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一章 新世界にて
そして世界は彼女を表舞台に
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「では御子様、横になり楽になさってください。」
診察と聞いて思い浮かべているような。
前の世界で無理やり連れていかれた施設で、苦痛しか覚えない時間を得たようなことをファラシアは行わないようだ。
ただ、私が横になるベッドの傍らに椅子を置きそこに座る。
そしてこちらをただ眺める。
「御身の型となる領域に対して、物理層以外で、あまりにも多くのものが不足していますね。
体調を崩す、疲労を強く感じるのはその不足が原因で、幽体・霊体そうで外圧を強く受けるからでしょう。」
ディネマからはただ、療養が必要といわれていたことを、ファラシアは細かい言葉を追加して伝えてくれる。
「こちらは、相応の年月をかけてためていく必要があるでしょう。
使って減ったのではなく、ないことを当然として定着しているので、時間をかけて少しづつ、それこそ器を拡張するように満たしていく必要があります。」
オレイザードの数万年を短いという彼女たちの時間間隔で、長い年月といわれるとただ途方もないようにおもえてしまう。
「いまのまま、毎日経口でエーテルを補充しながら、徐々に保有量を増やす以外に手はないでしょう。
同時にエーテルの利用をして自分の形を把握するのが最善ですね。」
「エーテルの利用ですか。」
「ええ、本来神霊種であればエーテルは大気中からも得ることができるのですが、御子様は現状そちらの経路がほとんど利用されていません。
ご自身でエーテルを利用する中で、経路の活性化を行うのがいいでしょう。
アストラルはかなり劣化していますので、こちらはまず休んで回復させてから出なければできることはありません。」
そういいながら、ファラシアは2つの輪を取り出す。
「魂領域は幽体よりも状態が深刻ですね。
こちらはそれこそ年月以外で回復はできないと思いますので。」
その腕輪をこちらの手首につけながら、話が続く。
「さて、御子様。
今お付けしたのは、エーテル操作の補助具のようなものです。
また治療の一段階目としてみたときの最高値と現在の御子様の保有量が分かるようにもなっています。」
いわれて腕輪を見ると、嫌みにならない程度に宝飾が施されている腕輪。
基本の材質は相変わらず何かわからないけれど、金属のようでいて不思議な柔らかさがある。
少しひんやりとした肌触りが心地よい。
「それは、どこで見ることができるのでしょうか?」
「その腕輪に埋められている透明な石に色がついていきます。」
透明な石の数は、あとで数えるとして。
かすかたりとも色がついていない。
「先は長そうですね。」
すこしため息が出る。
「経口でのエーテル接種の効率に関して、後程私からディネマに提案をしておきます。
問題がなければ20年もあれば、第一段階の治療は終了するでしょう。」
「20年ですか。」
それはこれまでの私の時間よりかなり長い時間で。
「状況次第で当然前後はみますが、回復など、急いだところで悪化する率が上がるだけです。
きちんと計画を立て、予定を達成することを目標とするのが最もいいのですよ。」
そういいながら、こちらの顔を覗き込んでくるファラシア。
「それと物質領域に関してですが、神霊種にとってこちらは本来影のようなもので、どうとでもなるのですが、現在こちらの領域が最も強く出ていますので、こちらを整えるのも重要ですね。
それはディネマが良くしてくれるとは思いますが。」
「お任せください。」
「ただ、こちらも先の食事の内容と合わせて別途相談しましょう。
食事をエーテルの補給だけとするのはよくなさそうですので。」
「ええ、では後程。」
彼女たちの中では非常に明確な役割分担があるようだ。
ほとんどの場合、ほかの姉妹からの提案を断ることがない。
「ファラシア。よくない状態と、そのように言われているように感じますが、実際にはどうでしょう?」
「御子様。よくないではありません。非常にまずい状態です。
安静と療養が必須で、またそれ以外に快復の見込みはありません。」
「それは、外出すら認められないということでしょうか?」
20年この部屋から、たとえ王城から出たとして、療養のための部屋から出られないというのは。
とても気がめいりそうだ。
「いいえ、むしろ定められたエリアであれば推奨しますよ。
こちらのエリアは後程イリシアにエーテルの濃度などを計測の上で地図をご用意します。」
「ありがとうございます。」
どうやらずっと閉じこもることにはならないようだ。
「それでは御子様。
私は他の姉妹たちと情報の共有をお行ってきますので。
ディネマ、あとはよろしくお願いします。」
そういいのこしてファラシアが部屋彼出ていくのを見送る。
なんだか朝から情報が過剰で疲れてしまった。
つけられた腕輪を見る。
透明な宝石が、一周するように取り付けられている。
先は長いけれど、進んだ分だけが目に見える形になるというのはうれしいこと。
「ディネマ。
エーテルを使うとはどのようなことでしょう。
いえ、そもそもそれを認識できていないので、それ以前の問題なのでしょうが。」
「姉妹の中で最も扱いが上手いのはハルネジアです。
まずはあの子に聞いてみるといいでしょう。
操作に関しては私が姉妹で最も優れてはいますが、使えて当たり前といった認識ですので。」
「呼吸の仕方を教えろと言われるようなものですか。
確かにそれは説明が難しそうですね。」
ため息が我知らず口からこぼれる。
「さて、御子様。
ファラシアも言っていたように今はお休みくださいませ。」
そういって起こしていた上半身をベッドに寝かされる。
「そうですね。
あそこまで言われるほどにひどいとは思っていませんでした。」
思っていなかったことではあるけれど、想像できるだけのものはこれまであった気がする。
1万年以上も別の世界で押さえつけられていたのだ。
その間にどれだけすり減ったのか、考えるだけでもひどいことになっていそうだ。
「そういえば、ディネマ。
告知の場に私も出るとして、何か、こう。
作法のようなものはあるのでしょうか?」
国王オレイザードが直々に言葉をかける、その場に居合わせるとなると何か礼法を学ばなければいけない気がする。
「当日はよほどのことがない限り座っていただいているだけかと。
お召し物などは私が用意させていただきますので、ご心配には及びません。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「はい、今しばらくお休みください。
告知を行うまでは、まだしばらくありますので。」
そうしてしばらく横になっていると、アマルディアが用意をディネマに伝える。
以前外出した時よりもいろいろと飾りのついた、服をディネマに着せられる。
正直服を重く感じるのは初めての経験で。
歩くのにも困るほどぞろりとした服で。
「では御子様、向かいましょう。」
いつもはアマルディアかディネマに運ばれているのだけれど、今日はバルバレアに抱えられる。
また、部屋に残っているのが常であるディネマも今日はついてくるようだ。
そうして私を含めて10人で場内を連れ立って歩くこと30分ほどだろうか。
テラスのような場所に出る。
そこからは広がる王都を一望できる。
かなり先は白くかすむほどに広大な王都。
この光景を見て、今更ながらにどうやってこの広大な都市に住まう全ての人に告知をするのかと疑問に思う。
そんなことを考えていると時間になったのか、オレイザードがテラスに現れる。
そのそばには、彼の部屋の前で見た首のない鎧。
初めて見るオレイザードと同じ白骨の人体模型のようなもの。
二足歩行するトカゲとしか思えないもの。
こうもりの羽が生えているライオン。
他にも色々と。
「この場から国民全体に告知を行うというのはどうやってでしょう?
ここで声をあげたところで聞こえるとは思えませんし、テラスの下に人が集まっているわけでもないですし。」
初めて見る者たちを眺めながら声をかければ、すぐに答えが。
「なに、この場で行うことはすべての国民の目の前に映像として表示されます。
よって、わざわざ集める必要はないのですよ。」
そう答えたオレイザードは、初めて見るやたらと立派な杖で、足元をたたく。
杖の先が当たった場所から光る幾何学模様が広がっていく。
その模様は、すぐに視界の外にまで広がっていき。
おそらく王都中に広がるのを待っていたのだろう。
光が収まると同時に、オレイザードが話し始める。
「傾注せよ。
このレルネンドラ王国、王都レルネンディア。
猿人種があることを本日より認めぬことと相成った。
本日すぐに、ここより立ち去れとは言わぬ。
門の外に放り投げて終わりともいわぬ。
今より5日後。
この王都にあるすべての猿人種を東の果て、物理界との門がある地域に転送する。
身柄一つでなく、家を持つものは家を。
畑を持つものは畑を。
店を持つものは店を。
その所要う物すべてを含めて、送る。」
とうとうとオレイザードの語りが続く。
彼とともに現れた一団は何も言うことなく、前を見ている。
「また、猿人種と縁を結び、ともにあることを望むものは名乗り出るがよい。
そのものらも併せて送ることを約束しよう。」
そういって、手を横に延ばせば、彼によく似た骸骨がその手に何かを乗せる。
「申し出のあったものにはこの印を与える。
当日これを所持していれば、猿人種と同じ場所に行ける。」
そうとだけ告げて、手の中のものを返す。
「5日後に行われる、転送の後。
王都に残っている猿人種に関しては、見つけ次第消滅してもらうことになる。
何、我らが取りこぼすことはない。
我らの目を欺き、逃れようとしたもの以外5日後には王都に残るまい。
であるなら、国王たる割れの意向に従えぬものとして、その程度の覚悟はあるものと判断しよう。
ただし、万に一つ取りこぼしがあったというのなら、すぐに近くの詰め所に行くなり、城に来るなりすればよい。
その場合であれば、先に転送された者たちと同じ処置を約束しよう。」
そこまでを言い切り、オレイザードが言葉を止める。
目の前に聞いているものがいないため、どのようにこの告知が受け止められているか解らない。
期限までの間に王都に出られるだろうか。
無理なようであれば、どうするか、そんなことを考える。
「追放されるもの中には、この決定を突然だと感じるものもいるだろう。
ならばこそ、とある御子をこの場で紹介しよう。」
オレイザードがそういうと、アマルディアが手を引き椅子から立ち上がるよう促される。
どうやら、私が表に立つ時のようだ。
「この基底界では覚えているもののほうが多かろう。
今から一万年以上前に起きた、あの災害を。
我が子が詰まらぬ功名心とその結果に起きた失敗によって、異なる世界軸の果てへと飛ばされた。
その怒りがこの世界軸に根を張るすべての世界に向いたあの災害を。
その発端となった御子がこの世界に帰還した。」
アマルディアに手を引かれるままに進み、オレイザードのすぐ隣に。
大きな出来事だとわかりはするけれど、この場にいるのはよく知っている相手が半分。
残りは何も言わずにオレイザードの側でただ控えているだけ。
これではさすがに緊張することもない。
「この御方こそ、その当人である。」
そういってこちらを振り返るオレイザード。
さて、どうしたものかと思わず考えてしまう。
アマルディアは既に一歩下がって控えている。
オレイザードを見れば私が何か言うことを期待している風でもある。
私の思考が生んだわずかな空白が、何かを言わなければいけないのだとそう私に決意させる。
「ご紹介にあずかりました、水無月美夜子です。
この度は国王様が私のわがままを聞いてくれたこと、うれしく思います。」
そう告げればオレイザードの側に控えていたものもどこかほっとしたようで。
それでも何か言葉を続けることをこちらに臨んでいるようで。
何かしゃべらなければいけないのなら、事前に教えてくれればよかったのに、と。
そんな少し子供のような、すねたことを考えてしまう。
「私は、本来私がいるべき場所に戻ってきました。
この世界における私の望みは、ある人にとってはとても贅沢で、ある人にとっては取っても当たり前のことでしょう。」
考えていること、思っていることを飾らずにそのまま言葉にする。
いま、この時。
この機会を失えば多くの人に私の望みを伝えることはできないと思うから。
「私はこの世界で安らかな時を得たいと考えています。
夜寝るときに、おびえる必要がなく。
街を歩くときに、通行人におびえる必要がない。
嫌いな誰かが、私の生活圏に存在することなく。
私は私の世界を好ましく思える。
ただ、それだけを求めているのです。」
正直、それを果たすことができるのなら、力を取り戻す必要性すら感じない。
例えば私がこの世界で、どういった形かはわからないけれど、死を迎えるまで、アマルディア達が私を手伝ってくれるというのなら、力を取り戻そうなどと考えない。
私の望みを叶えるのに、そんなに大きな力は必要ないだろうから。
「その望みのために、私は、私の生活圏に猿人種が存在することを認めるわけにはいきません。
私と、私に連なる親は覚えているのです。
あなた達のせいで、私がどれだけ苦しんできたかを。
また同じことを起こすのではないかと、その不安が私の安らぎを奪います。
滅びよとは言いません。
ですが、どうか。
私とかかわることのないばしょで、私とかかわることなきよう暮らしてください。」
ずいぶんと長く、取り留めないことをしゃべった気がする。
話す対象は目に見えることはなく、だれに話しているかわからない。
ただ、私の心情を、飾ることなく口にする。
途中で、勢いがついてずいぶん声を張り上げた気がする。
言い切った今は少し疲れて、肩で息をしている有様で。
気が付けば、ディネマが私を支えてくれている。
「以上が御子様よりの御言葉である。
私はその願いをかなえるために、この度の追放を決めた。
異議に意味はないと知り、粛々と準備をするといい。」
その言葉を最後に、オレイザードが手にしていた杖を消す。
どうやら、これでおしまいのようだ。
「さて、御子様。
これにて告知はおしまいです。
御身はお疲れの様子、どうぞご自愛なされますよう。」
そうオレイザードが告げて、この場は解散とばかりに、彼の側に控えていたものも思い思いに歩き始める。
「アマルディア。
ありがとうございます。ですが少し疲れました。
眠気も感じ始めています。あとのことは任せてもかまいませんか?」
そう告げてしまえば。
アマルディアの返事を聞く前に。
瞼がとても重く、勝手に閉じていくのにあらがうことが難しく。
やはり誇らしげに頷く彼女の顔を見たのを最後に。
きっと私は眠ってしまった。
望みの達成はろくにできていない。
それでも、私が願ったことが確かな形をもってかなったことは初めてで。
それが奇妙な満足感を私に与えてくれたのだろう。
診察と聞いて思い浮かべているような。
前の世界で無理やり連れていかれた施設で、苦痛しか覚えない時間を得たようなことをファラシアは行わないようだ。
ただ、私が横になるベッドの傍らに椅子を置きそこに座る。
そしてこちらをただ眺める。
「御身の型となる領域に対して、物理層以外で、あまりにも多くのものが不足していますね。
体調を崩す、疲労を強く感じるのはその不足が原因で、幽体・霊体そうで外圧を強く受けるからでしょう。」
ディネマからはただ、療養が必要といわれていたことを、ファラシアは細かい言葉を追加して伝えてくれる。
「こちらは、相応の年月をかけてためていく必要があるでしょう。
使って減ったのではなく、ないことを当然として定着しているので、時間をかけて少しづつ、それこそ器を拡張するように満たしていく必要があります。」
オレイザードの数万年を短いという彼女たちの時間間隔で、長い年月といわれるとただ途方もないようにおもえてしまう。
「いまのまま、毎日経口でエーテルを補充しながら、徐々に保有量を増やす以外に手はないでしょう。
同時にエーテルの利用をして自分の形を把握するのが最善ですね。」
「エーテルの利用ですか。」
「ええ、本来神霊種であればエーテルは大気中からも得ることができるのですが、御子様は現状そちらの経路がほとんど利用されていません。
ご自身でエーテルを利用する中で、経路の活性化を行うのがいいでしょう。
アストラルはかなり劣化していますので、こちらはまず休んで回復させてから出なければできることはありません。」
そういいながら、ファラシアは2つの輪を取り出す。
「魂領域は幽体よりも状態が深刻ですね。
こちらはそれこそ年月以外で回復はできないと思いますので。」
その腕輪をこちらの手首につけながら、話が続く。
「さて、御子様。
今お付けしたのは、エーテル操作の補助具のようなものです。
また治療の一段階目としてみたときの最高値と現在の御子様の保有量が分かるようにもなっています。」
いわれて腕輪を見ると、嫌みにならない程度に宝飾が施されている腕輪。
基本の材質は相変わらず何かわからないけれど、金属のようでいて不思議な柔らかさがある。
少しひんやりとした肌触りが心地よい。
「それは、どこで見ることができるのでしょうか?」
「その腕輪に埋められている透明な石に色がついていきます。」
透明な石の数は、あとで数えるとして。
かすかたりとも色がついていない。
「先は長そうですね。」
すこしため息が出る。
「経口でのエーテル接種の効率に関して、後程私からディネマに提案をしておきます。
問題がなければ20年もあれば、第一段階の治療は終了するでしょう。」
「20年ですか。」
それはこれまでの私の時間よりかなり長い時間で。
「状況次第で当然前後はみますが、回復など、急いだところで悪化する率が上がるだけです。
きちんと計画を立て、予定を達成することを目標とするのが最もいいのですよ。」
そういいながら、こちらの顔を覗き込んでくるファラシア。
「それと物質領域に関してですが、神霊種にとってこちらは本来影のようなもので、どうとでもなるのですが、現在こちらの領域が最も強く出ていますので、こちらを整えるのも重要ですね。
それはディネマが良くしてくれるとは思いますが。」
「お任せください。」
「ただ、こちらも先の食事の内容と合わせて別途相談しましょう。
食事をエーテルの補給だけとするのはよくなさそうですので。」
「ええ、では後程。」
彼女たちの中では非常に明確な役割分担があるようだ。
ほとんどの場合、ほかの姉妹からの提案を断ることがない。
「ファラシア。よくない状態と、そのように言われているように感じますが、実際にはどうでしょう?」
「御子様。よくないではありません。非常にまずい状態です。
安静と療養が必須で、またそれ以外に快復の見込みはありません。」
「それは、外出すら認められないということでしょうか?」
20年この部屋から、たとえ王城から出たとして、療養のための部屋から出られないというのは。
とても気がめいりそうだ。
「いいえ、むしろ定められたエリアであれば推奨しますよ。
こちらのエリアは後程イリシアにエーテルの濃度などを計測の上で地図をご用意します。」
「ありがとうございます。」
どうやらずっと閉じこもることにはならないようだ。
「それでは御子様。
私は他の姉妹たちと情報の共有をお行ってきますので。
ディネマ、あとはよろしくお願いします。」
そういいのこしてファラシアが部屋彼出ていくのを見送る。
なんだか朝から情報が過剰で疲れてしまった。
つけられた腕輪を見る。
透明な宝石が、一周するように取り付けられている。
先は長いけれど、進んだ分だけが目に見える形になるというのはうれしいこと。
「ディネマ。
エーテルを使うとはどのようなことでしょう。
いえ、そもそもそれを認識できていないので、それ以前の問題なのでしょうが。」
「姉妹の中で最も扱いが上手いのはハルネジアです。
まずはあの子に聞いてみるといいでしょう。
操作に関しては私が姉妹で最も優れてはいますが、使えて当たり前といった認識ですので。」
「呼吸の仕方を教えろと言われるようなものですか。
確かにそれは説明が難しそうですね。」
ため息が我知らず口からこぼれる。
「さて、御子様。
ファラシアも言っていたように今はお休みくださいませ。」
そういって起こしていた上半身をベッドに寝かされる。
「そうですね。
あそこまで言われるほどにひどいとは思っていませんでした。」
思っていなかったことではあるけれど、想像できるだけのものはこれまであった気がする。
1万年以上も別の世界で押さえつけられていたのだ。
その間にどれだけすり減ったのか、考えるだけでもひどいことになっていそうだ。
「そういえば、ディネマ。
告知の場に私も出るとして、何か、こう。
作法のようなものはあるのでしょうか?」
国王オレイザードが直々に言葉をかける、その場に居合わせるとなると何か礼法を学ばなければいけない気がする。
「当日はよほどのことがない限り座っていただいているだけかと。
お召し物などは私が用意させていただきますので、ご心配には及びません。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「はい、今しばらくお休みください。
告知を行うまでは、まだしばらくありますので。」
そうしてしばらく横になっていると、アマルディアが用意をディネマに伝える。
以前外出した時よりもいろいろと飾りのついた、服をディネマに着せられる。
正直服を重く感じるのは初めての経験で。
歩くのにも困るほどぞろりとした服で。
「では御子様、向かいましょう。」
いつもはアマルディアかディネマに運ばれているのだけれど、今日はバルバレアに抱えられる。
また、部屋に残っているのが常であるディネマも今日はついてくるようだ。
そうして私を含めて10人で場内を連れ立って歩くこと30分ほどだろうか。
テラスのような場所に出る。
そこからは広がる王都を一望できる。
かなり先は白くかすむほどに広大な王都。
この光景を見て、今更ながらにどうやってこの広大な都市に住まう全ての人に告知をするのかと疑問に思う。
そんなことを考えていると時間になったのか、オレイザードがテラスに現れる。
そのそばには、彼の部屋の前で見た首のない鎧。
初めて見るオレイザードと同じ白骨の人体模型のようなもの。
二足歩行するトカゲとしか思えないもの。
こうもりの羽が生えているライオン。
他にも色々と。
「この場から国民全体に告知を行うというのはどうやってでしょう?
ここで声をあげたところで聞こえるとは思えませんし、テラスの下に人が集まっているわけでもないですし。」
初めて見る者たちを眺めながら声をかければ、すぐに答えが。
「なに、この場で行うことはすべての国民の目の前に映像として表示されます。
よって、わざわざ集める必要はないのですよ。」
そう答えたオレイザードは、初めて見るやたらと立派な杖で、足元をたたく。
杖の先が当たった場所から光る幾何学模様が広がっていく。
その模様は、すぐに視界の外にまで広がっていき。
おそらく王都中に広がるのを待っていたのだろう。
光が収まると同時に、オレイザードが話し始める。
「傾注せよ。
このレルネンドラ王国、王都レルネンディア。
猿人種があることを本日より認めぬことと相成った。
本日すぐに、ここより立ち去れとは言わぬ。
門の外に放り投げて終わりともいわぬ。
今より5日後。
この王都にあるすべての猿人種を東の果て、物理界との門がある地域に転送する。
身柄一つでなく、家を持つものは家を。
畑を持つものは畑を。
店を持つものは店を。
その所要う物すべてを含めて、送る。」
とうとうとオレイザードの語りが続く。
彼とともに現れた一団は何も言うことなく、前を見ている。
「また、猿人種と縁を結び、ともにあることを望むものは名乗り出るがよい。
そのものらも併せて送ることを約束しよう。」
そういって、手を横に延ばせば、彼によく似た骸骨がその手に何かを乗せる。
「申し出のあったものにはこの印を与える。
当日これを所持していれば、猿人種と同じ場所に行ける。」
そうとだけ告げて、手の中のものを返す。
「5日後に行われる、転送の後。
王都に残っている猿人種に関しては、見つけ次第消滅してもらうことになる。
何、我らが取りこぼすことはない。
我らの目を欺き、逃れようとしたもの以外5日後には王都に残るまい。
であるなら、国王たる割れの意向に従えぬものとして、その程度の覚悟はあるものと判断しよう。
ただし、万に一つ取りこぼしがあったというのなら、すぐに近くの詰め所に行くなり、城に来るなりすればよい。
その場合であれば、先に転送された者たちと同じ処置を約束しよう。」
そこまでを言い切り、オレイザードが言葉を止める。
目の前に聞いているものがいないため、どのようにこの告知が受け止められているか解らない。
期限までの間に王都に出られるだろうか。
無理なようであれば、どうするか、そんなことを考える。
「追放されるもの中には、この決定を突然だと感じるものもいるだろう。
ならばこそ、とある御子をこの場で紹介しよう。」
オレイザードがそういうと、アマルディアが手を引き椅子から立ち上がるよう促される。
どうやら、私が表に立つ時のようだ。
「この基底界では覚えているもののほうが多かろう。
今から一万年以上前に起きた、あの災害を。
我が子が詰まらぬ功名心とその結果に起きた失敗によって、異なる世界軸の果てへと飛ばされた。
その怒りがこの世界軸に根を張るすべての世界に向いたあの災害を。
その発端となった御子がこの世界に帰還した。」
アマルディアに手を引かれるままに進み、オレイザードのすぐ隣に。
大きな出来事だとわかりはするけれど、この場にいるのはよく知っている相手が半分。
残りは何も言わずにオレイザードの側でただ控えているだけ。
これではさすがに緊張することもない。
「この御方こそ、その当人である。」
そういってこちらを振り返るオレイザード。
さて、どうしたものかと思わず考えてしまう。
アマルディアは既に一歩下がって控えている。
オレイザードを見れば私が何か言うことを期待している風でもある。
私の思考が生んだわずかな空白が、何かを言わなければいけないのだとそう私に決意させる。
「ご紹介にあずかりました、水無月美夜子です。
この度は国王様が私のわがままを聞いてくれたこと、うれしく思います。」
そう告げればオレイザードの側に控えていたものもどこかほっとしたようで。
それでも何か言葉を続けることをこちらに臨んでいるようで。
何かしゃべらなければいけないのなら、事前に教えてくれればよかったのに、と。
そんな少し子供のような、すねたことを考えてしまう。
「私は、本来私がいるべき場所に戻ってきました。
この世界における私の望みは、ある人にとってはとても贅沢で、ある人にとっては取っても当たり前のことでしょう。」
考えていること、思っていることを飾らずにそのまま言葉にする。
いま、この時。
この機会を失えば多くの人に私の望みを伝えることはできないと思うから。
「私はこの世界で安らかな時を得たいと考えています。
夜寝るときに、おびえる必要がなく。
街を歩くときに、通行人におびえる必要がない。
嫌いな誰かが、私の生活圏に存在することなく。
私は私の世界を好ましく思える。
ただ、それだけを求めているのです。」
正直、それを果たすことができるのなら、力を取り戻す必要性すら感じない。
例えば私がこの世界で、どういった形かはわからないけれど、死を迎えるまで、アマルディア達が私を手伝ってくれるというのなら、力を取り戻そうなどと考えない。
私の望みを叶えるのに、そんなに大きな力は必要ないだろうから。
「その望みのために、私は、私の生活圏に猿人種が存在することを認めるわけにはいきません。
私と、私に連なる親は覚えているのです。
あなた達のせいで、私がどれだけ苦しんできたかを。
また同じことを起こすのではないかと、その不安が私の安らぎを奪います。
滅びよとは言いません。
ですが、どうか。
私とかかわることのないばしょで、私とかかわることなきよう暮らしてください。」
ずいぶんと長く、取り留めないことをしゃべった気がする。
話す対象は目に見えることはなく、だれに話しているかわからない。
ただ、私の心情を、飾ることなく口にする。
途中で、勢いがついてずいぶん声を張り上げた気がする。
言い切った今は少し疲れて、肩で息をしている有様で。
気が付けば、ディネマが私を支えてくれている。
「以上が御子様よりの御言葉である。
私はその願いをかなえるために、この度の追放を決めた。
異議に意味はないと知り、粛々と準備をするといい。」
その言葉を最後に、オレイザードが手にしていた杖を消す。
どうやら、これでおしまいのようだ。
「さて、御子様。
これにて告知はおしまいです。
御身はお疲れの様子、どうぞご自愛なされますよう。」
そうオレイザードが告げて、この場は解散とばかりに、彼の側に控えていたものも思い思いに歩き始める。
「アマルディア。
ありがとうございます。ですが少し疲れました。
眠気も感じ始めています。あとのことは任せてもかまいませんか?」
そう告げてしまえば。
アマルディアの返事を聞く前に。
瞼がとても重く、勝手に閉じていくのにあらがうことが難しく。
やはり誇らしげに頷く彼女の顔を見たのを最後に。
きっと私は眠ってしまった。
望みの達成はろくにできていない。
それでも、私が願ったことが確かな形をもってかなったことは初めてで。
それが奇妙な満足感を私に与えてくれたのだろう。
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『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
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