憧れの世界でもう一度

五味

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19章 久しぶりの日々

無理を通す

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「私からの要望としては、以上でしょうか。」

簡単な食事を終えれば、少年たちと行動を共にする時には済仮と恒例になっていたように、狩猟者ギルドへとまずは品を修めてとなる。
この後は、傭兵ギルドで場所を借りるか、屋敷の庭で鍛錬を行うか。そう言う時間が待っているため、オユキとしては早々に片を付けたいことではあるのだが。

「生憎と魔石の取り合いについては、現状ギルドで直ぐには取り決められぬ。」
「そう言えば、国の機関でしたか。」

そう言ったところで、基本的に領主が一度取り纏め、税として国に納めているのだろう。そうオユキが視線に力を乗せて、韜晦を咎める表情を作れば。

「その方の想像は、正しかった。」
「成程。」

ただ、それに対しては重たいため息とともに、ブルーノからそう返って来るのみ。

「ならば、已むを得ませんね。正式に私から要望として奏上しましょう。今回の事もありますし、次もあります。無碍にされぬとは思いたいですが。」
「ふむ。では、そのように頼む。リース伯子女であれば、否やは無かろう。他についてだが。」
「客人が、食肉を求めていますので、そうですね特に塊として残っているものは、いくらか。」

今頃は、トモエが主導してその客人から要求を詳細に聞いている頃ではあるだろう。

「あれらもな、何とも難儀な相手である。」
「素性通りの気性でしょうから。一先ずは、その程度でしょうか。」
「トルトゥーガの甲羅は、いや、其の方らであれば望まぬか。」
「ええ。加工して下賜品としても良いとは思いますが、それも流石に現状では難しいですから。」
「ふむ。贈答でもよいのではないか。」

言われてオユキは提案を少し考え、やはり首を横に振る。

「あまりそちらに傾くと、やはりメイ様からお小言を頂きそうですから。」
「安息の守りとしては盾も範疇ではあろうが、まぁ、其の方らであればそうもなるか。」

これまで明確にオユキとトモエが下賜したと言えばいいのか、公に人に渡した品というのは武器だけだ。来歴を考えれば問題が無いと言い切っても良いのだが、立て続けにすれば、そもそも贈答品として渡した布や装飾はどうしたのかと方々からチクリとやられる事だろう。

「マリーア公が望むならとも思いますが。」
「ふむ。悪くは無かろう。しかし、加工の手が今は間に合わぬであろうな。贈られた物をそのままとするのも、聊か当主であれば格好がつかぬ。」
「であれば、ギルドで扱って頂くのが良いでしょう。」

重量で言えば、残った甲羅だけでも数トンに及ぶような愉快な品だ。どのような形で扱うにしても、流石にオユキとトモエには手に余る。

「それと、毛皮であるな。」
「王都に向かう折にリース伯から伺っています。お世話になっている相手ですし、必要であれば、譲歩は可能な限り。」
「有難い。」

実際に琴線のやり取りが発生するのは、あくまで数日してからになるだろう。今は未だその前段階で折衝を行っているに過ぎない。そして、相手に対して譲歩をした以上は、オユキとしても望みたいことというのは勿論ある。交渉とはそのような物であるし、余地が無ければオユキもこうして時間を使ったりしていない。今は休みだと決めているオユキと違い、ブルーノは忙殺という事が生易しいと表現しても構わない状況であるのだろうから。

「ダンジョンの扱いについては、メイ様に直接掛け合いますが。」
「ふむ。」
「花精の方ですね。そちらとの交渉の場を用意していただきたく。」
「その事か。それこそリース伯子女にも声を掛けねばならんだろう。」

新しい種族の一部、なのだろうか。シグルドの口ぶりでは、相手にも代表者がいると、そう取れる様な口ぶりであった。一部だとしても、かなりの数が流れてきているだろう。そして、そこには確かな思惑も。神々から、それを言われただけではなく、言われたとして理由が無ければ介入が出来ぬのが仕組みでもある。

「いえ、メイ様には、少し後に。先にこちらで確認をお願いしたいことがあります。」

ただ、オユキの望み、それについてはメイを先に通すつもりが無い。それをしてしまえば、選択肢がほとんどなくなる。

「予想の一つとして、トラノスケさんの起こした事態があります。そして、サキさんの報告も。」

始まりの町に根を下ろしている人では、森の中を自由に行き来することはやはり相応に難しい。それを叶えられる者達もいるが、それにしても所詮は一個人の移動能力という限界がそこにある。如何に平地を風のように駆け抜けたところで、木々という障害物が林立する環境ではそうもいかない。特に森の破壊を望まぬというのであれば。

「願望に近い物ではありますが。」
「成程。しかし、それは過剰な責任感ではないかね。」
「懐に入れた子供が相手です。大人として、ええ、可能性の追求は行いましょう。」

口に出すのも悍ましい。サキの書き上げた報告書は、そう呼んでも何一つ問題もない物ではあった。成程、確かにあまりにも不足が多く、厳しい自然環境にさらされる状況下であれば、倫理観など生活に伴って出る廃棄物と共に穴に埋められる事だろう。それを考えても、度が過ぎる。オユキの評価は、そのように。

「オユキ様。」

そして、協力を求めている。そのような体裁を繕っているはずのオユキではあるが、シェリアがそれが出来ていないと名前を呼ぶとともに肩を軽く引く。その軽い衝撃に、改めてブルーノに謝罪を示す為に視線を落とせば置かれていた茶器から立ち上る湯気が失せている。

「老骨を脅したところで、何が出る訳でもない。はやる気持ちはわからぬでもないが。」
「ええ。懸念は分かります。」
「故に交渉の場を用意せよ、か。」

花精という存在だけではない。この世界において、安息の守りに囲まれて暮らさなければどうにもならぬ人という存在は何処までも脆弱だ。それこそ、種族の中では大したことが無い相手でも、万が一汚染され人という種に牙をむけば。町の側にある森、そこに根を下ろし一帯を染め上げれば、天災以外の呼びようもない事態を引き起こす事だろう。だが、それでも。

「はい。案内だけで、それこそ場所を示して頂くだけで十分。戦力については、アベルさんが戻ればどうとでも。」
「オユキ様、その折にはぜひ私と伯父さまにも。」
「ローレンツ様は、果たして河沿いの町から今動かせるか。」

見た目に相応しい経験を積んだ人物だ。これまで、あくまで食料を、水産資源を確保するための一拠点といった価値しかなかった町が大きく変わる。その際、確かな経験と知識を持つ知恵者の存在というのは、さぞ重宝される事だろう。

「それこそ、オユキ、其の方が名を使えば問題ない。」
「休みとしたい気持ちはありますが、成程。」

戦と武技の神の名の下に。マリーア公爵から分けられた安息の紋章の一部を掲げ。

「少々書類仕事が増えますが、ええ、その程度で良ければ良しとしましょう。しかし。」
「うむ。」

それを行うとなれば、創造神から直接聖印を与えられ、嚆矢を放てと言われているメイにも声を掛けねばならない。

「森の中でしょうから、さっと終わらせるつもりだったのですが。」
「何、木材などいくらあっても現状困らぬ。壁を広げたは良いが、そこをただ空き地とする訳にもいかぬ。」
「では、そのように動きましょうか。」

方角が解れば、森事開けば良い。行動の邪魔になる木の一切を切り開いてしまえば、行軍の難度などいくらでも下がる。

「問題としては、領都の森程簡便ではないというところでしょうか。」

問題としては、これが領都であれば木を切り倒せば丸太として、直ぐに利用が出来る状態で手に入るのだが、オユキの記憶では、始まりの町の森はそこまででも無かったはずというところ。木を切り倒せば、その形のまま残り枝打ちから行わなければならない。元に戻る速度自体は、そこまで違いは無いのだが切り倒した後に残るものもある。

「事が決まれば、やりようはある故な。それこそ、協力を求めるのが良い。」
「ああ、ある程度人為的な物と出来るのですか。しかし。」

さて、それを良しとすれば、求められる譲歩もなかなか難しいものになる。如何にオユキに花精という存在に対する知識が無いとはいえ、環境を変えるための助力というのが、相応以上に重い事は想像に容易い。

「それこそ、交渉するしかあるまいよ。」
「嬉しそう、と言いますか、流石に経験の差ですね。」

そして、相手の様子を見れば、落としどころとして初めから用意していたのも見て取れる。

「ふむ。その方であれば構うまい。」

そして、初代マリーア公爵が己の考えを語る。

「予想はその方もしておらぬようだが、現状この町ではなく、この領、マリーア公爵領と行っても良いのだが、生産力が足りぬ。」
「意外な評価ですが、断言する以上は根拠もありますか。」
「異邦よりの物ゆえ知らぬのであろう、失われた歴史でもある故、知らぬものも多かろう。そも花精と木精というのは遡れば世界樹に連なる種族であり、人口の制限を緩和する使命を根底に持つ種族なのだ。」
「華と恋、そちらも含めてですか。」

ただ、それについては、オユキも想像がついている事ではある。一粒万倍などとまではいわないし、人の形をしており、同じ仕組みであるなら相応に時間がかかると踏んでいる。

「うむ。その方はヒトの仕組みを想像しているのであろうが、あの種族は違う。他の生物の一部を取り込み己の魂を裂く形で、新しい生を作るのだ。」
「今一つ要領を得ませんが、それを歴史からというのであれば。」

一面に繁茂し、土地から際限なく栄養を吸い上げる。そしてのちに残るは枯果てた大地。連作障害の結果として、特定の植物が育つ余地のない土地となるか、数を調整するために毒を持つ物とてある。恐らく、ブルーノは何故消したのか、実際の出来事として何があったのか。それらもオユキに話してくれて入るのだろうが、やはりそこには制限があるというものだ。

「花精が来た以上、あまり猶予が無いという事ですか。」
「幸い、食料に不安はそこまでないがな。」

今後確認すべき事柄は、それこそヒト以外の種族が、魔道具がこちらで淀みを生むとは分かっているのだが、他の種族はどういった仕組みを持つかという事だろう。
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