憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
782 / 1,235
23章 ようやく少し観光を

メインを口に運びながら

しおりを挟む
徒然なるままに、あれやこれやと話していればいつの間にやら食事も順に進んでいき、メインもいよいよ二皿め。気軽にはいった心算が、此処もしっかりとフルコースを扱う店舗であるらしい。ならばメニュー表が無い事にも納得がいくというものだ。そのような事を考えながらも、メインの一皿め、肉が主体となっているそれに関してはトモエとオユキで倍半分ほどの差がきちんと用意されており、わざわざオユキからトモエに移してという作業が既に必要なくなっている。
このあたりは、それこそシェリアを経由して外に待機している者達から店舗の担当者に伝えられたのだろう。必要以上に仰々しくなったことに関しては、事前に用意の為の時間を取らせることが出来なかった事については、流石に後程謝罪の必要もあるだろうと考えながらも、こうした気づかいというのは嬉しく受け取る物ではある。

「一先ず、此方での諸々を終えれば、次は王都になるのですが。」
「そうですか。叶うなら神殿にもう一度、そんな事を考えてしまいますね。」

トモエがオユキの為にと、武器をウーヴェに頼んだ。その詳細に関しては、オユキも一々尋ねたりはしない。そこには確かな信頼関係があり、任せてしまえば良いとそう考えての事。

「神殿、ですか。可能だとは思いますが、その際は少々方々に頼まねばなりませんね。」
「あの、オユキ様。」

オユキが少々根回しの必要がありそうだと、そんな考えを口にしてみればまず真っ先にカレンから一体何があるのだと、そうした声が上がる。とはいっても、彼女にしてもシェリアが視線で促したからこうして代理で疑問を発しているに過ぎないのだが、それでも使用人代表と言えばいいのか、トモエとオユキがしでかすあれこれに振り回される側としての代表と言えばいいのか。
なんにせよ、気苦労を掛ける相手から代表しての意見であるには違いない。

「いえ、何があるかと問われれば、正直分かりませんとしか。」

ただ、オユキとしてはやはり分からないと、そう応えるしかないのだ。

「始まりの町、そこにある門を使って王都に向かえば、やはり出口としては神殿ではあるわけですから。」

各神殿に、始まりの町を除けば、転移を叶える門というのは神殿に置かれることになるのだ。ならばそこでふらりと出て行って、何事もないのかと言われれば、まがりになりも巫女などという位を頂いているオユキとしては何もないとは考えられない。寧ろ、それに合わせてまた何かあるのではないかと警戒を強めてしまう。不明な事が多く、正直な所予想にしても曖昧で。

「何かあるのかと問われれば、勿論何かある物でしょう。しかし、予想をするにはあまりにも。」

確証を得るための情報というのがとにかく不足している。

「強いてというのであれば、あの子たちが今私たちの代わりに月と安息の神殿へと向かってくださっていますので、そちらに関しての事となるのでしょうが。」

ただ、直ぐに思いつくものにしてもでは実際に何を求められるのかと言われれば、いよいよ心当たりというものが存在しない。それこそ、大人しく屋敷に籠っていれば逐次、多少の時差は間違いなく有るだろうが、情報が入ってくるため確度の高い予想も立てられる。しかし、こうしてあちらこちらに動き回るとなればそれが許されない現状というのも当然受けいてなければならない。かつてもいよいよよくあったものではあるし、かなりの改善がなされた結果としてそうした時間も徐々に無くなったものだが。

「思いつくところであれば、そうですね。あの子たちが運ぶ道行、そこで発生する襲撃。魔物からではなく、汚染を受けた者達の。それに対して、離れた位置から何かをする必要も生まれるのでしょうが。」

オユキが思いつく最たるものとしては、今口に出している事がある。
汚染を受けた者達というのは、今後の彼らが詰みに向かう事、それをどうにか打開するためにも今から、随分と遅いと感じはするのだがそれでもどうにか抵抗をしなければならない。真っ当な判断力が残っているのならば、もっと事前に手を打っているだろうが今となってはいよいよ水際で。月と安息の加護が確かなものとなれば、その神殿と門を設置することで方々に加護が強化されることになれば最も被害を被るのはそういった者達だ。
オユキとしては、それに対して殊更何を思う訳でも無いのだが、悪辣であり此処に至るまで神々を困らせた相手が、今になって随分とお粗末な、そう考えてしまう事もある。どういった発想のもとに、何を求めてこちらの世界を汚染しようと思っているのかは終ぞ理解が及ぶものではない。予想はあくまで目的を達成するための手段、それに対する評価を基本として行う事になる。以前、領都で汚染を受けた相手と、オユキが話しても問題が無いとされた相手と多少言葉を交わしての経験として。

「間違いなく、あの子たちが事を為せば詰みますから。」

とにかく、その先に有るのは詰みとしかオユキからは言い様がない。オユキが道筋を作ったわけでは無く、オユキの信頼するミズキリという人間が既に計画を決めている。そこから逃れるというのであれば、最低限相手は彼と同じか、彼以上の能力を、持っていなければならない。神々に関しては、ミズキリに助力を求めた以上は圧して知るべし。そして懸念すべき相手に関してもミズキリがそもそも相手にするそぶりを見せ無い時点で、その程度の相手だと実にわかりやすい。ミズキリが何を考えているのか、それについてはオユキとしても予想はあるのだが、言ってしまえばひき潰せばいいだけとそう考えているという事。
そも、神々が断言してるのだから。時期が来れば、全てを滅ぼすのだと。
此処に至って気にするべきは、それこそかつての世界、そこにいたであろう相手。こちらの神々すらも創り出して見せた相手ではあるのだが、そちらはそちらで正直な所肩入れするとも思えない。万が一そうしたことがあるのだとしたら、既にこの世界は滅びているのだろうと、オユキとしてはそうした結論を考えるしかない。
ただ、現実の問題として、往々にミズキリが考慮しない部分として、オユキが対応すべき事柄が無いのかと言われれば、そうでも無いのがまた厄介な所ではあるのだ。

「あの子たちに対するものとして、という訳でもありませんが門を良しとしない者達が間違いなく狙うでしょうから。」
「オユキ様だけでは無く、多くの者達がそもそも移動の時期を悟らせないようにとしているはずですが。」
「さて、その辺りは私の関与するところではありませんが、端的に言うのであれば人の口にとは立てられぬと、それ以上でもそれ以下でもありません。」

そもそも、全ての人間をオユキは信頼しているわけでもない。妖しいものなど、始まりの町にしてもいくらでもいる。それこそ、教会にきちんと定期的に足を運ぶのであれば、ロザリア司教が手を打つのだろうがそうでない場合は彼女にしても手を出すことが適う物でもない。恐らくという程でも無いのだが、神職という存在がその権能、神々に与えられた能力を大いに振るう為には必要とされる場が存在している。もしも神職が一切の気兼ねなく与えられた能力を振るう事が書ぬというのならば、このような事態にはなっていない。寧ろ権力構造そのものが入れ替わっている。この世界で曲がりなりにも王家が力を持つというので有れば、やはりそこには制限があってしかるべきなのだ。神々の良き奉仕者足る存在に。

「オユキ様から見て、疑うべき相手は。」
「流石にお会いしたことのない相手まで考慮してというのは、難しいですね。」
「とすると、これまでにあった相手というのは。」
「はい。こうして移動を共にして頂こうと、そう考える相手に関しては問題がありません。」

こうして、領都まで、月と安息の守りの外での護衛を任せようと考える相手というのは、やはりトモエとオユキの信頼を勝ち得た相手に限られている。事これに関しては、第二騎士団として何を言ってきたのだとしてもオユキも譲る心算などない。

「だとすると、残された者達は。」
「いえ、色々とそれは早計なのです。」

では、残してきた者達が汚染されているのかと言えば、やはりそうという訳でもない。

「どう言えばいいのでしょうか。私たちに仕える、その事実よりもご自身の家を、そこに連なる相手を優先する方々と言いましょうか。」

残してきた者達は、一度は見逃したというのに変わらず己の家を優先する者達だ。
事これに関しては、シェリアとオユキ、加えてトモエの目を逃れる事などできはしない。仮にそれが出来るというので有れば完全に上手であるため、不快を覚える事もない。とかく現状のオユキに、トモエに不快感を与える相手というのは下手なのだ。かつてのカレンのように。今となってはこうして分からぬ事ばかりと、そうした自覚をもって慎ましくしている彼女よりも遥かに。

「配置換えを、王都で願う事になるのでしょうね。」
「それは。」
「既に一度見逃しています。二度はやはりありません。」

オユキがそうして話せば、シェリアの方もでも随分と。
彼女にしても、元々家からそうした役回りを押し込まれた者であり、それをローレンツという人物が一部肩代わりをすることでオユキが問題視するほどではない部分に抑えたのだ。ローレンツがお目付け役などと嘯いてはいたのだが、まず間違いなく彼自身が望んだうえで、シェリアの為にと出てきたのだろう。既に騎士としての役目を終えて、己の家督を既に後進に譲ったというのに。その結果得た物は、まさに彼が未だに心の内に抱えていた恋慕が適った事と言えばいいのか。

「名前も、一応は控えていますからまとめて公爵様にお渡しすることになるでしょうね。」

既に皿は肉から魚へと移っている。領都、河からはいくらかは慣れているというのに、始まりの町にまで水路を引いた副産物だろうか。こちらでも、同様の事を行ったのだろうか。肉の脂よりもオユキとしては親しみやすい口触りにただ舌鼓など打ちながら、何故こうして領都に先に移動したのか、それも人を選んで。その辺りの背景をただ告げる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
【ファンタジーカップ参加作品です。清き一票をお願いします】 王国の忠臣スグエンキル家の嫡子コモーノは弟の死に際を目前に、前世の記憶を思い出した。 自身が前世でやりこんだバッドエンド多めのシミュレーションゲーム『イバラの王国』の血塗れ侯爵であると気づき、まず最初に行動したのは、先祖代々から束縛された呪縛の解放。 それを実行する為には弟、アルフレッドの力が必要だった。 一方で文字化けした職能〈ジョブ〉を授かったとして廃嫡、離れの屋敷に幽閉されたアルフレッドもまた、見知らぬ男の記憶を見て、自信の授かったジョブが国家が転覆しかねない程のチートジョブだと知る。 コモーノはジョブでこそ認められたが、才能でアルフレッドを上回ることをできないと知りつつ、前世知識で無双することを決意する。 原作知識? 否、それはスイーツ。 前世パティシエだったコモーノの、あらゆる人材を甘い物で釣るスイーツ無双譚。ここに開幕!

道の先には……(僕と先輩の異世界とりかえばや物語)

神山 備
ファンタジー
「道の先には……」と「稀代の魔術師」特に時系列が入り組んでいるので、地球組視点で改稿しました。 僕(宮本美久)と先輩(鮎川幸太郎)は営業に出る途中道に迷って崖から落下。車が壊れなかのは良かったけど、着いた先がなんだか変。オラトリオって、グランディールって何? そんな僕たちと異世界人マシュー・カールの異世界珍道中。 ※今回、改稿するにあたって、旧「道の先には……」に続編の「赤ちゃんパニック」を加え、恋愛オンリーの「経験値ゼロ」を外してお届けします。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

処理中です...