを飲む音がした。
 サツキくんは本題に入る。
「お悩みをどうぞ」
 松原さんは、ふぅ、と一呼吸置いてから、口を開いた。
「……わたしはこの先、恋ができますか?」
「……というと?」
 松原さんは目線を下に向けた。
「去年、好きな人に背が高いって理由で振られたんです。デカ女とは付き合えないって……。小さい女の子がモテるのは分かっています。わたしはモテたいんじゃなくて、普通に恋がしたいんです」
 だんだんと涙目になっていく松原さん。
 言葉の節々から、本気で松原さんが悩んでいるのが伝わってくる。
 悩みとは無縁と思えるくらい、いつも明るい松原さん。
 そんな彼女の意外な一面を勝手に覗いてしまったようで、ぼくは申し訳ない気持ちになった。
「なるほど……」
 サツキくんはアゴをつまんで、考える素振りをした。
 ガタ、と椅子を引いて、おもむろに立ち上がる。
 そして、スカートのポケットからトランプのようなプラスチック製のカードの束を取り出した。
 いわゆる、タロットカードってやつだろうか。
 ……どうやって使うんだろう。
 初めて見る占い道具に、ぼくは少しワクワクした。
 彼は、ごく自然な流れで、それらを天井に向かってブワッと放り投げた。
「えっ」
「わっ」
 宙を舞うカードたち。
 バラバラとカードがサツキくんに降り注ぐ。
 呆気に取られるぼくと松原さんをよそに、サツキくんはその中の一枚を、空中でつかみ取った。
「……うん」
 サツキくんはカードの柄を確認して、満足げに笑う。
「はい、これ」
「えっ?」
 つかんだカードをぼくに手渡してくる。
 何も聞かされていないぼくは、それを素直に受け取った。
 ――カードに描かれていた絵は、『青い鳥』。
「あとはよろしく」
「…………えっ!?」
 そのまま彼は、後ろの窓ぎわに下がってしまった。
 ぼ、ぼくが占いをやるの!?
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