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20章 かつてのように
常と変わらずとも
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どうやらオユキの考える以上の大事になっているらしい。
そんな事を自覚してしまった以上、追加で方々にまたもせっせと手紙を書いてメイに預ければ、遂には一先ずの出来事を行わねばならない日がやってくる。ここまでサキには伏せてきたが、流石に事を行うとなればそれも難しい。そのはずだったのだが、どうにかなりはしないだろうかとカナリアに相談すれば、実に手早く眠らされた。
曰く、オユキの属性が得意とする類であると。
言われてみれば、冬と眠りを司る神がいるのだ。当然そうした魔術もあろうというもの。人相手に気軽に使うのはどうかと、そう考えれば、そちらに対しては医療目的であったり、人の為であったり。それすらも禁じられていてはと、これまた至極真っ当な言葉が返ってきたものだ。
「全く。何と己の卑小を思わされる事か。」
出陣式に臨む為、既に門の外で今か今かと周囲の空気すら静かにさせる熱をはらんだ者達が並ぶ場へと、メイと並んで歩きながらもそのような言葉が漏れる。
「今になって、何をまた。」
「熱に当てられた、そうなのでしょう。」
例えば、幼子の時分。周囲の誰もが祭りの熱気に当てられ、そしてその輪の中で歓声を上げている時に己はただそれを窓ガラス越しにしか見る事が出来ないような。そう言えば僅かに近い物だろうか。
「しかし、今更どうにもなりません。私に不足があると師にそう思わせたのは、何処まで行っても私の不出来。」
オユキが戦場に立つ、その判断を完全にトモエにゆだねたのは、オユキ自身がこちらに来るにあたって一つ己の確かな事として決めた物。現実になった以上は、命がかかる。その判断を、オユキは己の師に預けると、そう決めた。故に、今回の事にしても、トモエに向かってまで覆そうなどとはしない。少なくとも今回は。
「打てる手は、打ちました。」
「本当に、トモエの事ばかりですのね。」
「何を当然のことを。」
オユキにとって、トモエ以上に優先する事など無い。今も昔も。
「外と同じ程度の熱量です事。」
さて、そうしていれば、門が開く。
事今回の事に関しては、門番がどうするかというのも少々気がかりではあったのだが、どうやら静観してくれるらしい。未だに、という訳でもないが、測り兼ねている相手だ。詳細の説明を求めた事もある、しかし、されたはずの事柄はほとんどを聞き取ることができていない。
「繰り返しますが、当然のことです。」
門前では、何ともらしいと言えばいいのか。入社式、式典、過去に見たそれと違う事と言えば目の前に並ぶ者達の誰も彼もが、煌びやかな装備に身を包んでいる事だろうか。煌びやかなどと言っても、真新しいという事は当然なく、それぞれにしっかりと年季が入っている。しかし、オユキの想いいれだろうか、各々が抱えている何かがそうさせているのだろうか。はたまた、どうにも人に近い事を当然としている神々によるものだろうか。
「どうにも、私もここ数日疲労が根深いのですが。」
「号令をかける者達から、という事でしょうか。」
オユキがさほどでもないのは、加護の差と考えてもよさそうでも、対象が非常に少ないからでもありそうなものだ。
開かれた門に向けて、そのまま並んで足を踏み出す時には流石に私語はもう行う事が無い。アベルはアイリスの護衛に残るかと思えば、どうやら彼も参加するらしい。そのアイリスは散々に渋り、どうにか紛れ込もうと同族たちが抑え込むのをどうにか抜け出そうとしたため、タルヤが蔦の折に閉じ込めている。獣が癇癪を起したのならば、それがどれほどの物かを散々に思い知らせる結果となった物だ。最早面倒とばかりに、セラフィーナを始め彼女を取り押さえようとした者達毎まとめて折に放り込まれているあたり、アベルはきっちりとそこから抜け出してきているあたり、慣れを感じる物でもある。
「皆、よくぞ私の与えられた使命、その一翼を担うと決めてくれました。」
参集した者達の顔ぶれは実に様々。この町で暮らす貴族たち、その当主ですら一部は今メイとオユキの前で膝を突いている。基本的に彼らがメイの執政を手伝わないのは、近隣に存在する他の町を管理する者達だから。オユキが足を延ばしたのは移動の間にあった町だけ、しかし鉱山を抱える町もあれば、カナリアが出会うきっかけとなった事件の直前に足を運んでいたような小さな村とて周囲には存在している。それらすべての管理を当然一人でできるはずもなく、それぞれに席んン社の存在は求められる。要は、貴族にしても、統治者にしてもとにかく数が足りていない。今後を願うからこそ、今以上を人がいつの時もそうであったように求めるからこそ、生まれる流れというものがある。後を願う行いというものがある。果たしてそれは、親の身勝手と呼ぶべきか期待と呼ぶべきか。
「未だこれは前哨戦と呼ぶにも足らぬ、ええ、まさに取るに足らぬ事です。」
ここにいる者達で、トモエが面倒を見ているのは唯一ファルコだけ。シグルド達も参加を考えはしたのだが、結局教会に控える事を各々が決めた。初めてサキが彼らの暮らしてきた教会に預けられた時、それをつぶさに見ていたのだ。口に出すのもはばかれる境遇で短い期間とは言え、生きなければならなかった少女が、普通に生活ができるだけの事を彼らは無しえたのだ。トモエとオユキからそれぞれに向か言えれる側にいて欲しいと、そう話せば彼らはすぐに頷いてくれたものだ。メイとしては、当然麾下である彼らの中から一人くらいはと、そう考えてもいたのだろう。そちらに対する決め手は、人相手であるならせめてトモエから鍛錬としての訓練が許されてからでなければと。
「では、取るに足らぬ、些事だからと手を抜いても良いとそう考えるものはいるでしょうか。」
そう、彼我の戦力は語る必要もない程に隔絶している。
「ええ、そのように考える愚か者が、もしも少しでも心をよぎった惰弱な物がいるというのなら、今すぐ剣をその場に於いてこの場を去りなさい。」
だが、そこに甘える事をメイすらも許しはしない。
「今後この町で、他国からの賓客を迎える事もあるでしょう。陛下の行幸とて、ありました。始まりの町、その名の意味を知らぬものでなくとも、この町が神国にとってどれほど、初代陛下の生まれたこの町が、如何なる意味を持ちこの名を変えぬのか。」
さて、メイが久しぶりに見る、流石に普段から身に付けてはいない聖印を掲げてそう話し始めれば、参加する者達にも試練を受けるに値するのか選別が行われているのだろう。
「しかし、そのような事はどうでも良いのです。」
大気が、どころでは無い。隣に立つオユキを始め、既に覚悟を持っている者達にしてみればなんという事もない、神々に関わる時に良く感じる圧力、全く嬉しくはないが慣れてきたとすら感じる、お馴染みの空気。
「私の管理する町に、この町で暮らす良き人々を、他の町で暮らす良き人々を脅かす存在がある。これまでは、ええ、私たちの不足が故、散々にそれにつけ込まれてきましたが、もはや準備は整ったのです。」
これまで、考えなかったのかと問われれば、誰もがそんな事があるかと、そう応えただろう。それほどまでに、ただ煮え湯を飲まされてきたのだ。
「覚悟のない物たちは、今一度己の剣と向き合うと良いでしょう。可能だと分かった今、一刻たりとも待つ気はありません。」
流石に準備にはそれなりに手を掛けている。戦力の糾合、周囲の町万が一逃げ出した者達が、そちらに向かったときに対応するための戦力を配したりと時間がかかる事柄であったのも事実。故に、こうして問題が解決し、実現が可能だと誰もが判断できるだけの用意が整った上でも、日々を押下するだけの時間はあった。
「既に言葉は不要。ここに集った勇士たちよ、存分にその力を示しなさい。」
メイの激励に意気軒昂を表現するに、この者達ほど相応しいものがいるのだろうかとそう思わせるだけの熱量が返ってくる。まぁ、この場で名を上げよう、あわよくば等と考えていた不心得者は、この後出陣する前に掃除されるのだろうが、その前に。
「さて、私の、戦と武技の神より巫女と呼ばわれる私の剣は、ええ、今後も間違いない物がすでにあるでしょう。」
オユキが己の刀を託すのに、それがなんであるのかと問われれば、己が手に持つ物をまず示す。しかし、そうでない時には己にそれを渡した相手を次に応える。それについてはもはや疑う余地もなし。すっかりいいように使っていると、そう言った自覚はあるし道中気が付いたのだろう。気が付けば消えうせ、また場が大いに混乱し犯人探しに奔走してみれば、気が付けば瞬きの間に元の場所に戻ったと、そのような手紙が届いた。同行していた助祭からは、必要だからと、得た物がその手に願ったのだとそう語ったらしいが、それでただ納得するようでは他国の神殿にまで運ぶ人が与えられるはずもない。
そして、なるべく自嘲するようにと言われてはいるが、この場を万全にと考えるオユキは躊躇なく手元に呼び、トモエに預けている。
「では、私が頼むべき盾は何処にあるのでしょうか。」
戦と武技、それは刀一つでだけ示せるものではない。トモエの流派にその術理は無いが盾を使う流派というのも当然ある。
「御前に。」
「御身を、そして巫女様が望む一切を守る盾として。」
オユキの問いに対して、ローレンツとシェリアが実に堂に入った振る舞いで進み出てオユキの前でひざを折る。シェリアはともかく、ローレンツに至ってはそうされてもオユキの胸のあたりを超える程度の体躯を誇っているのだが。
「此度、私は此処で皆様の無事を祈る事となりました。」
実に不本意だ。オユキはそれを隠す気もない。しかし、それでもトモエが大事であるからこそ、堪えるものがある。
「であれば、我等間違いなく御身の名を示して見せましょう。」
それこそ、良きに諮らえとでもいえばいいのだろうが。
「ええ。くれぐれも、どうか。」
どうした所で不安は付いて回る。側にいない、危険な場所にトモエだけ。握り込んだ手は、既に爪が食い込み血が溢れている。喋らなくても良いのなら、唇すら嚙み切っていたかもしれない。
「これを、預けます。」
オユキ自身、すっかりと関節が固まり、かなりの力を入れなければ開けない手で、仕事着の懐にしまい込んでいた神授の短刀をシェリアに、近衛として要人を守るためにこれまで過ごしていたものに。
「未だ我が力を示せては居りません。此度、御身が心安らかに過ごせぬというのであれば、それは我が身の不徳の致すところ。」
だからこそ、そうシェリアは気勢を上げる。
「今回で、御身の頼むものが如何なるものか、間違いなく示して見せましょう。」
そんな事を自覚してしまった以上、追加で方々にまたもせっせと手紙を書いてメイに預ければ、遂には一先ずの出来事を行わねばならない日がやってくる。ここまでサキには伏せてきたが、流石に事を行うとなればそれも難しい。そのはずだったのだが、どうにかなりはしないだろうかとカナリアに相談すれば、実に手早く眠らされた。
曰く、オユキの属性が得意とする類であると。
言われてみれば、冬と眠りを司る神がいるのだ。当然そうした魔術もあろうというもの。人相手に気軽に使うのはどうかと、そう考えれば、そちらに対しては医療目的であったり、人の為であったり。それすらも禁じられていてはと、これまた至極真っ当な言葉が返ってきたものだ。
「全く。何と己の卑小を思わされる事か。」
出陣式に臨む為、既に門の外で今か今かと周囲の空気すら静かにさせる熱をはらんだ者達が並ぶ場へと、メイと並んで歩きながらもそのような言葉が漏れる。
「今になって、何をまた。」
「熱に当てられた、そうなのでしょう。」
例えば、幼子の時分。周囲の誰もが祭りの熱気に当てられ、そしてその輪の中で歓声を上げている時に己はただそれを窓ガラス越しにしか見る事が出来ないような。そう言えば僅かに近い物だろうか。
「しかし、今更どうにもなりません。私に不足があると師にそう思わせたのは、何処まで行っても私の不出来。」
オユキが戦場に立つ、その判断を完全にトモエにゆだねたのは、オユキ自身がこちらに来るにあたって一つ己の確かな事として決めた物。現実になった以上は、命がかかる。その判断を、オユキは己の師に預けると、そう決めた。故に、今回の事にしても、トモエに向かってまで覆そうなどとはしない。少なくとも今回は。
「打てる手は、打ちました。」
「本当に、トモエの事ばかりですのね。」
「何を当然のことを。」
オユキにとって、トモエ以上に優先する事など無い。今も昔も。
「外と同じ程度の熱量です事。」
さて、そうしていれば、門が開く。
事今回の事に関しては、門番がどうするかというのも少々気がかりではあったのだが、どうやら静観してくれるらしい。未だに、という訳でもないが、測り兼ねている相手だ。詳細の説明を求めた事もある、しかし、されたはずの事柄はほとんどを聞き取ることができていない。
「繰り返しますが、当然のことです。」
門前では、何ともらしいと言えばいいのか。入社式、式典、過去に見たそれと違う事と言えば目の前に並ぶ者達の誰も彼もが、煌びやかな装備に身を包んでいる事だろうか。煌びやかなどと言っても、真新しいという事は当然なく、それぞれにしっかりと年季が入っている。しかし、オユキの想いいれだろうか、各々が抱えている何かがそうさせているのだろうか。はたまた、どうにも人に近い事を当然としている神々によるものだろうか。
「どうにも、私もここ数日疲労が根深いのですが。」
「号令をかける者達から、という事でしょうか。」
オユキがさほどでもないのは、加護の差と考えてもよさそうでも、対象が非常に少ないからでもありそうなものだ。
開かれた門に向けて、そのまま並んで足を踏み出す時には流石に私語はもう行う事が無い。アベルはアイリスの護衛に残るかと思えば、どうやら彼も参加するらしい。そのアイリスは散々に渋り、どうにか紛れ込もうと同族たちが抑え込むのをどうにか抜け出そうとしたため、タルヤが蔦の折に閉じ込めている。獣が癇癪を起したのならば、それがどれほどの物かを散々に思い知らせる結果となった物だ。最早面倒とばかりに、セラフィーナを始め彼女を取り押さえようとした者達毎まとめて折に放り込まれているあたり、アベルはきっちりとそこから抜け出してきているあたり、慣れを感じる物でもある。
「皆、よくぞ私の与えられた使命、その一翼を担うと決めてくれました。」
参集した者達の顔ぶれは実に様々。この町で暮らす貴族たち、その当主ですら一部は今メイとオユキの前で膝を突いている。基本的に彼らがメイの執政を手伝わないのは、近隣に存在する他の町を管理する者達だから。オユキが足を延ばしたのは移動の間にあった町だけ、しかし鉱山を抱える町もあれば、カナリアが出会うきっかけとなった事件の直前に足を運んでいたような小さな村とて周囲には存在している。それらすべての管理を当然一人でできるはずもなく、それぞれに席んン社の存在は求められる。要は、貴族にしても、統治者にしてもとにかく数が足りていない。今後を願うからこそ、今以上を人がいつの時もそうであったように求めるからこそ、生まれる流れというものがある。後を願う行いというものがある。果たしてそれは、親の身勝手と呼ぶべきか期待と呼ぶべきか。
「未だこれは前哨戦と呼ぶにも足らぬ、ええ、まさに取るに足らぬ事です。」
ここにいる者達で、トモエが面倒を見ているのは唯一ファルコだけ。シグルド達も参加を考えはしたのだが、結局教会に控える事を各々が決めた。初めてサキが彼らの暮らしてきた教会に預けられた時、それをつぶさに見ていたのだ。口に出すのもはばかれる境遇で短い期間とは言え、生きなければならなかった少女が、普通に生活ができるだけの事を彼らは無しえたのだ。トモエとオユキからそれぞれに向か言えれる側にいて欲しいと、そう話せば彼らはすぐに頷いてくれたものだ。メイとしては、当然麾下である彼らの中から一人くらいはと、そう考えてもいたのだろう。そちらに対する決め手は、人相手であるならせめてトモエから鍛錬としての訓練が許されてからでなければと。
「では、取るに足らぬ、些事だからと手を抜いても良いとそう考えるものはいるでしょうか。」
そう、彼我の戦力は語る必要もない程に隔絶している。
「ええ、そのように考える愚か者が、もしも少しでも心をよぎった惰弱な物がいるというのなら、今すぐ剣をその場に於いてこの場を去りなさい。」
だが、そこに甘える事をメイすらも許しはしない。
「今後この町で、他国からの賓客を迎える事もあるでしょう。陛下の行幸とて、ありました。始まりの町、その名の意味を知らぬものでなくとも、この町が神国にとってどれほど、初代陛下の生まれたこの町が、如何なる意味を持ちこの名を変えぬのか。」
さて、メイが久しぶりに見る、流石に普段から身に付けてはいない聖印を掲げてそう話し始めれば、参加する者達にも試練を受けるに値するのか選別が行われているのだろう。
「しかし、そのような事はどうでも良いのです。」
大気が、どころでは無い。隣に立つオユキを始め、既に覚悟を持っている者達にしてみればなんという事もない、神々に関わる時に良く感じる圧力、全く嬉しくはないが慣れてきたとすら感じる、お馴染みの空気。
「私の管理する町に、この町で暮らす良き人々を、他の町で暮らす良き人々を脅かす存在がある。これまでは、ええ、私たちの不足が故、散々にそれにつけ込まれてきましたが、もはや準備は整ったのです。」
これまで、考えなかったのかと問われれば、誰もがそんな事があるかと、そう応えただろう。それほどまでに、ただ煮え湯を飲まされてきたのだ。
「覚悟のない物たちは、今一度己の剣と向き合うと良いでしょう。可能だと分かった今、一刻たりとも待つ気はありません。」
流石に準備にはそれなりに手を掛けている。戦力の糾合、周囲の町万が一逃げ出した者達が、そちらに向かったときに対応するための戦力を配したりと時間がかかる事柄であったのも事実。故に、こうして問題が解決し、実現が可能だと誰もが判断できるだけの用意が整った上でも、日々を押下するだけの時間はあった。
「既に言葉は不要。ここに集った勇士たちよ、存分にその力を示しなさい。」
メイの激励に意気軒昂を表現するに、この者達ほど相応しいものがいるのだろうかとそう思わせるだけの熱量が返ってくる。まぁ、この場で名を上げよう、あわよくば等と考えていた不心得者は、この後出陣する前に掃除されるのだろうが、その前に。
「さて、私の、戦と武技の神より巫女と呼ばわれる私の剣は、ええ、今後も間違いない物がすでにあるでしょう。」
オユキが己の刀を託すのに、それがなんであるのかと問われれば、己が手に持つ物をまず示す。しかし、そうでない時には己にそれを渡した相手を次に応える。それについてはもはや疑う余地もなし。すっかりいいように使っていると、そう言った自覚はあるし道中気が付いたのだろう。気が付けば消えうせ、また場が大いに混乱し犯人探しに奔走してみれば、気が付けば瞬きの間に元の場所に戻ったと、そのような手紙が届いた。同行していた助祭からは、必要だからと、得た物がその手に願ったのだとそう語ったらしいが、それでただ納得するようでは他国の神殿にまで運ぶ人が与えられるはずもない。
そして、なるべく自嘲するようにと言われてはいるが、この場を万全にと考えるオユキは躊躇なく手元に呼び、トモエに預けている。
「では、私が頼むべき盾は何処にあるのでしょうか。」
戦と武技、それは刀一つでだけ示せるものではない。トモエの流派にその術理は無いが盾を使う流派というのも当然ある。
「御前に。」
「御身を、そして巫女様が望む一切を守る盾として。」
オユキの問いに対して、ローレンツとシェリアが実に堂に入った振る舞いで進み出てオユキの前でひざを折る。シェリアはともかく、ローレンツに至ってはそうされてもオユキの胸のあたりを超える程度の体躯を誇っているのだが。
「此度、私は此処で皆様の無事を祈る事となりました。」
実に不本意だ。オユキはそれを隠す気もない。しかし、それでもトモエが大事であるからこそ、堪えるものがある。
「であれば、我等間違いなく御身の名を示して見せましょう。」
それこそ、良きに諮らえとでもいえばいいのだろうが。
「ええ。くれぐれも、どうか。」
どうした所で不安は付いて回る。側にいない、危険な場所にトモエだけ。握り込んだ手は、既に爪が食い込み血が溢れている。喋らなくても良いのなら、唇すら嚙み切っていたかもしれない。
「これを、預けます。」
オユキ自身、すっかりと関節が固まり、かなりの力を入れなければ開けない手で、仕事着の懐にしまい込んでいた神授の短刀をシェリアに、近衛として要人を守るためにこれまで過ごしていたものに。
「未だ我が力を示せては居りません。此度、御身が心安らかに過ごせぬというのであれば、それは我が身の不徳の致すところ。」
だからこそ、そうシェリアは気勢を上げる。
「今回で、御身の頼むものが如何なるものか、間違いなく示して見せましょう。」
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