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ぼくは、物語の主人公にはなれない。
──そう悟ったのは、二年前。
ぼくが小学五年生の頃だった。
ぼくはいつも、頭のいい兄さんと運動のできる姉さんと、比べられて育ってきた。
運動神経バツグンな姉さんと一緒に入ったスイミングスクール。
大会に出場するたびにトロフィーをもらっていた姉さん。
ぼくは毎回予選落ちだった。
頭が良い兄さんと一緒に入った塾。
兄さんは日本で一番難しいと言われている私立の中学校に入学した。
ぼくはずっと塾のクラス最下位だった。
中学受験は十校くらい受けたけれど、受かったのは、滑り止めの私立中学だけ。それも補欠合格で、ギリギリくり上げで受かった。
結局、ぼくはその滑り止めの中高一貫校に入学した。
──才能がない。
何事においても。
「いいや! キミには立派な才能がある!」
あきらめ切っていたぼくに、彼は自信満々でそう言い放った。
長い黒髪のカツラをなびかせて、男子なのに、女子制服のセーラー服を着て。
ぼくは聞き返す。
「こんなぼくに、才能……?」
「そう!」
女装した彼──サツキくんはうなずく。
そして、サツキくんは人差し指をびしり、とぼくに向けた。
「キミの才能を、ぼくが証明してみせよう!」
ぼくは目を見開いた。
自分の才能のなさは、誰よりも、何よりも、ぼく自身が一番わかっているつもりだ。
会ったばかりのサツキくんが、どうしてそんなことを断言できるのだろう。
そんなすぐには、うなずけるはずがない……。
だけど……。
チラリ、とサツキくんを見やる。
目の前にいるサツキくんは、腰に手を当てて胸を張っていた。
まるで、自分が正しいと信じて疑わないかのように。
……そんなに、自信があるんだ。
「……じゃあ、証明してもらおうかな」
思わず、口の端っこから笑みがこぼれる。
あまりにも自信たっぷりに言い切るものだから、ぼくもその言葉をちょっとだけ信じてみたくなったのだ。
「そうこなくっちゃ!」
サツキくんはぼくに手を伸ばす。
ぼくもその手を取った。
何もないぼくも、なりたかったんだ、きっと。
物語の主人公に。
──そう悟ったのは、二年前。
ぼくが小学五年生の頃だった。
ぼくはいつも、頭のいい兄さんと運動のできる姉さんと、比べられて育ってきた。
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大会に出場するたびにトロフィーをもらっていた姉さん。
ぼくは毎回予選落ちだった。
頭が良い兄さんと一緒に入った塾。
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ぼくはずっと塾のクラス最下位だった。
中学受験は十校くらい受けたけれど、受かったのは、滑り止めの私立中学だけ。それも補欠合格で、ギリギリくり上げで受かった。
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「いいや! キミには立派な才能がある!」
あきらめ切っていたぼくに、彼は自信満々でそう言い放った。
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ぼくは聞き返す。
「こんなぼくに、才能……?」
「そう!」
女装した彼──サツキくんはうなずく。
そして、サツキくんは人差し指をびしり、とぼくに向けた。
「キミの才能を、ぼくが証明してみせよう!」
ぼくは目を見開いた。
自分の才能のなさは、誰よりも、何よりも、ぼく自身が一番わかっているつもりだ。
会ったばかりのサツキくんが、どうしてそんなことを断言できるのだろう。
そんなすぐには、うなずけるはずがない……。
だけど……。
チラリ、とサツキくんを見やる。
目の前にいるサツキくんは、腰に手を当てて胸を張っていた。
まるで、自分が正しいと信じて疑わないかのように。
……そんなに、自信があるんだ。
「……じゃあ、証明してもらおうかな」
思わず、口の端っこから笑みがこぼれる。
あまりにも自信たっぷりに言い切るものだから、ぼくもその言葉をちょっとだけ信じてみたくなったのだ。
「そうこなくっちゃ!」
サツキくんはぼくに手を伸ばす。
ぼくもその手を取った。
何もないぼくも、なりたかったんだ、きっと。
物語の主人公に。
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