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33章 神国へ戻って
結局は
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「分かり易いよなぁ」
「もう、いいじゃない、別に」
「だが、久しぶりに見る気もするな」
「言われてみれば、そうかも。ここ暫くは、うん、遠慮ともまた違うけど」
「えっと、みんなからは、そっか、これ、当たり前なんだ」
「サキも、早めに慣れといた方がいいぞ。あんちゃんたち、案外こうというか、あんちゃんたちがこうできる時間を俺らとしても作りたいわけだしな」
「それは、私も二人が仲がいいっていうのは嬉しいけど」
結局、色々と話し合った結果として。
特に、セツナからはっきりと言われたこともある。オユキにとっては何が大事なのか、そして、己の思うものを用意してそれがトモエが考える物とあまりにずれていたならば如何するのかと。事、贈り物については、勿論己一人で考えることも重要ではあるのだろう。そのためには、隠れて用意する必要もあるには違いない。だが、今回の物については、トモエという使い手が、鑑賞する人間がいればこそ。さらには、こうして話している者たちにしても、実際のところはトモエのほうが詳しい分野でもあるのだろうと。
勿論、隠して用意することは悪いことでは無い。それこそ、トモエも巻き込んで大々的にとする傍らで、オユキのほうで確実に必要だと考えている紐のほうに注力するのが良かろうと。
そこまで言われてしまえば、オユキとしても成程とそれに頷いて。では、早速とばかりに、一応は建前を作った上でトモエに話したのだ。そうしてみれば、まさに覿面に。トモエとしても、それはそれは実に楽し気に今はオユキと一緒になって、今後の予定について色々と。
「部門としては、実用品と美術品の二種類としたいとは考えますが」
「実用品、ですか」
「オユキさんは、装飾の無い無骨な物を至上と考えるようですが、元来飾りというのは滑り止めも兼ねていたりするので」
「そういえば、そうでしたか。刀身に複雑な溝を掘る文化にしても、元は毒をという話ですし」
「ええ、そう言うものです。つまりは、蒔絵にしても、蒔絵だからこそ飾る以上に指に引っかかるための物として望まれているわけです。いえ、実際にそうした物ばかりと言う事はありませんが」
そして、さらにオユキが簡単に書いた図案にトモエがさらに簡単に色々と加える事になった。オユキが、どうしたところで己が覚えている部分、特に今回については帯執にばかり意識を割いていたのだが、それ以外にも実用としても用意するというのであれば石突に履かせる金属、柄頭にはめる金属。さらには太刀緒と石突金物の間には責金物も存在しているのだという話。言ってしまえば、確かにトモエに相談せずにとしていたのならば、出来上がりは全く異なるものになっていたに違いない。確かに、こちらの世界で独自とするのであればそれも良かったのかもしれないが、それにしても限度があろうというもの。
元より、こうして話している内容にしても、実際には間違いもあるものだろう。だが、やはり納得というのは大事なのだなと。
「そも、実用としての鞘でもあるのですが、やはりそればかりではと飾りを求める者たちがいたのが来歴だったようには思うのですが」
「成程、殺伐とした中にもと言うものですか」
「後は、鞘と刀身に関しては勿論揃いとしてもいいのですが、やはり鞘を変えるというのも」
「鞘を、変えるのですか」
「ええ。やはり使っているうちに痛む物ですし、直しの間には変えも必要になってきますよ」
オユキの知らぬ話が、色々とあるものだと。トモエの話を聞きながら、そんな事を想う。今は、今日の移動の予定を消化して、野営の準備を行っている場所。周囲に関しては、まずはとばかりに騎士たちが安全の確保に走り、さらにカナリアの監修のもとで短杖を使って安息の結界などを用意している。
安息の結界にしても、月明かりの下でしか等と言う話だったのだが、どうにも他の理屈もありそうなもの。大量に存在している確認すべき項目。それらの残りにしても、勧めていかなければならないものではあるのだが、一度こちらも見直さなければいけないという話もあるのだが。
今は、トモエとオユキが並んで、夕食までの間にオユキが一先ず今日の間に縫い上げたところまでをトモエに見せて、それを二人して見ながらのんびりと話している。オユキとしても、改めてトモエの手に持たせて、少し使うような振る舞いを取らせて改めて糸を選ぶことを考えてみたり。トモエはトモエで、実は、こういう色が嫌いではないのですよと、そうした話をオユキにもして。
「おっちゃんとしては、あれ、どうよ」
「どうって、言われてもな」
「いや、あっちで狐のねーちゃんが」
「アイリスは、まぁ、置いておくとして仲が良くていい事だとは思うんだがなぁ」
「あー、まぁ、あの二人があんなこと話してると、また何かありそうだよな」
「えっと、またかどうかは分からないけど、ほら、戦と武技の神様から太刀を与えられたって、そんな話だったよね。鞘を用意してって言うなら、まずはそれになると思うんだけど」
「つっても、そっちは武国に、いや、あいつらが望めば功績だからいつでも手元に戻ってくるんだが、あれにしても一応簡単には装飾を行ってはいるぞ」
サキが、トモエとオユキの話を聞きながら、他に思いつくところが、こちらの世界ならではの優先順位があるんじゃないかとそんな話を振ってみる。最も、それが気になると言い出したのはシグルドなのだが。
「あー、アン」
「えー、トモエさんたちの邪魔、私はあんまりしたく無いもの」
「パウは、まぁ、今俺らが何を言ってるかは」
「実のところ、よく分かっていないな」
「俺にしても勘みたいなもんだから、こう。セリーは」
「良いけど、聞いても変わらないと思うよ。もう二人の中では決まってるみたいだし、私が聞いたら、それこそああそれもあったなって言って、後はいつもみたいなことになりそうだから」
「だってよ、おっちゃん」
「お前らの言ういつもが、本当にいつもになって来てるのが頭が痛いんだよ、俺としては」
そうして、ため息をついたアベルがついに重い腰を上げる。已む無く、彼が代表してトモエとオユキに話をしに行くと決めたのだろう。
そんな彼を、残された少年たちは、こちらも変わらずせっせと串に肉や野菜を突き刺してはアルノーにこれに入れておいてくれと言われた箱に放り込んでいく。
「ジークは、どう思う」
「祭りも近いし、それに合わせてになるんじゃね。それこそ、俺らが普段使いにしてる鞘なら簡単にできるだろうけど、あんちゃんたちが話してるのはまた違いそうだしな」
「鞘を作るとなると、武器も作るつもりだろうか」
「あー、どうなんだろう。オユキちゃんは、その心算みたいだけど、トモエさんはそのあたりまた違いそうだし」
「アンもジークも、よく分かるね。私のほうが、元の世界の事もあって、少しくらいはって思うけど」
「そのあたりは、トモエさんもオユキちゃんも自分たちは異邦でも特殊だって言ってたから、そのせいじゃない。サキも昨日の話は一緒に聞いてたじゃない」
「それは、そうなんだけど」
少年たちにしても、もうすでに野営は手慣れたもの。勿論、少年たちだけでというのは、未だに難しい物ではあるのだが、それでも作業を進める手には淀みなく。
「で、ねーちゃんもなんだかんだでついてくのな」
「あの二人も、仲、いいよね」
「そりゃ、そうだろ。だけど、あれ、おっちゃんのほうはちょっと」
「どうかな、トモエさんとオユキちゃんがいいなと私は思うけど」
「それこそ、二人に聞けば、それぞれだと返ってきそうなものだがな」
そんな少年たちの評価を背に、実に気が重いとばかりにアベルがトモエとオユキの側に。そうしてみれば、エステールとシェリアから、はっきりと警戒が向くあたりに、信頼が見えていると言えばいいのだろうか。
「アベルさん、何か」
「頼むから、警戒はそっちの侍女たちだけにしちゃくれんかね」
「アイリスさんもお揃いで、今度はいったい何を言おうと」
「飾りをと、そういうのでしょう。なら、私も流石に言いたい事の一つや二つあるわよ。ハヤト様にしても、色々と試そうと考えておられたんだもの。私たちは、生憎と手先がそこまで器用な物がいないから、難しかったのだけれど」
「それは、いえ、そういう事もありますか」
近寄ってくる二人が、明らかに警戒を湛えているから。というよりも、トモエとオユキが、少々外に意識を向ける事を怠って、それこそ己の間合いの内にしか意識を向けていなかったために、侍女たちの警戒につられる形で。だが、アイリスに言われてみれば、そちらはそちらで、確かにとオユキは納得する物もある。
元より、トモエにアイリスはそうした飾りつけを好んでいるのだと言われたこともある。ならば、確かにこうして二人で盛り上がっていれば、侍女たちも非常に好意的にとらえており、セツナまでもがクレドを隣に置いて何やら楽し気に聞いているのを見れば、アイリスも少しくらいはと考える物だろう。それが、アベルに伝わっていないあたりは、是非ともきちんと関係を深めてくれとしか言えないのだが。
「あっちでシグルドが気にしていたんだがな、お前ら、鞘を飾るつもりがあるならまずはやらなきゃならんものがあるだろ」
「はて」
「オユキに、戦と武技から下賜された得物が、あるだろ。一応は武国の神殿に安置されちゃいるが、今回の事の対価として、言ってみりゃいいとは思うが」
何のことやらわからぬと、トモエは全く心当たりがない様子でもあるため、オユキとしても思いつくところが無いと首をかしげてみれば、アベルから実に深々とため息を伴って。
「いえ、望めば手元に戻ってきますし」
「おい」
「流石に、今行おうとは思いませんが、戦と武技の神は、飾りを好まぬと教会で習いましたので」
だが、それを下賜した相手が、望んでいない事をやるつもりなのかとオユキからは応えるしかない。それこそ、武国に運ぶ前に、かなり急ぎで鞘を誂る事になった。それで、納得のいくものが出来たのかといえば、アベルはそうでは無いらしいのだがオユキにしてみればというものだ。
「そのあたりは、神国に戻ってから教会にも聞かなきゃならんだろ」
「ところで、トモエは鞘だけを考えているのかしら」
「確かに、この機会に新しくとも思いますが、鞘である以上は得物が先に無ければ合わせようも無いのですよね」
「私も、そろそろ新調したいのよね」
「もう、いいじゃない、別に」
「だが、久しぶりに見る気もするな」
「言われてみれば、そうかも。ここ暫くは、うん、遠慮ともまた違うけど」
「えっと、みんなからは、そっか、これ、当たり前なんだ」
「サキも、早めに慣れといた方がいいぞ。あんちゃんたち、案外こうというか、あんちゃんたちがこうできる時間を俺らとしても作りたいわけだしな」
「それは、私も二人が仲がいいっていうのは嬉しいけど」
結局、色々と話し合った結果として。
特に、セツナからはっきりと言われたこともある。オユキにとっては何が大事なのか、そして、己の思うものを用意してそれがトモエが考える物とあまりにずれていたならば如何するのかと。事、贈り物については、勿論己一人で考えることも重要ではあるのだろう。そのためには、隠れて用意する必要もあるには違いない。だが、今回の物については、トモエという使い手が、鑑賞する人間がいればこそ。さらには、こうして話している者たちにしても、実際のところはトモエのほうが詳しい分野でもあるのだろうと。
勿論、隠して用意することは悪いことでは無い。それこそ、トモエも巻き込んで大々的にとする傍らで、オユキのほうで確実に必要だと考えている紐のほうに注力するのが良かろうと。
そこまで言われてしまえば、オユキとしても成程とそれに頷いて。では、早速とばかりに、一応は建前を作った上でトモエに話したのだ。そうしてみれば、まさに覿面に。トモエとしても、それはそれは実に楽し気に今はオユキと一緒になって、今後の予定について色々と。
「部門としては、実用品と美術品の二種類としたいとは考えますが」
「実用品、ですか」
「オユキさんは、装飾の無い無骨な物を至上と考えるようですが、元来飾りというのは滑り止めも兼ねていたりするので」
「そういえば、そうでしたか。刀身に複雑な溝を掘る文化にしても、元は毒をという話ですし」
「ええ、そう言うものです。つまりは、蒔絵にしても、蒔絵だからこそ飾る以上に指に引っかかるための物として望まれているわけです。いえ、実際にそうした物ばかりと言う事はありませんが」
そして、さらにオユキが簡単に書いた図案にトモエがさらに簡単に色々と加える事になった。オユキが、どうしたところで己が覚えている部分、特に今回については帯執にばかり意識を割いていたのだが、それ以外にも実用としても用意するというのであれば石突に履かせる金属、柄頭にはめる金属。さらには太刀緒と石突金物の間には責金物も存在しているのだという話。言ってしまえば、確かにトモエに相談せずにとしていたのならば、出来上がりは全く異なるものになっていたに違いない。確かに、こちらの世界で独自とするのであればそれも良かったのかもしれないが、それにしても限度があろうというもの。
元より、こうして話している内容にしても、実際には間違いもあるものだろう。だが、やはり納得というのは大事なのだなと。
「そも、実用としての鞘でもあるのですが、やはりそればかりではと飾りを求める者たちがいたのが来歴だったようには思うのですが」
「成程、殺伐とした中にもと言うものですか」
「後は、鞘と刀身に関しては勿論揃いとしてもいいのですが、やはり鞘を変えるというのも」
「鞘を、変えるのですか」
「ええ。やはり使っているうちに痛む物ですし、直しの間には変えも必要になってきますよ」
オユキの知らぬ話が、色々とあるものだと。トモエの話を聞きながら、そんな事を想う。今は、今日の移動の予定を消化して、野営の準備を行っている場所。周囲に関しては、まずはとばかりに騎士たちが安全の確保に走り、さらにカナリアの監修のもとで短杖を使って安息の結界などを用意している。
安息の結界にしても、月明かりの下でしか等と言う話だったのだが、どうにも他の理屈もありそうなもの。大量に存在している確認すべき項目。それらの残りにしても、勧めていかなければならないものではあるのだが、一度こちらも見直さなければいけないという話もあるのだが。
今は、トモエとオユキが並んで、夕食までの間にオユキが一先ず今日の間に縫い上げたところまでをトモエに見せて、それを二人して見ながらのんびりと話している。オユキとしても、改めてトモエの手に持たせて、少し使うような振る舞いを取らせて改めて糸を選ぶことを考えてみたり。トモエはトモエで、実は、こういう色が嫌いではないのですよと、そうした話をオユキにもして。
「おっちゃんとしては、あれ、どうよ」
「どうって、言われてもな」
「いや、あっちで狐のねーちゃんが」
「アイリスは、まぁ、置いておくとして仲が良くていい事だとは思うんだがなぁ」
「あー、まぁ、あの二人があんなこと話してると、また何かありそうだよな」
「えっと、またかどうかは分からないけど、ほら、戦と武技の神様から太刀を与えられたって、そんな話だったよね。鞘を用意してって言うなら、まずはそれになると思うんだけど」
「つっても、そっちは武国に、いや、あいつらが望めば功績だからいつでも手元に戻ってくるんだが、あれにしても一応簡単には装飾を行ってはいるぞ」
サキが、トモエとオユキの話を聞きながら、他に思いつくところが、こちらの世界ならではの優先順位があるんじゃないかとそんな話を振ってみる。最も、それが気になると言い出したのはシグルドなのだが。
「あー、アン」
「えー、トモエさんたちの邪魔、私はあんまりしたく無いもの」
「パウは、まぁ、今俺らが何を言ってるかは」
「実のところ、よく分かっていないな」
「俺にしても勘みたいなもんだから、こう。セリーは」
「良いけど、聞いても変わらないと思うよ。もう二人の中では決まってるみたいだし、私が聞いたら、それこそああそれもあったなって言って、後はいつもみたいなことになりそうだから」
「だってよ、おっちゃん」
「お前らの言ういつもが、本当にいつもになって来てるのが頭が痛いんだよ、俺としては」
そうして、ため息をついたアベルがついに重い腰を上げる。已む無く、彼が代表してトモエとオユキに話をしに行くと決めたのだろう。
そんな彼を、残された少年たちは、こちらも変わらずせっせと串に肉や野菜を突き刺してはアルノーにこれに入れておいてくれと言われた箱に放り込んでいく。
「ジークは、どう思う」
「祭りも近いし、それに合わせてになるんじゃね。それこそ、俺らが普段使いにしてる鞘なら簡単にできるだろうけど、あんちゃんたちが話してるのはまた違いそうだしな」
「鞘を作るとなると、武器も作るつもりだろうか」
「あー、どうなんだろう。オユキちゃんは、その心算みたいだけど、トモエさんはそのあたりまた違いそうだし」
「アンもジークも、よく分かるね。私のほうが、元の世界の事もあって、少しくらいはって思うけど」
「そのあたりは、トモエさんもオユキちゃんも自分たちは異邦でも特殊だって言ってたから、そのせいじゃない。サキも昨日の話は一緒に聞いてたじゃない」
「それは、そうなんだけど」
少年たちにしても、もうすでに野営は手慣れたもの。勿論、少年たちだけでというのは、未だに難しい物ではあるのだが、それでも作業を進める手には淀みなく。
「で、ねーちゃんもなんだかんだでついてくのな」
「あの二人も、仲、いいよね」
「そりゃ、そうだろ。だけど、あれ、おっちゃんのほうはちょっと」
「どうかな、トモエさんとオユキちゃんがいいなと私は思うけど」
「それこそ、二人に聞けば、それぞれだと返ってきそうなものだがな」
そんな少年たちの評価を背に、実に気が重いとばかりにアベルがトモエとオユキの側に。そうしてみれば、エステールとシェリアから、はっきりと警戒が向くあたりに、信頼が見えていると言えばいいのだろうか。
「アベルさん、何か」
「頼むから、警戒はそっちの侍女たちだけにしちゃくれんかね」
「アイリスさんもお揃いで、今度はいったい何を言おうと」
「飾りをと、そういうのでしょう。なら、私も流石に言いたい事の一つや二つあるわよ。ハヤト様にしても、色々と試そうと考えておられたんだもの。私たちは、生憎と手先がそこまで器用な物がいないから、難しかったのだけれど」
「それは、いえ、そういう事もありますか」
近寄ってくる二人が、明らかに警戒を湛えているから。というよりも、トモエとオユキが、少々外に意識を向ける事を怠って、それこそ己の間合いの内にしか意識を向けていなかったために、侍女たちの警戒につられる形で。だが、アイリスに言われてみれば、そちらはそちらで、確かにとオユキは納得する物もある。
元より、トモエにアイリスはそうした飾りつけを好んでいるのだと言われたこともある。ならば、確かにこうして二人で盛り上がっていれば、侍女たちも非常に好意的にとらえており、セツナまでもがクレドを隣に置いて何やら楽し気に聞いているのを見れば、アイリスも少しくらいはと考える物だろう。それが、アベルに伝わっていないあたりは、是非ともきちんと関係を深めてくれとしか言えないのだが。
「あっちでシグルドが気にしていたんだがな、お前ら、鞘を飾るつもりがあるならまずはやらなきゃならんものがあるだろ」
「はて」
「オユキに、戦と武技から下賜された得物が、あるだろ。一応は武国の神殿に安置されちゃいるが、今回の事の対価として、言ってみりゃいいとは思うが」
何のことやらわからぬと、トモエは全く心当たりがない様子でもあるため、オユキとしても思いつくところが無いと首をかしげてみれば、アベルから実に深々とため息を伴って。
「いえ、望めば手元に戻ってきますし」
「おい」
「流石に、今行おうとは思いませんが、戦と武技の神は、飾りを好まぬと教会で習いましたので」
だが、それを下賜した相手が、望んでいない事をやるつもりなのかとオユキからは応えるしかない。それこそ、武国に運ぶ前に、かなり急ぎで鞘を誂る事になった。それで、納得のいくものが出来たのかといえば、アベルはそうでは無いらしいのだがオユキにしてみればというものだ。
「そのあたりは、神国に戻ってから教会にも聞かなきゃならんだろ」
「ところで、トモエは鞘だけを考えているのかしら」
「確かに、この機会に新しくとも思いますが、鞘である以上は得物が先に無ければ合わせようも無いのですよね」
「私も、そろそろ新調したいのよね」
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