憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
960 / 1,235
28章 事も無く

オユキの知らなかったこと

しおりを挟む
随分と、そう、随分と。オユキとしては、そのあとに続く言葉が多く、そこから先になかなか思考が進みはしない。かつては、周囲にそういったうわさがあったことを、オユキとしても理解していた。それがトモエの耳に届いては困ると、確かに考えてもいた。正直なところ、ミズキリという旧い知り合いが用意していた手段の中で、最も気に入らないと考えていたのが、それでもある。だが、実態に関しては、オユキの知らぬ間に随分と。

「オユキさん、機嫌を直しませんか」
「報告をしなかったと考えておられるようですが、あくまで私的な交流でしたし」

先程まで不機嫌だったトモエ、そのはずなのだが今は拗ねるオユキをどうにかあやして。オユキも、機嫌が悪いのかと言われれば、確かにそうだと自覚もある。要は、己のすぐそばにいると考えている相手、仕事と、私的な時間とを分けているつもりだった関係。それがオユキの知らぬ場で、しっかりと交流があったらしいという、ただその事実。そして、話してくれても良かったではないかと、そんなことを考える自分がいる反面。どうして気が付かなかったのかと。思い返してみれば、確かに随分話が早いなと、そう思う場面が多くあったものだ。それこそ、長期の出張がある時に、どうしてもそうした予定と言うのは事前に決まりはするのだが、行うために、それに向かうためにオユキが熟さなければならない事と言うのがとにかく増える。決定される日程にしても、いよいよオユキのほうで準備が整うのを待って等と言う場面も実に多かった。だからこそ、日程の相談と言うよりも、こうした日程に決まったとそうトモエに伝えるのが遅れる場面と言うのも多かった。だというのに、不満が無いどころか、オユキでは足りない準備などをトモエが当然としてくれていた。さて、己は、詳細な日程を、これから向かう先を話しただろうかと。僅かに疑問を持ちながらも、トモエであれば、それくらいはしてくれるのだろうとただ盲目に。ユーフォリアに日頃の感謝を伝えようと、贈り物を考えていた時。それが当然とばかりに、トモエが相談に乗ってくれたこともあった。と言うよりも、ほとんどトモエに任せることになった。

「気が付かず、いえ、疑っていなかったかと言えば、嘘なのでしょうが」

オユキの、かつてのオユキの振る舞いを、全く。揃って随分と理解していると思えば、そこにはきちんと理由があっての事だったらしい。疑いを、確かに一時期向けたことはある。だが、それにしても結局は特定に至る事無く。また、そうであれば、それでもかまわぬとかつてのオユキは考えて。しかし、そういった部分までを含めて掌の上、そうした流れがあったというのなら。今更ながらに、羞恥に襲われて。

「本当に、今も昔も甘やかされていたものだと」
「それは、確かにそうなのでしょうが」
「オユキ様をそうすることに、特に問題はありませんでしたから」
「ユフィは、その、様付で呼ばれるのは」

そして、そうした教育を受けて、そう振る舞う事を当然としたからだろう。だが、オユキからしてみれば、やはりその敬称に慣れていないのだと。

「では、私的な場ではそのように」
「後は、トモエさんもですが、本当に」
「ええ、オユキさんは気にしていなかったのでしょうが、仕事中にも色々と連絡を頂いていましたよ」
「トモエ様」

それは、話さない約束ではなかったかと言わんばかりに。

「既に過去の事ですし」
「現に、オユキ様がそれでこのように苛まれていますが」
「可愛らしいでしょう」

トモエは、基本的にオユキに対して何かにつけて、こうした発言を繰り返す。そうした姿を、オユキとしても可愛いとそう感じているのだが。ユーフォリアの中では、トモエよりもやはりオユキが上にいるのだろう。そこは、仕方が無い物として諦めるべきことではあるのだが。

「ユフィ」
「こればかりは、オユキ様の指示とあっても」

ただ、オユキとしてはトモエに重きを置いてくれと、そう頼んだところで返ってくる答えは理解が出来ている。ユーフォリアにとって優先する対象は、オユキ。トモエは、オユキの安定の為にいる。その思考が根底にあると、それを隠しもしない以上は色々と難しい事であるのは事実。そして、他の者たちにしても、この世界の、現状のこの世界の仕組みになれている者たちにしても。家督を持つ存在を優先する、それが間違い用の無い美徳ではあるのだから。オユキが、そうでは無いのだと、意思決定はトモエが基本的に行っているのだとそれを示してきた。そうした、どうにか繰り返した努力の結果として少しづつ認識が変わってきていたものだ。ここ暫くは、今回に関しては実に顕著に。オユキではなく、トモエにつけられている侍女の数が増えた。勿論、オユキが側仕えと言えばいいのだろうか。基本的に習うべきとされた相手として、エステールを頼んだこともある。だが、それを頼んだところで何も彼女は近衛ではない。そんな能力を持っていない。だからこそ、という物でもあるのだが。
オユキの理解の範囲、シェリアにも確認したこととして。王家からつけられている近衛にしても、トモエに比重を置いた配置になっているのだと、そうした話。公爵家からつけられている騎士たちにしても、オユキを基本としてトモエも余力があればとそういった構えだったのが、今ではきちんと等分に。状況は改善されている。改善されていた。だが、ここでユーフォリアが、散々に信頼を寄せていると口にした相手が、それを行ってしまっては。オユキの不安と言うのは、そこに尽きる。

「御心配には、及びませんとも。及ばせんとも」
「ですが」
「もう、十分な理解はあるでしょう。無いというのであれば、ええ、私がそのように」

トモエに万が一があれば、オユキはいよいよどうなるか分かったものではないのだぞと。

「そのために、得た魔術もありますから。奇跡とて、与えられてもいます」

その言葉は、確かに頼もしいとそう思えるものではある。ただ、オユキとしては、はっきりと不安を感じる部分もある。昨夜、ユーフォリアが宣誓を行った先、それがやはりはっきりと気がかりなのだ。

「オユキ様は、いえ、トモエさんも、ですか。はい、ご明察の通りに」
「あの、本当に大丈夫なのですか。正直、こちらにおけるその柱は」
「ええ、生前と比べて、あまりにも自動的ではあります。ですが、そうした部分を理解して振る舞うのであれば、やはり問題は少ないのです」

そして、軽く微笑んで見せるユーフォリアに。それについて、信頼しているのだと、それをもはや疑う事が無いといった様子のトモエに。オユキも勿論気が付くところがある。
これまで、そこまで強大な権能を持つ柱だというのに、認識できている柱だというのに。この世界の教会で、神殿で、その柱の姿を見た記憶がオユキに無い。ならば、その柱は以前に聞いた裏層、この平面世界の裏側に存在する柱。そして。

「ユフィは、裏層にいたのですね」
「はい。どの程度の長さかと言われれば、また色々と難しいのですが」
「それは」

そして、ため息交じりにオユキが口にした言葉は、ただ肯定される。

「ミズキリも、でしょう」
「はい。しばらくの間は、手伝う羽目になりました」

それがどういった場所であったのか、戯れに尋ねてみてもいいだろうかと。そんなことをオユキはわずかに考える。だが、トモエが何も言わずに首を振る以上は、既に昨夜試して終わったことなのだろう。要は、それを聞かせることなど、できないのだと。そして、ユフィが奇跡として知識と魔を上げていない以上は、教示の奇跡を望むべくもない。

「魔国の王妃様でも」
「そう、ですか」

ならば、頼める先はつい最近できたはずだと、そう考えたのだがそれもすぐに否定される。そして、いまさらながらに色々と気が付くところも出てくる。

「つまりは、ミズキリもと、そういう事ですか」
「ええ。あの男は、望んだことがあまりにも大きく、過剰であると判断されて」
「一応、こちらの神々の願いと言いますか」
「それに沿うのは、あくまで基本方針でしかありません」

つまりは、ミズキリのほうでどの時点に、事によれば門をどこに作るのか、それすらも考えていると言う事らしい。厄介な事だと、確かにそう感じる。そして、それを聞き出すことも難しいのだと、そうした理解も進む。ただ、やはりミズキリよりもユーフォリアのほうが色々と分かりやすくはある。難しい範囲なのだろうが、それすらもミズキリの計算の範囲なのだろうが。ユーフォリアであれば、口にしなくとも伝わる内容と言うのは、やはりミズキリよりも多い。そこには、色々と多くの差があるには違いない。だが、オユキに対して特別とできることが多い、それがこのユーフォリアでもある。過去の流れ、そこに合ったもの。どうやら、トモエとの間でもしっかりと過去に関係をはぐくんでいたらしい。

「まぁ、良いでしょう。ユフィは、ミズキリの考えと言うのが、私にとってうれしい物だとそう考えているのが分かっただけでも、一先ずは良しとしておきましょう」
「ええ。確かにあの男は悪辣です。人を人と思わない、歯車、機械の部品と考える事を、計画を動かすための駒だと考える癖は変わっていません」

ユーフォリアからの評価にしても、基本的にはオユキの評価と変わらない。だが、生前に話を振ってみたときには、もう少し、どういえばいいのだろうか。オユキとしては、なかなかに言葉を探すのにも難儀するような、そうした感情を確かに感じた。だが、今それがない以上は、最低限と言ってもよいだけの、過去のオユキがそうであったような、そうした割り切りを行えたのだろう。そう、オユキは考えたのだが。

「それにしても、かつては止められたものですが、習っておけばよかったですね」
「あの、ユフィ」
「ええ、こちらに来て、あの男の下にとなった時に、私は既に十分だと思えるだけを」
「とすると、私が行うのも、問題ないとそう言う事ですか」

どうやら、過去に散々に抱えた物を既に生産したからこその、今の感情であるらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~

釈 余白(しやく)
ファンタジー
「お前みたいな役立たず、俺たちSSSSパーティーにはふさわしくない! もういらねえ、追放だ!」  ナロパ王国で長らくマッパーとして冒険者稼業をしているエンタクは、王国有数の冒険者パーティー『回廊の冥王』から突然の追放を冷酷に告げられ王都を去った。  失意の底に沈んだエンタクは、馬車に揺られ辺境の村へと流れ付いた。そんな田舎の村で心機一転、隠居生活のようなスローライフを始めたのである。  そんなある日、村人が持ちかけてきた話をきっかけに、かつての冒険者経験を生かした観光案内業を始めることにしたのだが、時を同じくして、かつての仲間である『回廊の冥王』の美人魔法使いハイヤーン(三十路)がやってきた。  落ち込んでいた彼女の話では、エンタクを追放してからと言うもの冒険がうまくいかなくなってしまい、パーティーはなんと解散寸前になっているという。  当然のようにハイヤーンはエンタクに戻ってくるよう頼むが、エンタクは自分を追放したパーティーリーダーを良く思っておらず、ざまぁ見ろと言って相手にしない。  だがエンタクは、とぼとぼと帰路につく彼女をそのまま放っておくことなどできるはずなかった。そうは言ってもパーティーへ戻ることは不可能だと言い切ったエンタクは、逆にハイヤーンをスローライフへと誘うのだった。 ※各話サブタイトルの四字熟語は下記を参考にし、引用させていただいています goo辞書-四字熟語 https://dictionary.goo.ne.jp/idiom/

人間不信の異世界転移者

遊暮
ファンタジー
「俺には……友情も愛情も信じられないんだよ」  両親を殺害した少年は翌日、クラスメイト達と共に異世界へ召喚される。 一人抜け出した少年は、どこか壊れた少女達を仲間に加えながら世界を巡っていく。 異世界で一人の狂人は何を求め、何を成すのか。 それはたとえ、神であろうと分からない―― *感想、アドバイス等大歓迎! *12/26 プロローグを改稿しました 基本一人称 文字数一話あたり約2000~5000文字 ステータス、スキル制 現在は不定期更新です

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

処理中です...