憧れの世界でもう一度

五味

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33章 神国へ戻って

時を過ごして

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魔国での暮らし、トモエがオユキを早々に神国から連れ出して、ここで休むのだとした地。そこでの日々というのは、どうにもならぬ事はあり、確かにオユキからしっかりと削るものはあったのだが、それ以外はおおむねのんびりと過ごすことが出来た。
勿論、魔国の王妃から改めて王太子妃の様子を直接聞かせよと、そうした建前を作った上で見舞いであったり、彼女が与えた護符の調子を見るといった形での訪問もあった。ミリアムが魔国で改めて狩猟者ギルドの制度を改めようと奮闘して、その相談を度々オユキが受けることもあった。傭兵ギルドに関しては、アベルが単独で行えることも非常に多く、そちらについては彼が完全にとまではいわないが、アイリスと先代アルゼオ公爵とでどうにか最低限と呼んでもいい物までは形を作っていた。採取者ギルドについては、そもそもが周囲にでて採れるものなどほとんどない事もあり後に回されている。要は、こちらに来て、オユキがやらなければならない事というのは、ほとんど実態も分からない狩猟者ギルド、ミリアムがあまりに不足だと分かるたびにそれを止めて、ブルーノだけでは不足があるからと方々に手紙を用意したりと、書類仕事に邁進する日々など送ったものだ。
そして、トモエや少年たちにしても、神国と連絡を取る必要があるのだから、門を起動しなければならないからと大量の魔石を日々得るためにと狩猟に抜かりなく動いてとなったものだ。

「戻る時に、橋を通ってみたいのですが」

そして、そろそろオユキも体調が戻ってきた。闘技大会にしても、近づいてきたこともある。なんとなれば、控えている祭りの数、季節は既に秋口に差し掛かっており、夏も終わろうという頃。予定よりは早いのだが、それこそ闘技大会が開かれるよりもまだ数週間はあろうかという頃。
オユキが、そろそろ戻ろうとそんな事を考えている気配を察した者たちが一体なぜと言わんばかりの表情を浮かべていることもあり、その理由を改めてオユキが口にする。

「セツナ様に伺ったところ、前回門を通った時にもかなりの負担を得られたようですし」
「うむ。妾が最初の頃に渋ったのはそれが最も大きい理由での。そこな幼子の話では、戻ってから門を得る算段もあるらしい。ならば、妾としても流石に無為に己を削られるのはやはり好みはせぬ」
「という話もありまして、今回戻る時には、話に聞いているだけの橋を使えればと」
「その、橋というのは生憎妾も知らぬのじゃがな。聞くだけであれば、炎熱の鳥は関わっていない様子でもある。我が良人もおるのじゃ。気を払うべきが魔物だけだというのならば、妾としてはそちらを選んでみたいものじゃ」
「そうですね。私としても、そちらの、ええと、門を通る時に負担を得られると言う事ですし、氷の乙女の長たるセツナ様の言葉もあり、それがオユキさんの負担にもと言う事ですから」

実のところ、凡その根回しは済んでいる。
今この場で説得しなければならないのは、オユキの身辺警護の統括を、子爵家としての戦力の統括を行うローレンツ。他のというよりも神国からの戦力、身辺警護を超えて、貴人とされている者たちの一切を守る役割を与えられているアベルの説得が主体となっている。ミリアムに関しても、今回はいよいよ始まりの町に戻る算段が付き、後の事は始まりの町だけでは無く、領都や王都から募った神国の狩猟者ギルドの者たちに任せることが出来るようになったため、一度ここらで戻ろうかとそうした話にもなっている。

「橋、か。だがな、流石にすぐに戻ることが出来る、それも今は王都の中にあり、安全だと明確に示されている門がある。費用については、十分すぎる物をトモエとシグルドたちが得ているからな」
「そう、だな。必要な魔石については十分に。橋は、未だに危険度と輸送物の関係が分かっておらず、危険に過ぎますな」

だが、オユキのそうした振る舞いに対して、明らかに何やら良からぬことを企んでいるとばかりに護衛たちからの警戒が募る。それもそのはず、魔国での休暇中に、オユキはオユキで実にあれこれといらぬことを、護衛という観点で見れば、間違いなくそうであることをお前は考えていただろうと。なんとなれば、いくつかの手紙に関してはローレンツに意見を求めたこともある。基本として、アベルをオユキは外していたこともある。

「護衛の責任者、私たちの身を守る方の不安については、確かに私も考慮の必要があると思います」
「その口ぶりだと、無理にでも通すと、そういった様子だがな」
「最終手段とでもいえばいいのでしょうか、勿論、それを選ぶことも考えています」

極論とでもいえばいいのだろうか。戦と武技と言う位を持つオユキが、武国から来たアベルに対して。エステールという人物を雇用している、ファンタズマ子爵家の当主としてのオユキが強権を振るえば、この護衛二人は間違いなく頷かなければならないのだ。加えて、いざとなれば散々に小間使いとして動いていることもあるのだからと、戦と武技に頼んで、せっかく少々戻ってきたマナを使う事にはなるのだが、それを使って頼めば勿論叶えられるだろう。こちらに暮らす者たちに対して、容赦のない命令という形で。

「ですが、私はやはりそれを望んではいません。寧ろ、お二方には納得の上でと考えています」
「まぁ、お前がそういう気持ちは理解できる」
「そう、ですな」

護衛二人も、勿論オユキが最終的に着る手札の存在は理解しており、それがある以上はたとえポーズだとしてもとそうして言葉を作っているに過ぎない。

「その、休暇を切り上げる主な要因というのがですね」
「ああ」
「父上に変わって、巫女様とその伴侶には改めて謝罪を」

そもそも何故オユキが魔国からの退去を考えているのかといえば、休暇に来たはずの場所で、それが叶わなくなったからだ。

「ユニエス公爵家の名を持つアベルさんに、責を問いたくはありませんが、その私としても、ですね」
「私からは、何度も言っているのだが」
「我にしても、この場は迎賓館であり彼らの望むような事は出来ぬと、繰り返し伝えている。護衛たちにしても、武国からの者たちが万が一にも壁の外で無体をせぬ様にとな」

休暇としての期間、トモエとオユキが予定していた期間。しかし、それについては予定でしかなかった。
武国に、門が届いた。作成には、何某かの儀式が必要だと考えていたのだが、そこは流石に王都。巫女がいるため、戦と武技の巫女として、オユキよりも、アイリスよりも遥かに長く勤めていた相手がいるのだ。そこでは当然の如く、門が設置され、早々に利用されることになる。さらには、戦と武技を崇める国である以上、魔石の収集という部分については魔国と逆の問題があるとはされているものの、やはり問題が無い。
つまりは、魔国に、魔国が求めたとはいえ武国から相応の戦力が送り込まれることになった。言ってしまえば、神国よりも優れた物を、神国の者たちよりも武という意味では信頼が置けるのだと国としての威信をかけて送り込まれてきた者たちが、魔国に来ることとなったのだ。
アベルにしても、武国で生活していた期間は短い様で、家名は知っている者の個人としての付き合いは無い相手がほとんどであり手綱を握れるはずもない。そして、到着してから既に数週間。今も屋敷の外ではトモエに、オユキに。さらにはアイリスに。戦と武技の名の下で行われる大会、その前哨戦を行ってくれと、己の腕を試させてくれと声高に訴える者たちというのがあまりにも多いのだ。

「その、私にしても言葉選びに問題があったとそうした反省はあるのですが」
「巫女様に置かれましては」
「いえ、今は特に謝罪を求めてという訳ではありませんので」
「俺としても、正直今回の事については辟易としている。お前らが、魔国を避難先と選びたくなくなったと、そう言いだす気持ちも理解できる。だが、それをかなえるためには、王都のほうが、何かと利点が多いぞ」
「アベル卿の言う通り、巫女様方を守ろうと思えば、武国の者達からのこうした雑音を抑えようと思えば」
「あの、王都ではまもなく闘技大会が開かれますし、正直な所」

護衛隊に抜けている観点とでもいえばいいのだろうか。それについて、オユキははっきりと指摘する。

「今王都に戻り、こうした武国からの方々の熱量に当てられたのだとすれば、その結果というのは正直想像したくもありません。武国は論外として、月と安息の神殿というわけにもやはり行きませんし」

そして、オユキが懸念を一切言葉を選ばずに伝えれば、護衛の責任者である二人は少し考えるそぶりを、僅かに何かを考えるそぶりを見せたかと思えば、揃て苦虫をかみつぶしたかのように。

「その、勿論求道者と言いますか、その道を求める方たちというのを私は軽視したくはないのですが」
「まぁ、言いたい事は分かる」
「連日、どころか」

本当に、時間も選ばずに、熱烈に叫んでくれる者たちが多いのだ。かつての区分でいえば、情熱の国は神国であったはず。だが、それよりもあまりにも高い熱量でトモエを、アイリスを、オユキを誘おうと声を上げる者たちがいるのだ。煩わしいと、まずはセツナが不機嫌になり。続いてオユキが気分を害したために、屋敷に残る時間の長い者たちが気分を早々に害したこともありカナリアに頼んで、護衛からは不評だとは言え屋敷内の防音、外から聞こえる音というのが聞こえなくなるというのはやはり護衛という観点からは問題があるのだとしても。

「その、今もまだ外に居られますよね」

確かに、声は届かなくなった。無意味に響かせる、挑発の音は消えている。だが、それに伴って向けられる気配までは、カナリアではどうすることもできないのだから。

「はっきりと申し上げますが、煩わしいのです」
「改めて、この度の人選については私が父上を通して、武国に対して正式な抗議として」
「ええ。私も既にマリーア公爵、王太子様と、国王陛下。それぞれに対して、正式な抗議としての文を送らせていただいています。」

教会の作法は分からないのだが、それでも貴族家として。子爵家の当主としてと言う事であればと、マリーア公爵夫人に手直しを頼んでこちらにきて初めての抗議文を既に送っている。それほどに、迷惑なのだ武国から来た者たちというのは。
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