憧れの世界でもう一度

五味

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20章 かつてのように

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トモエが一人四阿に取り残され、報告を受けるために一人優雅にお茶を楽しみ、オユキは長い長いお説教をメイとアイリス、ついでとばかりに何やら面白そうだとついてきたフスカに茶化されながら時間を過ごしたのが昨日。

「どう、似合うかな。」
「そうですね。常に比べて美しく見えるには違いないでしょうが、不慣れがやはり先に目につきますね。」
「やはり装飾となると、日ごろから身に着けていないと動きに合わせて気を取られる物ですもの。」

そして、オユキが使い物にならなくなる程度に、各種族から女性として最低限の身だしなみとは何たるかを詰め込む時間を過ごした後には、そう言えばとばかりにメイからあの子たちは準備が整っているのかと言われて、今日を迎えている。
急な誘いとなるため、どうなる事かと思えば。教会には、大量という程ではない人数が一度に預けられ、それらを見るために各所から人が派遣されているため、寧ろ今はやることが無いのだと直ぐに実現されることとなった。少女たちの返事、建前はきちんとそのように整えられていたし、恐らく送り出した教会の先達たちもそう諭したのだろう。実態としては、晴れ舞台に参加できる、普段はとても望めぬ衣装を身に纏う機会があるのだと色めき立っている少女達。隠す気があるのかと、そうオユキもメイも一々問いかける事もなく、真剣に取り組んでいるのだとそう振舞って。

「そっかー。」
「うん。確かに、こう、動くたびに引っかかる感じがして、ちょっと、じゃなくてすごく気になるかも。」
「メイ様が身近でしょうが、常日頃身に着けている方は自然に見えるでしょうが、やはり相応に重さのある金属ですから。」

そして、オユキは今屋敷の一角を使い、メイとカリンという、かつての世界で一握りという言葉では足りないほどに世界でその名を轟かせた者達を助言者に置いて。オユキとて、確かに一代で相応の大企業まで成長させた企業からの人員ではあるが、所詮は集団の中の一人。そして、対外的な代表でも無ければ、その代表は当然それが出来るだけの素地を持つ人物であったというだけ。

「皆さんでしたら、そうですね、まずはもう少し簡素な物から。後は、動きの基礎はトモエ殿やオユキからでしょうから手首や足首に少し目立つものをというのがいいでしょうね。」

そして、屋敷の一室。少し広い客間という程度でしかないその部屋で、蔵を埋める程度にはため込んでいる装飾品をカレンとカリン、時にヴィルヘルミナが選んだ品をぞろりと並べて、そこから実際に当日着る衣装に合わせて見ては、どうかと意見をあちこちに求めている。
まぁ、あれこれと手に取るものがやたらと華美で、正直オユキの審美眼に合わせたところで下品と呼んでも良い品である辺りが、まぁ、何とも微笑ましいと言えばいいのか。

「そうですね。それと、皆さん忘れているようですが、主役は誰なのか。どのような場なのか。そして、己はそこでどの位置にいるのか。」

舞台という意味で、何処までも慣れているヴィルヘルミナの言葉に、少女たちは大事な前提を思い出したと、そう言わんばかりではあるのだが、さて思い出したところでそれを選択することができるだけの知識など当然持ち合わせているはずもない。言われて、改めて今の己を振り返ってみて、確かに違うのだろうと気が付くだけの完成を幸いにも持ち合わせてくれているのだが、では解答を探せるのかと言えばそんなはずもない。
差し当たって、目につきやすいようにと言えばいいのか、少々趣が違うからと一まとめにされていたからこそ際立った、素材とされた物の価値を積算するしか評価の仕様もない品を元の場所に戻し、他へと視線を彷徨わせる。勿論、装飾として身に着けるのではなく、己の家格や財力を誇示するという意味合いにおいては、申し分ない品であるし、送って来た相手にしても、そのように使う事を考えての物ではあろう。
一角に纏めておく分には、評価は分かれそうなものだが、統一感が生まれるあたり、品としては申し分が無いのも事実。

「そう言えば、確認をしていませんでしたが、舞に参加をというのであれば、こう、動きでずれる物は慣れないでしょうから。」
「えっと、首飾りとかは、そんなに動かないんじゃ。」
「動きによっては弾みますし、ゆとりの調整などが聞かないのであれば目線の高さまで来ますよ。」

そして、この場にいる中で、一つ大きな問題と言えばいいのか、初めからわかり切っているために、増援が連れてこられたと言えばいいのか。オユキは不必要な一切を身に付けたくない。そして、この場にいるオユキ以外は飾るべきだと考えている。

「えっと、そうなると。」
「うん。」

そして、主催者が誰なのか、参列する人間の位を考えなければと分かりやすい思考の流れを作られたことによって、シェリアとカレンにされるがままになっているオユキに視線が向く。そして、あれこれとあてがわれる物にしても、どうにも気に要らないと、それを隠すことが無いオユキが椅子に腰かけている。

「オユキちゃんは、あんまり、似合うのが無いよね。」
「うん。」

そして、少女たちの言葉が端的に示している。

「オユキは、髪色との兼ね合いが難しい所ですわ。」

こうして集まる者達の中で、唯一墨を流したような色合いを湛えているのがオユキだ。それで瞳の色もそちらに依っていればまだというところではあるのだが、名の由来となった存在を考えたからだろう。凍てつく氷を思わせる冷たい青。何処かオユキを背丈、定められた齢不相応に見せる色合いであり、オユキの視線に異様な圧を時にもたらす原因となるその色。

「えっと、オユキちゃん冬と眠りの女神様の装飾に合わせて見る。」
「おや、ご存じなのですか。」

オユキの属性は確かにそちらに由来するものであるし、どうにも体質と己の名前を考えれば大いに由縁の深そうな相手でもある。

「でも、アン。そうはいっても、この中から見つけるの。」
「え。オユキちゃんは、別に用意するんじゃないの。」

今ここに用意されているのは、あくまで下賜する予定の品と言えばいいのか、客人であったりに貸し与える品々だと考えているようだが、そうであるなら、そもそもいまこうしてオユキにあれこれと着せて見たりしようはずもない。
オユキはすっかりと他に任せたつもりになり、もはや己が関与する事は無いと考えていたのだが、昨夜トモエからもそんな事は無いと諭された。寸法が解っていたところで、やはり本人に実際に着せてみて、実際にどうなるかを見なければ判断は出来ない物であるし、手持ちの装飾と合わせるのなら、更に細かい調整が求められると。曰く、そうした行動の全体をさしてトータルコーディネートと呼ぶのだとか。

「いえ。特に、そちらの手配は行っていないと思いますが。」

実際のところは、それこそオユキが全く分からぬし、他に気を取られているために詳細を把握する余裕は無いだろうと詳しい異邦人二人を頼んで、早々に投げだした事柄だ。どのように話が進んでいるかは一切分からないが、家として予算がどのように動いているかだけは把握している。そちらを考えれば、新規に装飾用の素材を買い求めてなどという事は無かったはずだと。

「はい。そうした話もあったのですが、オユキ様は望まぬだろうと。」

髪色と、瞳の色。どちらも言ってしまえば、引き継ぐ素養だ。発現として珍しい。それはオユキも理解している。ならばそれを、珍しいものを如何に磨き上げるかに美意識が現れるというのはオユキも理解は出来る。協力的であるか否かはさておき。

「流れるエスニックな黒髪、しかして、瞳は宝石の様なアイスブルー。肌も抜ける様に白くとまさに人形の様な出で立ちですもの。ピジョンブラッドが実に映えると思ったのですけれど。」
「由来を思うのであれば、翡翠を玉にして髪を飾れば。紫水晶を削り出して首元を飾れば、実にあでやかになると思うのですが。」

さて、異邦人二人から、何やら言葉は分かるものだが、実際に何を思い描いているのか全く分からぬ話をされる物だと、ただオユキはそれを聞き流す。領都を盛装でトモエと歩いた時に、少しは反論して見せたが己の来ていた物、トモエが用意してくれたものだからと興味関心を抱いた物以外は、まぁ、知らぬ事でしかない。知ろうとすらしなかった事でしかない。そして、そのような生活を送って半世紀以上。最早、凝り固まっていると言っていい程に、価値観が出来てしまっている。

「まぁ、お任せします。土台私に分かるとは思えませんから。」
「オユキ。」
「いえ、昨日お話しいただいた事で、必要性と言いますか、それを大事にしてきた者達の文化、育まれた土壌については理解しました。」

だからこそ、オユキは今こうしてシェリアとタルヤのされるがままになっている。風綿を、更に疎らに編んだのだろう。布一枚を広げても、向こうの景色が透けて見える様な布。それを最低限覆う場所を覆ってとしているような、実に独特な装い。かつての世界で言えば、それこそ水着を着てそれを飾る薄布を身に着けていると言えばいいのだろうかと、オユキとしてはそのような感想しかない。
少女達に意見を求められて返す答えにしても、かつて幾度もそうしたように求めているだろう答えと、己がここまで培ってきたものを照らし合わせて当たり障りがない物を返しているに過ぎない。そして、ようやく髪にあれこれと細かく行われていた作業。いくつかの穴の開いた石に髪を通して、それを何やら細かく調整してという仕事が終わったらしく、シェリアとタルヤが手を止め少し離れる。
未だに身に着けるべき装飾は決まっていないが、素地としてはこれなのだろうと。

「オユキ、立ち上がって何処に行くつもりですの。」
「これが衣装として決まっているようですので、トモエさんに見て頂こうと。」

では、用意が終わったのなら早速と、そう考えたオユキの肩をシェリアがしっかりと握り、そこにメイから質問の声が出たためそれに対して、当然だとばかりにオユキが応えた。
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