憧れの世界でもう一度

五味

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25章 次に備えて

少年たちと

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「久しぶり」
「オユキちゃんたち、やっぱり来たね」

トモエとオユキの供え物が終わり、冬と眠り、雷と輝きからそれぞれに得たものを手に取れば。あとは他の供え物が、それこそこの神殿の主たる月と安息に向けた供え物があるからと早々に神殿内に存在している居住区へと少年たちと連れ立って。

「ええ、皆さんも、お元気そうで何よりです」

オユキとしては、てっきり少女たちは今も続く儀式と言えばいいのか、仕事場のほうの手伝いをするかと考えていた。だが、アドリアーナにしても色々と話したいことがあるのだとばかりにそわそわとし始めたため、ロザリア司教がいつもより少し柔らかい微笑と共に下がっていなさいとそうした話をすることになった。残念がるかと思えば、最初からこちらの可能性が高いとそう判断していたのだろう。特に不満を言い出すことも、そんな様子を見せることもなく。喜びを抑えて、早速とばかりにトモエとオユキをこちらへと案内してきたものだ。手を引かれるままについてきたトモエとオユキも、まぁ責任がないかと言われれば難しくはあるのだが。

「あんちゃん、なんか変わった服着てんな」
「一応は、オユキさんに合わせようと手配をしていた装束なのですが」
「あんま似合ってなくね」
「それは、言わぬが華という物ですよ」

シグルドのあまりにも率直すぎる感想に、トモエとしても苦笑いするしかない。そして、オユキのほうで与えられた功績。首飾りに使うとわかる少し大ぶりな雪の結晶は後に回し、髪に飾るのだとわかりやすい造り、簪として与えられた二股に分かれた少し大きめの櫛。飾りとして、オユキが刺繍したのだとそんなことを言っていたもののうち角板と針状の結晶がこちらもいくらか並んだ飾りがついている。そんな簪を、今はオユキに身に着けさせようと軽く髪を整えながら。

「皆さんは、なかなか大変な旅路だったとは思いますが」
「あー、まぁ、予定より時間はかかったな、確かに」
「ね」
「皆が言ってる死者の霊魂とか、私たちは全く見えなかったけど」
「おや」

オユキとしては、過去のこともあり見えないはずもないとそうした考えではあったのだが。

「あー、つっても、それだと逆に危ないって話だったからな」
「ああ。ローレンツ殿にも言われただろ、実際に見えない俺たちにしても、襲われてはいたらしいからな」
「えー、でも私たちの装備投げたときに、なんか跳ねてただけじゃない」

何やら、実に不可思議な体験をしたものではあるらしいのだが、正直その場を見ていないトモエとオユキからは何が言えるものでもない。ただ、ローレンツの判断は後で判断基準を聞いたうえで、結果として褒めることには違いないが、他に類似の例があるなら聞いておきたいと。

「とすると、皆さんとしては」
「いや、それがそうでもなくってさ」
「ね。」

話を聞いてみれば、そうしたホラーの存在が見えないだけであり、他の魔物はそうした存在が見えないからこそよく見えたと言う事で、斥候の役などを言いつかることもあったらしい。そこまで本格的なものというわけでもなく、この機会だからと頼んでいた者たちが気を効かせてくれたのだろう。今後も、間違いなくあちこちする子供たちだと。そして、しばらくの間は、機会があればトモエとオユキと一緒に行動するわけだからと。トモエとオユキに関しては、正直周囲全体を警戒しているにすぎず、斥候という意味では素人もいいところ。そうした部分の補佐をさせようと、心遣いは確かに感じるものではある。それを少年たちに、間違いなく知らせてはいないのだろうが。

「で、やっぱ結構めんどくさくってさ」
「ああ。正直苦手だ」
「でも、私たちだけで動くようになると、絶対に必要だって」
「確かに、皆さんだけで行動するのならば必須になる技能でしょうね。私たちも常々言っているでしょう」

そう。トモエにしろオユキにしろ。五人組のこの少年たちには、町の外では何かをするにつけて周囲を警戒しなさいと、誰かひとり自由に動ける人間を作って、常に気を配っている状況にしなさいとそうして話している。

「まぁ、そりゃそうなんだけど」
「でも、トモエさんみたいに、こう、全体を警戒とかじゃなくって、あれ、なんて言ってたっけ」

ひと月の間に、実に色々と言われて、しかし今はすぐに出てこないことであるらしい。短くはない期間ではあるのだが、やはり一つの事だけでなく複数のことを詰め込むには短い期間だ。そもそも、トモエにしてもオユキにしても。この子供たちの中では斥候に向いているのは、性格的な部分で見たときにセシリアとアドリアーナくらいだと踏んでいる。シグルドもパウも、やはりどこか勝気な部分があり目の前に魔物が現れればそちらにばかり気がとられる。アナのほうは、敵ではなく己の身うちにばかり意識を向けてしまう。セシリアは確かに目がいいのだが、それはどちらかと言えば集中が深まれば一つの物に完全に意識が傾くという欠点にもなる。視野が広いのはアドリアーナなのだが、この子はどちらかと言えば斥候のように前に出て必要な情報をというよりも、やはり受け身。

「なんか、色々聞いて、いろいろやってみたけど」
「うん。もう一度外に行けば、思い出せるかもだけど」
「あー、なんか神殿に来て、色々あったからやっぱり思い出せないよな」
「ああ、そのことですね。皆さんのおかげだったのでしょう、今回のことは」

さて、話がそちらの方向に向いたならと。

「本当に、ありがとうございます」
「こうして、オユキさんに対する助けも確かに得られましたから」

オユキに簪をつけ終えたトモエも、揃って頭を下げる。
本当に、助かるのだと。心遣いが、ただ嬉しいのだと。
一応、隣国の王妃からは、多少はオユキの助けになるだろう手立て、その話は聞かされている。しかし、王族として何かを与えるには、色々と、実に煩雑な手間がかかる。一応はオユキが門を持ち込み、アイリスが豊穣の加護を持ち込んではいるのだが、それに対する評価というのもなかなかに難しい。加えて、現状はオユキは神国の貴族でもあるため、オユキに対する礼品というのは、神国をやはり経由しなければならない。だからこそ、隣国に行くまではなかなか難しい。そして、弱り切ったまま連れて行くのはとそうした話もさんざんに出ているようで、なんだかんだと時間がかかったのはそれが理由でもある。

「あー、アンが言い出したことだからな」
「えっと、私が勝手にやったことだから」

何やら、気恥ずかし気にしてはいるのだが。

「ですから、繰り返しになりますが頂いた心配りに感謝を」
「正直、難度はそこまで高くならなかった、そう感じてもいますから。皆様のほうで、本当は得られたものもあったでしょうに」
「えっと、月と安息の女神さまにもお言葉をいただいたけれど、今回の事は私たちだけでってわけじゃないから」
「まぁ、な。なんか、色々言われたけど、俺らは俺らで今回はこれがいいって、そう思ったからさ」

本当に、性根の良い子供たちだと。つくづくそう思わされる。身につまされる。そんなことを、ふと考えたときに、やはり変わった気配が漂ったかと思えば。

「まぁ、あちらの事は姉さまに任せておけばいい物ね。あなたたちも、もしも自分のことを望んでいれば、やはり今回の物では不足があったものね」

そして、存在するだけで周囲に氷雪の存在を感じさせる、冬と眠りの神が顕れる。雷と輝きがいないのは、どうやら他のどこかへと既に向かったのか、それともこうして冬と眠りが降りるためにと力を使ったからか。装いは、オユキが供えた刺繍を早速とばかりに己の身に着ける衣服に反映して。今は揃いというよりも、こちらは小紋に長羽織姿。いよいよオユキと並べば、姉妹と言われても納得してしまいそうなそんな姿ではあるのだが。

「ああ、いいわよ、そんなにかしこまらなくて。私はこの国では姉さまに比べてしまえば、本当に力が無いもの」
「ですが、冬と眠りの女神様」
「あまり時間もないのよ。オユキに、今回の功績、その使い方を教えていなかったから、こうして一度降りてきたんだもの」
「そういえば、確かにお伺いしていませんでしたね」

助けになるための道具を与える、蓄えるだけではとそうした話は聞かされてはいたのだが、実際にどうせよとそうしたものは聞いていなかった。トモエにしても、装飾なのだからと助けになると言われているものであればオユキも身に着けるだろうと考えて、早速飾り立てていただけ。神職としての装いは、やはり髪をくくることを、髪に手を入れることを嫌う物なのか、以前のドレスを仕立てたときに合わせた髪飾りなども排されている。せっかくの千早姿でもあるのだし、もう少し、こう派手なといえばいいのだろうか。天冠などもと考えていたトモエとしては普段使いもしやすい簪はありと言えるのだがとそんな事ばかり。

「言葉では、まぁ、色々と難しいでしょうから」

そうして、冬と眠りがオユキに向けて実に紙らしいといえばいいのだろうか。意識の完全に外、気が付けばそれが当然であったと言わんばかりに突然に。

「そのまま、刻んでおくとしましょう。短い期間で、ええ、実によく色々と気をまわしたんだもの。私としても、流石に用意していた功績だけでは不足を感じるもの」

そして、軽くオユキの額に触れる。さて、それで何かが変わるのかと、そんなことをトモエもオユキも考えていたのだがやはり何が変わったとも早々わかるようなものではない。

「細かいところは、そこの木精の子に聞きなさい」
「とすると、種族としての物ですか」
「マテリアルとして、あなたは人だけれど力はそうでは無いもの」
「その、食事としてとるにも、オユキさんは周囲のマナで胸やけを」
「そっちは、それこそ整えなさいとしか私からは言えないわよ。どのみち、整えたものにしても食事として取り込めていないんだもの。」

あとは、忘れていたとばかりに4つほどの神像が与えられる。

「どこに置くかは任せるけれど、おじさまの教会と、おばさまの教会に間借りさせてもらうのがいいかしら」
「御身の像と、雷と輝きの神の像ですか」

さて、こうしてトモエとオユキに気軽に与えられたものだが、生憎と祀る手段を知らぬ。教会に預けるしかないのだろうが、それにしてもこうして指定された。ならば、領都と王都かとも考えるのだが、隣国にまもなく向かうことになるのだ。そちらにおいてもよいのではないかと、やはりオユキとしてはそんなことを考えてしまう。そして、伺いを立てようと思ったときには、そこに雪の結晶を人の目にも見える形で残して、冬と眠りはその姿を消していた。
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