憧れの世界でもう一度

五味

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34章 王都での生活

晩秋か

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戦と武技の巫女曰く。
もとより、己は巫女に相応しい器ではないのだ、と。
そんな言葉から始まる実に長々とした悔恨と猛省による手紙をオユキはどうしても苦笑いとため息交じりでしか読むことはできなかった。続く言葉には、如何に己が向いていないのか。政治的な意味合いが強い選択であったのか。そんな事がつらつらと書き連ねられている。
王家から初めて生まれた、戦と武技の巫女。縁戚どころでは無く直系の第一王女。そんな人間が巫女となったことで、姫としても扱われ、それはもう掌中の珠のように。本来であれば、トモエやオユキのように、過去の戦と武技の巫女と同じように。己も魔物と相対することも仕事の内であるはずなのだと。要は、そうした話。実のところ、剣を一度たりとも持たせてもらった事すらないのだと、そうした話がつらつらと書かれている。
そして、そこからはっきりと意見が割れているのだとも。

「オユキさん、内容が思ったよりもと言う事ですか」

呼んでいくうちに、頭を抱える様になってきたオユキをシェリアが心配している。だからこそ、トモエが代わりに声をかける。トモエとしては、想定の範囲内ではあるのだ。オユキに伝えることも難しい、戦と武技の柱が犯したという罪。そのうちのいくらかは、ここ数代の巫女の選定にも及んでいるだろうとトモエはそう考えていた。だからこそ、オユキに渡された手紙、その中身が陸な物では無いというのは既定路線。
今後の事、それをトモエとしても考えたときに、恐らく必要になるのだろうなと何とはなしに。
神国で話が進んでいた一つ。闘技大会の勝者に対して巫女をそれぞれにという話、それがどこから出てきたのかは分からない。トモエと相対する以上は、戦と武技の巫女として間違いのない相手が出てくるだろうと、そんな事を考えていたものだが。

「それどころではありませんね。こちらを基準に、一つの国には複数の巫女がいる者と考えていましたが」
「オユキさん、神国と呼ばれる所以をあまり無視するのは」
「神殿を二つ擁しているから、そう考えていたのですが」
「その結果としての事もあるでしょう」
「そのあたりは、トモエさんには適いませんね」

直感とでもいえばいいのだろうか、論理の飛躍とでもいえばいいのだろうか。そうした部分では、やはりオユキはトモエに劣っているのだと思い知る。以前に、神殿を擁している国だからこそ、その名を冠する柱から巫女が任じられている、そう聞いていた。それも、主要な都市にはそれぞれいるのだという話も併せて。だからこそ、オユキとしてはどこもそれくらいに入るものだと考えていたのだ。
だが、こうして戦と武技の巫女。本人としては政治的な意図だけで筆頭に据えられている、その事実をただただ重たく考えている相手からの手紙を見るに、あちらにはもう一人しかいないとのこと。翻って、神国に二人も存在している、同数が存在しているのだという事実を。崇める神の名を冠して開く大会、それが武国では無く神国で開かれる意味を。
書き連ねられているのは、己の不出来を嘆く忸怩たる思い。

「気は進みませんが、これは合わねばならないでしょうね。アイリスさんも交えて」
「オユキさん」
「少々、余人を排してとする必要もありますので、トモエさん」
「あちらは、私達でなくても問題は無いのでしょうか」
「巫女三人、それくらいは通りそうなものですが。もしくは、水と癒しの神殿で場を借りてとするか、ですね」
「そのあたりは、あの子たちにとなりますか」

言われて、オユキはトモエに頷きを返す。
どうにも、教会や神殿への用向きとなると少年たちというよりも持祭の少女たちに任せてとなってしまうのだが、それ以外の適任というのも現状思いつかないのも事実。多くの事を、頼みすぎではありませんかとトモエが相視線で訴えてくるのは、オユキも分かるのだが。

「他の方を頼んでも構いませんが、話しが早いといいますか」
「ああ」
「あの子達意外ですと、シェリア様」

トモエの知らないだろうこと、こちらにおける実際に神殿に向かうための手続き、オユキはというよりもファンタズマ子爵家として巫女として訪う事に対して、公爵家や王家が付き添う形をとる理由をシェリアが簡単に。
選別の門というのが間違いなくあり、事前に訪問の知らせを送った上で用意を整えておいてもらわなければ如何に上位の物であろうとも神殿の内部は様変わりをするのだという話に始まり。そこから目的の相手に会うのも一苦労なのだと、そうした話がされる。域をずらす事は、確かに行える者たちが神殿に勤めているのだが問題として、普段いる場所とそれ以外、そこに既に客人が居る時にはそこにずらすことはできないのだと。
そこで、巫女であるオユキであれば、こちらで実際に勤めを行う者たちに比べてしまえば、とてもではないのだが、それでもかなりの上位域に初めから足を運ぶことが出来る。さらには、始まりの町の教会で日々勤めを行っているあの子供たちであれば、他がいなければ平然と勤めるものたちとして共通している域に足を運ぶことが出来るのだと。

「マリーア公爵の領都、その本教会において、オユキ様は巫女と呼ばわれる前から十の御柱、その姿を認識しておられたとか」
「よもや、そこからですか。あの子たちは、より多くの柱を見ているようですが」
「月と安息の柱のお姿を見るには、今は王城とその名を冠する教会にて。勿論それぞれのお姿を見ることが出来るのは」
「とすると、こちらの方々は、例えばあの子たちが見ているようなものは」
「以前、修身として貴族の子女が教会へと伺いましたが」
「あくまで、修身の一環です。私も、一応半年ほど通う事となりましたが、その折に見ることが出来るようになったのは戦と武技に連なる方々の一部だけですから」

オユキが、こうした部分に気が付いたのは、持ち込んだ礼品とでもいえばいいのだろうか。それらを、一つの柱だけにとしていたのを不思議に思えばこそ。そして、十の柱へとするときにトモエとオユキが作法を知らぬからと教会に預ける様に、公爵夫人や王妃が振る舞っていたから。そして、もしかしてと考えた上で、観察してみればそれを補強する出来事が実に多くあった。それこそ、少年たちが、オユキにも見えていない相手に対して動きを当然のように。

「そちらは一度置いておきまして、こう、ご存じだろう方に話を伺いにと考えたときにあの子たち以上の適任がいないのですよね」
「それで、公爵様も、メイ様も」
「他にも理屈はあるでしょうし、始まりの町ではその限りでも無いようでしたから、そこは教会毎に色々と違いがありそうなものですが」

そのあたり、考察については今後の事として。

「トモエさんは、納得を頂けますか」
「ええ。そうした理由があるというのならば、あの子たちも良いと考えていますし」
「ご褒美といいますか、お礼に関しては鞘と新しい剣、公爵様の騎士団で正式とされている物ですね、こちらをと考えていますし、トモエさんには以前の祈願祭と同じように」
「ああ。闘技大会の後に、行うのでしたか。ですがあの子たちは」
「始まりの町に、戻れはしないでしょうから。新年祭の折には、戻るでしょうがそこまでの間は」
「オユキさん。私に、話していないことが」
「間違いなく、あの子たちの内参加したとしたらセシリアさんが今回は抜けてくるでしょう」

そして、オユキは呼んだうえで放っておいた手紙を改めて一通抜き取って。

「これは、私が読んでも」

そのままシェリアに預けて、いよいよ刺繍が終わり、道具を片付け始めているトモエに持っていてもらうようにと頼む。それは、とある男爵家からの手紙。これまでは、公爵夫人が対応していたのだろうが、カレント始まりの町にずっと残っているゲラルドに預けた裁量権。そちらを使った上で、回ってきた物。
曰く、どうにも己の旦那とよく似ている子供が、ファンタズマ子爵家に出入りしているようなのだがと。それこそ、言いがかりも甚だしいと切って捨てても良い。事実、これまでに関しては、公爵夫人がそうしていたのだろう。だというのに、オユキがそれぞれに預けている裁量権、それを一体どこから聞きつけたというのか。そして、ここ以外にはないという、トモエとオユキが暫く王都にとどまるこの時期を選んで。

「オユキさんは、あの子たちの内」
「以前から聞いていた話では、セシリアさんでしょう」
「ああ、それで」
「闘技大会の時に、年少の部とでも呼ぶべきでしょうか。そこで、今回優勝するとなれば」
「もはや隠せず、あの子たちも巻き込まれますか。オユキさんは」
「ご両親がいる事です。事実、あの子は孤児院にいました。木精という事を考えれば、ローレンツ卿のように知らぬうちにと、そうした可能性はあります。ですが」

面倒に巻き込まれると、その予想があるというのに何故オユキが受け入れる心算なのか。それについて、トモエが改めて言葉にするようにと、シェリアが面倒ごとならと考えているそぶりを見せたのでそちらを止めるためにも、オユキの言葉としてと。これまで、少年たちについて、明確な親類縁者らしき相手からの接触があったのはこれが初めて。パウの両親は、始まりの町では誰も彼もが既にいないものと考えていた。だが、魔国で出会いがあったのだ。

「オユキさんは」
「どうでしょうか。他の子たちは、特にシグルド君とアナさんは目立つので、今後名乗りを上げる方が出てくるかとも思うのですが」
「いえ、そちらでは無く、こう、かつてであればともかく」
「ああ。こちらでは、こちらならではの方法で確認は取れるでしょうし」

遺伝子情報の確認などできはしないだろうが、こちらには法と裁きもいる。何処に繋がっているのか、それを目視する方法もある。もしくは、それ以外の何かの方法が存在していることだろう。こうして、確かめたいのだと、合って確認したいのだと言い出す以上は、少なくとも過去にはなかった方法がこちらにあるには違いないのだから。

「それにしても、私の回復があるたびにこうなりますか」

少し、オユキが。そうしてトモエが気が付く、トモエだけが気が付くだろう色を瞳に浮かべて。表情だけは、苦笑いをしていると見せている。シェリアはそれにつられて、僅かに違和感を感じているのだろうが、それでも揃いの表情を浮かべて見せて。
だが、トモエははっきりと気が付いているのだ。オユキの目に浮かぶ、根深い疲労の色を。諦めの色を。
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