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25章 次に備えて
目を覚ましても
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トモエはオユキから離れた後は、昨日の残りと言うのも憚られる食事をしっかりと食べた。精肉として残っていた物を、アルノーがこれまた器用に焼き上げた品を、過去であれば一度に食べることは出来ないだろう量を纏めて食べきった。トモエ自身、不思議だと思いながらも生前で有れば小食な者達を集めれば、十人程は賄えるだろうという量を纏めて。
翌朝には、やはりオユキが目を覚ますよりも早くトモエは目を覚まして。夫婦の寝室と言う扱いにされているため、流石に寝ている間は誰もこの部屋に入ってこないのだが、それでも扉の外、壁の向こうに人の気配を感じながら。体をゆっくりと伸ばして、オユキの目覚めを待つ。こうして、体調を崩せばやはりオユキの目覚めは遅い。その辺りは見た目相応と言えばいいのか、トモエとしては変わらず申し訳なさを覚える。
こちらに来るにあたって、トモエが無理を頼んでとした見た目。もしもがあれば、過去に何処までも残っていた未練として作った姿。それをオユキに、かつての己の夫に頼んだのは今から思い返してみても、己は一体どうした精神状態だったのかと。ただただ白い空間で、己の夫を待ち続ける時間を過ごした。それから解放された結果、そこで色々と話を聞いて過去に対しての想いが募ったからか。
眠るオユキを見て、常々そんな事を考えてしまう。オユキもそうであるように、トモエにも募る後悔と言うのはある。
体が逆であれば、オユキが生前の通りに今のトモエの姿を使えていたのなら。こんな事にはなかっていなかっただろうにと。
「オユキさん、目が覚めましたか」
いつものように身動ぎするのではなく、ただ呼吸が切り替わる。寝息から、少し深い流派としての呼吸法に。
「はい。ですが、昨日よりも体調が悪いように感じます」
「それは、大変ですね」
オユキが、不調を訴える為トモエも日々の柔軟を早々に切り上げて、オユキの横に。寝台から出る前にも、昨日よりも体調が悪そうだと、顔色が良くないとは感じていた。そして、今となっては開いた眼は少し潤み、頬にも朱がさしている。
「やはり、かなり体温も上がっていますね」
「そう、ですか。部屋を、こうして冷やしているのが良くないのでしょうか」
己の内に、フスカの炎は既に残っていないはずだとオユキは話すのだが、こちらの世界でも当然流行感冒というものは存在している。
「カナリアさんに一度見て頂いて、お薬を処方して頂きましょう」
「ええ」
目を開けているのもつらいのか、既に瞼も下りかけている。流石に、食事もとらせねばならないのだが、このまま一度眠るようであればまた起こしてと考え、額に当てていた手でそのまま瞼を下ろす。
「少し、寝ますね」
「ええ。食事の用意が出来れば、また起こしますから」
「お願いします」
そうとだけ答えて、オユキはまた寝息を立てはじめる。一先ず胸は規則的に上下しており、以前ほど苦しんでいる様子もない。ならば、一先ずは安心が出来ると考えて、己の不安の一度切り捨てる。
「シェリア様」
部屋の外にいる。それは既に分かっている、相手に対して改めて呼びかける。なんだかんだと、トモエにしてもオユキにしても、互いに話す時に他に聞かせたくない事、あまり周知するような事ではないと考えるものは少し声を潜める。しかし、こうして相手を呼ぶ時には、改めて声を少し張って。
「お呼びでしょうか」
「聞いていたかとは思いますが、オユキさんがまた体調を崩していますので、カナリアさんに」
「畏まりました、直ぐに」
トモエにとっての大事だと、シェリアの対応も早い。直ぐにナザレアと入れ替わり、今度はナザレアがオユキの様子を見た上で、トモエが看病できるようにと側に必要な道具を揃えていく。水桶に、体をふくための布、オユキの着替え等一体いつの間に用意していたのかとも思うのだが、そうした道具が準備される。用意がいいと、そう褒めつつも本当に侍女と言う存在が有難いものだとつくづく。
「トモエ様、オユキ様の様子は」
「発熱があったのと、恐らく本人にも自覚はあるでしょうがはっきりとそれを自覚する程度には」
「発熱ですか」
それは困ったとばかりに、ナザレアが額に軽く手を当てている。苛立っている時には、オユキは気が付いていないのだろうが少し目を細めて、角に触ることも多い為そうでは無いと実にわかりやすい。侍女としての教育を受けているのであれば、わざとそうした振る舞いをしている可能性もあるにはあるのだが。
「カナリアさんですか」
「どうやら、そのようですね。シェリアが連れてきたようです」
分かりやすい気配が、近づいてくる。ここ暫くの事で、トモエとしても色々と分かるようになったことがある。どうにも、個々人が持つ圧と言えばいいのだろうか。魔物の強さを恐らく図るための指標、そう感じている物。それが、どうにも他にも適応され始めている。魔物の資料を狩猟者ギルドで預かった時にも、これまでは認識できていなかったらしい箇所、随分と大きく文字を書くものだと、オユキとそんな事を話していたのだがそこにも多分に感覚的な、淀みとして描かれている値がある。氾濫に至る指標として、諮ることができるとは聞いていた値なのだが、魔物単体にも振られているとはトモエとしても考えていなかった。
恐らくは、トモエの感じる圧というのもそうした目に見えぬ要素を計っているらしい。技、鍛錬の成果、その程度で有れば正直トモエは十分に見て取れる。そうでは無い物が分かるというのは、確かに有難いと思う反面。
「カナリアさんは、かなり保有量が多いと本人からそう聞いていたのですが」
「翼人種の中でも、マナの量はかなり多いでしょうね」
ナザレアが、トモエの呟きに反応してそんな事を言い始める。後で、その辺り細かく確認しておこうと決めて、部屋の戸を開けるナザレアをそのままに。漏らした言葉は、さて彼女としては失言だったのか、それともトモエが気が付いたのだとそう感じたからか。シェリアがオユキを抱える時とは違い、カナリアを荷物のように小脇に抱えたまま部屋に入ってくる。
「お呼びでしょうか」
「はい、オユキさんがまた体調を崩しているようで」
寝ている所を、容赦なくシェリアがこうして連れてきたのだろう。ここまでの間に、少しは目が覚めたのだろうが寝ぼけ眼を擦りながら、あくび交じりにと何とも言えない様子。この人物にしても、随分と近頃は気が抜けてきている。それこそ初めの頃、始まりの町で屋敷の一室を貸して暫くは大人しかった。だが、近頃は部屋にまた色々とため込み始めている。書籍にしてもそうなのだが、銀もかなりの量を。短杖に使うものだと分かりはするし、魔道具は確かにそうした物を使うとも分かっているのだが。
「こちらでは、あまり道具が無いので理論ばかりになってしまって」
「カナリア様、そうした話はまた後程。今は、オユキ様を」
「ええと、はい」
気が乗らないわけでは無いのだろうが、どうにもまだ眠気の方が勝っているらしい。夜にしても、随分と遅くまであれこれとしているとそう聞いている。フスカも今この屋敷に滞在しているのだが、そちらはいよいよ自由なものだ。風翼の門を使って移動せずとも、フスカ自身がそれに類する能力を使えるようで本当にこの世界を自由気ままに動き回っているらしい。今も、恐らくと思えるだけの、冗談じみた圧をトモエは感じている。カナリアと比べるのも正直馬鹿々々しい程に。
「オユキさんは、やはり本質側にも傷が入っていますね」
「本質、ですか」
「おや、トモエさんも聞こえるようになったのですか。」
「いえ、以前にも少し伺った記憶が」
そこまで言葉を作って、トモエは改めて気が付く。要は極最近、魔国の王妃から聞かされた話で、更に細かいところが解るようになったからこそ。トモエの使う言葉にしても、前までと認識できている意味合いが違うからこそ、カナリアがそう応えたのだろう。
「魔国の王妃様に、オユキさんは器としては人の身で、中身は精霊の類とか」
「ええと、それもまた少し違うんですけど凡そその理解で大丈夫です。それで、今回ですね、マナが枯渇した状態で周囲のマナを書き換える事もまだ苦手ですので、使える物と言うのがその本質になるんです」
「また違うですか」
「どうやら、トモエさんも少し感じ取れているようですけど、ええと、今はオユキさんですね」
漸く、と言う程でも無いのだが、病人を前にして意識がはっきりしたのだろうカナリアが、翼を広げた上で何かを行う。
「補填、という訳ではないですし、それにしても私が行うのは難しいのですけど」
「そう言えば、冬と眠りの属性に合わせた魔石を使えばと、そうした話でしたが」
「オユキさんは、どうでしょうか。以前にも少しお話ししたかと思うのですが、魔石を使ってそれを己の力と出来るのであれば、それはもう十分魔術が扱えるという事なんですよね」
確かに、そうした話をしていた相手は知識と魔の神殿を持つ、魔国の王妃。その程度の事は、出来て当然と考えての発言かもしれない。オユキの方でも、一応は魔術らしきものを、これまでに何度か使っているのだ。
「その方は、流石に私たちの種族と同じではなさそうなので、何とも言えませんが」
「何とも言えないというのは」
「いえ、魔術の習得と言えばいいのでしょうか、相手の持つ魔術文字と言うのはよく使う魔術があれば残滓のようにマナの流れが残るので」
「淀みとは、また異なるものですか」
「少し、と言うしかありませんね」
学者ではないトモエとしては、基本的にそうした何やら複雑な仕組みに対して興味を持てないトモエとしては、とにもかくにもそういうものだと無理やり飲み込んで。
「もう暫く、オユキさんが体調を戻すまでかかりそうですね」
「現状の、カナリアさんの見立てでは」
「その、前にも言いましたが、オユキさんは未だマナの取り込みに関しても上手では無いので」
それを考慮して、どの程度かかるのか。少し考えた後、カナリアが。
「二月、は必要になるでしょうね」
「完治とはいかずとも、動けるようになるには二週程、ですか」
さて、その期間をオユキは大人しくしているだろうか。若しくは、オユキにあれこれと言いに来る者達がいないのだろうか。そんな事を考えながら、トモエの口からも思わずため息が漏れる。少なくとも、己の足で立って歩けないのだとしても、が異種出来るだけの体力が戻れば王都の観光に行きましょうと、そう言い出すには違いないのだから。
翌朝には、やはりオユキが目を覚ますよりも早くトモエは目を覚まして。夫婦の寝室と言う扱いにされているため、流石に寝ている間は誰もこの部屋に入ってこないのだが、それでも扉の外、壁の向こうに人の気配を感じながら。体をゆっくりと伸ばして、オユキの目覚めを待つ。こうして、体調を崩せばやはりオユキの目覚めは遅い。その辺りは見た目相応と言えばいいのか、トモエとしては変わらず申し訳なさを覚える。
こちらに来るにあたって、トモエが無理を頼んでとした見た目。もしもがあれば、過去に何処までも残っていた未練として作った姿。それをオユキに、かつての己の夫に頼んだのは今から思い返してみても、己は一体どうした精神状態だったのかと。ただただ白い空間で、己の夫を待ち続ける時間を過ごした。それから解放された結果、そこで色々と話を聞いて過去に対しての想いが募ったからか。
眠るオユキを見て、常々そんな事を考えてしまう。オユキもそうであるように、トモエにも募る後悔と言うのはある。
体が逆であれば、オユキが生前の通りに今のトモエの姿を使えていたのなら。こんな事にはなかっていなかっただろうにと。
「オユキさん、目が覚めましたか」
いつものように身動ぎするのではなく、ただ呼吸が切り替わる。寝息から、少し深い流派としての呼吸法に。
「はい。ですが、昨日よりも体調が悪いように感じます」
「それは、大変ですね」
オユキが、不調を訴える為トモエも日々の柔軟を早々に切り上げて、オユキの横に。寝台から出る前にも、昨日よりも体調が悪そうだと、顔色が良くないとは感じていた。そして、今となっては開いた眼は少し潤み、頬にも朱がさしている。
「やはり、かなり体温も上がっていますね」
「そう、ですか。部屋を、こうして冷やしているのが良くないのでしょうか」
己の内に、フスカの炎は既に残っていないはずだとオユキは話すのだが、こちらの世界でも当然流行感冒というものは存在している。
「カナリアさんに一度見て頂いて、お薬を処方して頂きましょう」
「ええ」
目を開けているのもつらいのか、既に瞼も下りかけている。流石に、食事もとらせねばならないのだが、このまま一度眠るようであればまた起こしてと考え、額に当てていた手でそのまま瞼を下ろす。
「少し、寝ますね」
「ええ。食事の用意が出来れば、また起こしますから」
「お願いします」
そうとだけ答えて、オユキはまた寝息を立てはじめる。一先ず胸は規則的に上下しており、以前ほど苦しんでいる様子もない。ならば、一先ずは安心が出来ると考えて、己の不安の一度切り捨てる。
「シェリア様」
部屋の外にいる。それは既に分かっている、相手に対して改めて呼びかける。なんだかんだと、トモエにしてもオユキにしても、互いに話す時に他に聞かせたくない事、あまり周知するような事ではないと考えるものは少し声を潜める。しかし、こうして相手を呼ぶ時には、改めて声を少し張って。
「お呼びでしょうか」
「聞いていたかとは思いますが、オユキさんがまた体調を崩していますので、カナリアさんに」
「畏まりました、直ぐに」
トモエにとっての大事だと、シェリアの対応も早い。直ぐにナザレアと入れ替わり、今度はナザレアがオユキの様子を見た上で、トモエが看病できるようにと側に必要な道具を揃えていく。水桶に、体をふくための布、オユキの着替え等一体いつの間に用意していたのかとも思うのだが、そうした道具が準備される。用意がいいと、そう褒めつつも本当に侍女と言う存在が有難いものだとつくづく。
「トモエ様、オユキ様の様子は」
「発熱があったのと、恐らく本人にも自覚はあるでしょうがはっきりとそれを自覚する程度には」
「発熱ですか」
それは困ったとばかりに、ナザレアが額に軽く手を当てている。苛立っている時には、オユキは気が付いていないのだろうが少し目を細めて、角に触ることも多い為そうでは無いと実にわかりやすい。侍女としての教育を受けているのであれば、わざとそうした振る舞いをしている可能性もあるにはあるのだが。
「カナリアさんですか」
「どうやら、そのようですね。シェリアが連れてきたようです」
分かりやすい気配が、近づいてくる。ここ暫くの事で、トモエとしても色々と分かるようになったことがある。どうにも、個々人が持つ圧と言えばいいのだろうか。魔物の強さを恐らく図るための指標、そう感じている物。それが、どうにも他にも適応され始めている。魔物の資料を狩猟者ギルドで預かった時にも、これまでは認識できていなかったらしい箇所、随分と大きく文字を書くものだと、オユキとそんな事を話していたのだがそこにも多分に感覚的な、淀みとして描かれている値がある。氾濫に至る指標として、諮ることができるとは聞いていた値なのだが、魔物単体にも振られているとはトモエとしても考えていなかった。
恐らくは、トモエの感じる圧というのもそうした目に見えぬ要素を計っているらしい。技、鍛錬の成果、その程度で有れば正直トモエは十分に見て取れる。そうでは無い物が分かるというのは、確かに有難いと思う反面。
「カナリアさんは、かなり保有量が多いと本人からそう聞いていたのですが」
「翼人種の中でも、マナの量はかなり多いでしょうね」
ナザレアが、トモエの呟きに反応してそんな事を言い始める。後で、その辺り細かく確認しておこうと決めて、部屋の戸を開けるナザレアをそのままに。漏らした言葉は、さて彼女としては失言だったのか、それともトモエが気が付いたのだとそう感じたからか。シェリアがオユキを抱える時とは違い、カナリアを荷物のように小脇に抱えたまま部屋に入ってくる。
「お呼びでしょうか」
「はい、オユキさんがまた体調を崩しているようで」
寝ている所を、容赦なくシェリアがこうして連れてきたのだろう。ここまでの間に、少しは目が覚めたのだろうが寝ぼけ眼を擦りながら、あくび交じりにと何とも言えない様子。この人物にしても、随分と近頃は気が抜けてきている。それこそ初めの頃、始まりの町で屋敷の一室を貸して暫くは大人しかった。だが、近頃は部屋にまた色々とため込み始めている。書籍にしてもそうなのだが、銀もかなりの量を。短杖に使うものだと分かりはするし、魔道具は確かにそうした物を使うとも分かっているのだが。
「こちらでは、あまり道具が無いので理論ばかりになってしまって」
「カナリア様、そうした話はまた後程。今は、オユキ様を」
「ええと、はい」
気が乗らないわけでは無いのだろうが、どうにもまだ眠気の方が勝っているらしい。夜にしても、随分と遅くまであれこれとしているとそう聞いている。フスカも今この屋敷に滞在しているのだが、そちらはいよいよ自由なものだ。風翼の門を使って移動せずとも、フスカ自身がそれに類する能力を使えるようで本当にこの世界を自由気ままに動き回っているらしい。今も、恐らくと思えるだけの、冗談じみた圧をトモエは感じている。カナリアと比べるのも正直馬鹿々々しい程に。
「オユキさんは、やはり本質側にも傷が入っていますね」
「本質、ですか」
「おや、トモエさんも聞こえるようになったのですか。」
「いえ、以前にも少し伺った記憶が」
そこまで言葉を作って、トモエは改めて気が付く。要は極最近、魔国の王妃から聞かされた話で、更に細かいところが解るようになったからこそ。トモエの使う言葉にしても、前までと認識できている意味合いが違うからこそ、カナリアがそう応えたのだろう。
「魔国の王妃様に、オユキさんは器としては人の身で、中身は精霊の類とか」
「ええと、それもまた少し違うんですけど凡そその理解で大丈夫です。それで、今回ですね、マナが枯渇した状態で周囲のマナを書き換える事もまだ苦手ですので、使える物と言うのがその本質になるんです」
「また違うですか」
「どうやら、トモエさんも少し感じ取れているようですけど、ええと、今はオユキさんですね」
漸く、と言う程でも無いのだが、病人を前にして意識がはっきりしたのだろうカナリアが、翼を広げた上で何かを行う。
「補填、という訳ではないですし、それにしても私が行うのは難しいのですけど」
「そう言えば、冬と眠りの属性に合わせた魔石を使えばと、そうした話でしたが」
「オユキさんは、どうでしょうか。以前にも少しお話ししたかと思うのですが、魔石を使ってそれを己の力と出来るのであれば、それはもう十分魔術が扱えるという事なんですよね」
確かに、そうした話をしていた相手は知識と魔の神殿を持つ、魔国の王妃。その程度の事は、出来て当然と考えての発言かもしれない。オユキの方でも、一応は魔術らしきものを、これまでに何度か使っているのだ。
「その方は、流石に私たちの種族と同じではなさそうなので、何とも言えませんが」
「何とも言えないというのは」
「いえ、魔術の習得と言えばいいのでしょうか、相手の持つ魔術文字と言うのはよく使う魔術があれば残滓のようにマナの流れが残るので」
「淀みとは、また異なるものですか」
「少し、と言うしかありませんね」
学者ではないトモエとしては、基本的にそうした何やら複雑な仕組みに対して興味を持てないトモエとしては、とにもかくにもそういうものだと無理やり飲み込んで。
「もう暫く、オユキさんが体調を戻すまでかかりそうですね」
「現状の、カナリアさんの見立てでは」
「その、前にも言いましたが、オユキさんは未だマナの取り込みに関しても上手では無いので」
それを考慮して、どの程度かかるのか。少し考えた後、カナリアが。
「二月、は必要になるでしょうね」
「完治とはいかずとも、動けるようになるには二週程、ですか」
さて、その期間をオユキは大人しくしているだろうか。若しくは、オユキにあれこれと言いに来る者達がいないのだろうか。そんな事を考えながら、トモエの口からも思わずため息が漏れる。少なくとも、己の足で立って歩けないのだとしても、が異種出来るだけの体力が戻れば王都の観光に行きましょうと、そう言い出すには違いないのだから。
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