憧れの世界でもう一度

五味

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36章 忙しなく過行く

結果として

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商業ギルドの対応よりも、トモエの対応が早かった。
そもそも、軒を借りている家主に相談しましたかと、そうトモエに尋ねられれば、既に行っていることだと返してみたものの。商業ギルドの物に、品物を持ってこさせるとだけ言ったのではと言われれば、その通りであったために頷いて返してみた。
そうすれば、まずは侍女衆に緊張が走り、トモエからは何やら困った子供を見るような視線が寄せられて。そして、トモエから改めて起きているだろう祖後に関して説明を受ける。オユキがそんな事を考えるはずがないだろうと、オユキからはそう返すしかなかったのだが、そもそも今は飾り立てられた鞘を発注していることもある。ただ商業ギルドの物を呼ぶのだと言えば、公爵夫人としてはその進捗の確認が第一に。そして、その次には闘技大会で見事優勝せしめたトモエに対して何かをと考えているのだとそうした話をされて。言われてみれば、成程確かにとそうなったくするしかなく。ただ、トモエとしてはオユキが鍋を久しぶりにと言い出したことは、セツナに言われた通りトモエは非常に喜んでくれた。そして、同様に、確かに野菜などに関しては市場で改めて見て回るのがいいだろうと。確かに、海産物の類は、トモエとオユキが向かう市場ではなかなか見ることが無かった。それを改めて商業ギルドの者たちに集めさせる、それは非常に喜ばれて。
そうした流れもあって、ご機嫌に仕事を片付けて。何やら、その間にも生暖かい視線を感じはしたものだが、それも捨て置ける程度には度量をもって。

「この度は、改めて当ギルドにお声かけ頂きまして」
「エスコバル伯爵様にそこまで畏まられてしまうと、私としても困ってしまうのですが」
「本日は、いえ、確かに不可分でしょうね。改めて、先日の夜会以来となりますね、子爵」
「伯爵様も、ご壮健なようで何より。改めて、私からの願いに対して労を担って頂けましたことに、感謝を」
「何、陛下より頂いている職責、その範疇の事です。さて、改めて王都で用意できる水産資源、その話ですがお時間を頂いたこともあり、現状登録されている物。ああ、販売物、商品として登録されている物、それから採取者ギルドに用意させたものをこの度は」

依頼を出して、僅か二日。実質は一日半どころか、それよりも短い時間であっただろう。
昨日の国王陛下による、大会勝者に対して言葉を与えるとともに、褒美を渡される場面にはこの人物もいたものだ。狩猟者ギルドの長、グティエレス伯爵については苦虫をかみつぶしたような顔をしていたものだが。生憎と、彼の推薦だろう他の狩猟者たちも本戦にかろうじて残った者たちはいた。それこそ推薦を得ずに予備選から参加していれば、容赦なく足きりに合っていた程度だろう者達。
狩猟者として、加護を頼むのは良い。寧ろ、加護が無ければ討伐出来ぬ魔物などいくらでもいるし、遠征を行い中型種に分類される魔物を討伐することも難しかろう。だが、それだけを指標に加護の一切が配される場に参加させる、それが問題だと理解できない程度の相手であったらしい。いよいよオユキとしては狩猟者ギルドに対する、マリーア公爵の王都に持つ狩猟者ギルドの質というのが疑問になっても来るのだが。

「本日は、公爵様にもご許可を頂き、外に品を見やすいように並べておりますので」
「室内には、入りきらない程でしたか」
「興味を持たれる方も、多いと聞いていますから。一応、主賓としてこの度ご要望を頂いた子爵をと考えていたのでしたが」
「おや」
「翼人種の方々が、既に」

困った様に、エスコバル伯が笑う。
相も変わらずとでもいえばいいのか、珍しい物にというよりも食欲に対してあまりに貪欲な種族。全く、我欲を妄執だと切って捨てるはずが等と思うのだが、そこからの解脱を求める事が今後の目標になっているのだろうと無理に好意的な解釈をオユキはしている物だが。

「では、私たちもそちらに向かうとしましょうか。ご案内は、伯爵様にお願いさせていただいても」
「ええ。子爵夫妻を、改めて私のほうで」

トモエも、商品を楽しみにしている。宝飾の類も喜ぶには違いないのだが、やはりそれよりも珍しい食事に。日々の食卓を彩る、おいしい食事意識が向く。かつてとは違い、こちらではいよいよオユキの食が細すぎる事がある。そして、明確な問題としてそれを共有できているからこそ、トモエが少々己の好みといえばいいのか。己の都合で、種々の食材を買い求める事を止めるものなどいない。
特に今回の海産物、水産資源に関しては、季節感の薄いこの神国ではあるのだが、それでも明確に時期による違いがある。それこそ、メルルーサが特定の次期には遡上してくるように。

「オユキさんは、何か口にしたいものはありますか」
「鍋として考えたときに、やはり鮭や鱈、変わり種でいえばアンコウなどでしょうか」
「こちらに、いますか、アンコウ」
「聞いたことはありませんし、川にいるとも考えにくいのですが」

少々癖の強い食材ではあるものの、生前お酒を好んでいたオユキはそちらも当然のように好んでいた。冬には、秋ほどでは無いにせよ、やはりおいしい食材が多かった。いや、冬に多いというよりも、冬でも楽しめる様に品種改良がされ続けていった結果なのかもしれないが。
そのあたりの実際に関しては、トモエもオユキも生憎と興味がない。

「どうにも、お二人の話す内容が私には分かりませんが」
「申し訳ありません。固有名詞などは、やはり私どももかつての言葉を使う事が多く。ですが、伝わらぬと言う事であれば、こちらにもあるのでしょうね」

存在しないものであれば、翻訳の加護が働いたうえで代用の何かを示してくれる。しかし、既にこちらに存在している物に関しては、互いの認識が揃わなければ本yカウの加護が働かない。オユキのほうでは、そこまで理解が及んだ。つまりは、こちらに存在する物、それらを口にした時に、伝わらぬ言葉であれば間違いなくこちらに存在するのだと判断することが出来る。
他にも、色々と理屈は存在しているのだが、少なくとも同じ国に所属して、そこで暮らしているお暗示言語体系を持つ相手であれば。一応、オユキからも、先ほど口にしたものを簡単に英語に直したうえで改めて発音してみるのだがそれもやはり通じず。固有名詞にしても、流石にそういった物までオユキはスペイン語を覚えているわけではない。
後は品を見て、改めてそれぞれを、それこそトモエに口に出してもらい、互いの認識を揃えてしまえば今後は楽になるだろうと。

「随分と、華やかですね」
「どうやら、翼人種の方々が来られたこともあって、公爵様が良しとされたようです」

屋敷にの案内をエステールに任せ、そして外に出てみれば。中庭、普段鍛錬を行う場ではなく、マリーア公爵の住まう本邸に繋がる道、その脇に用意されている広々とした空間に簡易の市場が出来上がっている。そして、そこには既にアルノーが彼の下にいる子供たち、そしてその子供たちと慣れ親しんだ少年たちも併せて。
今回の事に関しては、そもそもこうして持ち込まれた物に関しては一応全て、勿論上限はあるのだがファンタズマ子爵家が支払うとしていることもあり揃ってあれこれと眺めて歩きながらもアルノーがそれぞれの食材を解説しているのに聞き入りながら買い求めようとする動きをみせている。
買ったのだとしても、料理をするのは結局のところアルノーと本邸、別邸にそれぞれにいる料理人たちなのだが。

「さて、人気のある区画を後に回してしまうと、残るかどうかも不安がありますが、この状況であれば」
「構いません、エスコバル伯爵様。なくなったんというのであれば、今回はご縁がなかった食材となるのでしょう。それに、翼人種の方々が持ち帰るのであればともかく、料理として用意を行うのはアルノーさんをはじめとした方々となりますから」
「ファンタズマ子爵が改めて日の目を当てた、屋外調理器具。それも、こちらに持ってこさせています」
「それは、良い趣向ですね。ああ、成程、それでアルノーさんが少し急いで選んでいるのですか」

トモエが伯爵の言葉に嬉しそうに。
確かに、その場で買い求めて、味見以上の事を行う場というのもかつてにはあった。そして、この伯爵にしてもそういった流れを知っていて持ち込んできたのだろう。トモエとオユキが、アルノーが普段使うものは、移動に際して燃料を考えなくても良い場所ばかりを行くからと、煙が出たところで魔物や他から目立つのだとしても十分な護衛がいるからと木材を用いる物にしているのだが、こちらではどうやらしっかりと炭を熾してとするものであるらしい。

「魚、貝、そうした物ばかりではなく、冬の食材をこの季節に特に集まる品を用意させていただいた一角から」
「遠めに見れば、瓶詰の類が多いように見えますが」
「ええ。やはり、少し前に取った果物、それらを加工してからとなると」
「成程、保存がきくものとしては瓶詰は最たるものですか」

調味料として使う、それを考えたときにオユキはいよいよ使い道など思いつきはしない。だが、トモエが側にいるためにそれにしても問題はないだろう。セツナとクレドはと見れば、何やら炭火を熾している場所から実に楽し気に眺めている。
どうやら食材そのものを見て回るよりも、完成品を口にしてみてという構えであるらしい。

「セツナ様は、大丈夫なのですね」
「かつての世界では、炭を冬に持ってくる有名な物もありましたから」
「確かに、料理にばかり使うものではありませんね」
「つきづきし、それから灰と変われば」
「当時は、灰かぶりと呼ばれるのはどうしたところでというのも。あとは、私たちにはほとんどなじみが無いものとなりましたが、煤をとるというのは重労働と、それくらいはご存じだったのではないかと」

当時の宮中、それに互いに思いを馳せながら。色とりどりの内容物、それが厚めに作られた瓶に納められて並べられている一角。其処を、商業ギルドの長の案内で冷やかしていく。この中にはいくつか、それこそトモエが切望している柚子に近い柑橘のジャムも用意されていることだろう。海産物を楽しむには欠かせないワサビ、それをついでとばかりに一瓶貰っていくのも良いかもしれない。浮き立つ心に、トモエの、オユキの足取りも軽くなり。
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