ヒト嫌いの果て

五味

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一章 新世界にて

そして彼女はゆっくりする 1

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「まぁ、いまはその話は置いておこう。
 まずは食事ぞ。食べねば治るものもなるまい。」

アンナリタ様にそう言われれば、ディネマに席に座るように促される。
席については見るものの、昨日と同じだけの量が、並べられるかと思うと、正直少し気が引けてしまう。
ディネマが少し、量を加減してくれるといいのだけれど。
わがままだな、そうは思うけれど、考えることは止められない。

私の予想に反して、目の前に並べられた料理は昨日よりも控えめなものであった。
意外に思い、ディネマを見れば。

「御子様は、やはり物質界の影響が大きく出ていますのだ、調整しました。」

そうとだけ答えられる。
その、それでも朝に食べる量としては非常に多いようですけれど。
そう、言いかけた言葉を無理やり飲み込んで、食卓に着く。

食事の間、アンナリタ様があれやこれやと喋るのに、相槌を打つ。
そうして、賑やかな時間はすぐにすぎ、どうにか食べていた食事も半分ほどは手が付けられなくなってしまった。
昨日に比べれば、食べた量はかなり減っているはず。
それでも、満腹感を覚えてしまう。

「ほんに御子様は小食よのう。幼子のころから、そのようでは、大きくなれぬぞ。」

アンナリタ様に注意される。
私としても首をかしげるしかない。
確かに、普段に比べれば食べてはいないが、それでも、無理をすればもう少し食べられていたはずなのだから。
食事を用意してくれた、ディネマに視線を映せば。
何やら考え込んでいる。

「ディネマ、今日の食事はいつもと違いが?
 流石にもう少し食べられるはずなのですが。」
「はい、御子様は物質に重きを置れていますので、物質の量を極限まで削り、エーテル、アストラルを詰めたのですが。これも、どうやら上手くいっていないようです。」

どうやら見た目の量を減らして、その分栄養素を増やした、そんな感じなのだろうか。
ただ、それでも、一定の栄養素しか私がとっていないことが問題なのだろう。

「それでも、御子様は回復されていますので、これが適量と考えることもできますが。
 アンナリタ様のご意見を伺っても?」

ディネマが、私が知る限り、初めて他人の意見を聞く。
姉妹間で意見交換を行っているところは、これまで数度目にしたが、それ以外となると初めて。
少なくとも、他に私は見たことが無い。

「また、難しいことを聞くものよ。
 妾も御子様ほど、食が細い神霊は初めて見る故な。難しくはあるが。
 以前、外で生まれず、世界の内にて発生した神霊がおった。
 まぁ、かろうじて精霊よりも我らに近いと、その程度のものではあったが。
 そのものが、確か、御子様より食べてはいたが、小食だったと、そんな記憶があるのぅ。」

さて、あれはいつのことで、どんなものであったか、そう呟いてアンナリタ様は考え込むそぶりを見せる。
そうして私のことを話題にするのは構わない。
有難いとそう思うのだけれど。
並べられた料理は、この広いテーブルをそこそこ占有する量だ。
どう見ても、私の意の大きさよりもたくさん。
それを食べきれないから、小食と、そう評されても、私としては困ってしまう。

元々、食べることはあまり好きになれなかったし。
食べても味がよくわからない。
砂やそこらに生えている草を噛んでいるほうが、まだましと。
そう感じる時期もそれなりにあったのだから。

「どうにも、思い出せん。相応に昔のことである故な。
 そういえば昨日はイグレシアにつられる形で、食事の量も増えていた。
 今日もあれを呼んでみるかえ?」

しばらく考え込み、昔を思い出そうとしていた、アンナリタ様。
それを諦め、唐突に提案をしてくる。

「私としては、日を改めて遊びましょうと、そう約束したので構いませんが。」

そうとだけ答えて、エウカレナのほうを見てみる。
彼女としては、先に私に伝えることがあり、イグレシアと遊ぶのはそのあとに。
そういっていたはずだ。

「そうですわね、それでは少しお休みいただいた後に、イグレシア様とお時間を過ごされるのが宜しいかと思いますわ。」

そう提案したエウカレナに、私は少し驚く。
たしか、一日のうちいくらかは彼女と力の扱い方を学ぶと、そういう話になっていたはずだ。

「ええ、私もすこしファラシアと話をしたのですが、理論や理屈を口頭で説明するよりも、ある程度実践的なものにしたほうが、早く御子様もなじめるのではないかと考えましたの。」
「ふむ。確かに自覚なく、妾に力を振るったりしたわけではあるが。
 あまり無自覚に、無理な力をふるうことになっても、御子様への負担が大きかろう。」
「私たちが教えながら、力を試しに使っていただくよりは、イグレシア様と遊びながら力をふるうほうが、ふるう規模も小さくなるかと思いますわ。」

そのエウカレナの言葉に、アンナリタ様は、少し考えこむ。
さて、私としてはいざ遊べと言われても、何をして遊べばいいのか考えてしまう。
これまで幼い子と遊んだことなんてなかったし。
子供が喜ぶような事って何だろう。
そもそも普通の子供が喜ぶようなことを、あの子は喜ぶんだろうか。

「確かにな。妾もいざ力の振るい方を教えよといわれても、権能によるものが大きい故。
 いざ考えると、何とも難しいものよ。」
「御身は特にかと思いますわ。私ども姉妹も、多少抑えて振るうことができるとはいえ。
 やはり界をまたぐようなものが多いですし。」
「まぁ、そうであろうな。あまり外の力をふるいすぎても、早々に型が付いてしまうか。」

私が、さて、何をして遊ぼうか、そんなことを考えているうちに、なんだか難しい話が進んでいるようだ。
少し気になる言葉が出ているので、聞いてみる。

「その、ちらほらと出ている、型、というのは何でしょう。
 それができないようにと、気を配っていただいているようですが、出来ると何かまずいのでしょうか?」

私の言葉に、エウカレナとアンナリタ様が、こちらに視線を向ける。

「最終的には必ずできるものではありますわ。」
「うむ。妾のように、初めからそうあれと神霊として生まれるものがほとんどではあるが、御子様はそうではない故な。
 御子様自身、こうありたいと、そう思うものがあるなら、その方向に固めることは、まぁやぶさかではないが。
 妾達で、勝手に型を決めるものではないからの。」

どうやら、将来的な目標とか、そういう話であるらしい。
確かに、私はこれまでそんなものは考えてこなかった。
しいて言うならば、アレとかかわらなくて済む様に。
それくらいだろうか。

「まぁ、一度決まってしまえば、その権能においては、力を振るうのなどそれこそ呼吸に等しい。
 そういったものにはなるが。まぁ、今は流石に速すぎると、妾もそう思ってしまうな。」
「わかりました。私としては、そのあたりはわからないので、わかる方に、お任せさせていただければと。」
「うむ。妾とて、導きを頂いておる故、その期待には何としても応えて見せようぞ。」

任されよ。そういってアンナリタ様は、己の胸を軽くたたく。
そういえば、それも気になっていた。

「そういえば、アンナリタ様は、何やら変わった呼び方をされていましたが。」
「ああ。妾の神霊としての権能を表した呼び名のことかえ。
 まぁ、御子様がわざわざ妾を呼ぶ際に使うものでもない故、名乗っておらなんだか。」

そう、首を緩く傾けながら、アンナリタ様が呟く。

「妾の呼び名は、さまよう原初の火、導きと惑わし。その名の通り、始まりの火であり、その輝きで導き、眩ませる。そういうものである。」

アンナリタ様に、そう告げられた時、なんだか、彼女が。
急にまぶしく見えて。
思わず目を瞬いてしまう。

「む。妾の影でも見えてしまったか。あまり目に優しい姿ではない故、そう、直視するものではないぞ。」

瞬いている最中、鬼火とか、灯台とか。
そういったものが一緒にアンナリタ様に重なったように思う。
まぁ、つまり、彼女の本来の姿というのか、力というのか。
そういったものなのかな。

「それは、アルマリンダ様にも。」
「うむ。あれにも呼び名はある。興味があれば、本人に尋ねるとよかろう。あれも御子様にわざわざそう呼ばれるものでもないと、語っていないだけであろうしの。」
「その、どちらでお呼びさせて頂けば。」
「妾のこの形としての、名がアンナリタ故、どうかそう呼んでくれまいか。
 御子様に権能で呼ばわれると、うむ。あまり良くないことが起こるかもしれぬ。
 特に妾は、そういったものである故な。」

それは、一体どういうことなのだろう。

「御子様。下位の者が権能で呼びかけても、判断は上位の者が行えますが、御子様が呼びかけてしまえば、力を使わざるを得ない事にもなりかねませんの。
 アンナリタ様は、特にその名の通り、火の権能でもありますので、あまりそこかしこで使うものでもありませんわ。」

いわれて、なるほど。
確かに、原初の火。
ビッグバンとか、そういった感じのもを、そこかしこで引き起こす。
それは、もう災害とか、そういった言葉も生ぬるい。

「ほう、御子様は始まりの火がどういったものか、おぼろげならご存知の様子。
 良きかな良きかな。妾は知識を求めるものは好きであるぞ。」

こちらが、何を想像したのかが、伝わったらしい。
そして、それがあっているようだ。
目の前の方は、どうやら本当にそれが人の形をとっている。
そういった方らしい。
神霊とは、なるほどそういうものなのだろう。

アンナリタ様の言葉に、彼女を見ながら数度頷いていると。

「いやいや、御子様。神霊といっても、格はある。位も違えば、もっと大したことのないものも多くおる。
 ふむ、こういうと妾が己を大層だと、そういっているように聞こえてしまうか。」
「いえ、私の考えているものは、私の知っている限り、それこそ開闢といってもいいようなものですので、たいそうだと思います。」
「うむうむ。それをなしたことも確かにあり、土台となったことも一時はあったが、さまようのも妾の本分ゆえ、今はこうして、あちらこちらを漂っている。」

そして、私はいつもそばにいる子たちへと視線を向ける。

「アマルディア達は、何かそういったものが?」

話を聞く限り、彼女たちも、神霊と肩を並べる力は十分にあるように思えるけれど。
彼女たちを作った方は、アンナリタ様や、アルマリンダ様と旧知であるようだし。

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