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31章 祭りの後は
カナリアも交えて
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何やら随分とくたびれた様相を呈しているカナリアも連れ出して、今はオユキとセツナも揃って借り受けている屋敷の四阿に。もとは無かったと聞いてはいるのだが、オユキが殊更好んでというよりも始まりの町で珍しく自分から積極的に動いて誂たこともあり、他の屋敷にも、オユキが暮らす場には何故だか用意されている。有難い事だと、そんな事を想う反面、確かにあちらこちらで趣を変えてある辺り楽しい物ではあるのだとそんな事を考えながら。
実際には、社交の場に基本的に出ていかない、デビュタントもまだ済ませていないからそれも当然なのだが、他から呼ぶこともあるため練習の場として用意されている。
「ふむ、その方使えるではないか」
「屋内で利用する物なのですか」
そして、戻る前についでとばかりに魔国の外、その一角を氷雪で染め上げてきてみれば。セツナの言葉は、何もセツナや他の者たちが行わなくても、オユキ本人が行えるではないかとそうした言葉。
「確かに、少々異なりはするがかなり楽になるはずじゃぞ」
「ええと、カナリアさん」
「あの、私はオユキさんが使う魔術に心当たりがないのですが。いえ、焼け付いた魔術文字を見れば、効果は確かに想像もできるのですが、知らない文字も多くてですね」
「炎熱の鳥とは、妾たちはつくづく相性が悪いからの。それにしても、その方は妾たちの里に来た物とはまた気配も違うが」
そして、のんびりとお茶に口を付けながら、カナリアも交えて話をする。勿論、四阿から見える庭では、トモエが少年たちを並べて、改めてそれぞれを細かく治している。どうにも、トモエのほうでも思考の整理がついたのか、それが終わるころには別で言って指南とそうするつもりではあるらしい。常と違う事と言えば、ローレンツとクレドにイリアが混ざっていることだろう。それもあってか、今は四阿のほうでエステールとタルヤに世話をされているわけだが。
「私は、水と癒しの力の影響が強く、種族としての特性はかなり抑えられていますから」
「道理で、な。妾としても、その方らの種族が側に居るだけで削られると感じるのだが、その方はいくらかましじゃ」
「ええと、氷を基本とされる方たちにとっては、確かに私たちの抱えるものというのは毒でしかないでしょうが」
明らかに、セツナが警戒しているのがよく分かる。対して、一方的とでもいえばいいのだろうか。カナリアにしろ、他の翼人種にしろ、陸に氷の乙女を警戒しない。寧ろ、人に対しての振る舞いと何ら変わりも無い。圧倒的な強者とでもいえばいいのだろうか。己に対して何も出来まいと、それが当然の事だと言わんばかりの振る舞い。
「その、先ほど確認しましたけど、オユキさんもトモエさんもあそこ迄極端な環境を作っても、本当に大丈夫ですか」
そして、流石にここで種族間のもんだいを話していても、それこそ族長同士で話すしかない事だとカナリアのほうでも割り切って、オユキに向けてそのように言葉をかける。
「どう、でしょうか。セツナ様の整えた場に少しお邪魔させていただいただけですから」
「妾の見立てでは問題はなさそうじゃが、確かにこれまで暮らした事も無ければ色々と不安を感じるものじゃろうしな」
「ええと、まずは、どうしましょうか。セツナ様の見立てで、私の扱うもので問題が無いというのならば、そちらからとしてみるのも一つかとは思いますが」
「その前に、オユキさん。オユキさんは、範囲の指定などは出来るのですか」
セツナに頼らずとも問題が無いと、そういった話であるのなら。勿論、今後を考えたときにもう交易をすることはオユキの中で決めている処ではあるのだが。それでも、最低限とでも言えばいいのだろうか。それくらいは自分で用意をしたうえで、その上でカナリアや他を頼れればとそんな事を考えて。だが、それに対しては、カナリアから、例えばオユキはきちんと部屋の中に限った行使ができるのかと問われて。
振り返ってみても、特に範囲を絞るような使い方をしていなかったため、それができるのかと言われれば自信はない。少し、己の内に意識を向けてみるのだが、これまでにしても己がそうだろうと考えている物を、ただ流し込むだけではあったのだ。量の過多を変えれば融通が利くのだろうかと、オユキは考えてみるのだがどうにもそうした気配も無い。そして、己の内に意識を向けて、改めて文字の並び。魔術式だろう物に意識を傾けていたからだろう。そんなオユキに対して、セツナとカナリアがそれぞれに難しい顔をして眺めている。
オユキが、そういった視線に気が付いて、一体何事かと視線を向けてみれば両者ともにため息をついたうえでセツナがカナリアに譲る。
「規模の調節は、オユキさんでは難しそうですね」
「うむ。幼子がいきなりできるようなものでもあるまい。どうにも、マナの扱いにしても、己の内にある種族由来の魔術にしても分からぬ様子」
そして、カナリアでは分からないと首を傾げたからだろう。
「そも、今行使しようとしている物、先ごろこの王都の外で行使した物にしても冬と眠りの女神による気配が強い。そちらから与えられたものでもあるのじゃろう。その方は、まずは妾たちの祖霊、そちらを意識してと言う所から始めねばならん」
「セツナ様方の祖霊、ですか」
「その方にはまだ話していなかったか。妾たちは氷の乙女。祖霊たる御方も、同じ名を持つのじゃ。冬と眠りは、祖霊様の属する神、さらにその一つ上。故に、距離は遠く、やはり手当には過剰じゃ」
そこまでを語った上で、これまで口をつけずに、軽くカップの上で手を動かしていたのは、冷ましていたからか。改めて口を一度つけて、続きをセツナが語る。
「以前は一度止めたのじゃが、改めてお呼びすることも考えねばならぬか」
「ええと、オユキさん」
「いえ、名前が分かった時に、では一度試しにとばかりに」
「あの、オユキさん。今現在のご自分の状況というのは、わかっていますか」
氷の乙女などと名乗っている相手よりも、よほど冷え冷えとした視線をカナリアが寄せて。
「一応、枯渇の一歩手前という認識は、はい」
「前にも言いましたけど、オユキさんの場合は、根源、本質、こちらにも傷が入っていたのです。今となっては、癒えていますけど、それでもどうにかという所でしかないので今後も勿論無理をすれば、枯渇をすればそこかから順次補填となるので」
「根源の傷か。その方、幼子でしかないというのに、いや、異邦から来たもの、その精神で行ったというのならばまぁ頷ける。本来であれば意識を失うものじゃが、それをせぬ様にと無理を通したか。その方、いかに急ぎの道行きとはいえ、その様な事を繰り返しては身が持たぬぞ」
さて、客人二人に揃って苦言を呈されて。さらには、本来オユキの見方であるはずの侍女二人にしても、何やらしっかりと頷いて見せている。
「理解はしているのですが、何分」
「誤解をしているやもしれぬが、その方に対して色々と神々が仰せになるのは、その方がどこかで望んでおるからじゃ」
いつもの言い訳を、オユキが口の橋に乗せようと考えれば、しかしそれを制するように。だが、そんな事はオユキも、トモエも理解している。だが、やはり時間が無いのだ。
「どうにも、その方の側に居る限りは妾も頻繁に祖霊様の声が聞こえる。故に、その方に課された事というのも、理解はできる。じゃがの、課された事、その方の願い。それが果たせぬとあっては」
「神々は、叶わぬことを使命としない、そうではありませんか」
それに対しては、オユキとしてはどこか拗ねたように返すしかない。
「かつての世界、それを確かに価値観として引きずっている、その自覚はありますが。少なくとも、神々が確かに実在し、こちらに介在するのであれば」
「そこも勘違いの一つじゃな。神々は、何よりも妾達の自由な意思を尊重する。その結果、命を落とすのだとしても」
セツナの言葉は、オユキとしては、当たり前ではないかとそう考える範囲の事。もとより、今の生は、これからの道行きは。そこに最終目的を置いているには違いない。だからこそ、今更それを言われたとてとオユキは考えて。しかして、そうした考えを、オユキと同じ何処までも冷たい薄い青の瞳がオユキを捕らえる。今の言葉は、オユキが考えている物に掛かるばかりでは無いと。
「結果としてではない、過程でも、じゃ」
そして、語られる言葉は、オユキの考えに。これまで、確かに考えていたのだが、何処か無理に無視をしようとしていたこと。無い物として、少なくとも決断の時までは己の生命が保証されているのだと、トモエに何度か言外に指摘されていた甘えを、セツナは出会って間もないというのに容赦なく指摘する。
そして、オユキがそれに対してすぐに反論をしない事に気が付いたからか、周囲の者たちが、それに気が付いていなかった者たちがまさかと目を見開いて。
「その方、それにしても自覚の上か。如何にも、救えぬ有様ではある。仮に妾たちがその方の為にと場を整えて、結果が好ましく無い物であるのならばやはり気が進まぬ」
「それが、昨日から気軽に部屋の環境を変えるというのに、こうして魔国でも平然とあるというのに」
「うむ。妾が例えばその方の為にと力を振るう事になれば、やはり妾は少し違うのじゃ。長く在る、そう話して理解はできると考えておるのじゃが、つまりは妾にしても言ってしまえば精霊よりも少し先。妾のためでなく、良人のためでなく。そうであるならば、制限と呼べるものもある」
セツナの言葉に一度カナリアに視線を向ければ、頷きが一つ。
「種族としての特性というのは」
「その方でも分かる区分でいえば、それは祖霊様から妾たちに与えられる奇跡であるからの」
「つまりは、自分の為に使える奇跡、それが種族としての特性ですか」
全くもって、ままならないとでもいえばいいのだろう。オユキとしては、今は聞いていないであろうトモエにしても、交渉がかなり難しくなりそうだと考えざるを得ないことがここで終には告げられる。勿論、交渉として対価を支払う事に問題はない。だが、それを行うのだとしても、支払うべき対価が少ないに越した事は無い。オユキ自身の為に、そのためだけにというのを、オユキは望まないのだから。
実際には、社交の場に基本的に出ていかない、デビュタントもまだ済ませていないからそれも当然なのだが、他から呼ぶこともあるため練習の場として用意されている。
「ふむ、その方使えるではないか」
「屋内で利用する物なのですか」
そして、戻る前についでとばかりに魔国の外、その一角を氷雪で染め上げてきてみれば。セツナの言葉は、何もセツナや他の者たちが行わなくても、オユキ本人が行えるではないかとそうした言葉。
「確かに、少々異なりはするがかなり楽になるはずじゃぞ」
「ええと、カナリアさん」
「あの、私はオユキさんが使う魔術に心当たりがないのですが。いえ、焼け付いた魔術文字を見れば、効果は確かに想像もできるのですが、知らない文字も多くてですね」
「炎熱の鳥とは、妾たちはつくづく相性が悪いからの。それにしても、その方は妾たちの里に来た物とはまた気配も違うが」
そして、のんびりとお茶に口を付けながら、カナリアも交えて話をする。勿論、四阿から見える庭では、トモエが少年たちを並べて、改めてそれぞれを細かく治している。どうにも、トモエのほうでも思考の整理がついたのか、それが終わるころには別で言って指南とそうするつもりではあるらしい。常と違う事と言えば、ローレンツとクレドにイリアが混ざっていることだろう。それもあってか、今は四阿のほうでエステールとタルヤに世話をされているわけだが。
「私は、水と癒しの力の影響が強く、種族としての特性はかなり抑えられていますから」
「道理で、な。妾としても、その方らの種族が側に居るだけで削られると感じるのだが、その方はいくらかましじゃ」
「ええと、氷を基本とされる方たちにとっては、確かに私たちの抱えるものというのは毒でしかないでしょうが」
明らかに、セツナが警戒しているのがよく分かる。対して、一方的とでもいえばいいのだろうか。カナリアにしろ、他の翼人種にしろ、陸に氷の乙女を警戒しない。寧ろ、人に対しての振る舞いと何ら変わりも無い。圧倒的な強者とでもいえばいいのだろうか。己に対して何も出来まいと、それが当然の事だと言わんばかりの振る舞い。
「その、先ほど確認しましたけど、オユキさんもトモエさんもあそこ迄極端な環境を作っても、本当に大丈夫ですか」
そして、流石にここで種族間のもんだいを話していても、それこそ族長同士で話すしかない事だとカナリアのほうでも割り切って、オユキに向けてそのように言葉をかける。
「どう、でしょうか。セツナ様の整えた場に少しお邪魔させていただいただけですから」
「妾の見立てでは問題はなさそうじゃが、確かにこれまで暮らした事も無ければ色々と不安を感じるものじゃろうしな」
「ええと、まずは、どうしましょうか。セツナ様の見立てで、私の扱うもので問題が無いというのならば、そちらからとしてみるのも一つかとは思いますが」
「その前に、オユキさん。オユキさんは、範囲の指定などは出来るのですか」
セツナに頼らずとも問題が無いと、そういった話であるのなら。勿論、今後を考えたときにもう交易をすることはオユキの中で決めている処ではあるのだが。それでも、最低限とでも言えばいいのだろうか。それくらいは自分で用意をしたうえで、その上でカナリアや他を頼れればとそんな事を考えて。だが、それに対しては、カナリアから、例えばオユキはきちんと部屋の中に限った行使ができるのかと問われて。
振り返ってみても、特に範囲を絞るような使い方をしていなかったため、それができるのかと言われれば自信はない。少し、己の内に意識を向けてみるのだが、これまでにしても己がそうだろうと考えている物を、ただ流し込むだけではあったのだ。量の過多を変えれば融通が利くのだろうかと、オユキは考えてみるのだがどうにもそうした気配も無い。そして、己の内に意識を向けて、改めて文字の並び。魔術式だろう物に意識を傾けていたからだろう。そんなオユキに対して、セツナとカナリアがそれぞれに難しい顔をして眺めている。
オユキが、そういった視線に気が付いて、一体何事かと視線を向けてみれば両者ともにため息をついたうえでセツナがカナリアに譲る。
「規模の調節は、オユキさんでは難しそうですね」
「うむ。幼子がいきなりできるようなものでもあるまい。どうにも、マナの扱いにしても、己の内にある種族由来の魔術にしても分からぬ様子」
そして、カナリアでは分からないと首を傾げたからだろう。
「そも、今行使しようとしている物、先ごろこの王都の外で行使した物にしても冬と眠りの女神による気配が強い。そちらから与えられたものでもあるのじゃろう。その方は、まずは妾たちの祖霊、そちらを意識してと言う所から始めねばならん」
「セツナ様方の祖霊、ですか」
「その方にはまだ話していなかったか。妾たちは氷の乙女。祖霊たる御方も、同じ名を持つのじゃ。冬と眠りは、祖霊様の属する神、さらにその一つ上。故に、距離は遠く、やはり手当には過剰じゃ」
そこまでを語った上で、これまで口をつけずに、軽くカップの上で手を動かしていたのは、冷ましていたからか。改めて口を一度つけて、続きをセツナが語る。
「以前は一度止めたのじゃが、改めてお呼びすることも考えねばならぬか」
「ええと、オユキさん」
「いえ、名前が分かった時に、では一度試しにとばかりに」
「あの、オユキさん。今現在のご自分の状況というのは、わかっていますか」
氷の乙女などと名乗っている相手よりも、よほど冷え冷えとした視線をカナリアが寄せて。
「一応、枯渇の一歩手前という認識は、はい」
「前にも言いましたけど、オユキさんの場合は、根源、本質、こちらにも傷が入っていたのです。今となっては、癒えていますけど、それでもどうにかという所でしかないので今後も勿論無理をすれば、枯渇をすればそこかから順次補填となるので」
「根源の傷か。その方、幼子でしかないというのに、いや、異邦から来たもの、その精神で行ったというのならばまぁ頷ける。本来であれば意識を失うものじゃが、それをせぬ様にと無理を通したか。その方、いかに急ぎの道行きとはいえ、その様な事を繰り返しては身が持たぬぞ」
さて、客人二人に揃って苦言を呈されて。さらには、本来オユキの見方であるはずの侍女二人にしても、何やらしっかりと頷いて見せている。
「理解はしているのですが、何分」
「誤解をしているやもしれぬが、その方に対して色々と神々が仰せになるのは、その方がどこかで望んでおるからじゃ」
いつもの言い訳を、オユキが口の橋に乗せようと考えれば、しかしそれを制するように。だが、そんな事はオユキも、トモエも理解している。だが、やはり時間が無いのだ。
「どうにも、その方の側に居る限りは妾も頻繁に祖霊様の声が聞こえる。故に、その方に課された事というのも、理解はできる。じゃがの、課された事、その方の願い。それが果たせぬとあっては」
「神々は、叶わぬことを使命としない、そうではありませんか」
それに対しては、オユキとしてはどこか拗ねたように返すしかない。
「かつての世界、それを確かに価値観として引きずっている、その自覚はありますが。少なくとも、神々が確かに実在し、こちらに介在するのであれば」
「そこも勘違いの一つじゃな。神々は、何よりも妾達の自由な意思を尊重する。その結果、命を落とすのだとしても」
セツナの言葉は、オユキとしては、当たり前ではないかとそう考える範囲の事。もとより、今の生は、これからの道行きは。そこに最終目的を置いているには違いない。だからこそ、今更それを言われたとてとオユキは考えて。しかして、そうした考えを、オユキと同じ何処までも冷たい薄い青の瞳がオユキを捕らえる。今の言葉は、オユキが考えている物に掛かるばかりでは無いと。
「結果としてではない、過程でも、じゃ」
そして、語られる言葉は、オユキの考えに。これまで、確かに考えていたのだが、何処か無理に無視をしようとしていたこと。無い物として、少なくとも決断の時までは己の生命が保証されているのだと、トモエに何度か言外に指摘されていた甘えを、セツナは出会って間もないというのに容赦なく指摘する。
そして、オユキがそれに対してすぐに反論をしない事に気が付いたからか、周囲の者たちが、それに気が付いていなかった者たちがまさかと目を見開いて。
「その方、それにしても自覚の上か。如何にも、救えぬ有様ではある。仮に妾たちがその方の為にと場を整えて、結果が好ましく無い物であるのならばやはり気が進まぬ」
「それが、昨日から気軽に部屋の環境を変えるというのに、こうして魔国でも平然とあるというのに」
「うむ。妾が例えばその方の為にと力を振るう事になれば、やはり妾は少し違うのじゃ。長く在る、そう話して理解はできると考えておるのじゃが、つまりは妾にしても言ってしまえば精霊よりも少し先。妾のためでなく、良人のためでなく。そうであるならば、制限と呼べるものもある」
セツナの言葉に一度カナリアに視線を向ければ、頷きが一つ。
「種族としての特性というのは」
「その方でも分かる区分でいえば、それは祖霊様から妾たちに与えられる奇跡であるからの」
「つまりは、自分の為に使える奇跡、それが種族としての特性ですか」
全くもって、ままならないとでもいえばいいのだろう。オユキとしては、今は聞いていないであろうトモエにしても、交渉がかなり難しくなりそうだと考えざるを得ないことがここで終には告げられる。勿論、交渉として対価を支払う事に問題はない。だが、それを行うのだとしても、支払うべき対価が少ないに越した事は無い。オユキ自身の為に、そのためだけにというのを、オユキは望まないのだから。
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