憧れの世界でもう一度

五味

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20章 かつてのように

教会の中

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案内された先、門の見学を終えて今度はそのまま教会の中へと案内される。前々から気になっていたものだが、どうにも空間拡張の魔術は教会にも使われているらしい。どうにも外観から予想できる中、その広さに比べて内部空間がかなりの広さを誇っている。以前の闘技場に併設されていた戦と武技の教会、王都にある神殿。それから、この場にある始まりの教会。

「さぁ、こちらですよ。」
「お世話になります。」

歩いてついていけば、どうやら来客用の部屋があるらしく、そこに案内されて中へと。以前案内された来客を迎えるための部屋とも違う、何処か簡素な部屋。置かれている家具は、オユキでも使いやすく考えられているのか、それとも以前のままなのか。子供たちが使う事も考えられているのだろう、若しくはオユキよりも前に使った者がそうした背丈であったのか。どうにも子供向けと、オユキの背丈に合わせた家具が並べられている。加えて、教会の中であるというのに、あちらこちらに赤い差し色や戦と武技の神の意匠が用意されている。

「この部屋は、どういった用途なのでしょうか。」

どうにも、そうした用意が気になって尋ねてみれば。

「戦と武技の神に仕える方が泊まるための部屋、と言えばいいのでしょうか。」

そう語る司祭は、何やら楽し気に。

「ここは神域に近い場所。どうか、気にせずに。」
「成程。そう言う事ですか。」

さて、理屈はいまいちわからないが、その言葉に一先ず頷いておく。どうにも、この世界は理屈が解らぬ事ばかり。色々と、まぁ、あるのだろうと。

「全く、分かっていないでしょう。」
「そうですね。実のところは。」

祈りが届く仕組み、こうして魔術が存在する理屈。加護として与えられているものが何か。どうにも、分からぬ物ばかり。それこそ背景にシステムがあれば、理解が出来る物とて実に多い。気が付けば、色々と分かりはするのだろうがその辺りはオユキもトモエも創造神による働きかけなのだろう。
どうにも記憶が定かではない、そちらに思考が傾きかければ止められる。まったく、この世界の秘密を解き明かしてほしいというのであれば、是非ともそうしたことを止めて欲しい。そうオユキとしては考えているのだが、どうにもそうはならないらしい。こうしてあれこれと欠片を集めて、そこからさらに思考を積み上げていけばという事なのだろう。こちらに残るように、思考をそちらに向けて誘導されているのだとそう感じる。

「どうにも、難しいと、そう感じてしまいますね。」

そうした諸々を含めて、オユキとしてはそう言うしかないのだ。

「シェリア様が、こうして話しているのに割って入ってこない、恐らくは聞こえていないのでしょうが。」

さて、後ろからついて来ているはずのシェリアが、こうして話に入ってこない。オユキとロザリア司祭が話している間に、若しくは聞いているのが異なる話なのかもしれないが、どうした理屈か分からない。どうにも、法と裁きの柱がいて、そちらが何かを行っていそうなものだがそれにしても理屈というのが分からない。

「法と裁きの神、神像の無い柱ではありますが。」
「ええ、色々とこの世界の仕組みを支えておられる柱です。」
「そうなのでしょうとも。」

どうにも、世界の節々に。

「こうして話が通じる、若しくは翻訳をされているのでしょう。」

ことこれに関しては、言葉が通じない者達も過去にいたのだと分かっている。こちらで暮らす者達は、口語としてはスペイン語、公文書では英語を使っているのだ。オユキもメイの手伝いで散々に作っている書類、そこに書かれている言葉はオユキも、というよりもミズキリやケレスが分かる言葉として書かれている。このまま、こちらで暮らしていけばいよいよ口語の方もどうにかしなければいけないだろう。サキがこうして教会であれこれと仕事をして、そこで言葉を覚えていたこともある。どうにも、この世界にある仕組みばかりは。

「何とも、遠大な事です。」
「そうですね。神々の配剤は、やはり遠大な物ですから。」

そして、これを分御霊にいうのは憚られはするのだが。

「どうにも、そうした思惑を感じずにはいられません。はっきり言ってしまえば、思惑を感じる事が多いと申しましょうか。」

さて、こうしてシェリアがいる場で話すのは何度目だろうか。そこに、この人物はいなかったのだ。

「いかにも、それらしい世界ではあるわけです。こうして私たちの言葉にしても、なんと言いましょうか、都合の良いようにされているようですから。加えて、過去の記録というのも、どうにも不確かな物になっています。」

かつての舞台と地続きであるのなら、この世界にもその証が残っていても良いはずだ。使徒として、始まりの人達がこちらにいるのは良い。ミズキリという人間が、その位置を得ているのも、まぁ良しとしよう。ただ、そうであるなら他にも居たはずなのだ。アルファ版のプレイヤー、ベータ版のプレイヤー。そういった存在を含めれば、果たしてどれだけがこの世界に呼ばれたのだろうか。それにしても、話しが残っていない。どうやらこの国国王であったり、王太子であったり。そういった者達が抱え今dネイルという話も聞いている。だが、やはりその影を見た事が無いのだ。闘技大会に出てきたのは、まぁ、恐らくといった程度だが。

「さて、どうなっているのでしょう。この世界がシステムだとして、ええ、個人に付加される属性というのは、データベース上の物を、この世界に落とし込むのだとしたら。」

それこそかつてであれば、どうにでもなった。全ては、データ上の事。そこにどのような手を加えるのか、個人に対してどうした判断を行っていくのか。恐らく、その辺りの事を司っているのが法と裁きのの神。ゲームルールに対して、実に厳格に裁可を下す存在。

「恐らく、正解とは思いますが、つまりはそのような背景があって、今もこうしているのでしょうから。」

あれこれと、こうして話しては見たのだが。恐らく、ロザリア司祭であれば理解の及ぶことではあるだろう。世界を知るための端末として、人々の生活を知るための端末として、こちらの世界に置かれている存在だ。実に不可思議な相手でもある。こうして話が出来ているのも、どう言えばいいのか。ミズキリと同じように、オユキやトモエと同じように。

「こうして話していて、いえ、話しながらも考えを纏めているのですが。」

周囲から色は失せていないし、神々からの介入もない。

「相手の懐に飛び込んでと言いましょうか。」

さて、相手はどう出るか。そう、オユキは考えているのだが。
ロザリアはただくすくすと、そう笑うだけ。

「その辺りは、どうなのでしょうか。」
「どうと申されましても。さて、少し話をした方が良いようですね。」

そして、オユキが足を止めていたからだろう、軽く背中を押されて部屋の中に。シェリアも、そのままつられて中にと足を進める。まったく、神の手は何処にでもありと、よくもいった物だ。ロザリアの後をついて、ここまで歩いてきた。背後には、シェリアがいる以上は何かが立つ余地などあるはずもない。

「何処からお話しした物でしょうか。まずは、そうですね。」

そして、部屋の内装がいきなり変わる。

「オユキ様、こちらの世界というのは、やはり過去から連なるものです。勿論、そこには色々と仕組みもありますが、そっくり過去と同じという訳ではありません。」

そして、オユキがそれに対して確かにそうなのだろうと、そう頷いて見せる。シェリアはと言えば、オユキの前に何時の間にやら立っており、何かに警戒をあらわにしているのだが、どうやら彼女にしてもこちら側に来れた物であるらしい。どうにも、過小評価をしていたのだろう、そうオユキとしては評価を改めているのだが。

「シェリア様も、どうぞ席に着かれると良いでしょう。何分、今から話すのは、この世界の根幹にも関わる事ですから。」
「根幹、ですか。」
「オユキ様、どうなさいますか。」

既に外に向かう扉は無い。ここは、創造神とこちらに来る時に話した、何やらただただ広い草原の中、ぽつんと置かれた机とその上に置かれたティーセット。給仕などどこにもおらず、何やら色とりどりの物がそこに並べられている。オユキは腹をくくってそこに。

「では、お招きに預かりましょうか。」
「ええ。どうぞ。」

さて、主がそうしたというのであれば、シェリアも当然それに従う。
いそいそとという訳でもなく、シェリアに椅子を引かれてオユキが座り。シェリアもオユキと並んで座れば、向かいにロザリアが座るのだ。これまでは円形の机であったのだが、今は四角い机が用意されており、上下の区別もつきはしない。一応、オユキの左手側、そちらが出入り口として存在していたからだろうが、そこにシェリアが座っているのが唯一の手掛かりではあるのだろう。

「さて、色々とお話をしましょうか。」
「そうですね。どうにも、色々と忙しなさを常としていましたが、事此処に及んでと言いますか、こうして話をさせて頂けるのであれば、ええ、願ってもいない事ですから。」

何故トモエがいないのか、それに関して思うところが無いかと問われれば、いくつか思い当たる理由もある。トモエは、以前のオユキが使っていた体を、器を使っているのだがその中に入っているのはあくまでも元プレイヤーではないトモエだ。オユキとの違いは、あまりにも明確にそこにある。どうにも、ミズキリですらトモエが来ることを予想していなかったのだろう。だからこそ、早々に。オユキはトモエがいなければ、こちらの世界で為すことを為せば、それこそ、何処かにむかう途中で野垂れ陣でいただろうなどと語ったものだ。しかし、こうして考えてみれば色々と。

「ミズキリについては、一度おいておきましょうか。何やら益体もない事を考えている、その程度の理解はあります。ですが、何故私がこちらに長くいる事になるだろうと、そう考えていたのかと言えば、やはり気になります。」

そう、オユキが気にしているのは、ただその一点。恐らくは、ミズキリ本人に尋ねたところで返答が無いだろうその一つ。

「オユキさんは、トモエさんがこちらに来なければトモエさんの事は忘れていましたよ。」
「やはり、そうなりましたか。」

それが、この世界にある何処まで行っても残酷な現実だ。
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