憧れの世界でもう一度

五味

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23章 ようやく少し観光を

戦と武技の教会で

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オユキが今回の事を政治として、仕事としてようやく捉えて己の事としてあれやこれやと衣装についても口出しし始めている頃、トモエの方でもシェリアを伴って、今は闘技場に併設されている教会に。

「成程。当教会に、これまで身を預けた武器を、ですか。」
「ええ。過去には供養という言葉で呼んでいたのですが。」

トモエとオユキが此処まで身を預けていた武器。こちらで初めて頼んで作って貰った、お気に入り。それが残念ながら既に実用に耐えるものではなくなった。替えの武器と言えばいいのか、ウーヴェに中型種のトロフィーを預けて頼んでいるのだが、そちらは流石に今回間に合っていない。
どうにも、トモエの頼みが難しい物であったらしく、彼にしても試行錯誤を重ねなければならないという事であるらしい。中型種でもあるため、素材自体は十分だという話でありトモエにしても試作のいくつかは既に試したのだが、そのどれもが言ってしまえば今一つ。どうにも納得がいかないと、そんな話をしてみれば相手にしても然も有らんと。
何が上手くいっていないのか、そればかりはトモエもそうした技術を納めているわけでも無い為、とんと理解が出来ない。頑丈さは、確かに前よりも上がった気がする。切れ味に関しては、それこそ研ぎを頼んでからでなければ分かる物でもない。重量の配分に、少々難がある。形状として、このあたりに重さの中心が来るだろう、そう考えている位置よりも随分と手前に来てしまっている。そして、振るとその違和感がどうにも気持ち悪さをトモエに与えるのだ。

「勿論、お引き受けさせて頂ければと、そうは考えるのですが。何分、私どもの行う物というのは神々に捧げる事ばかり。」
「破損してしまった物をというのは。」
「過去に幾度もありますよ。」

戦と武技の神に奉納という形式をとるのかと、そう言いう形ではどうなのだろうかとトモエが思わず尋ねれば、マルタ司祭からはそれも構わないと。

「人が己の手で長く使った物、それを召し上げてというのも好まれる神々は多いのです。結果として摩耗した、そこに積まれた鍛錬の確かを、経験の確かを特に私たちの祀る神はお好みですから。」

トモエにも心当たりがあるだろうと、そう笑ってマルタが話す。

「確かにその様な素性の方となりますか。では、改めて。」

マルタが良しとしたのならと、流石にシェリアに預けるものでも無い為自分で持って歩いていた武器を、計三本の武器を机に置く。

「ここまで、長く頑張ってくれました。一つは私が無理をしたことで駄目にしてしまったユウナズミ。」

太刀を模した、半ばから砕けてしまった武器。オユキの方では、流石に己の手に持つ武器にまで愛着が無いとして銘を与える事は無かった。それを残念と思う気持ちが無いかと言えば、らしい事だとそうした感情を持つばかり。オユキはあくまでオユキであり、トモエはトモエ。物に愛着を持つのは、やはりトモエ。兎に角物に拘らないたちなのがオユキであるのだから。

「後の二つは、オユキさんが扱っていた物ですが、少々難儀な事がありまして流石にもう難しい子達です。」
「成程、成程。」

そして、マルタがゆっくりと丁寧に。トモエが置いた武器を取り上げる。

「使い込まれたと、よくわかる良い武器です。」
「お分かりになるのでしょうね。」

流石にそのまま鞘から抜いたりという事は無いのだが、ただトモエが稀にそうするようにそっと撫でて。慈しみを乗せた視線で、此処まで酷使することになった武器を見る。そこにどういった感情があるのかと言われれば、同じ道という訳でもないが、近しい道を歩いている者同士、なにか感じ入る所が。

「確かに、私どもで。」
「ええ、お願いいたします。その、見学などはさせて頂けたり。」
「勿論、お受けいたしますよ。」

ただ、相応に時間がかかるので時間の都合があるのならと、そうマルタに言われてトモエとしては流石に少し考える。今日の予定と言えばいいのか、トモエが考えている事というのは相応に多い。久しぶりに王都に、間違いなくこの神国で最も栄えている都市に来たのだ。何やらオユキは過去にも訪れた事があるからと、トモエにも話した事があるからと、すっかりトモエも知っていると考えている様子が見えるのだが、生憎と何処に観光に行きたいか、見て回りたいのかそういった物が未だに固まり切ってはいないのだ。以前、それこそ初めて訪れた時にあちこち気になるところがあった。観光として王妃に案内されて王都を見て回ってともしたのだが、生憎とそこから見える物程度ではトモエが満足できるものではない。

「そうですね。残念ではありますが。」
「ええ。そうでしょうとも。さて、早速ではありますが、御覧になっていかれますか。」
「はい。よろしくお願いしますね。」

此処にトモエが訪れた目的は、今話した事もあるのだがそれよりも領都で確かに変化が見られた物、それが王都ではどうなっているのか。相応の人数が、大会を見ていたこともある。トモエとオユキが、流石に今の己から見ても無様という程では無いと、そうした評価しかできはしないのだが武を見せた結果。それがどうなったかは、流石に気になるというものだ。
マルタに預けた武器は、これまた丁寧だと感じる所作で同席していた以前にも顔だけは見た相手に。オユキと揃って詰め込まれた知識によれば使われている刺繍の糸、許される意匠が位を示すという事だったのだが流石に一目見て分かるような物でもない。恐らく、そう前置きを作らなければならない。教会によって、あまりに違いすぎるのだ。水と癒し、始まりの教会であればまだトモエの思う聖職者の衣装に近いのだが、此処戦と武技では誰も彼もが戦装束なのだから。

「以前お越しいただいた折には、いよいよ急造とせざるを得ませんでしたが。」
「確か、神々のお姿をどうにかして覆ってとのことでしたが。」

以前はそれこそ間に合わず、吹きさらしの下となっていたのだが。

「はい。職人の方々には、やはり無理をお願いすることとなりましたが。」
「相応の期間が、今度ばかりはあったかと。」

トモエとオユキが一度王都に足を運んでから、既に一度開いた大会から一年とまでは行かないが、半年以上は立っているはずなのだ。

「何度か、他の監修も入り。」
「それは、なかなか難しそうですね。」

何処から横やりが入ったかは分からないのだが、教会同士の力関係、それがどうこうという事は無いだろう。どうにもトモエにしてもオユキにしても認識自体が難しい法と裁き、水と癒し、戦と武技。それだけの神像を闘技場でそれなりに目立つ場所、以前は国王とオユキが座っていた席の更に上に誂えるという事ではあったのだ。
このあたりは、神々よりも人を上に置かない、そう考えれば理屈は分かる物だし、トモエにしても馴染みはあるのだが闘技場で迄それを行うのかと少々疑問を覚えたりもしたものだ。実際には、当日は神像を戦いの舞台のそばに置いてと、そうなっていはしたのだが。

「やはり、初回が特別になりすぎる、それを嫌う方も居られまして。」
「それは、この功績を得たい方が多いからという事でしょうか。」
「そうですね。離れた場所では難しいのではないかと、そうした声もやはり多く。」

勿論、そんな事は無いとお伝えしたのですが。マルタがため息とともに。

「結果として、今は得られた方も多いという事でしょうか。」
「いえ、そこはやはり以前のお言葉の通り。」

言われて、トモエとしては思い返そうとして見るが今一つ思い出せない。そんなトモエの様子に、やはりマルタは変わらぬ笑みで、大会の参加者に対してのみだと、そうトモエに話す。言われてみれば、確かにそう言う話であったかと、いやさ、何やら手を触れてみれば手に入れた者もいた様なと。

「確かに、例外的な方々も居られはするのですが、何分神々の思し召しによるものですから。」
「であれば、それに特別を思う方々も。」
「そう考える方には、ただ私どもから伝えるべき言葉は一つです。」

功績というのはそも特別な物であり、神が認めた証なのだと。わざわざこの場において得る様な物ではなく、何となれば必要な条件さえ満たしているのならば教会でも得られると。それどころか、目を覚ます時に枕元に置かれている物なのだと。
そんな話をしながら歩いていれば、耳に届いていた戦いの音もいよいよ大きくなり、先を歩くマルタではない案内役、小間使いと言ってしまってもいいかもしれない相手の手によって、闘技場を一望できる席への扉が開けられる。

「領都で、少し実感を得る機会があったとか。」
「耳が早い事ですね。」
「ええ、私どもに言葉を与えて下さる方は、何処にでも居られますから。」

そして、視線の先では一目見るだけでも以前とは違うものがある。
トモエとしては、見世物を好むわけでは無いのだが、しかしそこで戦う者達が己を見せものだと考えているのかどうか。四面ある舞台の上では、二人づつ向かい合って随分と熱が入っている様子。カリンも話した事ではあるが、この世界では魔物よりも遥かに強い相手にどうにか勝って見せようと。そうした熱が、確かにトモエに感じられる。そこで葉確かな工夫を生み出す土壌が生まれ始めており、まだまだ拙いとそう呼べるものでしかないのだが、駆け引きじみた事を行っている者達とているではないか。

「本当に、影響があるのですね。」
「勿論です。こちらで暮らす良き人々は、神々の言葉を重く受け止めるのですから。」
「私達だけでは、やはり足りませんからね。」

散々に繰り返している事ではあるのだが、やはりそこまでの影響力など無いだろうと。

「ここまでの日々を、長いと取るのか短いと取るのか。」
「神国の刻んできた歴史に比べれば、短いものでしょうとも。劇的な変化だと、そういっても差し支えの無い物でしょう。」

目ざとい者達が、関係者席と呼んでも差し支えの無い所に司祭を伴って現れたトモエに気が付いたのだろう。こちらでは、やはり領都よりも熱烈だ。トモエに向かって挑むような視線が多く向けられている。お前を打倒すべく、騎士を超えるべく、今もこうして刃を振るっているのだと。

「今年は、さて、どうなる物でしょうか。」
「それについては、ええ、開く事だけは決まっていますが。」
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