憧れの世界でもう一度

五味

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30章 豊穣祭

日は進み

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お茶会でオユキが盛大にやらかした後は、シェリアからの報告を受けたトモエも交えて。さらには、それが当然とばかりにヴィルヘルミナまでもが加わって散々に色々な話をされることとなった。曰く、相応の年齢の女性にとっては、非常に難しい問題なのだと。オユキにしてみれば、最終手段とでもいえばいいのか。そこで王家の紹介を受ければいいではないかと、そんな考えではあったのだ。だが、それはあまりにも楽観が過ぎるどころか、カルラは間違いなくこれまでの生活で、おのれの縁とした相手がいるのだからとかなり言いつのられることとなった。
オユキにしてみれば、そんな素振りなど全くなかったとそういう話になるのだが、他の者から見ればそんな訳も無いだろうとそういう話でもある。周囲にとって自明であれども、オユキにとってはそうでない。その逆もまた然り。そんな事を、ついつい考えていればトモエからまた頬を軽く押さえられたりと。

「オユキさんは、流石に慣れがあるわけですが」

そして、そんな日を終えてみれば、そこからは随分と他の者たちは忙しく日が進み、トモエとオユキのほうではやはり休暇同然の日々を過ごして。朝食を、トモエとオユキは基本的に別室で。少し休んでからは、魔物を狩るために、鍛錬も兼ねて王都の外に出て。そして、一時間と少しも外で過ごせば、屋敷に戻る。昼食はともかく、夕食にはとトモエが考えていることもあり、そこから先は日に依りけり。トモエとオユキが揃って庭先で鍛錬をするには変わりないのだが、そこに混ざる顔が変わることがしばしば。だが、そんな中でもトモエがオユキの為にと、料理をする時間をとってくれている。そのおかげもあっての事だろうか、オユキのほうではようやくそうした時期に差し掛かったのだろう程度の考えなのだが、それ以外の物にとってみれば、ああ成程これが重要なのかとそうした納得が実に簡単に得られたというのに。

「今はそれがと言う事なのでしょうね。こちらに来てから、長く触っていませんでしたし。いえ、折に触れて使ってはいましたが」
「そうですね。その時にも感じていたことなのですが」

そして、明日から前夜祭と言う日でも、こうして王都の外で太刀を振るいながら、オユキはトモエに姿勢を直されている。どうにも、かつては剛剣を主体として使っていたため、特にこうして柔らかく振るうというのがオユキには少し難しい。かつては正しく習ったはずではあるのだが、目録迄得たには違いないのだが、そこにはこちらで長く手に持たなかったからこそのずれが大きく生まれている。さらには、オユキが修正をしようとしたときに参照するのは、どうしたところで過去の経験だ。過去の己は、今のトモエより少し低い程度の上背で。筋力に至っては、習い始めの頃はなかなかに絶望的ではあったのだが、それでも不思議な事で。感覚までがあまりにはっきりと返ってくる遊び方だったからだろうか、習い始めて、気を付けて。言われたとおりに体を動かし始めてからは、オユキ自身少し奇妙に感じる程度には早く改善され、さらに上にとなっていったものだ。

「思い返してみれば、過去にしても」
「どうかしましたか、オユキさん」

人によっては、それこそ今も遠巻きにオユキたちの様子を見ている護衛ではない狩猟者たちにしてみれば、何をこんな危険地帯で暢気にと、そう感じるものだろうが。トモエは武器を納めた上で、オユキの体に触れながら姿勢を直し、そして太刀を振らせては細かく構えを直していく。

「ゲームの中での事、そう考えていましたが。振り返ってみれば、体にもしっかりとと」
「そのことですか」

そして、オユキのつぶやきにトモエが少し考える。

「いえ、後にしておきましょうか。この場でとなると、長くなりすぎますから」
「トモエさんも、思う所があったのですね」
「はい」

そして、オユキの疑念。改めて感じた事、それをトモエに話してみれば、心当たりがあるのだとばかりに返ってくる。その様子に、本当に我が事ながら、過去にどれだけ見落としがあったのかと、そんな事をオユキとしても考えるのだが。

「オユキさん」
「はい」
「今回の事で、オユキさんは改めて、その」
「両親からの書置きと言いますか、私宛の、トモエさんにも宛てた手紙ですね」

これまでに手に入れたのは、僅か二通。各神殿にと考えていたのだが、始まりの教会で渡されたこともあり、最早それさえ定かでもない。過去の両親の所業を考えれば、教会に深くかかわっている、それには違いないのだろうが。今回の事で得られるとすれば、それこそ水と癒しの神殿となるのだろうか。オユキとしては、そんな事を考えながら。

「どうでしょうか。華と恋が先になりそうかなと」
「オユキさんは、今回の事でどこまでを考えていますか」
「昨日のお茶会ですね、その席でどうやらマリーア公爵は既に一つ二つは得ている様子でした。今は、他の領を先にと考えて公表していないのでしょう」

そして、トモエの疑問に直接答えるわけではなく、トモエの疑問に対して、寄り親である相手は既に確保済みだとそう応える。何処か焦ったような、というよりもオユキのデビュタント等と言う華々しい舞台。そこで、他に入り込むだけの余地を与えるような真似など、これまでを考えれば間違いなくしなかった。だというのに、今回はそれを行っていた。つまりは、トモエとオユキに関わることで、それを得たのだとそんな風に考えているのだろう。オユキからは、どうにか言外にそれは違うのだと示せたとは思うのだが、戻ってからも手紙など用意してユーフォリアに預けたものだ。帰ってきた物には、少なくとも翼人種との交流については、ほとんどマリーア公爵が独占せざるを得ない状況なので、それ以外の道を探したかったのだと書かれてもいたが。

「次に早いのは、クレリー公爵領となるかと思うのですが」
「その、オユキさんが言うには」
「その余裕が、間違いなく今のカルラ様にはないのですよね」

どうにも、カルラにしても仕事の多さに振り回されているとでもいえばいいのか。

「その、オユキさん」
「カルラさんから、私に直接何かあれば助言もできるのですが」
「オユキさん」
「流石に、麾下として振る舞わなければならない以上は、色々と難しいのです」

トモエから、オユキとして持っている解決策、それをいくつか伝えるだけであれば構わないのではないかと、そんな風に募られる。だが、オユキとしてもやはり言い分はあるのだ。トモエが参加していなかった、先の茶会の席。実のところ、そこでいくらか助言を行おうかと考えはしたのだ。だが、それは尽くマリーア公爵夫人に止められた。簡単に匂わせる、それすらも。一体、どうやってオユキの思考をなぞっているのかと思うほどに、先手を常に取られてしまった。失言という形で、伴侶を探せばと、当てはないのかとそういった突飛な発言に関しては、流石に公爵夫人も止められなかったのだが。

「その、私の失言は見逃していただけましたが」
「つまりは、オユキさんが何かを言おうとするときには、その視線の先に話題の先にクレリー公爵がいたときにはと言う事ですか」
「はい」

そしてトモエとしてもここで頭を抱えざるを得ない。言ってしまえば、既にオユキが苦手とする部分、それについて既に女性陣の中で共有が終わっていると言う事だ。オユキは、ミズキリに散々に仕込まれたからだろう。生来の物もあるのだろう。これから話をしようと、声をかけようとする相手をまっすぐに見る。それは、確かに色々と円滑に動くことになるだろう。それは、あまりにも分かり易い合図ではあるのだから。だが、それが明確に欠点となる場面と言うのは存在している。それが、お茶会のような、会議とは根本的に性質の異なる場面での事。
アイリスが、オユキがいない方が楽だろうと言ったのも、この辺りにも起因している。あのような多くの人間が異なる目的で集まるような場では、オユキのように話題の方向性を制御するというのはやはりそこまで好まれはしない。トモエが主催の代わりを務めたときに起こる様に、そこかしこで異なる話題に花を咲かせるのがより自然と言うものだ。だが、他ではなされている内容に耳を傾けていないのかと言われれば、それもまた違う。当然のことながら、他ではなされている内容にしても、把握している。この辺りは、脳科学とでもいえばいいのだろうか。その範囲で性別による差などと言うものが議論されていたようにトモエは覚えているのだが。

「オユキさんは、どうでしょうか。その、新しく技能としてそのあたりを」
「正直、不向きだという自覚はあるのですよね」
「はい。私も、そう思います」

だが、こうして入れ替わってみて、トモエが自然とできると言う事は、何もそうした物に限らないと言う事なのだろうと、トモエとしては改めてそんな事を。もしくは、過去の経験に合わせて造りが違うのか。そのあたりは、いよいよ分かるようなものではないのだが。

「結局のところ、鍛錬と同じと捕らえるのだとして」
「そう、ですよね」

ただ、仮にオユキにその心算があったとしても、練習の場が必須になる。トモエとの会話では、やはり基本的には互いを見た上で話が進む。そこに、他の誰かがいるのだとして、それでもオユキはトモエに視線を向ける。他に向けるのは、その必要がある時だけ。
基本的に、こうしている時にも、少し離れている時にも。オユキの視線と言うのは、意識というのは。何処までもまっすぐにトモエに向かっているのだから。

「まぁ、不向きな事については、諦めるしかないのでしょう。他の多くがそうであるように」
「ええ。それでよいかと言われれば、今回のように思う所もありますが」
「そのあたりは、ユフィを経由すれば、上手くやってくれることでしょう」
「あまり、ユーフォリアをいいように使いたくはないのですが」

オユキとしては、ここまで尽くしてくれるユーフォリアに、一度は己の生を全うして迄ついて来て呉れるユーフォリアに対して。やはり、何処か申し訳なさのようなものを覚えてしまうのだから。
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