41 / 66
5-1
しおりを挟む
「おはよ。」
「ああ、おはよう。」
昨夜、預かった手紙と空になった容器を渡した後は、のんびりと湯船で温まって、そのまま眠りについた。
それこそ戻ってから祖父に出会ってはいないけど、きっと起きていたであろうというのに、こうして起き上がった足でそのまま庭に出てみれば、いつものように、それが当たり前だと盆栽と向き合っている。
そんな祖父の隣に並んで、自分の盆栽を眺めてみると、少し気になる事が有る。
「なんか、元気ない。」
「植え替えたばかりだからな。」
「えっと、もっと元気になるために、植え替えたんじゃ。」
「大きく変わる、それは人間じゃなくても、疲れる、そういう事なのだろうな。」
珍しく断定でも調べるでもなく、そんな事を祖父が言う。つまるところ、祖父もよく理由が分からないのだろう。それともそう言ったことを書いた本だったりがないのか。
「そっか。手を入れるのはやめたほうが良いのかな。」
「少し休ませたほうが良いだろう。」
「わかった。石とか、その辺を並べなおすだけにしておく。」
「ああ。」
そうして、いつものようにのんびりと手入れをする。これまでと比べて大きな鉢、家に置いてあるものはどうしたって小さな鉢になってしまうから、こうしてよりいろいろできる空間があるものを触るのは楽しい。
「これって、幹が太くなったりするのかな。」
「ああ。」
「そっか。」
どうやらそうなるらしい。だったらあまり詰めないほうが良いだろうと、程々に場所を開けながら苔の生えた石や、下ばえの草を入れ替えてみる。
どうにもこうしようと、その最終形を見失っている気はするけど。続けていれば見つかるかなと、楽観的に考えてひと段落付けて、ほかの物も手を入れていく。
「天体観測、楽しいか。」
そんな作業をしている中、ふと、祖父から珍しくそんな質問をされる。
「惑星を見るのはたのしかったかも。恒星は、うん、わざわざ望遠鏡使ってまでって、そんな感じ。」
「そうか。まぁそればかりはな。」
「じーさん、分かるの。」
僕の返しに何やら納得顔で頷く祖父に、質問を返す。
「昔な。興味本位に見たことはあるが、大きさ位しか変わらなかっただろう。」
「うん。」
「図鑑に載っているような、そう言った物が見えるかと期待してしまったからな。」
「そっか。僕も。」
「ただ惑星は図鑑で見るのと同じような、細かく見えるから、なおのことな。」
どうやら、それは祖父の失敗談、のようなものらしい。
そう言って話す祖父は何処か寂しげでもある。
「なんか、道具は進歩してるって聞いたけど。」
「限界はある。だからこそ電波式、そんなモノが作られたのだろうが。」
「えっと、色々種類があるんだっけ。」
「ああ、興味があれば調べてみるといい。」
どうやらそこから先はいつもの通りらしい。ならばと、僕も話題を変える。
「今日は星雲だっけ、それを見せてくれるって。」
「そうか。双眼鏡でも、銀河くらいは見えたはずだが。」
「え、そうなんだ。」
「ああ、何だったかな。前に秋ごろに見れると、そんな事を聞いた覚えがある。」
どこかはっきりしない知識であるらしい。とすると僕に星の名前や星座の名前を教えてくれたのがそうであったように、祖父も祖母から話を聞いただけなのかもしれない。
そして、祖父も僕と同じように結局あまり興味を持てなかったのかもしれない。
「僕はこっちのほうが好きかな。」
「そうか。」
「うん。はっきりと全部わかるし、こうやって自分の好きにできるし。」
そう言いながら、僕は鉢の中の石をああでもないこうでもないと、動かす。
「それに、思い通りにいかないのも楽しいよね。」
「ああ。」
そう、枝が何処からどんなふうに、それは実際にはえてみないと分からない。そしてその機会は一年に一回。そんな不自由と、好きに伸びるまるで違うこうなりたいと、そうい言っているかのような振る舞いが、なんだか見ていてとても楽しい。
こうしてちょっとした違いが日々出ているのも、見ていて飽きない。うっかり家に持って帰った鉢をベランダに置いておいて、学校から帰った時に葉が少し枯れていたのも、今となっては良い思い出だ。閉じは少し落ち込んだけど。
「今日はどうする。他のも移し替えるか。」
「えっと、こっちのは大きく育ててみたいかな。」
僕はそういって枝を曲げるくらいで、幹にはまったく手を入れてない物を指す。それを見て祖父は少し観察するようにした後、頷いてから提案をしてくれる。
「どうする。大きのにするか。」
「そのほうが良いの。」
「まっすぐ伸ばすならな。」
「そっか、でもまずは順番でいいかな。」
祖父の提案には、少し考えてそう答える。
いきなり大きい鉢植えにしてしまうと、どうにも全体でこうしよう、そんな事を思いつける気がしない。だから今はとりあえず、ちょっとずつでいいかなとそんな風に応える。
「そうか。」
「うん。」
そこでふと気になって聞いてみる。
「庭に植えたりは。」
「庭はないが山には数本植えたのがある。」
「あ、そうなんだ。」
「ああ、庭に一本だけというのもな。」
「そっか。」
祖父もどうやら一度は考えて、やめておいたらしい。確かに今はどの植物も垣根の高さを超えるようなものは、祖父の大きな鉢植えを覗いてない。そんななか、高く伸びるものが一つだけ、そうなったらバランスが悪いとそう考えたのだろう。
そうして祖父と珍しく、少しか岩の多い時間を過ごせば祖母に呼ばれる。
「ああ、おはよう。」
昨夜、預かった手紙と空になった容器を渡した後は、のんびりと湯船で温まって、そのまま眠りについた。
それこそ戻ってから祖父に出会ってはいないけど、きっと起きていたであろうというのに、こうして起き上がった足でそのまま庭に出てみれば、いつものように、それが当たり前だと盆栽と向き合っている。
そんな祖父の隣に並んで、自分の盆栽を眺めてみると、少し気になる事が有る。
「なんか、元気ない。」
「植え替えたばかりだからな。」
「えっと、もっと元気になるために、植え替えたんじゃ。」
「大きく変わる、それは人間じゃなくても、疲れる、そういう事なのだろうな。」
珍しく断定でも調べるでもなく、そんな事を祖父が言う。つまるところ、祖父もよく理由が分からないのだろう。それともそう言ったことを書いた本だったりがないのか。
「そっか。手を入れるのはやめたほうが良いのかな。」
「少し休ませたほうが良いだろう。」
「わかった。石とか、その辺を並べなおすだけにしておく。」
「ああ。」
そうして、いつものようにのんびりと手入れをする。これまでと比べて大きな鉢、家に置いてあるものはどうしたって小さな鉢になってしまうから、こうしてよりいろいろできる空間があるものを触るのは楽しい。
「これって、幹が太くなったりするのかな。」
「ああ。」
「そっか。」
どうやらそうなるらしい。だったらあまり詰めないほうが良いだろうと、程々に場所を開けながら苔の生えた石や、下ばえの草を入れ替えてみる。
どうにもこうしようと、その最終形を見失っている気はするけど。続けていれば見つかるかなと、楽観的に考えてひと段落付けて、ほかの物も手を入れていく。
「天体観測、楽しいか。」
そんな作業をしている中、ふと、祖父から珍しくそんな質問をされる。
「惑星を見るのはたのしかったかも。恒星は、うん、わざわざ望遠鏡使ってまでって、そんな感じ。」
「そうか。まぁそればかりはな。」
「じーさん、分かるの。」
僕の返しに何やら納得顔で頷く祖父に、質問を返す。
「昔な。興味本位に見たことはあるが、大きさ位しか変わらなかっただろう。」
「うん。」
「図鑑に載っているような、そう言った物が見えるかと期待してしまったからな。」
「そっか。僕も。」
「ただ惑星は図鑑で見るのと同じような、細かく見えるから、なおのことな。」
どうやら、それは祖父の失敗談、のようなものらしい。
そう言って話す祖父は何処か寂しげでもある。
「なんか、道具は進歩してるって聞いたけど。」
「限界はある。だからこそ電波式、そんなモノが作られたのだろうが。」
「えっと、色々種類があるんだっけ。」
「ああ、興味があれば調べてみるといい。」
どうやらそこから先はいつもの通りらしい。ならばと、僕も話題を変える。
「今日は星雲だっけ、それを見せてくれるって。」
「そうか。双眼鏡でも、銀河くらいは見えたはずだが。」
「え、そうなんだ。」
「ああ、何だったかな。前に秋ごろに見れると、そんな事を聞いた覚えがある。」
どこかはっきりしない知識であるらしい。とすると僕に星の名前や星座の名前を教えてくれたのがそうであったように、祖父も祖母から話を聞いただけなのかもしれない。
そして、祖父も僕と同じように結局あまり興味を持てなかったのかもしれない。
「僕はこっちのほうが好きかな。」
「そうか。」
「うん。はっきりと全部わかるし、こうやって自分の好きにできるし。」
そう言いながら、僕は鉢の中の石をああでもないこうでもないと、動かす。
「それに、思い通りにいかないのも楽しいよね。」
「ああ。」
そう、枝が何処からどんなふうに、それは実際にはえてみないと分からない。そしてその機会は一年に一回。そんな不自由と、好きに伸びるまるで違うこうなりたいと、そうい言っているかのような振る舞いが、なんだか見ていてとても楽しい。
こうしてちょっとした違いが日々出ているのも、見ていて飽きない。うっかり家に持って帰った鉢をベランダに置いておいて、学校から帰った時に葉が少し枯れていたのも、今となっては良い思い出だ。閉じは少し落ち込んだけど。
「今日はどうする。他のも移し替えるか。」
「えっと、こっちのは大きく育ててみたいかな。」
僕はそういって枝を曲げるくらいで、幹にはまったく手を入れてない物を指す。それを見て祖父は少し観察するようにした後、頷いてから提案をしてくれる。
「どうする。大きのにするか。」
「そのほうが良いの。」
「まっすぐ伸ばすならな。」
「そっか、でもまずは順番でいいかな。」
祖父の提案には、少し考えてそう答える。
いきなり大きい鉢植えにしてしまうと、どうにも全体でこうしよう、そんな事を思いつける気がしない。だから今はとりあえず、ちょっとずつでいいかなとそんな風に応える。
「そうか。」
「うん。」
そこでふと気になって聞いてみる。
「庭に植えたりは。」
「庭はないが山には数本植えたのがある。」
「あ、そうなんだ。」
「ああ、庭に一本だけというのもな。」
「そっか。」
祖父もどうやら一度は考えて、やめておいたらしい。確かに今はどの植物も垣根の高さを超えるようなものは、祖父の大きな鉢植えを覗いてない。そんななか、高く伸びるものが一つだけ、そうなったらバランスが悪いとそう考えたのだろう。
そうして祖父と珍しく、少しか岩の多い時間を過ごせば祖母に呼ばれる。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる