憧れの世界でもう一度

五味

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22章 祭りを終えて

ウーヴェ

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トモエは少々まとめて武器を持って、ウーヴェが営む店舗へと顔を出していた。
オユキから頼まれた物に、そっと神授の短剣が含まれているあたり、一体これを何に使ったのかと、先が軽く潰れているのは間違いなくフスカに対して振るった結果だろうと分かるのだが、それでもこうなる程とはとついついトモエも考えてしまう。確かに、トモエがやけどを負わされたのは左の掌も含まれていたのだが、そちらに対して短剣を使って見せたという事だろう。
さて、そこまで至る道筋はと考えてみるのだが、オユキではない誰かが使ったと見える剣もあるためなかなかに想定がしづらい。よもやオユキがトモエに関わる事で誰かに譲るとも思えず、また、あの場に集まったであろう者達の中で、少なくともトモエが把握できている中ではオユキの手から武器を奪ったうえで、此処まで無理な振り方が出来る者などいない。

「失礼します。ウーヴェさんはお手すきでしょうか。」

つらつらと考えながら馬車に揺られていれば、直ぐに目的としている店舗についたようで。
馬車から一先ずは降りた上で、店舗へと入る。先に御者を頼んでいる相手がウーヴェに声を掛けてくれてはいるのだろうが、そこはそれ。トモエはトモエで声を掛けるのも礼儀の内。

「ああ、なんだお前か。」

さて、どうやら先に声を掛けたであろう物がファンタズマ子爵家とでも名乗ったのか。

「ご挨拶が遅れていたかと。トモエ・ファンタズマと今は相成りました。」
「ああ、そうい事か。子爵がこんな店になんの用かと思えば。」
「公爵令息のファルコ君なども、こちらに来ているかと思いますが。」
「あの小僧か。ただ、あれも家督を持っているわけでは無いしな。」
「子爵家の家督は、私ではなくオユキさんの物なのですが。」

家督を持たぬという意味では、トモエも同じだと笑いながら話、そして手入れを頼みたい武器を一通り並べていく。
幾つかどころでは無く、基本的に神授の短剣を除けばこのウーヴェによってつくられた武器ばかり。これまでも合間合間で彼に調整は頼んでいたのだが、今度ばかりはいくらか日も空いている。鞘に収められた物を早速とばかりに掴み上げては、僅かに眉を持ち上げてと彼もよくわかる程度には痛んでいるのだろう。

「全く、こうなる前に持ってこれんのか。」
「それが、隣国へ向かっていたこともありまして。」
「ああ、そんな話だったな。それに、これか。流石に儂も神授の品を扱うのは難しいのだが。」

手に掴んだトモエの太刀をまずは鞘から引き抜いて検分しているかと思えば、少し確認しただけのオユキの短剣に少し視線を送ってそのような言葉を零す。

「打ち直しが必要そうなのですよね。」
「それほどか。一体何に使ったら神から与えられた神器が、そうなるのか。お前さんならそんな事は無さそうだが。」
「オユキさんでもめったな事は無いでしょうから、本当にどういった使い方をしたのか。」

トモエとしても、それが分からないのだと。

「これは、まぁ儂の手に余るかもしれん。」
「そうであれば、この子も仕方が無いとするしかありませんね。」
「ほう。」
「少なくとも、今知っている中ではウーヴェさんが一番の腕利きではありますから。」

これについては、何も世辞という訳でもない。
実際にこの町で流通する武具の類をいくらか確認したうえで、トモエはそう判断している。同様にカリンとオユキもだ。まずもって、道具にも相応にこだわりがあるトモエとカリンの要望を満たせるだけの腕を持っているのが、彼しかいない。本当にホセには良い人を紹介してもらえたものだ。

「そう言えば、ホセさんはこの町にもまた寄っているのでしょうか。」
「ああ、あいつか。この前に少し顔を出していたが色々と忙しいみたいでな。」
「生産物も変わりましたし、この町の生産量も増えましたからね。」

それはもう、行商としてこれまで実績を積んでいた彼は大層忙しい事だろう。始まりの町で造られる新しい品が欲しいのは、金属製品が欲しいのは周囲の町も同様なのだ。噂は千里を掛けるというが、この町に出入りする貴族たち、周囲の町を治めている者達がこの町の様子を見れば、それはもう己の領地にも多少の分配を貰えないかとメイを始め多くの者達に交渉することだろう。その辺りに対するけん制も兼ねて、オユキにしてもメイにしてもダンジョンは領主の管轄とする、得られた物はあくまで領主が一括で買い取ると決めたのだろう。
トモエとしては迂遠な事だなどと考えてもいたが、いざこうして実情に触れる機会があれば成程ある程度ノリはあるのだなと、そうした理解も深まるというものだ。
他からのちょっかいなど、確かに何に越した事は無い。そして、交渉の窓口というのも纏めてしまうのが良い。
結果として、メイの方では相応の負担を得ているのだろう。そこまでを踏まえてオユキが何くれとなく気を遣っているのだろう。随分と優しいなと考え、下心もあるに違いないと考えてはいたし、事実として彼女を足掛かりに色々と無理をオユキが通しているのは事実でもある。ただ、それ以上にこうした現状を少しは取り払おうとオユキの方でも考えているのだ。

「まぁ、儂からも少しお前さんらの事は話しておいたが、あいつの方が色々と詳しい様子ではあったな。」

ウーヴェにあれこれと持ち込んだ武器を見せている間、こうして世間話なども進めてみる。
情報収集などというわけではないのだが、やはり色々と会って話せば互いに積もる話もあるものだ。

「それにしても、こちらも随分とガタが来ておるな。」
「ええ。相応に使いましたから。補修石でしたか。完全に治ると考えていましたが。」
「まぁ、補修以上の物では無いのだろうな。」

隣国への出立前に、ウーヴェに頼み、少年たちと子供たちから預かった補修石を使ってもらった。結果として一先ず見た目に関しては完全に新品同様となったし、暫くの間は問題が無かった。しかし、ある程度使っていれば補修されたと思しき箇所から、ボロが出てきた。つまりは、そう言う事なのだろうとオユキと共に話し合った物だ。これまではそれこそ経年劣化の修繕程度でしか確認が取れておらず、実用品ではトモエとオユキが初めてだったのか。

「この子たちも、そろそろでしょうね。」

何度も研がれ、溢れの魔物で用意した武器たちも既にかなり痩せている。まだ辛うじて持ち手にひびが入って使い物にならなくなるとまでは行っていないが、あとひと月、若しくはもう少しすれば。
鞘から抜いて、トモエのお気に入りでもある太刀を前に難しい顔をしているウーヴェにそう声を掛ける。

「ああ。だが、良く持った方だ。」
「そうですね。」

では、次にどうするのかとそう言う話にもなってくるのだが。

「同じ程度のものとなれば。」
「溢れのソポルトだからな。」

ウーヴェの溜息が重く響く。流石にこの町でもう一度溢れを等とは望めもしない。さらに上等な、それこそ人の手ではとても及ばないほどの奇跡である神授の大太刀等もあるにはあるのだが、あちらは既に納める先が決まっている。折に触れてオユキが言い様に呼び出したりしては、トモエに貸与しているのだが、普段使いにするものを神にねだるのもまた筋違いというものだろう。

「中型以上か、このあたりだと。ダンジョンで、魔物から得られるならと思わないでもないが。」
「そちらは、また難しそうですが。確か、加工の難易度の差がとか。」
「それか。確かに加工した物は、実際に外の魔物から得るものと比べてしまえば数段落ちるな。」
「では、中型相手となりますか。この子の特性にも慣れてきているので。」
「そればかりは、どうにもならん。似たようなものにすることは出来るが、やはり魔物によって重さも変われば特性も変わる。調整くらいは効くがな。」

鍛冶と火の神の領分はよくわからない。ウーヴェにしても、それが解らぬというのだから門外漢であるトモエはいよいよどうこうできる様な物でもない。

「では、まだこの子たちが使えるうちに次となる物を探してみましょうか。」
「それがいいだろうな。どうする。」
「一先ずは、手入れだけを。」

ウーヴェの問いかけには、これを最後とするつもりで仕上げるかとそうしたものも含まれている。ただ、中型を狙うと言っても流石にトモエだけでという訳にもいかない。オユキも狙えるならというだろう。トモエであれば、それこそ武技を用いて薙ぎ払うなどという選択肢も存在するのだが、生憎とそれでトロフィーが残るなどとも思えない。万が一残ったとしても、それなりに量も減る事だろう。
トモエは、捕らぬ狸の皮算用、文字通りのそれを行う己に対して多少の戒めを。

「格が落ちても構いません、同じ造りの物を、そうですね残している素材もまだいくらかありますので。」
「前に領都でお前さんらが持ち込んだのがあったな、プラドティグレ辺りのが。」
「ええ。」

ついでに獅子の魔物物についても、いくらかトモエたちの取り分として未だ屋敷に眠っているはず。一応と言えばいいのか、それらの大部分はシグルド達に渡す武器を作るためにとウーヴェに渡したのだが、多少は未だ残っているはずでもある。その辺りを、改めて後で人を頼んで運んでもらえばよいだろう。

「ですが、良いのですか。」
「まぁ、言いたいことはわかるがお前さんらを優先して悪い事も無いだろうからな。」

期待をかけてくれているのは、有難くはある。
ウーヴェにしても、トモエとオユキが贔屓にしているからとこの町に引っ張ってこられた人員だ。他にも数人、それこそ服を用意した者であったり、トモエがオユキに誘われて銀食器を買った店、そこが仕入れ先としていた職人の一部であったり。実にトモエとオユキの振る舞いで去就を変えた者がいる。

「お代は、ま、お前さんらなら間違いなく貰えるからな。」
「おや。」

ウーヴェがそう嘯いてみれば、トモエの眉が僅かに角度を変える。

「どうにも町のすぐ外で訓練をしている連中がな。何処から聞きつけたのか、うちの武器を欲しがってなぁ。」

この店で取り扱う武器、特に特別にと頼む物は相応の値段がする。まだまだ丸兎程度をどうにか出来る程度の者達では、足が出るだろう。
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