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24章 王都はいつも
オユキの横で
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カナリアの灯す炎、それに対してトモエが少々険のある目で見たからだろう。
「そうですね。オユキさんには良く無い物ですから。」
そういって、直ぐにカナリアは焔を納める。広げた羽もきちんと畳んで、オユキの側で今は何やら気恥ずかし気に。
「いえ、流石に私にそこまでは分かりませんが。」
「ええと、やはり私の扱うこれですね、この炎はまだまだ純度が低くてですね。」
「先に、オユキさんの容態を詳しく伺っても。」
何やら、またカナリアの悪い癖が出そうになっているため、トモエとしてもオユキに良くそうしていたようにその前に割り込んで。相手も興味を持つ話題を、話す前に少し考えるそぶりを見せた、その思考の間隙に捩じ込むことが肝要であり、こうして誘導が聞く相手ばかりでも無いというのがまた難しいものだが。
「ああ、はい。先ほどもお伝えさせて頂きましたが、マナの枯渇です。それも、以前始まりの町でなったのと同じ程の。」
「やはり、二つはと言う事ですか。」
「いえ、その頃に比べればオユキさんのマナの保有量も増えています、それだけとは。」
「となると、アベルさんが謝罪をしていた以上は、アイリスさんの助けが無い状態で戦と武技に臨みましたか。」
今となっては、カナリアが増えているという保有量、それとすっかりと色の抜けた余剰の功績を貯める器、それらを使ってどうにかと言った所だったのだろう。トモエ自身も、己を振り返ってみれば、オユキの物と同様にすっかりと色が抜けている。これだけの状況証拠があれば、嫌でもそこに思い至る。
「トモエさんは、オユキさんがそれを為したと。」
「ええ。他にこのような状態になる理由と言うのもやはりありませんから。」
それこそ、屋敷全体が氷雪に閉ざされているなど、そうしたことがあればそちらを疑いもするし、オユキがアベルと対峙したのだと考えもする。ただ、一応互いに過剰に自制が聞く類の人種でもあり、特に己の内にためた衝動を他にぶつけるといった悪癖もあるため直接やり合いはしないだろうとそうした考えもありはする。
「回復までは、やはり。」
「はい。以前と同じです。やはり冬が遠いこの季節では。」
カナリアとしても、医師としての己の能力に不足があると感じるからこそ、握る手に僅かに力が入る様子もうかがえる。ただ、それはやはり不要な責任感だというのが、トモエの考え。ただ、それを口に出したところで意味のある慰めとも思えず。
「では、オユキさんは明日はお休みですね。」
「本人が、納得するのでしょうか。」
「しないと言うのであれば、させるだけです。」
明日は、オユキにとっても良い鍛錬の日になったことだろう。しかし、それが叶わぬだけのことを為したのは今日のオユキ自身だ。恐らく、本人に聞けば、やむなしとただそう語って見せる事だろう。少し悲し気に、それでもどうにか笑いながら。
「ただ、やはり明日の事は大きな事になるようですから、後方で、守りの中で見て頂くくらいはとも思いますが。」
「それで、オユキさんは我慢が効くのでしょうか。」
「それこそ、シェリア様に頼めば済みますから。」
トモエはどうにかシェリアの動きから逃げきれる。しかし、オユキではやはりまだ足りない。対人を想定した訓練がこちらの世界でないのかと、来たばかりの頃は本当にそのように見えた。しかし、やはり伝わっている所では伝わっている。動きの癖に、覚えがある。異なる流派、武器を持たず徒手を前提としたそれに。トモエも、オユキも今では勿論そうしているのだが、手を前に出す時は、同じ足を共に動かす。訓練を受けていない人間では、こちらの騎士の多くがそうであるように、傭兵がそうであるように、逆の足が出る。勿論、そちらが合理的であるのは間違いない。左右不ぞろいにしたほうが、当然人体と言うのはバランスがとれる。ただ、それでは体が開くし距離を詰めるにも、離すにも遅い。
「トモエさんは、シェリアさんの事を随分と信頼されているのですね。」
「正直、この難しい中で私たちの側にとそう仰って頂けた方です。勿論、タルヤ様も近頃は少しづつ。」
「そうですね。ローレンツさんとの間に子供を得られてからは、随分と雰囲気が変わられました。」
「ええ。このまま、良い方向に進む様にと私はただそう願うばかりですとも。」
そう、オユキが願っているように。
「トモエさん。」
「改まって、何でしょうか。」
二人そろって、並んでと言う事は無く。
今は未だ、眠るオユキの側でカナリアが背筋を伸ばし、まっすぐにトモエを見る。そして、手を翼と同じようにそろえて。それにどういった意味があるのかは、流石にはっきりと分かる物ではないがこれまで見なかった仕草である以上は、種族由来の物なのだろうと。
「私は、一度改めて魔国に向かおうかと考えています。」
「分かりました。」
それを決めたというのであれば、仕方が無いと。ただ一つ頷いて見せる。元より魔国に居り何かを思って神国に、始まりの町に流れてきたのだろう。ならば、改めてと思うのであれば引き留める事は無いと。
「あ、いえ、何もずっとという訳ではなくてですね。」
「おや、そうなのですか。」
「その、魔国にやり残したことがありまして。長くても一年程でしょうか。」
「ええと、その程度の期間でしたら、何も私にそうして改まって報告をして頂かなくとも。」
そう、その程度の期間であれば、単なる出張でしかない。一応はオユキの方で改めてメイに話をして、周囲の町に向かって治療などを行ってもらっている。ただ、そちらに関してはマルコがいればどうにでもなるし、彼の薬を周囲に持っていくだけとなれば便利な馬車がある。それに詰め込んでホセであったり、他の行商を頼めば済む話だ。その辺り、特に気兼ねする事は無いとトモエなりに言葉を使って伝えてみた所。
「いえ、それは、はい。勿論引き受けた仕事ですし、引継ぎは恙なく。」
「ええと、そうでないのなら。」
「その、申し訳ないのですが、風翼の門を起動するために、ですね。」
「ああ。」
確かに、人と言う生き物は便利な道具があるのだと知ってしまえば、それが無い事を考えるのは難しい。以前は、確かに衝動に任せて神国に向かう事を良しとしたのだろう。長い時間をかけてと、要は今更それを行う心算も無い事ではあるらしい。
「勿論、その、断られてしまえば、相応の時間を懸けて私が用意しますけど。」
「確かに、移動にかかる時間と、魔石を得る時間、比べてしまえばと言うところですか。」
「これまでに、私も相応に蓄えがありますし。特にオユキさんの事もあってこうしておそばに置いていただいてから暫くは、いよいよ身の回りの出費と言うのも服位な物で。」
家賃も食費もかからぬ生活で、既に相応以上の貯蓄があるのだと。ただ、問題として、門を起動するために使う魔石、往復分となれば始まりの町では今もまだ精力的にダンジョンの運用も行われている為、そちらに使わなければならない。結果として、風翼の門を個人で起動するほどの魔石を得るのはまず難しいと、そう言う話であるらしい。
「その、私も一応は種族の中でかなりマナの保有量は多いので、一人で起動も出来るのですが、イリアも、となってそれなりの生活品を持ち込もうとなると。」
「確かに、一気に増えますか。」
それが実際どの程度かは分からないが、一先ず人で倍とその位は分かる。そして、始まりの町でそれを求めるのが現状非常に難しいのだという事も。
「オユキさん。」
そうして話していれば、何やらオユキがうなされたように声を上げる。
すぐさまトモエが顔を覗き込むが、少し汗が浮いている。眉根も少し寄せているあたり、恐らく前までと同じような症状だろうと判断してカナリアを見る。
「少し、部屋を整えましょう。始まりの町の屋敷とは違って、こちらはそこまで手が入っていないですから。」
そして、すっかりとカナリアの方でもオユキの振る舞いを見てそれが便利だと気が付いたらしく、広がった袖口から短杖を取り出して軽く指でなぞってそのまま部屋の四方に向かって投げる。狙い過たずというには、奇妙な軌道を描いたものだが、確かに部屋の中に冬の気配が、始まりの町の屋敷でよく身近に感じていた物が訪れる。そして、ついでとばかりにカナリアがオユキの寝台の周りに氷柱をいくつか置けば、漸く息苦しそうにしていたオユキの呼吸も落ち着きまた静かな寝姿に戻る。
「本当に、無事で。」
「全く。マナの枯渇で何度も苦しんでいますのに。」
「仕方ありません。それがオユキさんですから。昔と変わらず。」
本当に、昔と変わらずただただ無理をして。そして、限界が来れば、こうして倒れるのだ。昔から。
仕事の時は、流石に頻度も減ったものだが、職を得る前、職を得てからも暫くの間はただただかつてのトモエを超えようとかなり無理をしていた。慣れたトモエからしてみれば、それは慣れがあるからこそ当然と出来る内容だというのに、オユキはそれすらない状態で少しでも早く、少しでも先にと。繰り返し挑んでは倒れ、そのまま眠り。起きた時には、トモエとそれから師でもあった父と食卓を囲んで。そして、繰り返し話したものだ。どうすればよかったのか、他に手はなかったのか。あったとして、それを行えば一体どうした手段が返ってきたのかと。トモエとしては、起こらなかった事等考えても余り意味が無かろうとそうして最初の頃は断じていたものだが、父が面白そうに話すものだから、それをトモエにも勧めた物だから。そうして、過ごす時間がやはり楽しくなったのだ。
「本当に、仕様の無い人です。」
「トモエさんは、止めたりは。」
「本当にオユキさんの身に危機が及ぶと、これ以上は持たないと分かれば、それが私の前であれば。」
「今回は、そうですか、違ったわけですか。」
トモエは、オユキを尊重する。オユキが、トモエをそうするように。
「止めるための手段と言うのは、勿論。」
「はい。私が、オユキさんを止める手段、最たるものはかつて少しお話ししましたね。」
「ええ。私も、考えさせられる事の多い場でした。」
「そして、最たる手段はやはり変わりません。この刃でもって、オユキさんを止めましょう。そして、私もその後を。」
そんな事を、オユキの額に汗で張り付く髪を軽くどかしながら話せば、息を呑むような、ひきつるような、そのような音がカナリアから。
「そうですね。オユキさんには良く無い物ですから。」
そういって、直ぐにカナリアは焔を納める。広げた羽もきちんと畳んで、オユキの側で今は何やら気恥ずかし気に。
「いえ、流石に私にそこまでは分かりませんが。」
「ええと、やはり私の扱うこれですね、この炎はまだまだ純度が低くてですね。」
「先に、オユキさんの容態を詳しく伺っても。」
何やら、またカナリアの悪い癖が出そうになっているため、トモエとしてもオユキに良くそうしていたようにその前に割り込んで。相手も興味を持つ話題を、話す前に少し考えるそぶりを見せた、その思考の間隙に捩じ込むことが肝要であり、こうして誘導が聞く相手ばかりでも無いというのがまた難しいものだが。
「ああ、はい。先ほどもお伝えさせて頂きましたが、マナの枯渇です。それも、以前始まりの町でなったのと同じ程の。」
「やはり、二つはと言う事ですか。」
「いえ、その頃に比べればオユキさんのマナの保有量も増えています、それだけとは。」
「となると、アベルさんが謝罪をしていた以上は、アイリスさんの助けが無い状態で戦と武技に臨みましたか。」
今となっては、カナリアが増えているという保有量、それとすっかりと色の抜けた余剰の功績を貯める器、それらを使ってどうにかと言った所だったのだろう。トモエ自身も、己を振り返ってみれば、オユキの物と同様にすっかりと色が抜けている。これだけの状況証拠があれば、嫌でもそこに思い至る。
「トモエさんは、オユキさんがそれを為したと。」
「ええ。他にこのような状態になる理由と言うのもやはりありませんから。」
それこそ、屋敷全体が氷雪に閉ざされているなど、そうしたことがあればそちらを疑いもするし、オユキがアベルと対峙したのだと考えもする。ただ、一応互いに過剰に自制が聞く類の人種でもあり、特に己の内にためた衝動を他にぶつけるといった悪癖もあるため直接やり合いはしないだろうとそうした考えもありはする。
「回復までは、やはり。」
「はい。以前と同じです。やはり冬が遠いこの季節では。」
カナリアとしても、医師としての己の能力に不足があると感じるからこそ、握る手に僅かに力が入る様子もうかがえる。ただ、それはやはり不要な責任感だというのが、トモエの考え。ただ、それを口に出したところで意味のある慰めとも思えず。
「では、オユキさんは明日はお休みですね。」
「本人が、納得するのでしょうか。」
「しないと言うのであれば、させるだけです。」
明日は、オユキにとっても良い鍛錬の日になったことだろう。しかし、それが叶わぬだけのことを為したのは今日のオユキ自身だ。恐らく、本人に聞けば、やむなしとただそう語って見せる事だろう。少し悲し気に、それでもどうにか笑いながら。
「ただ、やはり明日の事は大きな事になるようですから、後方で、守りの中で見て頂くくらいはとも思いますが。」
「それで、オユキさんは我慢が効くのでしょうか。」
「それこそ、シェリア様に頼めば済みますから。」
トモエはどうにかシェリアの動きから逃げきれる。しかし、オユキではやはりまだ足りない。対人を想定した訓練がこちらの世界でないのかと、来たばかりの頃は本当にそのように見えた。しかし、やはり伝わっている所では伝わっている。動きの癖に、覚えがある。異なる流派、武器を持たず徒手を前提としたそれに。トモエも、オユキも今では勿論そうしているのだが、手を前に出す時は、同じ足を共に動かす。訓練を受けていない人間では、こちらの騎士の多くがそうであるように、傭兵がそうであるように、逆の足が出る。勿論、そちらが合理的であるのは間違いない。左右不ぞろいにしたほうが、当然人体と言うのはバランスがとれる。ただ、それでは体が開くし距離を詰めるにも、離すにも遅い。
「トモエさんは、シェリアさんの事を随分と信頼されているのですね。」
「正直、この難しい中で私たちの側にとそう仰って頂けた方です。勿論、タルヤ様も近頃は少しづつ。」
「そうですね。ローレンツさんとの間に子供を得られてからは、随分と雰囲気が変わられました。」
「ええ。このまま、良い方向に進む様にと私はただそう願うばかりですとも。」
そう、オユキが願っているように。
「トモエさん。」
「改まって、何でしょうか。」
二人そろって、並んでと言う事は無く。
今は未だ、眠るオユキの側でカナリアが背筋を伸ばし、まっすぐにトモエを見る。そして、手を翼と同じようにそろえて。それにどういった意味があるのかは、流石にはっきりと分かる物ではないがこれまで見なかった仕草である以上は、種族由来の物なのだろうと。
「私は、一度改めて魔国に向かおうかと考えています。」
「分かりました。」
それを決めたというのであれば、仕方が無いと。ただ一つ頷いて見せる。元より魔国に居り何かを思って神国に、始まりの町に流れてきたのだろう。ならば、改めてと思うのであれば引き留める事は無いと。
「あ、いえ、何もずっとという訳ではなくてですね。」
「おや、そうなのですか。」
「その、魔国にやり残したことがありまして。長くても一年程でしょうか。」
「ええと、その程度の期間でしたら、何も私にそうして改まって報告をして頂かなくとも。」
そう、その程度の期間であれば、単なる出張でしかない。一応はオユキの方で改めてメイに話をして、周囲の町に向かって治療などを行ってもらっている。ただ、そちらに関してはマルコがいればどうにでもなるし、彼の薬を周囲に持っていくだけとなれば便利な馬車がある。それに詰め込んでホセであったり、他の行商を頼めば済む話だ。その辺り、特に気兼ねする事は無いとトモエなりに言葉を使って伝えてみた所。
「いえ、それは、はい。勿論引き受けた仕事ですし、引継ぎは恙なく。」
「ええと、そうでないのなら。」
「その、申し訳ないのですが、風翼の門を起動するために、ですね。」
「ああ。」
確かに、人と言う生き物は便利な道具があるのだと知ってしまえば、それが無い事を考えるのは難しい。以前は、確かに衝動に任せて神国に向かう事を良しとしたのだろう。長い時間をかけてと、要は今更それを行う心算も無い事ではあるらしい。
「勿論、その、断られてしまえば、相応の時間を懸けて私が用意しますけど。」
「確かに、移動にかかる時間と、魔石を得る時間、比べてしまえばと言うところですか。」
「これまでに、私も相応に蓄えがありますし。特にオユキさんの事もあってこうしておそばに置いていただいてから暫くは、いよいよ身の回りの出費と言うのも服位な物で。」
家賃も食費もかからぬ生活で、既に相応以上の貯蓄があるのだと。ただ、問題として、門を起動するために使う魔石、往復分となれば始まりの町では今もまだ精力的にダンジョンの運用も行われている為、そちらに使わなければならない。結果として、風翼の門を個人で起動するほどの魔石を得るのはまず難しいと、そう言う話であるらしい。
「その、私も一応は種族の中でかなりマナの保有量は多いので、一人で起動も出来るのですが、イリアも、となってそれなりの生活品を持ち込もうとなると。」
「確かに、一気に増えますか。」
それが実際どの程度かは分からないが、一先ず人で倍とその位は分かる。そして、始まりの町でそれを求めるのが現状非常に難しいのだという事も。
「オユキさん。」
そうして話していれば、何やらオユキがうなされたように声を上げる。
すぐさまトモエが顔を覗き込むが、少し汗が浮いている。眉根も少し寄せているあたり、恐らく前までと同じような症状だろうと判断してカナリアを見る。
「少し、部屋を整えましょう。始まりの町の屋敷とは違って、こちらはそこまで手が入っていないですから。」
そして、すっかりとカナリアの方でもオユキの振る舞いを見てそれが便利だと気が付いたらしく、広がった袖口から短杖を取り出して軽く指でなぞってそのまま部屋の四方に向かって投げる。狙い過たずというには、奇妙な軌道を描いたものだが、確かに部屋の中に冬の気配が、始まりの町の屋敷でよく身近に感じていた物が訪れる。そして、ついでとばかりにカナリアがオユキの寝台の周りに氷柱をいくつか置けば、漸く息苦しそうにしていたオユキの呼吸も落ち着きまた静かな寝姿に戻る。
「本当に、無事で。」
「全く。マナの枯渇で何度も苦しんでいますのに。」
「仕方ありません。それがオユキさんですから。昔と変わらず。」
本当に、昔と変わらずただただ無理をして。そして、限界が来れば、こうして倒れるのだ。昔から。
仕事の時は、流石に頻度も減ったものだが、職を得る前、職を得てからも暫くの間はただただかつてのトモエを超えようとかなり無理をしていた。慣れたトモエからしてみれば、それは慣れがあるからこそ当然と出来る内容だというのに、オユキはそれすらない状態で少しでも早く、少しでも先にと。繰り返し挑んでは倒れ、そのまま眠り。起きた時には、トモエとそれから師でもあった父と食卓を囲んで。そして、繰り返し話したものだ。どうすればよかったのか、他に手はなかったのか。あったとして、それを行えば一体どうした手段が返ってきたのかと。トモエとしては、起こらなかった事等考えても余り意味が無かろうとそうして最初の頃は断じていたものだが、父が面白そうに話すものだから、それをトモエにも勧めた物だから。そうして、過ごす時間がやはり楽しくなったのだ。
「本当に、仕様の無い人です。」
「トモエさんは、止めたりは。」
「本当にオユキさんの身に危機が及ぶと、これ以上は持たないと分かれば、それが私の前であれば。」
「今回は、そうですか、違ったわけですか。」
トモエは、オユキを尊重する。オユキが、トモエをそうするように。
「止めるための手段と言うのは、勿論。」
「はい。私が、オユキさんを止める手段、最たるものはかつて少しお話ししましたね。」
「ええ。私も、考えさせられる事の多い場でした。」
「そして、最たる手段はやはり変わりません。この刃でもって、オユキさんを止めましょう。そして、私もその後を。」
そんな事を、オユキの額に汗で張り付く髪を軽くどかしながら話せば、息を呑むような、ひきつるような、そのような音がカナリアから。
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