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30章 豊穣祭
雪景色
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「さて、どうしましょうか」
困ったことだと、いつぞやにシグルドに言われた事でもあるのだが。オユキが、うっかりとやらかして、しかしこれが想定通りと取り繕う、そんな事は確かにままあった。だが、オユキの使った魔術の結果として、護衛たちがトモエとオユキ、ついでとばかりに後から合流したアイリスもいる場。狩猟を行っても良いとしている場に、魔物が追い込まれてくることがなくなった。少し離れたところで、すっかりと寝入ってしまっているのだ。魔物たちが。
「オユキさんとしては」
「こちらから、狩りに行きますか。ですが、寝ている相手では」
「確かに、鍛錬にはなりませんね」
動かぬ魔物、寝息を立てている魔物を襲ってみたところで、首を落としてそれで終わる。魔物と言うのが、神から与えられた試練であるには違いないのだが、生き物としての特徴も一応は持ち合わせている。昼と夜で魔物の種類が少し変わることもさながら、夜に強い魔物が多いというのもそれを端的に示してはいる。
更にこの場の問題としては、魔物が寝ていることだけではなく足元にもオユキを中心としてすっかりと細かな氷片が積もっていることもある。与えられた飾り、納めた刺繍。その影響と考えるのが確かに分かり易いのだが、空から降るのではなく、オユキの力の発露の形がこれだと言わんばかりに。オユキを中心として、それらが散ったのだ。今となっては、広い草原の一角、それこそ極僅かな一角ではあるのだが、雪原と呼んでもいいようなありさまだ。
「オユキ、貴女」
「誤解です、と言う訳でもありませんが」
そして、狩猟を好む相手からは、それがもはや適わぬからとばかりに苦情と呼べるものが。
「加減は、まぁ、貴女は無理よね」
「面目次第も」
散々に、流派としても制御が大事だと、そんな話をしているのだ。だというのに、こうも周囲にとなるとオユキとしても僅かに気恥ずかしさくらいは覚える。ただ、トモエが考えているようにこうして力を振るったとして、オユキにとっては、相応に規模の大きな魔術を行使したとして。やはり、そこまでの負担を感じることが無い。勿論、今も護符をつけて、簪に飾りをつけていなければ一人で体を起こすだけでも息が上がるのだ。だというのに、だからこそと言えばいいのだろうか。そんな事を、オユキとしてついつい考えてしまうものだが。
「此処まででとは、いえ、考えていなかったわけではないのですが」
「私の祖霊様からの加護もあるし、こないだ雨乞いもしたでしょう」
「慈雨と虹橋もかかわっている祭りという理解はありましたが、それと冬と眠りと言いますか」
冬と眠りにしても、間違いなくこうした雪を象徴する眷属と言うのは持っているはず。それについては氷精といった種族が存在しているのだと、こちらでの認知を見ても当たっていないのだとしても、そうそう遠くは無かろうとオユキは考えている。だが、そちらに関しては今もまだ名前も分からなければ、あまりにも季節が遠いため今回の事とは考えていない。それこそ、次の新年祭の折には等と考えてはいるのだが。
「貴女、本当に」
「アイリスさんは、見解が異なるという事でしょうか」
すっかりと周囲の魔物については、もう追い込むことなどなくなってしまい護衛たちが速やかに処理を行っていく。それを眺めながらも、トモエとしては彼らの作業なのだから、何もトモエとオユキにというよりもファンタズマ子爵家に入れなくてもと思うのだが、契約上そうしなければ実に色々と厄介な事となる。騎士たちは、正式にそれぞれが職務として派遣されている者達であり、そこで追加でなにがしかを得られるとなれば。勿論、騎士である以上、そのような考えの物が少ないには違いない。だが、それに甘えることなく規律としてと言われれば、確かに納得するしかない。そもそも、傭兵にしても、仕事中に得た物は基本的に雇い主に所有権があるのだとそんな説明も受けているのだから。
「季節の神、四季の神ね。それについては、依ったものが居ればどうにでもなるのよ」
「どうにでも、ですか」
「以前に魔国で貴女にしても理解が有るでしょう、祖霊様が周辺の環境を平然と」
「いえ、流石に私程度では」
アイリスとオユキが、何やら仲良く話している様子を見て、トモエとしても今日はもうこれ以上は難しいだろうとそう決める。ユーフォリアに頼んだ者達、ファンタズマ子爵家として、明確に雇用関係にある荷拾いを頼んでいる者たちにしてもいつもよりずいぶんと少ないと、そういった様子ではある。だが、もとより休暇とされている期間には違いない。それは、こうして色々と頼んでいる相手にしても同じ。この機会に、王都で一度入れ替えをとそういう話もあるにはあったのだが。
「貴女、一度祖霊様の氷を取り込んだでしょう」
「フスカ様とのことがあって、その時に既にと考えていましたが」
「匂いで分かる程度には、残っているわよ。なんだか、ここ暫くでまた強くもなっているもの」
「本当に、一体どういった仕組みなのですか、それは」
何やら、オユキのほうでは頭が痛いとばかりにアイリスに向けて。そんな声を聴いたからと言う訳でもないのだろう。アイリスも、最早それ以外は選ぶ気が無いとばかりに野太刀と形状だけは同じ武器を鞘に納めて。最も、トモエにしろオユキにしろ。手に持つ武器は、形ばかりが似ている物でしかないのだが。そもそも、詳細な造りなど互いに覚えているはずもない。オユキのほうでは、ぼんやりと覚えているとそういった様子ではあるのだが、何も復元する気が無い。こちらでは、過去と違って色々と使える素材が多い事もある。
「さて、私たちは戻りましょうか」
何やら、戦場と言う事も忘れて未だに足元に雪の残る中で意見をあれこれと話しているアイリスとオユキ。それがオユキにとって楽しいというのは、トモエにも理解はあるのだが何もここでやらなくても良いだろうとそう考えて。昨日は小太刀を使って、倍以上の時間を過ごしたものだが今回は慣れた獲物と言う事もあるのだろう。さらには短い時間であり、最初から手には包帯を巻いていたこともあるのだろう。幸い、オユキが掌を怪我をしている様子はない。
「アイリスさんには、改めてイリアさんとどういった形で話が纏まったのかも尋ねなければなりませんし」
「そういえば、そうでしたね」
「私は」
もうしばらく、このままとも。オユキはついついそう考えてしまう。だが、トモエの視線がこれ以上はオユキが持たないとそう言っていることもよく分かる。視線に従って、確かに太刀を鞘に納めてみれば、掌にはっきりと違和を感じる。オユキ自身でも、これ以上はまたカナリアに頼らなければならないだろうと、それほどに。加えて、どうにもおさまりが付かないといえばいいのだろうか。一度起動してしまった魔術、それがどうにも場に残るようで、先ほどから新たに魔物が寄って来てはそのままそれが当然とでもいうばかりに眠りに落ちている。以前もそうだったのだが、この魔術に関しては敵味方の識別は働いている物の時間と範囲が今のオユキでは制御が効かない。いよいよもって、鍛錬の不足とでもいえばいいのか。
「使わねば、と言う事なのでしょうね、これにしても」
「何度か言ったと思うのだけれど」
「そうですね、確かに馴染めと何度も言われていましたね」
オユキが納刀したからだろう、アイリスにしても今日のところは一先ずこれでと決めた物であるらしい。あとから来たため、まだまだ足りないといった様子ではあるし、オユキのようにそれですぐにどうなる物でも無い。だが、今この場に護衛をつけずに立つこともできないとそうした理解はある。特に、アベルでもいればいいのだろうが、そちらは生憎とこの場にいない。今頃は、それこそ公爵と王太子の招聘によってあれこれと雑事を頼まれているには違いない。
「そういえば」
そして、戻ると決めてすっかりと意識を切ったからだろうか。戻るのならば、すぐに戻れと言わんばかりに周囲からの視線を感じるものだが、オユキとしてはどの程度の時間効果が続くのか、それを確認したい気持ちもある。
「アイリスさんは、今回の祭りですね、そちらで役割を得ることになるかと」
「私としては、正直なところしがらみのないセラフィーナに任せてしまいたいのだけれど」
「それは、いえ、一応と言いますか、確かに魔国でその場にいましたが」
そして、アイリスとしてもどこか無理だろうなと、そんな言葉がはっきりと聞こえてくるほどに。
「ええと、でしたらアイリスさんがとも」
「一応、あれこれと教えてはいるのだけれど、正直ここから先となるともう祖霊様の領分なのよ」
「祭祀の次第といいますか」
「どういえばいいのかしら、あの子と私では種族は確かに同じといえば同じだけれど」
同じ狐と言うものから特徴を得た種族。とはいうものの、方や獣精、方や獣人。そのあたりの違いがあるのならと、そんな事をオユキも考えはする。だが、アイリスが言うには、差はそういったところと言う訳では無いのだろう。
「あの子は、貴女よりなのよね」
「確かに、毛並みの色を見れば、アイリスさんよりもより極地と言いますか、雪深い場でと思いますが」
「前にも言ったっと思うけれど、私たちにとって毛の色というのが、そのまま力を示すのよね」
そして、すっかりと嵩の減っている己の髪を、アイリスが一撫で。
ただ、そのあたりについて、全く知識の無い者たちがそれだけで分かるはずもなく。色と言われれば、まず真っ先に思い至るのは神々の持つ色。属性として現れる色ばかり。
「私は、一応ほぼすべてを引き継げるのだけれど、あの子の場合は祖霊様の持つ雪と氷が基本なのよ」
「それであれば、豊穣祭と言いますか」
「私もそうだけれど、祖霊様に寄せればいいだけなのだけれど」
「ああ、そうして色が変わっていくと」
確かに、アイリスにしても祖霊の力を下ろしている時の色については、今よりも遥かに明るいというよりも、それ自体が輝きを放つ金色。オユキが、なるほどと納得していれば、トモエがオユキの型を軽くたたく。そろそろ、戻るのが良いだろうと、こうして話に興じるというのなら、何も壁の外でなくてもいいだろうと。
困ったことだと、いつぞやにシグルドに言われた事でもあるのだが。オユキが、うっかりとやらかして、しかしこれが想定通りと取り繕う、そんな事は確かにままあった。だが、オユキの使った魔術の結果として、護衛たちがトモエとオユキ、ついでとばかりに後から合流したアイリスもいる場。狩猟を行っても良いとしている場に、魔物が追い込まれてくることがなくなった。少し離れたところで、すっかりと寝入ってしまっているのだ。魔物たちが。
「オユキさんとしては」
「こちらから、狩りに行きますか。ですが、寝ている相手では」
「確かに、鍛錬にはなりませんね」
動かぬ魔物、寝息を立てている魔物を襲ってみたところで、首を落としてそれで終わる。魔物と言うのが、神から与えられた試練であるには違いないのだが、生き物としての特徴も一応は持ち合わせている。昼と夜で魔物の種類が少し変わることもさながら、夜に強い魔物が多いというのもそれを端的に示してはいる。
更にこの場の問題としては、魔物が寝ていることだけではなく足元にもオユキを中心としてすっかりと細かな氷片が積もっていることもある。与えられた飾り、納めた刺繍。その影響と考えるのが確かに分かり易いのだが、空から降るのではなく、オユキの力の発露の形がこれだと言わんばかりに。オユキを中心として、それらが散ったのだ。今となっては、広い草原の一角、それこそ極僅かな一角ではあるのだが、雪原と呼んでもいいようなありさまだ。
「オユキ、貴女」
「誤解です、と言う訳でもありませんが」
そして、狩猟を好む相手からは、それがもはや適わぬからとばかりに苦情と呼べるものが。
「加減は、まぁ、貴女は無理よね」
「面目次第も」
散々に、流派としても制御が大事だと、そんな話をしているのだ。だというのに、こうも周囲にとなるとオユキとしても僅かに気恥ずかしさくらいは覚える。ただ、トモエが考えているようにこうして力を振るったとして、オユキにとっては、相応に規模の大きな魔術を行使したとして。やはり、そこまでの負担を感じることが無い。勿論、今も護符をつけて、簪に飾りをつけていなければ一人で体を起こすだけでも息が上がるのだ。だというのに、だからこそと言えばいいのだろうか。そんな事を、オユキとしてついつい考えてしまうものだが。
「此処まででとは、いえ、考えていなかったわけではないのですが」
「私の祖霊様からの加護もあるし、こないだ雨乞いもしたでしょう」
「慈雨と虹橋もかかわっている祭りという理解はありましたが、それと冬と眠りと言いますか」
冬と眠りにしても、間違いなくこうした雪を象徴する眷属と言うのは持っているはず。それについては氷精といった種族が存在しているのだと、こちらでの認知を見ても当たっていないのだとしても、そうそう遠くは無かろうとオユキは考えている。だが、そちらに関しては今もまだ名前も分からなければ、あまりにも季節が遠いため今回の事とは考えていない。それこそ、次の新年祭の折には等と考えてはいるのだが。
「貴女、本当に」
「アイリスさんは、見解が異なるという事でしょうか」
すっかりと周囲の魔物については、もう追い込むことなどなくなってしまい護衛たちが速やかに処理を行っていく。それを眺めながらも、トモエとしては彼らの作業なのだから、何もトモエとオユキにというよりもファンタズマ子爵家に入れなくてもと思うのだが、契約上そうしなければ実に色々と厄介な事となる。騎士たちは、正式にそれぞれが職務として派遣されている者達であり、そこで追加でなにがしかを得られるとなれば。勿論、騎士である以上、そのような考えの物が少ないには違いない。だが、それに甘えることなく規律としてと言われれば、確かに納得するしかない。そもそも、傭兵にしても、仕事中に得た物は基本的に雇い主に所有権があるのだとそんな説明も受けているのだから。
「季節の神、四季の神ね。それについては、依ったものが居ればどうにでもなるのよ」
「どうにでも、ですか」
「以前に魔国で貴女にしても理解が有るでしょう、祖霊様が周辺の環境を平然と」
「いえ、流石に私程度では」
アイリスとオユキが、何やら仲良く話している様子を見て、トモエとしても今日はもうこれ以上は難しいだろうとそう決める。ユーフォリアに頼んだ者達、ファンタズマ子爵家として、明確に雇用関係にある荷拾いを頼んでいる者たちにしてもいつもよりずいぶんと少ないと、そういった様子ではある。だが、もとより休暇とされている期間には違いない。それは、こうして色々と頼んでいる相手にしても同じ。この機会に、王都で一度入れ替えをとそういう話もあるにはあったのだが。
「貴女、一度祖霊様の氷を取り込んだでしょう」
「フスカ様とのことがあって、その時に既にと考えていましたが」
「匂いで分かる程度には、残っているわよ。なんだか、ここ暫くでまた強くもなっているもの」
「本当に、一体どういった仕組みなのですか、それは」
何やら、オユキのほうでは頭が痛いとばかりにアイリスに向けて。そんな声を聴いたからと言う訳でもないのだろう。アイリスも、最早それ以外は選ぶ気が無いとばかりに野太刀と形状だけは同じ武器を鞘に納めて。最も、トモエにしろオユキにしろ。手に持つ武器は、形ばかりが似ている物でしかないのだが。そもそも、詳細な造りなど互いに覚えているはずもない。オユキのほうでは、ぼんやりと覚えているとそういった様子ではあるのだが、何も復元する気が無い。こちらでは、過去と違って色々と使える素材が多い事もある。
「さて、私たちは戻りましょうか」
何やら、戦場と言う事も忘れて未だに足元に雪の残る中で意見をあれこれと話しているアイリスとオユキ。それがオユキにとって楽しいというのは、トモエにも理解はあるのだが何もここでやらなくても良いだろうとそう考えて。昨日は小太刀を使って、倍以上の時間を過ごしたものだが今回は慣れた獲物と言う事もあるのだろう。さらには短い時間であり、最初から手には包帯を巻いていたこともあるのだろう。幸い、オユキが掌を怪我をしている様子はない。
「アイリスさんには、改めてイリアさんとどういった形で話が纏まったのかも尋ねなければなりませんし」
「そういえば、そうでしたね」
「私は」
もうしばらく、このままとも。オユキはついついそう考えてしまう。だが、トモエの視線がこれ以上はオユキが持たないとそう言っていることもよく分かる。視線に従って、確かに太刀を鞘に納めてみれば、掌にはっきりと違和を感じる。オユキ自身でも、これ以上はまたカナリアに頼らなければならないだろうと、それほどに。加えて、どうにもおさまりが付かないといえばいいのだろうか。一度起動してしまった魔術、それがどうにも場に残るようで、先ほどから新たに魔物が寄って来てはそのままそれが当然とでもいうばかりに眠りに落ちている。以前もそうだったのだが、この魔術に関しては敵味方の識別は働いている物の時間と範囲が今のオユキでは制御が効かない。いよいよもって、鍛錬の不足とでもいえばいいのか。
「使わねば、と言う事なのでしょうね、これにしても」
「何度か言ったと思うのだけれど」
「そうですね、確かに馴染めと何度も言われていましたね」
オユキが納刀したからだろう、アイリスにしても今日のところは一先ずこれでと決めた物であるらしい。あとから来たため、まだまだ足りないといった様子ではあるし、オユキのようにそれですぐにどうなる物でも無い。だが、今この場に護衛をつけずに立つこともできないとそうした理解はある。特に、アベルでもいればいいのだろうが、そちらは生憎とこの場にいない。今頃は、それこそ公爵と王太子の招聘によってあれこれと雑事を頼まれているには違いない。
「そういえば」
そして、戻ると決めてすっかりと意識を切ったからだろうか。戻るのならば、すぐに戻れと言わんばかりに周囲からの視線を感じるものだが、オユキとしてはどの程度の時間効果が続くのか、それを確認したい気持ちもある。
「アイリスさんは、今回の祭りですね、そちらで役割を得ることになるかと」
「私としては、正直なところしがらみのないセラフィーナに任せてしまいたいのだけれど」
「それは、いえ、一応と言いますか、確かに魔国でその場にいましたが」
そして、アイリスとしてもどこか無理だろうなと、そんな言葉がはっきりと聞こえてくるほどに。
「ええと、でしたらアイリスさんがとも」
「一応、あれこれと教えてはいるのだけれど、正直ここから先となるともう祖霊様の領分なのよ」
「祭祀の次第といいますか」
「どういえばいいのかしら、あの子と私では種族は確かに同じといえば同じだけれど」
同じ狐と言うものから特徴を得た種族。とはいうものの、方や獣精、方や獣人。そのあたりの違いがあるのならと、そんな事をオユキも考えはする。だが、アイリスが言うには、差はそういったところと言う訳では無いのだろう。
「あの子は、貴女よりなのよね」
「確かに、毛並みの色を見れば、アイリスさんよりもより極地と言いますか、雪深い場でと思いますが」
「前にも言ったっと思うけれど、私たちにとって毛の色というのが、そのまま力を示すのよね」
そして、すっかりと嵩の減っている己の髪を、アイリスが一撫で。
ただ、そのあたりについて、全く知識の無い者たちがそれだけで分かるはずもなく。色と言われれば、まず真っ先に思い至るのは神々の持つ色。属性として現れる色ばかり。
「私は、一応ほぼすべてを引き継げるのだけれど、あの子の場合は祖霊様の持つ雪と氷が基本なのよ」
「それであれば、豊穣祭と言いますか」
「私もそうだけれど、祖霊様に寄せればいいだけなのだけれど」
「ああ、そうして色が変わっていくと」
確かに、アイリスにしても祖霊の力を下ろしている時の色については、今よりも遥かに明るいというよりも、それ自体が輝きを放つ金色。オユキが、なるほどと納得していれば、トモエがオユキの型を軽くたたく。そろそろ、戻るのが良いだろうと、こうして話に興じるというのなら、何も壁の外でなくてもいいだろうと。
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