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一章 新世界にて
そして世界は彼女を進ませる
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「では、そのようにお願いします。
私は何かすることがありますか?」
内心の疑問はひとまず置いておく。
今でも視界に入ったり、側にいると認識さえしなければいら立つこともないのだから。
それに元、猿人種であるオレイザードに対して何かを思うこともない。
そこまで広範な嫌悪感ではないのかもしれない。
「そうですな。
私からは、アマルディアと数機をお貸し頂ければそれ以上はありませんな。
さすがに取りこぼしなく遠方に送るには、手に余るので。」
「アマルディア?」
名前を呼ぶことで尋ねると、少し考えこんでいる様子で。
何かあるのだろうかと不安になる。
「私どもが離れるのが少々不安です。
他の姉妹機の到着を待っていただいてもよろしいでしょうか御子様。
3日後にはこの場に我らのうち9機がそろう予定ですので。」
どうやら、オレイザードを手伝うことで、私のことを見られないことが不安のようだ。
「ええ、かまいません。
先ほども言いましたがそこまで急いでいるわけではありません。」
「ありがとうございます御子様。
ではオレイザード。詳細はナンバー7が到着次第決めてください。」
「ふむ。あれも来るのか。
わかった。そうしようとも。」
とんとん拍子で話が進んでいく。
「その、国王様はもともと猿人種と聞いたのですが、抵抗はないのですか?」
ワタシはあれらを自分と同じだと思っている。
だから自らの終わりを選んだ。
そこに同族だからといった感情は全くないけれど。
オレイザードはどうなのだろう。
そこに情のような、懐古のようなものはないのだろうか。
「どうにも、このようになってからのほうがはるかに長いので、今猿人種を見たところで、おなじものとは思えませぬ。
まだ幼い幽体種を見るほうが、むしろ懐かしさを覚えますな。」
「それでは、あとはお願いしてもかまいませんか?
国王様にも、アマルディア達にも手間をかけますが。」
ないようだ。
あったからといって願いは変わらないと思うけれど。
「ええ、遅くとも2週間ほどで片が付くでしょう。
アマルディア、グレナディアに概要だけ伝えておいてくれ。
計画はあれと一緒にこちらで考えるでな。」
「わかりました。オレイザード。
早急な立案を求めます。」
ただ、少し考える。
彼女たちに頼んで、それでおしまいでいいのかな、と。
どうしようか。
実際に何かできるとは思えないのだけど、何かはしたほうがいい気がする。
「アマルディア。
私に何かできることはありますか?」
聞くことで困らせるかもとは思うのだけれど。
「オレイザードどうですか?」
「ふむ。」
オレイザードはそう一つ息をついて考えこむように、白々とした指先で顎を撫でる。
カチカチと硬質な音が響く。
その振る舞いは威厳よりも愛嬌があるように感じる。
「そうですな、御身が万全であれば、作業に必要なエーテルの供給を願うかもしれませんが。
こちらも今は預かりとさせていただけますかな?
具体的な計画と合わせて、考える必要がありますので。」
「過剰な負担は認められませんよ、オレイザード。」
やはり、療養中と枕につく以上は、そこまで手伝えることはないのだろうか。
「わかりました。
アマルディア、多少の負担なら構いません。私のわがままでお願いしていますので。
それとたとえ何か手伝えることがなかったとしても、実際に起こることに関してはこの目で見たいと考えています。」
もちろん彼女たちを信頼していないからなどではなく。
自分のわがままがどのような形をとるのか、一度確認しておきたい。
今後別のことをお願いした時にどうなるのか、その指標の一つとして。
「かしこまりました御子様。
その際の警護はお任せください。」
「ありがとうございます、アマルディア。
国王様にはお聞きしましたが、ほかの種族にとっては猿人種をこの王都から排除するというのはどうなのでしょうか?」
「さて。それは彼らでしかわからぬでしょう。
まぁ、ともにあることを望むのであれば、併せて遠くに送ればよいでしょうな。
基底界には猿人種の国家はありませんが、東の果てには物質界との門がありますし、そのそばに待ちのようなものを作っておったはずですので。」
国はないのに町はあるというのが今一つ不思議な感じがするけれど、開拓地のようなものなのだろうか。
「そうですか。
では、猿人種が呪われているというのはどういう意味でしょうか?」
ひとまず大きな問題は、彼らが問題になると考える問題は、内容なので話題を変える。
”親”が彼らに与えた呪いというのはどういったものだろうか。
「簡単に言うのであれば、エーテル・アストラル領域からの断絶ですな。
ゆえに猿人種は、物質とマナに頼らざるを得ない種族となっております。
私の時代では、このように幽体となることはまぁそれなりにあるものだったのですが、今となっては起こりえないこととなっています。」
呪いの内容が分かっても、それが実際にどのような影響を与えるかがわからない。
身近なことで考えれば、ディネマやオレイザードが行っているような、何もない場所から突然物を作るようなことができないということだろうか。
ただ、それも私にとっては普通のことで。
前の世界ではだれもがそうであったわけで。
「今一つ、それがどの程度影響を及ぼすものなのかがわかりませんが、ほかの種族はできることができないと、そういった認識でいいのでしょうか?」
「その認識で間違っておりませんが、何分あの者共にとってははるか昔、それこそ神話よりも前の話となるでしょう。
一部の亜人種は当時から生きているものもおりますが、すでに多くの亜人種にとっては神話でしょうな。
今を生きる者であれば、当然のこととそう考えているでしょう。
いわれてみれば、今の世代の者たちにとっては、理由もわからずただそのようなものと、そう受け入れているだけの事柄なのかもしれませぬな。」
嘆かわしいことだ、そういいながら頭を数度振るオレイザード。
「それを考えれば、今一度思い出させるのも悪くはないかもしれませぬな。
当時を覚えており、事態の収拾に骨を折ったものにとっては、悪夢のようなできことであったのは間違いないのですから。」
「御子様。お話し中申し訳ございませんが、お加減は如何ですか?」
横合いからこれまで黙っていたクレマティアから声がかかる。
いわれてみれば、少し疲れを感じる。
「そうですね、少し疲れてきてはいます。
申し訳ございません国王様。
突然の訪問で、ぶしつけな質問ばかり。」
「何、御子様。
どうぞまたいつでもお越しください。学ぼうという姿勢は尊いものですし、何分年長ぶって知識をひけらかす機会には恵まれませんでしたので、私にとっても楽しい時間ですのでな。」
そうして、オレイザードの前を辞去してからは、日々が早く過ぎた。
姉妹機が来るとのことではあったが、一度挨拶をした後は、各々が何か役割があるのだろうけれど、私が主に生活する場に現れることはなく。
名前だけは聞いており、私のわがままで、最も迷惑をこうむったであろう、グレナディアは一度挨拶をしてからは、ずっとオレイザードともに行動をしているようだった。
準備が整うまでの間、私はといえば。
数日の活動が答えたのか、ディネマによって基本的にベッドに押し込まれていた。
実際は押し込まれるまでもなく、動くのも一苦労だったのだけれど。
ディネマの見立てによれば、無理な行動が原因というわけではなく、幽体領域における拡張が影響しているとのことではあったけれど、彼女も明言は避けるほどに面倒な状況ではあったらしい。
そうしてようやく落ち着いて、ベッドから出られるというタイミングで、準備が整ったアマルディアの姉妹たちと改めて話をする機会を設けることとなった。
いつものようにディネマに身支度を整えられ、応接室に入れば、8人の少女がずらりと並んでいる。
名前を聞くだけの簡単なものではあったけれど、一度それぞれと挨拶だけはしている。
ナンバー01、アマルディア。
いつもそばに控えてくれている少女。彼女がいなければ、こちらの生活をここまで安心して過ごせていなかったと思う。
ナンバー02、バルバレア。
どこか少女のようなアマルディアと比べると、立ち居振る舞いに余裕を持った子。
彼女たちの中ではまとめ役としての側面があるようだ。
ナンバー03、クレマティア。
先だってアマルディアとともに私の警護を行ってくれていた。どこか厳しい雰囲気を持った子。
ナンバー04、ディネマ。
彼女がいなければ生活が成り立ったとは思えない。それほどに身の回りのことを手伝ってくれてた。
ナンバー05、エウカレナ。
彼女が来てからは、ベッドに横になっている間にこの世界のことをいろいろと聞くことができた。
多くの知識を持ち、それを教えることに慣れている子。
ナンバー06、ファラシア。
昨日初めて会った、彼女たちの中で、医療行為に特化しているという子。
今日改めて時間をとって、私の状態を見てもらうことになっている。
ナンバー07、グレナディア。
ワタシのわがままでおそらくもっとも迷惑をこうむった子。
一度挨拶をしてから今日まで顔を見ることもなかった。
ナンバー08、ハルジネア。
この子は、特に他の姉妹たちの補佐が専門のようで。
よく他の子たちから頼みごとをされている姿を見た。
ナンバー09、イリシア。
他の姉妹が手の届かぬところを重点的に補佐を行ってくれていた子。
外見も最も幼く、こまごまと動いている姿がかわいらしく感じた。
「みんな、おはようございます。」
「おはようございます、御子様。
本日はグレナディアから報告が。
それとファラシアが御身の確認をさせていただきます。」
ディネマに連れられ席に着けば、アマルディアから今日の予定に関して話がある。
「わかりました。
グレナディアの話が長くなるのでしたら、ファラシアとの時間を先にしたく思うのですが、如何でしょう?
私のわがままで、迷惑をかけているグレナディアには申し訳ないのですが。」
「もとよりこの身は造物主様の願いをかなえるためにありますので、お気になさらず。
概要を食事中に話させていただきます。
詳細は御身の状態を確認してから決まる部分もありますので、次の機会に。」
そういうとグレナディアが一歩前に進み出る。
習慣になり始めている、ディネマに用意された果物を口に運びながら、グレナディアの話を聞く。
そういえば今日に至るまでに、同じ果物が一度も出ることはなかったなと、そんなことを考える。
「王都から猿人種を追放する件に関してですが、本日住民全体への告知を行い、5日を準備期間として与えることとしました。
なお追放の方法としては、猿人種が多くいる東、物質界への門があるエリアへ、猿人種並びに彼らの住んでいた、利用していた施設、すべてまとめて転移させることとなります。」
それは。
思ってもいなかったほどに強硬策に聞こえる。
「準備期間は彼らへの準備期間ではなく、追放対象を選別し印をつけるために要する期間となります。
また、実行日から後数日は予備日として、王都内にて猿人種の有無を確認するため、バルバディア、クレナディアがその人の一部を担うこととなります。」
「わかりました。
ずいぶんと大事になったようで、みんなには面倒をかけます。」
「何ほどのこともありませんわ。
さて、こちら告知の際ですが、オレイザードから御身も同席されるのはどうかと。」
私が同席することに何か意味はあるのだろうか。
自分の行いを見るという意味では、確かに意義があるのだろうけど。
それだけのために、不慣れな人間をそういった大きな行事に全面的に出すのは、よいのだろうか。
「それは、どういった理由からでしょうか?」
「御身の存在が周知されていないことが今後問題になる可能性があるためです。
過去に御身が失われた際に起こった事件の再発を防ぐには、やはり御身が守られなければいけません。
それをかなえるには、御身の存在を告知する必要があるでしょう。」
「まちなさい、グレナディア。
よもや有象無象のために御子様に骨を折らせよと、そう言っているのですか?」
アマルディアが少し険悪な空気とともに割って入る。
「いいえ、姉さん。
リスクがないとは言いませんが、また御子様が事件に巻き込まれるのを防ぐためには必要があると考えています。」
こうして彼女たちが増えることで、口論のようなものが起きている。
見た目はよく似ているけれど、こういったやり取りを目にすると、ああ、それぞれが違うのだなと実感する。
ディネマとアマルディアも軽いやり取りはしていたものの、それはたしなめる側と、たしなめられる側といった関係性の上でだったので。
「リスクがあるということが許容しかねるといっています。
同様の事件に関しては、少なくともこの世界に世界軸を超える事態が起きれば我らの造物主様も自ら手を下すことができるように、監視をされているはず。」
「同様というのは、同じ事件ということではありません姉さん。
何も知らぬ愚か者が御子様にあだ名す可能性を下げるためです。」
「二人とも。そこまでになさい。
御子様の心は決まっているようです。あなた方が言葉を重ねる前に、御子様の意向を聞きなさい。」
加熱しだした二人の会話をバルバレアが止める。
私が考えていることも察しているようで。
本当に細かいところまで気配りをする子だ。
「そうですね。アマルディアの心配もうれしいのですが、国王様に伝えたように私は自分の伝えたことのの結果がどうなるか、それを見ることを考えています。
参加できるというのなら、その告知の場に私も出席したいと考えています。」
そう、私の考えは決まっている。
彼女たちに任せるだけ、それを良しとはしない。
それでも、頼らなければならないことはとても多いのだけれど。
「アマルディア。あなたには申し訳ないのですが、いざ何かが起こるようなら、私を守ってくださるようお願いします。」
「かしこまりました。」
そういって、アマルディアが一歩下がる。
「御子様。御身が手伝ってもよいとのことでしたが、そちらに関してはファラシアの判断を優先します。
ひとまず、私からの報告は以上です。」
グレナディアの報告はここまでのようだ。
聞きながら食べ進めていた食事の手を止め、ファラシアを見る。
「それでは姫様。
まずは食後少々お休みください。それから私が一度しっかりと診させていただきます。」
そして、いよいよ動き出す。
この世界に来て、初めて形に残ること。
それは前の世界の清算のようなもので。
過去の清算で。
だれも反対しないことが少し不安で。
それでも、ようやく自分の意思でこの世界の中で進んでいく確かな価値が見えることがうれしい。
私は何かすることがありますか?」
内心の疑問はひとまず置いておく。
今でも視界に入ったり、側にいると認識さえしなければいら立つこともないのだから。
それに元、猿人種であるオレイザードに対して何かを思うこともない。
そこまで広範な嫌悪感ではないのかもしれない。
「そうですな。
私からは、アマルディアと数機をお貸し頂ければそれ以上はありませんな。
さすがに取りこぼしなく遠方に送るには、手に余るので。」
「アマルディア?」
名前を呼ぶことで尋ねると、少し考えこんでいる様子で。
何かあるのだろうかと不安になる。
「私どもが離れるのが少々不安です。
他の姉妹機の到着を待っていただいてもよろしいでしょうか御子様。
3日後にはこの場に我らのうち9機がそろう予定ですので。」
どうやら、オレイザードを手伝うことで、私のことを見られないことが不安のようだ。
「ええ、かまいません。
先ほども言いましたがそこまで急いでいるわけではありません。」
「ありがとうございます御子様。
ではオレイザード。詳細はナンバー7が到着次第決めてください。」
「ふむ。あれも来るのか。
わかった。そうしようとも。」
とんとん拍子で話が進んでいく。
「その、国王様はもともと猿人種と聞いたのですが、抵抗はないのですか?」
ワタシはあれらを自分と同じだと思っている。
だから自らの終わりを選んだ。
そこに同族だからといった感情は全くないけれど。
オレイザードはどうなのだろう。
そこに情のような、懐古のようなものはないのだろうか。
「どうにも、このようになってからのほうがはるかに長いので、今猿人種を見たところで、おなじものとは思えませぬ。
まだ幼い幽体種を見るほうが、むしろ懐かしさを覚えますな。」
「それでは、あとはお願いしてもかまいませんか?
国王様にも、アマルディア達にも手間をかけますが。」
ないようだ。
あったからといって願いは変わらないと思うけれど。
「ええ、遅くとも2週間ほどで片が付くでしょう。
アマルディア、グレナディアに概要だけ伝えておいてくれ。
計画はあれと一緒にこちらで考えるでな。」
「わかりました。オレイザード。
早急な立案を求めます。」
ただ、少し考える。
彼女たちに頼んで、それでおしまいでいいのかな、と。
どうしようか。
実際に何かできるとは思えないのだけど、何かはしたほうがいい気がする。
「アマルディア。
私に何かできることはありますか?」
聞くことで困らせるかもとは思うのだけれど。
「オレイザードどうですか?」
「ふむ。」
オレイザードはそう一つ息をついて考えこむように、白々とした指先で顎を撫でる。
カチカチと硬質な音が響く。
その振る舞いは威厳よりも愛嬌があるように感じる。
「そうですな、御身が万全であれば、作業に必要なエーテルの供給を願うかもしれませんが。
こちらも今は預かりとさせていただけますかな?
具体的な計画と合わせて、考える必要がありますので。」
「過剰な負担は認められませんよ、オレイザード。」
やはり、療養中と枕につく以上は、そこまで手伝えることはないのだろうか。
「わかりました。
アマルディア、多少の負担なら構いません。私のわがままでお願いしていますので。
それとたとえ何か手伝えることがなかったとしても、実際に起こることに関してはこの目で見たいと考えています。」
もちろん彼女たちを信頼していないからなどではなく。
自分のわがままがどのような形をとるのか、一度確認しておきたい。
今後別のことをお願いした時にどうなるのか、その指標の一つとして。
「かしこまりました御子様。
その際の警護はお任せください。」
「ありがとうございます、アマルディア。
国王様にはお聞きしましたが、ほかの種族にとっては猿人種をこの王都から排除するというのはどうなのでしょうか?」
「さて。それは彼らでしかわからぬでしょう。
まぁ、ともにあることを望むのであれば、併せて遠くに送ればよいでしょうな。
基底界には猿人種の国家はありませんが、東の果てには物質界との門がありますし、そのそばに待ちのようなものを作っておったはずですので。」
国はないのに町はあるというのが今一つ不思議な感じがするけれど、開拓地のようなものなのだろうか。
「そうですか。
では、猿人種が呪われているというのはどういう意味でしょうか?」
ひとまず大きな問題は、彼らが問題になると考える問題は、内容なので話題を変える。
”親”が彼らに与えた呪いというのはどういったものだろうか。
「簡単に言うのであれば、エーテル・アストラル領域からの断絶ですな。
ゆえに猿人種は、物質とマナに頼らざるを得ない種族となっております。
私の時代では、このように幽体となることはまぁそれなりにあるものだったのですが、今となっては起こりえないこととなっています。」
呪いの内容が分かっても、それが実際にどのような影響を与えるかがわからない。
身近なことで考えれば、ディネマやオレイザードが行っているような、何もない場所から突然物を作るようなことができないということだろうか。
ただ、それも私にとっては普通のことで。
前の世界ではだれもがそうであったわけで。
「今一つ、それがどの程度影響を及ぼすものなのかがわかりませんが、ほかの種族はできることができないと、そういった認識でいいのでしょうか?」
「その認識で間違っておりませんが、何分あの者共にとってははるか昔、それこそ神話よりも前の話となるでしょう。
一部の亜人種は当時から生きているものもおりますが、すでに多くの亜人種にとっては神話でしょうな。
今を生きる者であれば、当然のこととそう考えているでしょう。
いわれてみれば、今の世代の者たちにとっては、理由もわからずただそのようなものと、そう受け入れているだけの事柄なのかもしれませぬな。」
嘆かわしいことだ、そういいながら頭を数度振るオレイザード。
「それを考えれば、今一度思い出させるのも悪くはないかもしれませぬな。
当時を覚えており、事態の収拾に骨を折ったものにとっては、悪夢のようなできことであったのは間違いないのですから。」
「御子様。お話し中申し訳ございませんが、お加減は如何ですか?」
横合いからこれまで黙っていたクレマティアから声がかかる。
いわれてみれば、少し疲れを感じる。
「そうですね、少し疲れてきてはいます。
申し訳ございません国王様。
突然の訪問で、ぶしつけな質問ばかり。」
「何、御子様。
どうぞまたいつでもお越しください。学ぼうという姿勢は尊いものですし、何分年長ぶって知識をひけらかす機会には恵まれませんでしたので、私にとっても楽しい時間ですのでな。」
そうして、オレイザードの前を辞去してからは、日々が早く過ぎた。
姉妹機が来るとのことではあったが、一度挨拶をした後は、各々が何か役割があるのだろうけれど、私が主に生活する場に現れることはなく。
名前だけは聞いており、私のわがままで、最も迷惑をこうむったであろう、グレナディアは一度挨拶をしてからは、ずっとオレイザードともに行動をしているようだった。
準備が整うまでの間、私はといえば。
数日の活動が答えたのか、ディネマによって基本的にベッドに押し込まれていた。
実際は押し込まれるまでもなく、動くのも一苦労だったのだけれど。
ディネマの見立てによれば、無理な行動が原因というわけではなく、幽体領域における拡張が影響しているとのことではあったけれど、彼女も明言は避けるほどに面倒な状況ではあったらしい。
そうしてようやく落ち着いて、ベッドから出られるというタイミングで、準備が整ったアマルディアの姉妹たちと改めて話をする機会を設けることとなった。
いつものようにディネマに身支度を整えられ、応接室に入れば、8人の少女がずらりと並んでいる。
名前を聞くだけの簡単なものではあったけれど、一度それぞれと挨拶だけはしている。
ナンバー01、アマルディア。
いつもそばに控えてくれている少女。彼女がいなければ、こちらの生活をここまで安心して過ごせていなかったと思う。
ナンバー02、バルバレア。
どこか少女のようなアマルディアと比べると、立ち居振る舞いに余裕を持った子。
彼女たちの中ではまとめ役としての側面があるようだ。
ナンバー03、クレマティア。
先だってアマルディアとともに私の警護を行ってくれていた。どこか厳しい雰囲気を持った子。
ナンバー04、ディネマ。
彼女がいなければ生活が成り立ったとは思えない。それほどに身の回りのことを手伝ってくれてた。
ナンバー05、エウカレナ。
彼女が来てからは、ベッドに横になっている間にこの世界のことをいろいろと聞くことができた。
多くの知識を持ち、それを教えることに慣れている子。
ナンバー06、ファラシア。
昨日初めて会った、彼女たちの中で、医療行為に特化しているという子。
今日改めて時間をとって、私の状態を見てもらうことになっている。
ナンバー07、グレナディア。
ワタシのわがままでおそらくもっとも迷惑をこうむった子。
一度挨拶をしてから今日まで顔を見ることもなかった。
ナンバー08、ハルジネア。
この子は、特に他の姉妹たちの補佐が専門のようで。
よく他の子たちから頼みごとをされている姿を見た。
ナンバー09、イリシア。
他の姉妹が手の届かぬところを重点的に補佐を行ってくれていた子。
外見も最も幼く、こまごまと動いている姿がかわいらしく感じた。
「みんな、おはようございます。」
「おはようございます、御子様。
本日はグレナディアから報告が。
それとファラシアが御身の確認をさせていただきます。」
ディネマに連れられ席に着けば、アマルディアから今日の予定に関して話がある。
「わかりました。
グレナディアの話が長くなるのでしたら、ファラシアとの時間を先にしたく思うのですが、如何でしょう?
私のわがままで、迷惑をかけているグレナディアには申し訳ないのですが。」
「もとよりこの身は造物主様の願いをかなえるためにありますので、お気になさらず。
概要を食事中に話させていただきます。
詳細は御身の状態を確認してから決まる部分もありますので、次の機会に。」
そういうとグレナディアが一歩前に進み出る。
習慣になり始めている、ディネマに用意された果物を口に運びながら、グレナディアの話を聞く。
そういえば今日に至るまでに、同じ果物が一度も出ることはなかったなと、そんなことを考える。
「王都から猿人種を追放する件に関してですが、本日住民全体への告知を行い、5日を準備期間として与えることとしました。
なお追放の方法としては、猿人種が多くいる東、物質界への門があるエリアへ、猿人種並びに彼らの住んでいた、利用していた施設、すべてまとめて転移させることとなります。」
それは。
思ってもいなかったほどに強硬策に聞こえる。
「準備期間は彼らへの準備期間ではなく、追放対象を選別し印をつけるために要する期間となります。
また、実行日から後数日は予備日として、王都内にて猿人種の有無を確認するため、バルバディア、クレナディアがその人の一部を担うこととなります。」
「わかりました。
ずいぶんと大事になったようで、みんなには面倒をかけます。」
「何ほどのこともありませんわ。
さて、こちら告知の際ですが、オレイザードから御身も同席されるのはどうかと。」
私が同席することに何か意味はあるのだろうか。
自分の行いを見るという意味では、確かに意義があるのだろうけど。
それだけのために、不慣れな人間をそういった大きな行事に全面的に出すのは、よいのだろうか。
「それは、どういった理由からでしょうか?」
「御身の存在が周知されていないことが今後問題になる可能性があるためです。
過去に御身が失われた際に起こった事件の再発を防ぐには、やはり御身が守られなければいけません。
それをかなえるには、御身の存在を告知する必要があるでしょう。」
「まちなさい、グレナディア。
よもや有象無象のために御子様に骨を折らせよと、そう言っているのですか?」
アマルディアが少し険悪な空気とともに割って入る。
「いいえ、姉さん。
リスクがないとは言いませんが、また御子様が事件に巻き込まれるのを防ぐためには必要があると考えています。」
こうして彼女たちが増えることで、口論のようなものが起きている。
見た目はよく似ているけれど、こういったやり取りを目にすると、ああ、それぞれが違うのだなと実感する。
ディネマとアマルディアも軽いやり取りはしていたものの、それはたしなめる側と、たしなめられる側といった関係性の上でだったので。
「リスクがあるということが許容しかねるといっています。
同様の事件に関しては、少なくともこの世界に世界軸を超える事態が起きれば我らの造物主様も自ら手を下すことができるように、監視をされているはず。」
「同様というのは、同じ事件ということではありません姉さん。
何も知らぬ愚か者が御子様にあだ名す可能性を下げるためです。」
「二人とも。そこまでになさい。
御子様の心は決まっているようです。あなた方が言葉を重ねる前に、御子様の意向を聞きなさい。」
加熱しだした二人の会話をバルバレアが止める。
私が考えていることも察しているようで。
本当に細かいところまで気配りをする子だ。
「そうですね。アマルディアの心配もうれしいのですが、国王様に伝えたように私は自分の伝えたことのの結果がどうなるか、それを見ることを考えています。
参加できるというのなら、その告知の場に私も出席したいと考えています。」
そう、私の考えは決まっている。
彼女たちに任せるだけ、それを良しとはしない。
それでも、頼らなければならないことはとても多いのだけれど。
「アマルディア。あなたには申し訳ないのですが、いざ何かが起こるようなら、私を守ってくださるようお願いします。」
「かしこまりました。」
そういって、アマルディアが一歩下がる。
「御子様。御身が手伝ってもよいとのことでしたが、そちらに関してはファラシアの判断を優先します。
ひとまず、私からの報告は以上です。」
グレナディアの報告はここまでのようだ。
聞きながら食べ進めていた食事の手を止め、ファラシアを見る。
「それでは姫様。
まずは食後少々お休みください。それから私が一度しっかりと診させていただきます。」
そして、いよいよ動き出す。
この世界に来て、初めて形に残ること。
それは前の世界の清算のようなもので。
過去の清算で。
だれも反対しないことが少し不安で。
それでも、ようやく自分の意思でこの世界の中で進んでいく確かな価値が見えることがうれしい。
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タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
マギアクエスト!
友坂 悠
ファンタジー
異世界転生ファンタジーラブ!!
気がついたら異世界? ううん、異世界は異世界でも、ここってマギアクエストの世界だよ!
野々華真希那《ののはなまきな》、18歳。
今年田舎から出てきてちょっと都会の大学に入学したばっかりのぴちぴちの女子大生!
だったんだけど。
車にはねられたと思ったら気がついたらデバッガーのバイトでやりこんでたゲームの世界に転生してた。
それもゲーム世界のアバター、マキナとして。
このアバター、リリース版では実装されなかったチート種族の天神族で、見た目は普通の人族なんだけど中身のステータスは大違い。
とにかく無敵なチートキャラだったはずなんだけど、ギルドで冒険者登録してみたらなぜかよわよわなEランク判定。
それも魔法を使う上で肝心な魔力特性値がゼロときた。
嘘でしょ!?
そう思ってはみたものの判定は覆らずで。
まあしょうがないかぁ。頑張ってみようかなって思ってフィールドに出てみると、やっぱりあたしのステイタスったらめちゃチート!?
これはまさか。
無限大♾な特性値がゼロって誤判定されたって事?
まあでも。災い転じて福とも言うし、変に国家の中枢に目をつけられても厄介だからね?
このまま表向きはEランク冒険者としてまったり過ごすのも悪く無いかなぁって思ってた所で思わぬ事件に巻き込まれ……。
ってこれマギアクエストのストーリークエ?「哀しみの勇者ノワ」イベントが発動しちゃった? こんな序盤で!
ストーリーモードボス戦の舞台であるダンジョン「漆黒の魔窟」に降り立ったあたしは、その最下層で怪我をした黒猫の子を拾って。
って、この子もしかして第六王子? ってほんとどうなってるの!?
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