憧れの世界でもう一度

五味

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35章 流れに揺蕩う

募るのは

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毎度の事、というには母数が少ない。そんな事をオユキは考えるものだが、それでも思い出さざるを得ないことがある。領都での事、そこにいた狩猟者たちの在り方。あまりにも不気味だと感じた、理解の及ばない理屈を振りかざす者たち。そして、魔物の群れを連れて始まりの町、ウニルを囲んだ者たちの理屈。さらには、こちらに来たばかりの時に、平然と祭祀を乱した者たちの理屈。
努力を望まない、それだけならまだよい。
他人をうらやむ、それにしても当然の、人間の当然の心の働きだとオユキは納得する。
そうした感情を、そうした感情に突き動かされて、それすらもまだ理解が及ぶ。
だが、己のそうした感情どころか、他人の足を引く、己と同じ場所まで落ちて来いと上げる怨嗟の声に関しては、オユキには亡者の声にしか聞こえない。トモエにとっては、そもそも己の努力を積み上げよと。才が足りぬのなら、己の十倍どころか百倍は先に行く者たちがいるというのならばそれを埋めるための手立てを、他で己は勝てるのだとそうした術理を見つけよと言い切るがためにより苛烈。
話を聞く場に、トモエも確かに同席していたのだが、手に持つ己の得物に何度手をかけたのかオユキは数得ることもやめたほど。今回の問答は、外交を担当しているだろう文官が主体として行った者だが、その人物ですら頭を抱えて己の職場に戻っていくようなありさまであった。

「迂遠な、とまでは言いません。目的がある、それも理解が及びます。ですが、あまりにも下策としか」
「目的の背後にあるもの、それはどこまで行っても汚染を広げる事ですから。改めて神国の王都に、それが叶うならば最善でしょう」
「だが、異空と流離の力は」
「あの門にそういった機能があるかは、それこそ直接尋ねなければ分からぬ者でしょう。寧ろ、無いと考えた方がとも」
「オユキは、あの汚染の元凶に心当たりが、いや、確かそのあたりも報告が上がっていたか」
「神々が言うには、与えられた試練だそうですから」

誰からと言えば、トモエとオユキがかつていた異邦からと言う事になるのだろう。そのあたりは、最早時系列、人間が理解できるそれを語ることも難しい。どのような構造に、どのような照応になっているのかすら論理として組み立てることが出来ない。オユキは、ぼんやりと想像ができる、何か納得のいく理屈がそこにはあるとそれくらいには考え付くのだが、それ以上は流石に及ばない。
オユキの心当たり、その範囲であれば、どれでも成立してしまうのだ。
どれかが正解で、どれもが正解で。そして、それを成立させることが出来るだけの能力を持っているからこそ、神として在るのだろうと。

「王太子様、王妃様から伺いましたが」
「国交を閉ざす事か。勿論、検討の上で体制がそちらに流れていたのは事実、確かに、魔国との関係もあり、華と恋の神殿を擁する華国との関係も模索しなければならない現状だからな。人手が足りぬ以上は、それを行うのが良いといわれれば、否定もできない」
「正直、ここまで面倒を持ち込む以上は。その、神国にしても」
「わが国では、その方らの事もあり改めて教会の能力が強化されているとは聞いている。各領地において、領主の持つ能力の向上も同様だな」

王太子が、オユキが頼んだユーフォリアが何故か連れ出してきたその人物にしても、お茶に一度口をつけたかと思えば、今はアルノーの手による点心を次々と口に運んでいる。

「要点を、改めて纏めようか、デズモンド」
「そうであるな。あの者たちの言葉、尽く要領を得なんだが」

そして、改めて尋問というよりも聞き出した話を王太子に促される形でマリーア公爵がまとめる。そして、その話を当然とばかりに同席するわけではなく、側に異なる机を置いてそこに書類を広げたユーフォリアが記録していく。先ほどの尋問にしても相手のしゃべる言葉を要約して書き止めそれを今こうして席についている者たち様にとカレンと共に書写を行ったうえで。

「どれが最大目標かは分からぬが、少なくとも汚染をされている者たち、過去を考えれば共通する意識である汚染を広げる、そのための手段。一つは戦を引き起こす。これは我が国に対して武国が行うものだけでなく、他に対しても。もう一つは、あの者たちが抱える理屈を、思想というには一貫性が無いのだがそれを我が国で広げる。これにしても同様に。しかし、武国という成り立ちである以上は基底がそちらに依らねばならぬ。最後は、我らの国を手段を択ばずとにかく汚染を行う、あの者たちの思考、その背後にあるものの活動圏を広げる。」

ユーフォリアがまとめた物、そこからさらにマリーア公爵が纏めて。
同席をしているのは、王太子に加えて各公爵家の当主。そろそろ信念が近いからか、アルゼオ公爵にしても王都に足を運んでいたらしい。かつてオユキに見せた攻撃的な雰囲気、彼としてはそれを行わざるを得ないと先代からの話を聞いて、それだけによって行った判断故にと言う事もあるのだろうが。何よりも、これまではアルゼオ公爵家が独占していた、独占し続けていたものが失われる事に対してというものでもあったのだろうが、今となってはその時に見せていたものとは全く異なる空気を纏っている。
そして、書記官としてのユーフォリアとカレン、その側には王城からの文官も幾人か。さらには、戦と武技に使える巫女が三人。加えて、武国の外交の責任者とでもいえばいいのだろう。今は顔色を失っている人物が二人。
同席しているのは、そこまでではあるのだが、勿論他の責に腰を下ろしている物や、それぞれの背後に控える者たちまでを含めれば三十を優に超える程の人数が広間に集まっている。

「全ての目的は、結局のところ最後の物に集約されるように思いますが」

マリーア公爵がまとめた内容に、オユキから。

「確かにな。デズモンド、それはどう考える」
「繰り返しになるが、どれが最大目標かは分からぬのだよ。結果として引き起こされる物、それを考えたところ我らが背後にあるものを知っている。既に認識が出来るのだと、それを知らぬ相手ではあるまい。そうなったときに、武国の汚染、それを気が付いた時には」
「ふむ。言われてみれば頷けるな。オユキ、戦と武技の巫女たるその方は」
「確かにとも思いますが、そこまで伝わっているとマリーア公はお考えですか。今度の事は、はっきりといいますが」
「その方の懸念は分かる。だが、その方が話を聞いたもの、それ以外からもこれまで幾度も我は話を聞いている」

実際に、マリーア公爵が話を聞いたかは分からないが、報告は勿論うけているだろう。

「それを考えたときに、国境を超える、それが叶うとは思えぬ。わが領内ですら、安息の結界を超えねば、もしくは他の物と接触しない限りは理解が及んでいない様子でもある。いや、はっきりというならば、それを許さぬ機能、結界の強化を領主が行えるようになっておる」

勿論、それには相応の量魔石が必要になるがと、何処か苦く笑いながら。

「結界が無い場合には、どの程度の距離が、能力が必要になるかは分からぬが、少なくとも我が把握している我の領地、同様にこの王都にしても既に」
「とすれば、それがあるからこそ、でしょうか」
「クレリー公爵家、ユニエス公爵家からは、結界の強化の報告が上がっていないが」

オユキが尋ねてみれば、この機会だからと王太子が隠し事はしてくれるなと。

「当家は、マリーア公爵からの情報提供を得て、魔石と薬草の交易で。一先ず領都、それから主要都市は」
「ユニエスについては従者の家系でもあるカマルディエル侯に話はとおして、任せている」

確認は、一応行っているのだがなと、アベルが苦く笑って。

「そのあたり、ええと、私が聞くような話では」
「我が公爵領は、他と比べてかなり強化も進んで居る。誰が原因かと言われれば難しいが、その方が遠因となっているのは間違いない」
「巫女様は、他にもおられるはずですが」
「戦と武技、三狐神、異空と流離にしてもだな。神々の力が、我が領には突然に増えたこともある。少々上手く使うのは難しくもあるのだがな。リース伯子女に関しては、始まりの教会がある故、苦労もそこまでなかろうが」
「ええと、領主それぞれに差があるのだと、それは理解が出来ました、それよりも話を戻しましょう。つまりは、領主の力が働く場所では、あの者たちも連絡の手段は限られていると」
「その方も、先の事で理解が出来ていると思ったが。計画の変更、それが出来ていないと」
「ああ」

確かに、町への襲撃を行った者たち、それに対して他からの上表共有がなされていないというのは、確かにオユキも見た。今回にしても、同様だと考えれば確かに納得がいく。

「ですが、その、前回の事」
「国境を超えるのは、難しい。如何に魔物に襲われぬとはいえな」

オユキが、というよりも、トモエとオユキがそれでも移動できるのはかなり大きな奇跡に加えて、昼夜を問わずかける事の出来る、護衛を行いながら危険地帯を人の生活が及んでいない場を馬に合わせて駆け抜けることが出来る騎士たちがいるから。馬にしても、それが当然とばかりに昼夜を問わずにかけてくれるというのもあるのだが。
確かに、合間合間で休むことはあるのだが、それにしてもトモエとオユキは整えられた馬車の中で、揺れの無い馬車の中でのんびりと寛いでいれば後は目的地に着くことが出来る。
かつてに比べれば、不便であるには違いない。窓の無い空間で相応の期間過ごさなければならないために、閉塞感を覚えるなどとそんな不満を覚える程度には安穏と過ごすことが出来るのだ。さらには、空間が拡張されたおかげで、食料にしても十分以上の物を持ち運ぶことが出来る。馬車の中で、煮炊きすら行えるだけの空間が確保できる。

「ええと、それでは、目標がまちまちだと言う事に関しても」
「こちらに来るに合わせて、その程度は行っているとは思うが」
「どうにも、連絡が取れたとして、真っ当にすり合わせが行えるようには思えないのよ。私は、それを散々に見てきた物」
「カルラ様は、そう、でしたね」
「ええ、酷い物よ。一所に集まって、互いに笑みを浮かべて話している。互いの発言を邪魔しないくらいは行って、それでも全く違う内容を話している様子というのは」
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