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28章 事も無く
食後に
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オユキは、無理をした。
自身に、はっきりとその自覚がある。体が動かぬこともさることながら、気分の悪さと言ってしまえばいいだろう。ともすれば胃の腑からせりあがる物を、そのまま口からとあまりに不愉快な感覚を感じる。本来であれば、食後の時間はトモエと過ごす時間。それを楽しみにしている、二人で楽しむための時間だというのに。
「無理に食べるからですよ、オユキさん」
「なんという事でしょう」
アルノーを厨房から連れ出した。話すべきこと、そうオユキが考えた物を話すためにと、彼を準備するための時間から離してしまった。その結果と言うばかりでもないのだが、オユキが決意を新たにしたこととして、改めて己の望んだことに対して必要だと思う事を行おうとした結果として。言ってしまえば、今は食べすぎたという事実と、これまではきちんと避けていた脂の強い肉であったりを食べた結果として。今はしっかりと寝台で横になって、襲い来る過食の反動と戦っている。戻してしまえば、体の拒絶反応に逆らわず、従ってしまえば楽になると分かってはいるのだが。
「流石に、これを連日と言いますか」
「嫌悪感を持ってしまえば、元も子もありませんよ。ただでさえ、既に苦手なのですから」
毎食このような事をしてしまえば、結果として待っているのはそれはもうどうにもならない結末だ。今は脂の強い肉だけで済んでいる苦手意識が、嫌悪感に変わる。そして、その矛先は勿論他にも向かいだすだろう。その先に待っているのは摂食障害でしかないと、トモエはそう判断している。
「マルコさんに、少しお願いしてみましょうか」
「その、以前は問題が無いのならと」
「私たちのほうでも、前提となる知識を多少なりとも得たわけですから」
「それは、確かに」
そう、前回はこちらに来たばかりのころ。そこでしか、マルコに話を聞いていない。教示の奇跡、それ以外にもカナリアとの話し合いの中で得た知識。こちらの世界に対する、理解度とでもいえばいいのだろうか。実感として得られるもの、また、日々の活動で間違いなく蓄積していっただろう自覚の無い物。
「あの町には、いつ頃戻りましょうか」
「今暫くは、難しそうです」
結局のところ、トモエとオユキがこうして王都でのんびりとしているのも、豊穣祭を待っているから。その期間位、あの長閑な町に戻らしてくれても構わないのではないか、そんな思考もトモエからは確かに出てくる。ただ、そちらに一度となってしまえば、今度は領都に顔を出さなければならない。これについては、マリーア公爵の麾下であるため、それを避けるというのが、非常に難しいのだ。そして、門が未だに置かれていない領都、そちらとの往復を行うのであれば、のんびりと時間を使うことなどできはしない。
「オユキさん」
「戻りたくはあります。ですが、今そうしてしまえば間に合わぬことが増えます」
「であれば」
「それは、そうなのですが」
ならば、王都に足を運ばなくても良かったのではないか。トモエの言葉は確かに至極もっとも。そして、オユキはトモエも重々知っているようにこの王都での生活を好んでいない。生前は、それこそやむを得ぬ事情もあり、都会の喧騒からは相応に遠い場所に居を構えていたものだが、結果としてオユキが通勤に費やす時間と言うのは相応に長かった。しばらくする頃、それこそミズキリと共に新しく起こした会社で最初期に働いていたころなど数日戻ってこない日もあったものだ。しばらくして、自分で運転ではなく、運転手という存在が、秘書と呼ばれる立場の者が付けられ始めてからは、そういったことも無くなりはした。
「王都には、やはり一度よらなければならなかった、その理解は」
「不本意ではありますが」
「今回の事が、一応は国事である、それがとにかく問題と言いますか」
さて、トモエの機嫌を損ねぬ様に、過去にも度々あった様に。だが、それを間違いなく行おうと考えれば考えるほどに。オユキにとっては、今の体調がどうしても足を引っ張る。考えようにも、思考を千々に乱す不快感が、今もオユキを苛んでいるのだ。そして、そんな様子のオユキに気が付いたから、と言う訳でもないのだろう。オユキとこうして過ごす時間、それを楽しく思うからこそ、楽しい物にしたいからこそ。トモエが早々に、矛先を納める。過去から変わらず、こうしたオユキの悪癖はトモエの望むものではないのだぞと、そうした意図を込めて軽くオユキの頬を抑えながら。
「鶏、ええと、卵の生産、ですが」
「そうですね、以前に鳥肉、鶏と分かる物があった様に思いますし、始まりの町でも」
「スパニッシュオムレツ、いえ、こちらであればトルティージャですね」
そう、オユキが食べようと思えば、もしくはそれを望めば。必要な量を確保することが出来るだろう、そんな素地は確かにある。市場にふらりと出てみれば、生憎と時間の問題なのだろうが、見かける事は確かにないのだが。それでも事前に、もしくは生産者に直接掛け合って、きちんと定期契約でも締結すれば間違いのない量が手に入るだろうと、それくらいはトモエも理解している。ただ、オユキが明言を避ける理由、それを選択しない理由と言うのにも。
「その、要求率でしたか」
「飼育効率でいえば、飼料以外も考慮すれば3を超えない範囲だったかと思いますが、そちらはさておき」
与えたエサと、その他の管理の為に与えるべきもの。そうした諸々と、得られる成果物とを徹底的に数字として。そんな話を苦手だろうに、トモエがしてきたからこそ。オユキは、己が覚えている範囲で。だが、そうした過去の統計学的な数値と言うのが、こちらの世界でも利用が可能かと言えば、当然そんな事は無い。だからこそ、オユキはそれは忘れる様にとそうした話をしたうえで。
「問題となるのは、管轄となる神々、それと加護が働いているのかどうか、その二点です」
「やはり、そこですか」
「ええ、こればかりは。正直なところを口にすれば」
そう。この世界における人、過去の世界にも存在して、今も変わらぬ特徴を備える存在。
「ヒトと呼ぶべきか、ホモ・サピエンスと呼ぶべきか」
「ええと、過去と変わらぬ、私たちの認識している霊長ですね」
「ええ。過去であれば、物質的には、道具が無ければ凡そ真ん中を超える事は無かったでしょうが、こちらでは」
「最底辺、でしょう」
そう、かつては霊長等と呼ばれた存在が、こちらでは本当に加護が無ければ、あったとしても凡そ他の全てに劣る種族でしかない。幸いにも、それで何か差別的な事を受けていると言う訳でもない。神国として、ヒトが問題なく暮らせるそんな場所もある。
「それこそ、月と安息が許しはしないでしょう」
オユキとしても、どれだけ気に入らぬ柱だろうが、そこから得られる恩恵と言うのはやはり否定できない。してはならぬと考えている。一応、と言えばいいのだろうか。ヒトが僅かなりとも優位に立てる場面と言うのが、数だろうと今後はそこで勝負ができるようにもなるだろうと。
「知識にしても」
「トモエさんに話したかは分かりませんが」
そして、この世界には、未だにトモエが出会っていない種族と言うのも存在している。オユキは把握している種族、その中でも過去には、ゲームとしての世界ではまさに知識と言う面でヒト等何するものぞとそうした存在もいたのだ。現に、今にしても、随分と長命な存在に、トモエがそのあたりを任せるオユキなどよりも遥かに優れた存在が周囲にいるではないかと。
「ハヤトさん、でしたか」
「ええ、薩摩隼人から名を頂いたのでしょうが、アイリスさんの語るその人物にしても、恐らくは数百年は前でしょう」
「本当に、途方も無いといいますか」
アイリスが、折に触れて零す言葉。彼女が、直接学んだと語るハヤトなる異邦人の流派。かつての世界で、間違いなく見様見真似、生兵法でしかなかったそれを、テトラポダで改めて伝えて。勿論、その過程で改めて見直すことも多かっただろう。伝える上で、工夫を凝らさなければならないことも多かっただろう。そして、アイリスが興味をもって、言ってしまえばトモエとオユキに起きたようなことが彼にも起こり。そして、確かに有用だと認められたらしいのだ。栄誉だと、確かにそう語られるようになったらしいのだ。だというのに、今は見る影も無いと、アイリスが諦念をあそこ迄持たなければならない程の何かが起こったのだと考えると。
「獣人ではなく、獣精でしたか」
「イリアさんの言によれば、ですが。ただ、納得がいくといいますか」
「そう、ですね。私たちは異邦人として、ですが、アイリスさんは間違いなく」
そう、祖霊に気に入られている。祭主として、部族に伝わる祭りを直接継承される立場。こちらに足を運んだ、獅子の部族に依る者たちが、随分と祖霊になじられていたことを思い返してみれば、本当に目をかけているのだと分かる、そんな獣の特徴を持っている存在。そして、どうにも、引き合わせようと考えて、あらかじめ置かれていたらしい、神々がそうなるようにと手を打っていたに違いない存在。
「ですが、そうした話は一度おいておくのが良いでしょう」
そして、そんな話を、わざと互いにそらした話をしていれば。
「何よりも、今は、今となってはオユキ様の体調を整えるのが先です。ええ、今となっては、トモエさん」
「本当に、よく気が付いてくださる方ですね」
「勿論、詳細は後ほど求めはします。私から説明させていただくこともあるでしょう」
それが当然とばかりに、ノックの音を響かせてのちは、室内からの呼びかけなど待つことも無く。
「オユキ様は、ご存じでしょうがトモエ様はお久方ぶりです。かつての名もありますが、こちらではどうぞユフィと」
ユーフォリア。かつてのオユキの秘書でもあり、同性であったトモエとの間に、かつてのオユキとの事について随分と細やかな連携を行っていた相手が。
「ユフィさんも、お久しぶりです。オユキさんは、やはり相変わらずですから」
「ええ、存じ上げていますとも。立場によって、変わらなかったものが高々世界を超えたところで変わるものですか」
随分と、長い事。待っていた相手、頼みたかった相手が。
「全く、つまらぬ仕事を随分と押し付けられはしましたし、今後も少々残務としてあるのでしょうが」
「いえ、それは、勿論」
オユキの側に、トモエの側に。それだけが望みなのだと、それを隠しもしない相手が。
自身に、はっきりとその自覚がある。体が動かぬこともさることながら、気分の悪さと言ってしまえばいいだろう。ともすれば胃の腑からせりあがる物を、そのまま口からとあまりに不愉快な感覚を感じる。本来であれば、食後の時間はトモエと過ごす時間。それを楽しみにしている、二人で楽しむための時間だというのに。
「無理に食べるからですよ、オユキさん」
「なんという事でしょう」
アルノーを厨房から連れ出した。話すべきこと、そうオユキが考えた物を話すためにと、彼を準備するための時間から離してしまった。その結果と言うばかりでもないのだが、オユキが決意を新たにしたこととして、改めて己の望んだことに対して必要だと思う事を行おうとした結果として。言ってしまえば、今は食べすぎたという事実と、これまではきちんと避けていた脂の強い肉であったりを食べた結果として。今はしっかりと寝台で横になって、襲い来る過食の反動と戦っている。戻してしまえば、体の拒絶反応に逆らわず、従ってしまえば楽になると分かってはいるのだが。
「流石に、これを連日と言いますか」
「嫌悪感を持ってしまえば、元も子もありませんよ。ただでさえ、既に苦手なのですから」
毎食このような事をしてしまえば、結果として待っているのはそれはもうどうにもならない結末だ。今は脂の強い肉だけで済んでいる苦手意識が、嫌悪感に変わる。そして、その矛先は勿論他にも向かいだすだろう。その先に待っているのは摂食障害でしかないと、トモエはそう判断している。
「マルコさんに、少しお願いしてみましょうか」
「その、以前は問題が無いのならと」
「私たちのほうでも、前提となる知識を多少なりとも得たわけですから」
「それは、確かに」
そう、前回はこちらに来たばかりのころ。そこでしか、マルコに話を聞いていない。教示の奇跡、それ以外にもカナリアとの話し合いの中で得た知識。こちらの世界に対する、理解度とでもいえばいいのだろうか。実感として得られるもの、また、日々の活動で間違いなく蓄積していっただろう自覚の無い物。
「あの町には、いつ頃戻りましょうか」
「今暫くは、難しそうです」
結局のところ、トモエとオユキがこうして王都でのんびりとしているのも、豊穣祭を待っているから。その期間位、あの長閑な町に戻らしてくれても構わないのではないか、そんな思考もトモエからは確かに出てくる。ただ、そちらに一度となってしまえば、今度は領都に顔を出さなければならない。これについては、マリーア公爵の麾下であるため、それを避けるというのが、非常に難しいのだ。そして、門が未だに置かれていない領都、そちらとの往復を行うのであれば、のんびりと時間を使うことなどできはしない。
「オユキさん」
「戻りたくはあります。ですが、今そうしてしまえば間に合わぬことが増えます」
「であれば」
「それは、そうなのですが」
ならば、王都に足を運ばなくても良かったのではないか。トモエの言葉は確かに至極もっとも。そして、オユキはトモエも重々知っているようにこの王都での生活を好んでいない。生前は、それこそやむを得ぬ事情もあり、都会の喧騒からは相応に遠い場所に居を構えていたものだが、結果としてオユキが通勤に費やす時間と言うのは相応に長かった。しばらくする頃、それこそミズキリと共に新しく起こした会社で最初期に働いていたころなど数日戻ってこない日もあったものだ。しばらくして、自分で運転ではなく、運転手という存在が、秘書と呼ばれる立場の者が付けられ始めてからは、そういったことも無くなりはした。
「王都には、やはり一度よらなければならなかった、その理解は」
「不本意ではありますが」
「今回の事が、一応は国事である、それがとにかく問題と言いますか」
さて、トモエの機嫌を損ねぬ様に、過去にも度々あった様に。だが、それを間違いなく行おうと考えれば考えるほどに。オユキにとっては、今の体調がどうしても足を引っ張る。考えようにも、思考を千々に乱す不快感が、今もオユキを苛んでいるのだ。そして、そんな様子のオユキに気が付いたから、と言う訳でもないのだろう。オユキとこうして過ごす時間、それを楽しく思うからこそ、楽しい物にしたいからこそ。トモエが早々に、矛先を納める。過去から変わらず、こうしたオユキの悪癖はトモエの望むものではないのだぞと、そうした意図を込めて軽くオユキの頬を抑えながら。
「鶏、ええと、卵の生産、ですが」
「そうですね、以前に鳥肉、鶏と分かる物があった様に思いますし、始まりの町でも」
「スパニッシュオムレツ、いえ、こちらであればトルティージャですね」
そう、オユキが食べようと思えば、もしくはそれを望めば。必要な量を確保することが出来るだろう、そんな素地は確かにある。市場にふらりと出てみれば、生憎と時間の問題なのだろうが、見かける事は確かにないのだが。それでも事前に、もしくは生産者に直接掛け合って、きちんと定期契約でも締結すれば間違いのない量が手に入るだろうと、それくらいはトモエも理解している。ただ、オユキが明言を避ける理由、それを選択しない理由と言うのにも。
「その、要求率でしたか」
「飼育効率でいえば、飼料以外も考慮すれば3を超えない範囲だったかと思いますが、そちらはさておき」
与えたエサと、その他の管理の為に与えるべきもの。そうした諸々と、得られる成果物とを徹底的に数字として。そんな話を苦手だろうに、トモエがしてきたからこそ。オユキは、己が覚えている範囲で。だが、そうした過去の統計学的な数値と言うのが、こちらの世界でも利用が可能かと言えば、当然そんな事は無い。だからこそ、オユキはそれは忘れる様にとそうした話をしたうえで。
「問題となるのは、管轄となる神々、それと加護が働いているのかどうか、その二点です」
「やはり、そこですか」
「ええ、こればかりは。正直なところを口にすれば」
そう。この世界における人、過去の世界にも存在して、今も変わらぬ特徴を備える存在。
「ヒトと呼ぶべきか、ホモ・サピエンスと呼ぶべきか」
「ええと、過去と変わらぬ、私たちの認識している霊長ですね」
「ええ。過去であれば、物質的には、道具が無ければ凡そ真ん中を超える事は無かったでしょうが、こちらでは」
「最底辺、でしょう」
そう、かつては霊長等と呼ばれた存在が、こちらでは本当に加護が無ければ、あったとしても凡そ他の全てに劣る種族でしかない。幸いにも、それで何か差別的な事を受けていると言う訳でもない。神国として、ヒトが問題なく暮らせるそんな場所もある。
「それこそ、月と安息が許しはしないでしょう」
オユキとしても、どれだけ気に入らぬ柱だろうが、そこから得られる恩恵と言うのはやはり否定できない。してはならぬと考えている。一応、と言えばいいのだろうか。ヒトが僅かなりとも優位に立てる場面と言うのが、数だろうと今後はそこで勝負ができるようにもなるだろうと。
「知識にしても」
「トモエさんに話したかは分かりませんが」
そして、この世界には、未だにトモエが出会っていない種族と言うのも存在している。オユキは把握している種族、その中でも過去には、ゲームとしての世界ではまさに知識と言う面でヒト等何するものぞとそうした存在もいたのだ。現に、今にしても、随分と長命な存在に、トモエがそのあたりを任せるオユキなどよりも遥かに優れた存在が周囲にいるではないかと。
「ハヤトさん、でしたか」
「ええ、薩摩隼人から名を頂いたのでしょうが、アイリスさんの語るその人物にしても、恐らくは数百年は前でしょう」
「本当に、途方も無いといいますか」
アイリスが、折に触れて零す言葉。彼女が、直接学んだと語るハヤトなる異邦人の流派。かつての世界で、間違いなく見様見真似、生兵法でしかなかったそれを、テトラポダで改めて伝えて。勿論、その過程で改めて見直すことも多かっただろう。伝える上で、工夫を凝らさなければならないことも多かっただろう。そして、アイリスが興味をもって、言ってしまえばトモエとオユキに起きたようなことが彼にも起こり。そして、確かに有用だと認められたらしいのだ。栄誉だと、確かにそう語られるようになったらしいのだ。だというのに、今は見る影も無いと、アイリスが諦念をあそこ迄持たなければならない程の何かが起こったのだと考えると。
「獣人ではなく、獣精でしたか」
「イリアさんの言によれば、ですが。ただ、納得がいくといいますか」
「そう、ですね。私たちは異邦人として、ですが、アイリスさんは間違いなく」
そう、祖霊に気に入られている。祭主として、部族に伝わる祭りを直接継承される立場。こちらに足を運んだ、獅子の部族に依る者たちが、随分と祖霊になじられていたことを思い返してみれば、本当に目をかけているのだと分かる、そんな獣の特徴を持っている存在。そして、どうにも、引き合わせようと考えて、あらかじめ置かれていたらしい、神々がそうなるようにと手を打っていたに違いない存在。
「ですが、そうした話は一度おいておくのが良いでしょう」
そして、そんな話を、わざと互いにそらした話をしていれば。
「何よりも、今は、今となってはオユキ様の体調を整えるのが先です。ええ、今となっては、トモエさん」
「本当に、よく気が付いてくださる方ですね」
「勿論、詳細は後ほど求めはします。私から説明させていただくこともあるでしょう」
それが当然とばかりに、ノックの音を響かせてのちは、室内からの呼びかけなど待つことも無く。
「オユキ様は、ご存じでしょうがトモエ様はお久方ぶりです。かつての名もありますが、こちらではどうぞユフィと」
ユーフォリア。かつてのオユキの秘書でもあり、同性であったトモエとの間に、かつてのオユキとの事について随分と細やかな連携を行っていた相手が。
「ユフィさんも、お久しぶりです。オユキさんは、やはり相変わらずですから」
「ええ、存じ上げていますとも。立場によって、変わらなかったものが高々世界を超えたところで変わるものですか」
随分と、長い事。待っていた相手、頼みたかった相手が。
「全く、つまらぬ仕事を随分と押し付けられはしましたし、今後も少々残務としてあるのでしょうが」
「いえ、それは、勿論」
オユキの側に、トモエの側に。それだけが望みなのだと、それを隠しもしない相手が。
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