憧れの世界でもう一度

五味

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29章 豊かな実りを願い

意外と

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「今日は、食が過ぎたはずなのですが」
「ええ、ユーフォリアさんとオユキさん、二人の意見が正しいと言う事なのでしょうね」

ジャガイモが食卓に上がった。それも、これまでのように添え物としてではなく、ほとんど主食と呼んでも差し支えない位置で。ここまでは、堅焼きのパンから始まり、無い時もあれば肉となったこともある。アルノーが料理を取り仕切る様になってからは、多種多様なパンが食卓に並ぶようになっていた。酵母や二次発酵と言う概念はこちらにもあったようすで、柔らかく、膨らんだパンが食卓に上ったところで驚く者はいなかった。では、始まりの町ではなぜかと考えてみれば、要はそちらの方が色々と効率がと言う結果なのだろう。

「その、トモエさんの言いたいことも分かりますから」

今のオユキは、しっかりと食事を摂れたからだろう。いつにもまして、と言うよりもこちらに来てからは一度も無かった充足感と言うのが得られている。今後の食事は、ジャガイモを主食としたうえで組み立てられるようになるだろう。オユキの様子を見た上で、間違いなくシェリアとユーフォリアがアルノーにそう指示を出す。はっきりと考えるほどには、明らかにオユキの食事量が違ったのだ。
勿論、それでもまだ少ない事には変わりないのだが、今後も回数を重ねていけば自然と増えていくだろうと、そうい思える程度には。

「いえ、そのあたりは、こう、どういえばいいのでしょうか」
「余剰、その言葉の意味も考えるべきではありましたね」

はっきりとした問題として、これまでオユキは、トモエもそうなのだが、事あるごとに功績の余剰を示す器から色が抜けていた。だからこそ、食事にしても真っ当に取らなければとそう考えていたのだ。食事の変換とでもいえばいいのだろうか。色の抜けている時に、オユキの掌が少々の鍛錬で過去にもあったようなけがを負う事になった。そうして、誤解が進んだと言う事らしい。今のオユキは、寝るために着替えもすましているのだがその胸元にははっきりと冬と眠りを示す色が表れている。護符にしても、これまではこの時間になればかなり色が薄れたというのに、今はこれまでに比べればまだはっきりとしている。

「自分の属性の色などと言われていましたが、これまでは」
「そうですね。あの柱に直接供えて、それっきり」

それにしても、ほとんどがオユキの回復の為に使われたのだろう。ここ暫くは、すっかりとみることが無かった、ほのかに輝く灰色。それにしても、ほの暗い光と呼ぶことも躊躇われるような温かさを備えて。冬と言えば、厳しい物と誰もがそう考えるだろうに。寂しがりなどと他の柱も評していたのだが、遠ざけられるだけの事があるのは事実。だが、それ以上に恩恵をもたらす存在でもあるとして。

「オユキさんは、どう思いますか」
「正直なところ、その判断は神々に伺うしかありません。そして、それをするには住居を決めなければならないので」
「流石に、一緒にと言うのも難しいですか」
「ええと、馬車に入れればと言うのは分かるのですが、流石にこう、動かして回るのは」

トモエの疑問は、神像をどうにかてにいれて、それを屋敷の中に。オユキの暮らす場に置けないのかとそういう話。ただ、問題としては、やはりオユキの返した通り。それをするならば、そもそも教会にと言う話もあるのだが、そこは神々の判断に依る物だと周囲に示してしまえば良い。そうした言葉を預けても暮れるだろう。だが、流石に事あるごとに動かすとなれば、今後も移動が多いと分かり切っている身の上でそれを望むのは、やはりいくつか無理もある。馬車に詰めるサイズである、それは過去の事で理解している。だが、それを外に持ち出して、あまつさえ国境を越えようというのならば、今以上の警護が必要になる。神像を運んだのは、これまでに一度だけ。それも王都の中でのことではあったのだが、その際にも見えない位置は徹底的に固められていた。それも、知っている物が少しでも減る様にとされた中で。
トモエは後から聞いた話でしかないのだが、あの場にいた別宅の使用人たちは外に出る事を数日の間禁じられたのだとか。

「何にせよ、今後は少しと思う所もありますが」
「次は華と恋でしたか」
「どうにも、ヴィルヘルミナさんとカリンさんの事を考えれば、美と芸術が先にとなりそうでもありますが」

加えて、今度はオユキが雨と虹と言い出したこともある。

「トモエさんは、雨と虹、それから虚飾と絢爛は」
「そちらを考えると、確かに、ですか」

正直なところ、どちらも芸術作品とは縁の深い物ではある。前者は、神格化されるほどの自然現象として、それは数多の作品で使われている。後者は、否定しようという派閥もあり、それもまた芸術としてきちんとした派閥を築いたのだが、本質に触れる物でもある。仮に、どちらもの柱を改めてこの世界に、多くの人の目に触れさせようと考えたとき。連なる神を無視する、後に回そうなどと考えている者達を良しとするのかどうか。

「ナザレアさんは、そのあたり、どう思われますか」

今、こうしてトモエとオユキが話して言うのは、寝室には違いないのだが、そこに今はラズリアとナザレアが揃っている。シェリアについては、ユーフォリアと共に遅い時間ではあるのだが外に出向いている。狩猟者ギルドに納めた牛の対価として畜産ギルドから既に命を自然に落とした牛、さらに成長をしているため枝肉にしてもかなりの量。それを引き取りに向かっている。今日出てきたあの分厚い肉は何だったのかと、オユキとしてはついついそんな事を考えてしまったのだが、繁殖して、壁の中で生まれてきた生命と魔物から直接得られた畜獣では、全く価値が違うものであるらしい。

「私の祖は、どうでしょうか。私が言うのもあれなのですが、非常にのんびりとされたお方ではありますので」
「木精の常とは聞いていますが、それほどですか」
「はい。本当に数百年程であれば、ひと昔ですらないとそうした方なので」
「それは、また。話には聞いていましたが、会話が成立するかも」

オユキが、はっきりと不安だと、そんな様子を隠しもしない。そして、その懸念はまさに的中しているのだとナザレアの態度が隠しもしない。そして、恐らくは人であるラズリアのほうも、何度か経験があるのだろう。最も近いのは、それこそ初代のマリーア公爵ではあるのだが、あちらは人の世で暮らしている時間が長いだけあり、まだ人の感覚が通じる相手でもある。

「ええと、一先ずそちらは積極的に望まずにとしましょうか。一応、目的としては、華と恋を優先するとして」
「その前に、テトラポダでしたか。木々と狩猟の神の神殿は」
「そちらにしても、到着の報告があってからですね。武国は既にとも思いますが、まだ連絡が無いのでしたか」
「はい。詳しいユニエス公爵が王城で説明を行っていましたが、公爵領と神国はかなり近い位置にあるのですが、そこから王都までとなると我が国とは違って二月近くかかるのだとか」

それは、急いでもそれだけの期間がと言う事なのだろう。随分と、そんなことを考えてしまうものだが、一応は隣国でありあちらにとっては仮想敵だったという事なのだろう。近いところに、寧ろ可能性を疑わなかったというのは、オユキとしても好感は持てる。実際に、武国の公爵にあるまじき行いはしていたのだから。

「では、魔国から戻って、さらに先となりますか」
「オユキさんは、豊穣祭で」
「ええと、流石に私の体調を考えたときに、いえ、確かにまだ多少は日もありますし、何やら回復が早くはなりそうですが」
「オユキさん。闘技大会は」
「布告を出してから、と言いますか、今回は武国への配慮が必要になるので」

そう、トモエのほうで考えていることはあるのだろうが、オユキの考えとして。今度ばかりは、オユキの考えが正しい物として。はっきりとした理由があるのだ。今度ばかりは、武国への配慮を欠かすことが出来ない。マリーア公爵にしても、己の領内にユニエス公爵を抱え込んだ以上は、そのあたりの働きかけも行って、散々に恩を着せようとすることだろう。先は時間が無かったとはいえ、それでもどうにか互いに時間を作って手紙でのやり取りなども交わしていることだろう。オユキの、と言うよりもファンタズマ子爵家でのあれこれの合間、そこにはマリーア公爵家からの人員もいたのだ。

「戦と武技の神、その名を冠しての催しです。勿論、かの国からも人員を送らせろと」
「そして、私たちとしても、と言う事ですか」
「そのあたりは、調整次第、でしょうか。私も、先の時と同じようになどとは考えますが、先方から、こう」

オユキとしては、是非とも巫女としての役割を戦と武技の国から、武国から来るに違いない人員には少しの期待もある。是非とも、お飾りの役とでもいえばいいのだろうか。そちらをオユキではなく、今回、確立としては低くないと踏んでいる巫女に来てもらい、そちらにぜひと。

「そうなると、またエリーザ助祭にもお願いしなければなりませんね」
「あの、トモエさん」
「オユキさんの考えているところは分かりますが、どうでしょう。こちらの国の方々は、他国から招いた方だけに任せようと、本当にそのように考えますか」

オユキの考えを容赦なく見抜いて。問題としては、トモエが出した名前から、周囲にいる侍女たちがオユキの考えを察するというのが、また問題なのだ。オユキとしては、是非ともと言うよりも、トモエがそうするのであれば自分もとそれくらいには考えているのに。

「オユキさん、繰り返しますが体調が戻ってからです」
「それは、その」
「師として、許せる範囲と言うのが明確にあります。負けはしない、少々の体調不良でも問題がない、そうは私も考えています」

トモエとしても、正直武国にはもはや期待をしていない。事実技を磨く気質があるというのであれば、ここ暫くの高々トモエの狭い活動範囲で戦と武技の剣に光がともることも無い。だから、これはあくまで傲慢ではなく、自負として。

「ですが、その先には私がいますよ」

自分で、勝ち目が無いと。体調が悪いからと、そんな事を言わなければならない状態で臨むというのであれば、トモエは悲しいのだとそう目線でだけ。
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