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29章 豊かな実りを願い
相も変わらず
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「アイリスさん、それは流石に諦めて頂くしか」
「あら、そうでも無いと思うのだけれど」
公爵夫人から、今後の予定の確認と言う名の、一先ず決まっている予定の共有が終わり。夜半には悩むトモエとの話し合いを終えて翌日。ユニエス公爵家から、正式にアベルが訪れることもあって、ファンタズマ子爵家一同迎える体制をとったまではよかった。勿論、顔見知りではあるし、これまでも度々一つ屋根の下で暮らしていたことのある相手。気安さはあれど、正式な手続きの下に向かってきた以上はやはり公爵として遇さねばならぬ。それが礼節という物でもある、そう考えての事ではあった。
トモエが今も侍女たちの指揮を執って、家の中で準備を整えている。最も、詳細はあくまで侍女たちに任せた上でトモエが行っているのは簡単な方針の提示でしかないのだが、オユキが扉の外に迎えに出ている以上はうちにも責任者が必要となる以上は。屋敷の門前、各公爵家は優先して配布されているのだろう新しい馬車、明らかに降ろされる積み荷と外観が一致しないため実に分かりやすい馬車が付けられ。そこから、公爵夫人から聞いた内容よりも、少々過剰な量と思える荷物が降ろされるのを見て、オユキは思わず首を傾げた。そして、何やら疲れた様子のアベルとセラフィーナが連れ立って居りてきた時点で、疑念がはっきりとよぎった。挙句の果てには、何やらすまし顔のアイリスが馬車から降りてきたことで確信に。その時点で、責めるような視線が、シェリアからアベルに向けられてはいたのだが、オユキが確認するべきは彼では無いとアイリスに声をかけてみたのだが、どうやらけむに巻くつもりであるらしい。
「アベル様の同意は、勝ち得ている様子ではありますが」
「ええ、ならば、わかりますねファンタズマ子爵家当主、オユキ」
「公爵夫人からは、昨夜何も伺っていないのですが」
オユキが、アベルに一応は軽傷を付けたからだろう。当主なのだから、役職をつけて呼ぶのが正しくはあるのだがそれが許されるくらいの物は、互いに既に積み上げているだろうと。何よりも、今も着々と降ろされる積み荷、明らかにアイリスがこちらに引っ越す気だと分かる荷物たち。それらを見ていると、どうにもこのアベルと言う人物に釘を刺したいというよりも。
「一応、伝えはしたのだがな」
「冗談と捕らえる、事は無いでしょう。となると、公爵夫人にしても判断に迷ったと言う事ですか」
事前の連絡が全くなかった、それは流石にどうなのだろうか。一応は、間に一つ国を挟んでいるとはいえ、一国の姫と扱わなければならない人物だ。そんな人員を、何故一子爵家にと、そんな疑問はある。そして、あのマリーア公爵が認めるだけのと言うよりもオユキに伝えぬ様にとするだけの判断が働いた理由は。オユキが、そうしたことを考えながらも、アベルに向けて。
「で、あればとは思いますが」
「実利的な部分もある、そう言われてしまえばな」
「一応、当家にはトモエさんもいるのですが」
確かに、性別と言う面では、圧倒的に偏っているファンタズマ子爵家ではある。勿論、護衛としてつけられている騎士のほとんどが男性。総数で見れば、確かに女性陣が少し多いとそうなる程度なのだが、実際の屋敷の中では、ほとんどが女性だ。今は、カリンにヴィルヘルミナとて同じ屋敷で暮らしている。そして、それぞれに身の回りを見る人間が付いている。屋敷の中で明確に仕事を持つ人員で、男性なのはアルノーと彼の抱える丁稚のうち二人ほど。あとは、この屋敷で、主人がおらぬ間にも管理の為に置かれる人員の為に料理を提供する者達くらい。如何に数が少ないとはいえ、確かにそうしたことを勘ぐる者たちに餌を与えることになるのだと。
「わかってはいるのだがな」
そして、そうしたうわさが出たときに、そんなつまらぬことを言い出した者たちにオユキが向けてしまう感情がどのような物か。既に周囲に気が付いている物も多いだろう、今もはっきりと不機嫌を隠せもしないオユキ。アイリスにも、勿論そうした物がしっかりとむけられてはいるのだが。
「始まりの町であれば、まだしも。ここ王都でも、ですか」
そう、始まりの町であれば、あの、長閑な町であれば。勿論、時折訪れる他から来る貴族たちもいるにはいる。だが、そうした相手に対しては言い訳として使える物が存在している。要は、アベルが、ユニエス公爵も同じ屋敷に暮らしているのだからと。だが、こちらではそうもいくまいと。アベルが、露骨な時間稼ぎを、要は荷物を全部降ろしてしまえば運ばざるを得ないだろうと、そんな様子を見せている。それに対しても、オユキとしてはらしくないやりようだとそんな事を。
「アイリスからの、強い要望でな」
「アイリスさん」
ユニエス公爵家は、アイリスが、他国から訪れた客人を持て成すことが出来ない。満足いくだけの、環境が提供できない。それを外に知らせるような真似を、何故するのかとオユキが口に出さずに問うてみれば。
「カナリアの手を、借りたいのよ」
「カナリアさん、ですか」
「他の翼人種では難しい、と言う事もないのでしょうけどユニエス公爵家にも、私にも伝手が今のところないのよ」
「それは、いえ、確かにそうなりますか」
確かに、今度の祭りの主役はカナリアとアイリスには違いない。特に、今回ある大きな祭りと言うのは豊穣祭。豊かな実りを願って、確かな実りを願って神々にと言う祭りなのだ。ならば、王都にも豊穣の加護を与えたアイリスが、助祭として、今後は司祭として雨乞い、降雨の祭りを執り行うカナリアにと言うのは理解もできる。他の翼人種にしても、行えない事は無いのだろうが、水と癒しの奇跡を持つカナリアはやはり少々特別だ。アイリスの言い分は、確かにわかる。それが必要なのだと、そうアイリスが言い出す気持ちも分かる。
「ですが、言われればカナリアさんをとすることも」
「それなのだがな」
カナリアに頼んで、ユニエス公爵家に向かってもらっても構わなかったのだ。
「それが色々と難しくてな」
「難しい、ですか」
「その方が、あの者に預けた物が多すぎる」
「いえ、そのあたりは、それこそ」
そう、マリーア公爵が間違いなく法と裁きの介在を得る形でなh荷が鹿の手は打っているはずなのだ。確かに、短杖、馬車、門の行先を切り替える。それから、恐らく残っているあと二つ。それらの魔術の全てを、カナリアは手に入れている。なんとなればそれぞれの魔術文字を使って、さらなるものを。他にも色々とできるだろうと考えて、日々研究に打ち込んでいる。神国に戻ってからは、銀をいくらでも使っても良いとその環境が改めて提供されているからだろうか。いよいよ、オユキと共に机に並んで魔道具を作る時間以外は食事時にも陸に顔を合わせることがないほどだ。彼女の面倒を見ているイリアにしても、メリルにしても手のつけようが無いと言わんばかり。両者ともに、すっかりとあきれた様子でいつもの事だと言い出す始末。そんな相手に、ユニエス公爵家に出向けといえば抵抗はされるかもしれないのだが、今の研究環境をそっくりそのまま運ぶといえば、抵抗も無いだろうとオユキは同じ穴の狢として考えてはいる。
「流石に、私としても」
「それは、いえ、そういう事もありますか」
確かに、セラフィーナにカナリアにと。家から陸に外に出ない者たちを囲っているのだと、そう見える形になる事はアベルにしても飲めないと言う事なのだろう。
「その、アイリスさんとのことは」
「内々には決まっている、そのはずよ」
「その方が、きちんと国元に連絡を取っていたのならばな」
「あの、アイリスさん」
そもそも、アベルとアイリスの間では、既に決まっていることがある。ならば、それをまずは公表して。トモエとオユキがそうしているように。だが、アベルの言では、それも今は難しいという事らしい。それも、アイリスに原因がある物として。アベルにしても、かなり難しい立場であることには違いない。だが、それでも先に進むためにと色々と手を打っているらしい。随分と前向きになったものだと、喜ばしく思う反面。
「一応、話はしているのよ」
そして、アイリスとしては一応そうしたことも行ってはいるのだと。ただ、重々しい溜息が、どうにも。
「私が婚姻、その、形の上であればまず問題ないのよ」
「ええと、形の上で、ですか」
これはまた、よく分からぬ話をとオユキは首をかしげるしかない。
「そのあたりは、私たちの種族の習慣だから色々と分からぬものもあるのでしょうが、何よりも祖霊様に認められなければならないのよね」
「それは、あの、かなり難しいのでは」
正直なところ、アイリスの祖霊に認められよというのは、かなり難しい。始まりの町で加護を願ったときにしても、それを超えられる範囲でとされたうえでも、かなりの、限界までの譲歩の上でようやく一筋の傷をつけただけ。これが、お気に入りの相手をよこせとそういう話になった時に、一体どれほどの物がそこにあるのかが分からない。
「アベルさんは、トモエさんが言うには前回はともかく」
「そう、なのよね」
陽炎に惑わされ、守りこそできはしたのだが攻撃が一切届くことが無かった。
「私に責があると、そのような風だな、その方ら」
「はい」
珍しくといえばいいのだろうか。オユキとアイリスの返答が異口同音に揃う。はっきりと、アベルの能力に不安があるのだから。
「以前、獅子の部族の方に対して、非常にわかりやすい一件もありましたから」
そう、祖霊が認めた、それ以上の事はいらないのだ。獣の特徴を持つ者たちにとっては。いや、花精にしても、どうやらそれに近しい物はあると、そう思い知らされたこともある。要は、そうした存在に、こちらには確かに存在する柱の数々。それらが与える試練、それを乗り越えた物に。試練を与える、それも愛情を示す一つの形とでもいえばいいのだろうか。
「ただ、どういえばいいのでしょうか」
オユキとしては、そのようなあり方に少々疑問とでもいえばいいのだろうか、思う所がある。
「なんと言いますか、不便と言いますか」
どうにも、オユキとしてはあまりに経験が不足しているために言語化も難しいのだが、面倒なとそう感じる物なのだ。だが、そんな感情が正しく伝わっているからだろう。周囲から揃って、一体お前がその様な事を言えたものかとそんな視線が寄せられる。だが、いよいよもってオユキにその心当たりはないのだから。
「あら、そうでも無いと思うのだけれど」
公爵夫人から、今後の予定の確認と言う名の、一先ず決まっている予定の共有が終わり。夜半には悩むトモエとの話し合いを終えて翌日。ユニエス公爵家から、正式にアベルが訪れることもあって、ファンタズマ子爵家一同迎える体制をとったまではよかった。勿論、顔見知りではあるし、これまでも度々一つ屋根の下で暮らしていたことのある相手。気安さはあれど、正式な手続きの下に向かってきた以上はやはり公爵として遇さねばならぬ。それが礼節という物でもある、そう考えての事ではあった。
トモエが今も侍女たちの指揮を執って、家の中で準備を整えている。最も、詳細はあくまで侍女たちに任せた上でトモエが行っているのは簡単な方針の提示でしかないのだが、オユキが扉の外に迎えに出ている以上はうちにも責任者が必要となる以上は。屋敷の門前、各公爵家は優先して配布されているのだろう新しい馬車、明らかに降ろされる積み荷と外観が一致しないため実に分かりやすい馬車が付けられ。そこから、公爵夫人から聞いた内容よりも、少々過剰な量と思える荷物が降ろされるのを見て、オユキは思わず首を傾げた。そして、何やら疲れた様子のアベルとセラフィーナが連れ立って居りてきた時点で、疑念がはっきりとよぎった。挙句の果てには、何やらすまし顔のアイリスが馬車から降りてきたことで確信に。その時点で、責めるような視線が、シェリアからアベルに向けられてはいたのだが、オユキが確認するべきは彼では無いとアイリスに声をかけてみたのだが、どうやらけむに巻くつもりであるらしい。
「アベル様の同意は、勝ち得ている様子ではありますが」
「ええ、ならば、わかりますねファンタズマ子爵家当主、オユキ」
「公爵夫人からは、昨夜何も伺っていないのですが」
オユキが、アベルに一応は軽傷を付けたからだろう。当主なのだから、役職をつけて呼ぶのが正しくはあるのだがそれが許されるくらいの物は、互いに既に積み上げているだろうと。何よりも、今も着々と降ろされる積み荷、明らかにアイリスがこちらに引っ越す気だと分かる荷物たち。それらを見ていると、どうにもこのアベルと言う人物に釘を刺したいというよりも。
「一応、伝えはしたのだがな」
「冗談と捕らえる、事は無いでしょう。となると、公爵夫人にしても判断に迷ったと言う事ですか」
事前の連絡が全くなかった、それは流石にどうなのだろうか。一応は、間に一つ国を挟んでいるとはいえ、一国の姫と扱わなければならない人物だ。そんな人員を、何故一子爵家にと、そんな疑問はある。そして、あのマリーア公爵が認めるだけのと言うよりもオユキに伝えぬ様にとするだけの判断が働いた理由は。オユキが、そうしたことを考えながらも、アベルに向けて。
「で、あればとは思いますが」
「実利的な部分もある、そう言われてしまえばな」
「一応、当家にはトモエさんもいるのですが」
確かに、性別と言う面では、圧倒的に偏っているファンタズマ子爵家ではある。勿論、護衛としてつけられている騎士のほとんどが男性。総数で見れば、確かに女性陣が少し多いとそうなる程度なのだが、実際の屋敷の中では、ほとんどが女性だ。今は、カリンにヴィルヘルミナとて同じ屋敷で暮らしている。そして、それぞれに身の回りを見る人間が付いている。屋敷の中で明確に仕事を持つ人員で、男性なのはアルノーと彼の抱える丁稚のうち二人ほど。あとは、この屋敷で、主人がおらぬ間にも管理の為に置かれる人員の為に料理を提供する者達くらい。如何に数が少ないとはいえ、確かにそうしたことを勘ぐる者たちに餌を与えることになるのだと。
「わかってはいるのだがな」
そして、そうしたうわさが出たときに、そんなつまらぬことを言い出した者たちにオユキが向けてしまう感情がどのような物か。既に周囲に気が付いている物も多いだろう、今もはっきりと不機嫌を隠せもしないオユキ。アイリスにも、勿論そうした物がしっかりとむけられてはいるのだが。
「始まりの町であれば、まだしも。ここ王都でも、ですか」
そう、始まりの町であれば、あの、長閑な町であれば。勿論、時折訪れる他から来る貴族たちもいるにはいる。だが、そうした相手に対しては言い訳として使える物が存在している。要は、アベルが、ユニエス公爵も同じ屋敷に暮らしているのだからと。だが、こちらではそうもいくまいと。アベルが、露骨な時間稼ぎを、要は荷物を全部降ろしてしまえば運ばざるを得ないだろうと、そんな様子を見せている。それに対しても、オユキとしてはらしくないやりようだとそんな事を。
「アイリスからの、強い要望でな」
「アイリスさん」
ユニエス公爵家は、アイリスが、他国から訪れた客人を持て成すことが出来ない。満足いくだけの、環境が提供できない。それを外に知らせるような真似を、何故するのかとオユキが口に出さずに問うてみれば。
「カナリアの手を、借りたいのよ」
「カナリアさん、ですか」
「他の翼人種では難しい、と言う事もないのでしょうけどユニエス公爵家にも、私にも伝手が今のところないのよ」
「それは、いえ、確かにそうなりますか」
確かに、今度の祭りの主役はカナリアとアイリスには違いない。特に、今回ある大きな祭りと言うのは豊穣祭。豊かな実りを願って、確かな実りを願って神々にと言う祭りなのだ。ならば、王都にも豊穣の加護を与えたアイリスが、助祭として、今後は司祭として雨乞い、降雨の祭りを執り行うカナリアにと言うのは理解もできる。他の翼人種にしても、行えない事は無いのだろうが、水と癒しの奇跡を持つカナリアはやはり少々特別だ。アイリスの言い分は、確かにわかる。それが必要なのだと、そうアイリスが言い出す気持ちも分かる。
「ですが、言われればカナリアさんをとすることも」
「それなのだがな」
カナリアに頼んで、ユニエス公爵家に向かってもらっても構わなかったのだ。
「それが色々と難しくてな」
「難しい、ですか」
「その方が、あの者に預けた物が多すぎる」
「いえ、そのあたりは、それこそ」
そう、マリーア公爵が間違いなく法と裁きの介在を得る形でなh荷が鹿の手は打っているはずなのだ。確かに、短杖、馬車、門の行先を切り替える。それから、恐らく残っているあと二つ。それらの魔術の全てを、カナリアは手に入れている。なんとなればそれぞれの魔術文字を使って、さらなるものを。他にも色々とできるだろうと考えて、日々研究に打ち込んでいる。神国に戻ってからは、銀をいくらでも使っても良いとその環境が改めて提供されているからだろうか。いよいよ、オユキと共に机に並んで魔道具を作る時間以外は食事時にも陸に顔を合わせることがないほどだ。彼女の面倒を見ているイリアにしても、メリルにしても手のつけようが無いと言わんばかり。両者ともに、すっかりとあきれた様子でいつもの事だと言い出す始末。そんな相手に、ユニエス公爵家に出向けといえば抵抗はされるかもしれないのだが、今の研究環境をそっくりそのまま運ぶといえば、抵抗も無いだろうとオユキは同じ穴の狢として考えてはいる。
「流石に、私としても」
「それは、いえ、そういう事もありますか」
確かに、セラフィーナにカナリアにと。家から陸に外に出ない者たちを囲っているのだと、そう見える形になる事はアベルにしても飲めないと言う事なのだろう。
「その、アイリスさんとのことは」
「内々には決まっている、そのはずよ」
「その方が、きちんと国元に連絡を取っていたのならばな」
「あの、アイリスさん」
そもそも、アベルとアイリスの間では、既に決まっていることがある。ならば、それをまずは公表して。トモエとオユキがそうしているように。だが、アベルの言では、それも今は難しいという事らしい。それも、アイリスに原因がある物として。アベルにしても、かなり難しい立場であることには違いない。だが、それでも先に進むためにと色々と手を打っているらしい。随分と前向きになったものだと、喜ばしく思う反面。
「一応、話はしているのよ」
そして、アイリスとしては一応そうしたことも行ってはいるのだと。ただ、重々しい溜息が、どうにも。
「私が婚姻、その、形の上であればまず問題ないのよ」
「ええと、形の上で、ですか」
これはまた、よく分からぬ話をとオユキは首をかしげるしかない。
「そのあたりは、私たちの種族の習慣だから色々と分からぬものもあるのでしょうが、何よりも祖霊様に認められなければならないのよね」
「それは、あの、かなり難しいのでは」
正直なところ、アイリスの祖霊に認められよというのは、かなり難しい。始まりの町で加護を願ったときにしても、それを超えられる範囲でとされたうえでも、かなりの、限界までの譲歩の上でようやく一筋の傷をつけただけ。これが、お気に入りの相手をよこせとそういう話になった時に、一体どれほどの物がそこにあるのかが分からない。
「アベルさんは、トモエさんが言うには前回はともかく」
「そう、なのよね」
陽炎に惑わされ、守りこそできはしたのだが攻撃が一切届くことが無かった。
「私に責があると、そのような風だな、その方ら」
「はい」
珍しくといえばいいのだろうか。オユキとアイリスの返答が異口同音に揃う。はっきりと、アベルの能力に不安があるのだから。
「以前、獅子の部族の方に対して、非常にわかりやすい一件もありましたから」
そう、祖霊が認めた、それ以上の事はいらないのだ。獣の特徴を持つ者たちにとっては。いや、花精にしても、どうやらそれに近しい物はあると、そう思い知らされたこともある。要は、そうした存在に、こちらには確かに存在する柱の数々。それらが与える試練、それを乗り越えた物に。試練を与える、それも愛情を示す一つの形とでもいえばいいのだろうか。
「ただ、どういえばいいのでしょうか」
オユキとしては、そのようなあり方に少々疑問とでもいえばいいのだろうか、思う所がある。
「なんと言いますか、不便と言いますか」
どうにも、オユキとしてはあまりに経験が不足しているために言語化も難しいのだが、面倒なとそう感じる物なのだ。だが、そんな感情が正しく伝わっているからだろう。周囲から揃って、一体お前がその様な事を言えたものかとそんな視線が寄せられる。だが、いよいよもってオユキにその心当たりはないのだから。
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