憧れの世界でもう一度

五味

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19章 久しぶりの日々

一休み

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乱獲を目的としているわけでは無い。あくまで今日は肩慣らし。一先ずそれぞれが目を付けた程よい得物を仕留めてしまえば、結界を目指して後退していく。確かに魔石など現状いくらあっても困るものではないが、それが欲しければまた別にそれを目的とする。トモエにしても、オユキにしても、広域に対して影響を与える術は既に持っているのだから。

「あんちゃんが、武技を使って教えるってのは意外だったな。」
「おや、そうですか。」

そして、改めて腰を下ろして一先ず汚れを軽く落としながら、子供たちにあれこれと。
生憎と、オユキは結界に戻るなりシェリアに馬車に連れ込まれた。せっかく整えた髪が乱れていることもあるし、その髪にも泥が跳ねていた。乾いて固まれば面倒になるのだが、本人がそれをどうするきもないというのは、既に勝手知ったる相手である以上見逃しはしない。ついでにしっかり衣服も汚れているため、今頃小言とセットで、手入れが行われているだろう。

「何度かお話ししている事とは思いますが。」

そうして、オユキとは別の馬車を順に使う形でトモエも簡単に身だしなみを整えて、今は武器の手入などを行っている。トモエの使った馬車は早々に開けなければ、荷物が積み込めない事もあったのだが。

「鍛錬として、これまでの事として。勿論大事にしているものはあります。そちらを求めもしますが。」

今は、変わらず荷物を任せている人々に加えて、他の手配により増員されている護衛があれこれと荷物を運んでくれている。トモエも巨大な亀が残した甲羅については運べる気もしない。シグルド達も、全員揃ってようやくというところだろう。それほどに大型の魔物も出てきている。ただ、それでも区分は小型種だ。つまりは、下級の狩猟者に相応しい相手。オユキが口にするように、狩猟者ギルドも同じことをやはり語る。魔物の強さというのは、余程の事が無ければ大きさが示すと。

「ただ、出来る事をやらないというのも、やはり性に合いませんから。」
「オユキちゃんは、結構。」
「オユキさんは、そうですね。制限や枠というのを自分にも用意するのが好きですから。」

トモエがそう語れば、武器を手に布で拭いたり、細かく欠けが無いかを確認していた手が止まる。

「でも、トモエさんも鍛錬は制限って。」
「ああ。それですか。どういえばいいのでしょうか。」

セシリアが不思議そうにそう話す。勿論、トモエとしての理屈はあるし、今回の事にしても、己に制限を設けていないかと言えば、確かにそうでもない。ただ、やはりオユキ程の無理な制限などそこには無いのだ。

「簡単に言うのであれば、制限がなにに起因するかでしょうか。繰り返しますが、過剰に力を使う事は無いのです。相手を倒すに十分、それ以上を使ってしまえば人も武器も疲れるだけですから。」

そう、トモエは敵を打倒すのに必要十分以上の力を使う気が無い。それを制限と呼べば確かにそうなる。しかし、トモエから言わせれば、それは流派の理念だからこそ、そう振舞っているに過ぎない。状況が違えば、必要だと判断すれば、いくらでも手札を切る。しかしオユキはそうでは無い。

「えっと、いっつも必要なだけって言われますけど。」
「そうですね、彼我の力量差、それを見分けるのはなかなか難しいものでしょう。」

下手に加減などしてしまえば、侮った己の不出来で命を落とすのだ。

「だから、いっつもオユキちゃんも必ず敵の確認をするんじゃない。」
「でも、読んだだけで何処までやれば勝てるかなんて。」
「まぁ、難しいな。」

さて、そうして子供たちが例によって己の理解を深めるために、活発にあれこれと話し始めれば、ようやくシェリアが納得いくだけの手入が終わったのだろう。

「そうでもありませんよ。魔物相手であれば、やはり必要な物は観察です。相手は常に全力でこちらに向かって来ています。つまりは、速度としては最高値を常に出しているわけですね。」

散々に魔物を狩り、特に少年たちにオユキとトモエだ。そこには常よりも多いものが残る事となる。要は狩猟者ギルドから協議の申し入れが行われるだけの成果が存在している。戻った折には、まず真っ先にそちらに顔を出しファンタズマ子爵家として交渉をしなければならない。流石に病み上がりでもあるため、一休みしてもう一度は許さない構えを周囲が取っていることもあり、オユキも今はきちんと仕事に向けた衣装に着替えさせられている。

「それが最高値。そこから他の能力も、ええ、ある程度は予想がつきます。攻撃手段、それが己の肉体に限定されていれば猶の事。最も早く移動する、その速度を攻撃手段はよほどのことが無ければ超えませんから。」
「まぁ、現状はその理解で良いでしょう。」
「あの、トモエさんもオユキちゃんも。」
「ええ、そうした想定を超えるために技術というのはあります。しかし、技術にしても修めているかどうか、それは己の動きを正しく認識していけばいくほど相手がそうであるかがわかるのです。」

そこまでを今子供たちに望むのは、まぁ酷な話だ。

「その辺りは、やはり意識して観察を行う事が必要になりますが、比較対象もなかなか少ないですからね。」

こちらでは、武器を身に着けて移動する人間もかつてに比べればはるかに多い。そして、それを観察していくのだ。そうして観察眼というのを、少しづつ鍛えていく。

「以前にも話しましたね。目を鍛える、その結果として得られる物です。皆さんももう少しすれば初めても良いのですが。」
「あー、なんか結構前に感じるな。領都の鉱山だっけか。」
「ええ。マリーア公の領都、その廃鉱山で少しだけ話しましたね。」

そして、当主がようやく食卓に付けるようになったためシェリアが連れてきた他の使用人たちが食卓の準備を整え始める。屋外で何もここまでと思わないでもないが、寛げる環境が用意されるというのは、まぁ有難い事でもある。日も高くなってきたからだろう、前日に夜を楽しんだ者達がようやく狩りに足を延ばしてきている。まだまだ監督が必要な者達がひと段落したと見える相手も姿を見せ始めている。
その多くから、お前らは一体ここで何をしているんだとそういった視線を向けられはするし、回収される狩りの成果、未だに残った物に対して向けられる視線もあるにはあるが。
少年達ですら、既に慣れたと言わんばかりに受け流している。

「あー、眼を鍛えるとかだっけ。」
「ええ。ただ、やはり観念的な話が多く、経験を積んで初めて納得、消化できる部分が多くなる項目ですから。」

方法論は存在する。それはこれまでの五百余年、確かに継がれてきた流派が持つ研鑽の成果だ。だが、それでも準備運動を終えその先に多少なりとも足を進め、伝えられると判断した段階で教える様なないようだ。それまでの間に先達を、己の進歩を、肩を並べる相手の様子を眺め、そうした下積みを十分に行ってからこその話。

「こちらでは、少々優先順位が高そうなので、どうにか先にとも考えるのですが。」

そして、トモエにしても、流派を正当に修めているからこそ他が難しいトモエの、目下の悩みではある。
今後はこの少年たちにしても、初見の相手と戦う機会などいくらでもあるのだろうから。

「そう言う説明は、オユキちゃん得意そうだけど。」
「最低限トモエさんが教えると判断したうえで、ですね。」

そして、理屈という意味で一般化と言えばいいのか陳腐化と言えばいいのか。それを行うだけの、科学と呼ばれる学問に大いに傾倒していたオユキの得意とする分野であることには違いないが、ただそれを口にするのはトモエが許してから。

「それにしても、現状を見ると川沿いの町までの移動、その難易度も相応に高そうですね。」

オユキとしては好ましい、開放感の溢れる環境で。出されたお茶にのんびりと口をつける。食事の用意は流石に持ち込んだものを広げるだけにはなるが。

「えっと、それはメイ様が何か言ってたような。」
「あー、なんか言ってたな。」

そして、町の管理者である人物が情報を集めないはずもなく。年も4つ程しか変わらずマリーア公爵の覚えもめでたい。そして、己の要望に足取り軽く応えるという気安さもあってか、国王の饗応とまでは行かない案内役を押し付けた事によりより気安さを増したからか。トモエとオユキに最も近いという評価もあるだろうが、少年たちも色々と聞かされているらしい。それを理解して消化する素地が無い、それを改善する目的も込めての事だろうが。

「えっと、何だっけ。」

さて、アドリアーナですら言いよどむとなれば、何やら複雑な状況すら話したようではある。

「となると、成程、既存の仕組みの内では対応が可能、その程度の変化でしかない。しかして、より広くとするには問題が出たという事ですか。」

つまりは、此処だけでなく、世界全体でという事になるだろう。恐らくその辺りの話も含めて。だからこそ、実感の得にくい部分から概論として語る事になり、概論を理解する、抽象的にならざるを得ない話を実感として類型を探して消化できない子供たちではという結果だろうと。

「オユキ様。」

そうして話していれば、何やら机に落ちる影があり、シェリアから声をかけられる。

「さて、約束はマリーア公との間でと考えておりますが。」
「さぁ、どうでしょう。あなた達からも、私たちに対して求める物があると、そのような話が風に乗っていました。」

今いる場は結界の内側であり、気付かせる意図を持っての事だろう。途端に周囲の気温が上がったこともあり、乱入者が誰かというのは実にわかりやすい。

「成程。しかしながら私共もこの地で暮らしているわけですから、納めるべき物配慮というのもあります。流石にこの場ですぐにとは。」
「なに、構いませんよ。土産話としてこの変わり者の裔から聞いた話もあります。ええ、話を聞くに、実に面白そうな。」

この種族が狙っているものは、爬虫類。両生類も糧として得ているが、まぁ、正直その辺りは食べた上で判断すればよいという事だろう。

「そうですね。移動の際に手をお借りできるなら。後は、カナリアさんに頼みたいこともありますし。」

相変わらず己で飛ぶことができないからだろう、久しぶりの里帰りで随分とくたびれた様子になっているカナリアに、シグルドの心を軽くするために頼まねばならない事もある。
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