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20章 かつてのように
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「タルヤ。カレンにイマノル様とクララ様に出立を頼んでおいてください。」
何やら生暖かい、微笑まし気というのが味付けで、ほとんどはもの言いたげな。そうした視線を向けられるが、オユキはトモエの手当てをカナリアに任せ、今はフスカを招いてお茶会の席に。
「畏まりました。」
そう頼んだとて、何もタルヤが己で動くという訳でもなく、オユキがこうして声を掛けたのを聞き逃しはしない他の使用人に向けて指示を流せば、それで終わりだ。
「レジス候子息とラスト子爵子女ですか。」
「ええ。あちらを離れるのも障りがあるでしょうが。」
それこそ、いざこうなる前に河沿いの町に行ったとき、元上司であるアベルは動かせないと、そう判断したと聞いていた。しかし人の口に戸を立てるどころか、声を大にして喧伝したのだ。当然耳に入った二人は、それがごく自然な帰結だとばかりに数日前には始まりの町にしっかりと戦装束とと分かりやすい絢爛な鎧に身を包んで訪れた。
そしてしっかりとアベルが頭を抱えたわけだ。
それもそのはず。既に論功行賞を簡単にするために、作戦を立案する段から誰を何処に配置するのか等決まっている。そこで改めて今後要衝任されることが決まっているものが揃って訪れた。戦働きという意味では、王都騎士団に身を置いた者達、疑う余地もない。つまりは、他の者達から名を上げる機会を奪うのかと。
そこで、オユキが迎えがいるのだからとそちらを頼む形で傭兵ギルドに待機してもらっているという訳だ。
「そう言えば、そのような話だけは聞いていましたね。」
「慣れぬ事故緊張もあり、疲れているだろうと、そう考えて挨拶は遠慮したのかもしれませんね。」
特にクララに関しては、ファルコの下という扱いではあるが、実質的にメイの事務仕事も補助しているリュディヴィエーヌがいる。そちら経由で話は回ったのだろうが、メイにしてもどうにも散漫であったらしく何処か気のない返事だ。クララとて騎士としての振る舞いに関しては何一つ問題が無いのだ。そこでメイがきちんと話を聞き、では時間をと言えば挨拶の機会を願ったかもしれないが、そうでは無いのならば無理を強いるのはこうして参陣したことだけにとそう言った考えであろうか。
「すっかり、いつも通りですのね。」
「ええ。トモエさんも大過なく戻る事が出来ましたから。」
ただ、そうしてオユキがあれやこれやと口を出せば、やはりメイからはため息交じりに揶揄されるというものだ。
「そこまで不安に思わずとも、とは言いませんが。」
「どうにも、こうしたことは不慣れで。」
積み上げてきた形は逆。どうした所で、慣れていない。
そもそも、オユキという人間は、今とは多少なりとも精神性の違った状態であってもトモエと離別の時を迎えたときに、トモエ自身が諭さねばつまらない結末を当然と迎えた様な、そんな人間だ。
周囲は一代で、半世紀も立たずに名を上げた企業の創業メンバーとして随分と持ち上げてくれたものだが、中身については、それこそ半世紀以上苦楽を共にした相手が今の姿をもって相応という様な、そうした有様なのだ。己自身に対する評価など、外から見た評価に比べれば勝ちなど無いに等しい。己を見るのは、常に他人なのだから。
「慣れろとは言いませんが。」
「まぁ、らしい様子だもの。いいんじゃないかしら。」
「もう。」
メイがこれを切欠にいくらでも言いたいことがあるのだと、そうした構えを見せるがアイリスが早々に話を止める。
「そんな事よりも、この後結局何を考えているのよ。」
「いえ、先ほども話しましたが、森の中に新しく町という程ではなく物資の採取を気軽に行う為の拠点をと。」
「貴方達が森で暮らすのは、簡単では無いわよ。」
「ええ。ですから、拠点なのです。」
始まりの町は、実に良い立地を獲得している。近くには森林資源、町の中にまで今は水源が存在している。そして、土地に対しては五穀豊穣の加護は既に与えられている。
「だとしたら、今度の祭りは別に必要ではないのではないかしら。」
「ああ、その事ですか。」
アイリスの疑問にしても、確かにもっともだとそう思えるところではある。
「これについては、色々と試しを含めて思惑のあっての事ですが。」
「オユキ、全く聞いていません。」
「そう言えば、そうですね。ミズキリあたりが説明していそうなものですが。」
五穀豊穣だけでは人を満たすには足りぬからと、今後増える人口に対してより確かな物を求めたいからと考えていた。そちらに対して、それならばと名乗りを上げた種族がいる。
「ただ、そちらについては得られるものが不確かなので。」
しかし、それがどのような形になるかは、今に至るまで明言されていない。
「最悪というのもおかしな話ですが。」
得られる加護の形は、祭りの形式に合わない物である可能性がある。命を実らせる木。そちらの加護がただ与えられてしまえば、当てにしていた分を直ぐにでも他で補わなければならない日が来る。そうしたことを、オユキが言葉を濁して伝えれば、ある程度の理解があるものたちからは、ただため息が返ってくるだけだ。
「定命の者達は、忙しない事ですね。」
「フスカ様達にしても、こちらでカナリアさんが新たに生を得たと、そう言う話でしたが。」
「あの子は、そうですね。他にもええ、両手の指を折れば数えられる程度に。」
そちらは、そちらで色々と話を聞いてみたいこともあるのだが、生憎と今は払うべき対価も手元にない。そして、そんな事よりもオユキとしては決めてしまいたいこともある。
「こちらの世界に、フスカ様が祖と讃える御方と共に流れて幾星霜。その間に、新しい命がやはりその程度ですか。」
「ええ。勿論、種の繁栄は等しく与えられた生きとし生けるものの使命。」
そして相手もオユキの思惑など分かっていると、そう艶然と。
「でしたら、如何でしょう。見世物となるのは好まぬ、それは重々承知。しかしながら、御身にご足労を頂、それを願うとなれば。」
「生憎と、他の柱に首を垂れる殊勝さなどもち合わせるはずもなく。ええ、貴女方がそれを願い、力添えを乞うというのならば、相応しい対価をもってそれを叶えましょう。」
メイは一体何を突然いだすのかと、怪訝な顔。しかし、アイリスはオユキから漏れ出す気配に、実に敏感だ。先ほどまでの、何処か弛緩していた空気。己が爪と牙をかざす機会が得られなかったと、ふてくされて見せる余裕など捨て自然に垂れていた耳はただまっすぐに。
「それはそれは、ええ、実に良い返事を頂けました。」
ならば、その前提を超えて招いた時には、どうか逃げてくれるなよと。
「情熱的な誘いですね。まったく、つまらぬ風かと、冷えて沈むだけかと思えばなんと心地よい。」
「勿論、楽しませて見せましょうとも。」
「あら、オユキ。」
しかし、そこで黙っているだけで終わるアイリスではない。
「私は機会を逃すつもりは無いのよ。」
「それは、ええと、どうしましょうか。」
アイリスの方にも、そうした考えがあるのはオユキとて察している。本人も隠す気が無い。オユキが今フスカにそうしているように。
「流石に、代役をお願いしましょうか。」
「カリンも、貴女に対して機会があるなら、逃しはしないわよ。」
「あの、それでは私ばかりが疲れるのでは。」
「主催というか、元凶でしょうに。」
「今回の事は、ナザレア様を手配した、王家の方々の思惑によるものなのですが。」
さて、随分と熱烈に、オユキがフスカを誘ったように、オユキを誘ってくれるものだ。
しかし、如何なオユキとて、連戦の果てにフスカを相手取るのはいささか気が引ける。凡そ万全であっても勝負になるかどうか怪しい存在なのだ。そんな自己評価にしても、尊大な自尊心が飾り立てた思考にすぎず、実際の所己に罪があると考えるオユキでは、フスカがいざ本気となれば触れる事は叶わない。罪を、煩悩を焼く炎はオユキを間違いなく焼き尽くす。それが起こらぬというのであれば、オユキが罪と感じる事をこの世界は、フスカの祖は罪と認めぬとそう言うっている事になる。この世界に、そこまでの甘さなどオユキは期待していない。
「貴女方は、一体何の話を。」
次に行われる祭りは、表向きはと言えばいいのか、主となる物については女性だけの閉ざされた場で行われる夜会だと、それに偽りはない。だからこそ、何をそこまで緊迫した空気で話し合っているのか分からぬと。
「舞の相手、その相談です。」
「成程。ですが、オユキは習っていないでしょう。」
「いえ、あまり好みませんが心得はありますし、こちらで行った研鑽もありますから。」
その舞というのは、両手に剣を携えての物だ。
「そう言えば、カリンが行うのがそういった物ですか。確かに、相手がいれば表現の幅が広がると言っていましたが。」
そして、事そういった技術を突き詰めた者は、やはり余興として、芸術を楽しむ余裕を無理にでも捻出してきた者達から壊れてという事があった。それこそヴィルヘルミナを伴って。
「貴方達、まさか。」
「一応、メイ様の屋敷に損害は与えないよう気を払いはしますが。」
「そう言えば、それがあるわね。」
「ヒトの暮らす家屋の中、成程。随分となりふり構わぬ事。」
メイが今更気が付いたと、今この場にいる者達の考える舞というのは、広間を照らす星の煌めきに似た絢爛な舞台、そこで己を案内するものが、己の相手がただまっすぐに誘った相手を主役だと称えるための舞台で行われるものではない。
「どおりで。お披露目も終わる前にパートナーも参加せぬのにどうやって舞踏会をと、そう考えていたのですが。」
ようやく得心が行ったと、そうメイが今更頷いたりなどしているが。最早話は決まった。今更覆らぬ所まで、進んでいる。
「その辺りは、正直蓋を開けて見ねば分かりませんが。」
オユキとしても、恐らく避けては通れぬ相手がいるというのは分かっている。その道を歩けば、ただこうしてじゃれ合う二人を遊ぶ子供を見守る視線で眺める相手は、ひらりと飛んでいくだろう。オユキだけの力で捕らえる事が出来る相手ではない。少なくとも、アイリスの祖に対して場の用意がいる様に、鳥籠には押し込めなければ相手にすらされないのだ。
何やら生暖かい、微笑まし気というのが味付けで、ほとんどはもの言いたげな。そうした視線を向けられるが、オユキはトモエの手当てをカナリアに任せ、今はフスカを招いてお茶会の席に。
「畏まりました。」
そう頼んだとて、何もタルヤが己で動くという訳でもなく、オユキがこうして声を掛けたのを聞き逃しはしない他の使用人に向けて指示を流せば、それで終わりだ。
「レジス候子息とラスト子爵子女ですか。」
「ええ。あちらを離れるのも障りがあるでしょうが。」
それこそ、いざこうなる前に河沿いの町に行ったとき、元上司であるアベルは動かせないと、そう判断したと聞いていた。しかし人の口に戸を立てるどころか、声を大にして喧伝したのだ。当然耳に入った二人は、それがごく自然な帰結だとばかりに数日前には始まりの町にしっかりと戦装束とと分かりやすい絢爛な鎧に身を包んで訪れた。
そしてしっかりとアベルが頭を抱えたわけだ。
それもそのはず。既に論功行賞を簡単にするために、作戦を立案する段から誰を何処に配置するのか等決まっている。そこで改めて今後要衝任されることが決まっているものが揃って訪れた。戦働きという意味では、王都騎士団に身を置いた者達、疑う余地もない。つまりは、他の者達から名を上げる機会を奪うのかと。
そこで、オユキが迎えがいるのだからとそちらを頼む形で傭兵ギルドに待機してもらっているという訳だ。
「そう言えば、そのような話だけは聞いていましたね。」
「慣れぬ事故緊張もあり、疲れているだろうと、そう考えて挨拶は遠慮したのかもしれませんね。」
特にクララに関しては、ファルコの下という扱いではあるが、実質的にメイの事務仕事も補助しているリュディヴィエーヌがいる。そちら経由で話は回ったのだろうが、メイにしてもどうにも散漫であったらしく何処か気のない返事だ。クララとて騎士としての振る舞いに関しては何一つ問題が無いのだ。そこでメイがきちんと話を聞き、では時間をと言えば挨拶の機会を願ったかもしれないが、そうでは無いのならば無理を強いるのはこうして参陣したことだけにとそう言った考えであろうか。
「すっかり、いつも通りですのね。」
「ええ。トモエさんも大過なく戻る事が出来ましたから。」
ただ、そうしてオユキがあれやこれやと口を出せば、やはりメイからはため息交じりに揶揄されるというものだ。
「そこまで不安に思わずとも、とは言いませんが。」
「どうにも、こうしたことは不慣れで。」
積み上げてきた形は逆。どうした所で、慣れていない。
そもそも、オユキという人間は、今とは多少なりとも精神性の違った状態であってもトモエと離別の時を迎えたときに、トモエ自身が諭さねばつまらない結末を当然と迎えた様な、そんな人間だ。
周囲は一代で、半世紀も立たずに名を上げた企業の創業メンバーとして随分と持ち上げてくれたものだが、中身については、それこそ半世紀以上苦楽を共にした相手が今の姿をもって相応という様な、そうした有様なのだ。己自身に対する評価など、外から見た評価に比べれば勝ちなど無いに等しい。己を見るのは、常に他人なのだから。
「慣れろとは言いませんが。」
「まぁ、らしい様子だもの。いいんじゃないかしら。」
「もう。」
メイがこれを切欠にいくらでも言いたいことがあるのだと、そうした構えを見せるがアイリスが早々に話を止める。
「そんな事よりも、この後結局何を考えているのよ。」
「いえ、先ほども話しましたが、森の中に新しく町という程ではなく物資の採取を気軽に行う為の拠点をと。」
「貴方達が森で暮らすのは、簡単では無いわよ。」
「ええ。ですから、拠点なのです。」
始まりの町は、実に良い立地を獲得している。近くには森林資源、町の中にまで今は水源が存在している。そして、土地に対しては五穀豊穣の加護は既に与えられている。
「だとしたら、今度の祭りは別に必要ではないのではないかしら。」
「ああ、その事ですか。」
アイリスの疑問にしても、確かにもっともだとそう思えるところではある。
「これについては、色々と試しを含めて思惑のあっての事ですが。」
「オユキ、全く聞いていません。」
「そう言えば、そうですね。ミズキリあたりが説明していそうなものですが。」
五穀豊穣だけでは人を満たすには足りぬからと、今後増える人口に対してより確かな物を求めたいからと考えていた。そちらに対して、それならばと名乗りを上げた種族がいる。
「ただ、そちらについては得られるものが不確かなので。」
しかし、それがどのような形になるかは、今に至るまで明言されていない。
「最悪というのもおかしな話ですが。」
得られる加護の形は、祭りの形式に合わない物である可能性がある。命を実らせる木。そちらの加護がただ与えられてしまえば、当てにしていた分を直ぐにでも他で補わなければならない日が来る。そうしたことを、オユキが言葉を濁して伝えれば、ある程度の理解があるものたちからは、ただため息が返ってくるだけだ。
「定命の者達は、忙しない事ですね。」
「フスカ様達にしても、こちらでカナリアさんが新たに生を得たと、そう言う話でしたが。」
「あの子は、そうですね。他にもええ、両手の指を折れば数えられる程度に。」
そちらは、そちらで色々と話を聞いてみたいこともあるのだが、生憎と今は払うべき対価も手元にない。そして、そんな事よりもオユキとしては決めてしまいたいこともある。
「こちらの世界に、フスカ様が祖と讃える御方と共に流れて幾星霜。その間に、新しい命がやはりその程度ですか。」
「ええ。勿論、種の繁栄は等しく与えられた生きとし生けるものの使命。」
そして相手もオユキの思惑など分かっていると、そう艶然と。
「でしたら、如何でしょう。見世物となるのは好まぬ、それは重々承知。しかしながら、御身にご足労を頂、それを願うとなれば。」
「生憎と、他の柱に首を垂れる殊勝さなどもち合わせるはずもなく。ええ、貴女方がそれを願い、力添えを乞うというのならば、相応しい対価をもってそれを叶えましょう。」
メイは一体何を突然いだすのかと、怪訝な顔。しかし、アイリスはオユキから漏れ出す気配に、実に敏感だ。先ほどまでの、何処か弛緩していた空気。己が爪と牙をかざす機会が得られなかったと、ふてくされて見せる余裕など捨て自然に垂れていた耳はただまっすぐに。
「それはそれは、ええ、実に良い返事を頂けました。」
ならば、その前提を超えて招いた時には、どうか逃げてくれるなよと。
「情熱的な誘いですね。まったく、つまらぬ風かと、冷えて沈むだけかと思えばなんと心地よい。」
「勿論、楽しませて見せましょうとも。」
「あら、オユキ。」
しかし、そこで黙っているだけで終わるアイリスではない。
「私は機会を逃すつもりは無いのよ。」
「それは、ええと、どうしましょうか。」
アイリスの方にも、そうした考えがあるのはオユキとて察している。本人も隠す気が無い。オユキが今フスカにそうしているように。
「流石に、代役をお願いしましょうか。」
「カリンも、貴女に対して機会があるなら、逃しはしないわよ。」
「あの、それでは私ばかりが疲れるのでは。」
「主催というか、元凶でしょうに。」
「今回の事は、ナザレア様を手配した、王家の方々の思惑によるものなのですが。」
さて、随分と熱烈に、オユキがフスカを誘ったように、オユキを誘ってくれるものだ。
しかし、如何なオユキとて、連戦の果てにフスカを相手取るのはいささか気が引ける。凡そ万全であっても勝負になるかどうか怪しい存在なのだ。そんな自己評価にしても、尊大な自尊心が飾り立てた思考にすぎず、実際の所己に罪があると考えるオユキでは、フスカがいざ本気となれば触れる事は叶わない。罪を、煩悩を焼く炎はオユキを間違いなく焼き尽くす。それが起こらぬというのであれば、オユキが罪と感じる事をこの世界は、フスカの祖は罪と認めぬとそう言うっている事になる。この世界に、そこまでの甘さなどオユキは期待していない。
「貴女方は、一体何の話を。」
次に行われる祭りは、表向きはと言えばいいのか、主となる物については女性だけの閉ざされた場で行われる夜会だと、それに偽りはない。だからこそ、何をそこまで緊迫した空気で話し合っているのか分からぬと。
「舞の相手、その相談です。」
「成程。ですが、オユキは習っていないでしょう。」
「いえ、あまり好みませんが心得はありますし、こちらで行った研鑽もありますから。」
その舞というのは、両手に剣を携えての物だ。
「そう言えば、カリンが行うのがそういった物ですか。確かに、相手がいれば表現の幅が広がると言っていましたが。」
そして、事そういった技術を突き詰めた者は、やはり余興として、芸術を楽しむ余裕を無理にでも捻出してきた者達から壊れてという事があった。それこそヴィルヘルミナを伴って。
「貴方達、まさか。」
「一応、メイ様の屋敷に損害は与えないよう気を払いはしますが。」
「そう言えば、それがあるわね。」
「ヒトの暮らす家屋の中、成程。随分となりふり構わぬ事。」
メイが今更気が付いたと、今この場にいる者達の考える舞というのは、広間を照らす星の煌めきに似た絢爛な舞台、そこで己を案内するものが、己の相手がただまっすぐに誘った相手を主役だと称えるための舞台で行われるものではない。
「どおりで。お披露目も終わる前にパートナーも参加せぬのにどうやって舞踏会をと、そう考えていたのですが。」
ようやく得心が行ったと、そうメイが今更頷いたりなどしているが。最早話は決まった。今更覆らぬ所まで、進んでいる。
「その辺りは、正直蓋を開けて見ねば分かりませんが。」
オユキとしても、恐らく避けては通れぬ相手がいるというのは分かっている。その道を歩けば、ただこうしてじゃれ合う二人を遊ぶ子供を見守る視線で眺める相手は、ひらりと飛んでいくだろう。オユキだけの力で捕らえる事が出来る相手ではない。少なくとも、アイリスの祖に対して場の用意がいる様に、鳥籠には押し込めなければ相手にすらされないのだ。
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