憧れの世界でもう一度

五味

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19章 久しぶりの日々

相談事

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「オユキさんへの相談事でしたら、そうですね、時間は用意できますので。」

オユキが難しいのは、鍛錬に大いに時間を割く事だ。これから数日は旅の間で起きた諸々を報告するために、書類仕事が待っている。勿論、オユキにしてもトモエにしても休むと決めた以上は休むのだが、だからと言ってやるべきことの全てを人任せにする訳にもいかない。

「私にしても、家財が新たに運び込まれていますし、不在の間の報告を聞く必要もありますから。」
「あー、俺が勝手に約束しただけっちゃ、そうだからな。長い話だし、急ぎたいけど、まぁ、待つさ。」

俺だけじゃ解決できないから、頼るって決めてるからなと、そう笑いながらシグルドが話すものだが。

「いえ、そう時間はかかりませんよ。花精の方が来て、アイリスさんの用意した社、教会の周りに住みたいという事でしょう。」
「誰かから、聞いていたんですか。」
「そういった種族が、土地に与えられた加護を求めるだろうと、その事は。」

直接加護を与えた相手から、他からも、聞いた事ではある。

「あー、うん。結果としてそうなってるんだよな。」
「ああ。」
「オユキさんは過程の色々も想像しているのでしょうが、私は陛下がこちらにいらっしゃった間に位の理解ですから。」

そして、対応に窮しているメイをしり目に、次世代の間で交流を深めさせようという目論見の下に、強権を振るったのだろうと。最も分かりやすい形ではなく、結果がそこに落ち着くように事を上手く運んだのだろうが。

「あの、こっちにいませんでしたよね。」
「いないからと、想像できない事ではありません。いえ、流石に私はこのあたりの話は不得手ですが。」

トモエとしてはそう応えるしかないが、ではトモエがその想像が出来たのかと言われれば当然否だ。

「アイリスさんとも、既にオユキさんがアベルさんと共に少し話をしています。実際には相手の代表、その方が種族として求める事が解らなければと落ち着いています。時間が取れるのは、また聞かねば分かりませんが。」
「いや、それが分かっただけで十分だ。俺からもまた伝えておくさ。」
「もう。ジーク、それだけじゃないでしょ。」
「そういった事に使っても構わない、だからこそオユキさんもマリーア公爵も家を示す証を渡しているのです。」

アナとしては、それだけではなくシグルドの選択に問題があったと考えているようだが。

「勿論、道理が通らぬと思えば苦言も呈しますが。」
「いや、アナの言うとおりだ。」
「いや、俺も真っ先に言おうと思ってたけど、なんか久々にあんちゃん見たらついな。その、悪かった。勝手に約束して。」

謝るのはシグルドが代表しているが、他の子たちにしてもバツが悪そうではある。それもそのはず。シグルドがまずは早速とばかりに練習用の武器に手をかけたのに、我も我もと乗ってきたのだから。

「はい。謝罪は受け取りましょう。ただ、先ほども言いましたが構いませんよ。トラノスケさんも言っていたでしょう。」

出来ない事は、出来る誰かに頼ればよいのだ。それだけというのは頂けないが、この子供たちであれば、先の話で少し出てきたことでも分かるが、自分たちが出来る事、それを惜しみなく行う子達であるのだから。ならば、その手が及ばぬと頼られたとして、オユキもトモエも喜んでそれに手を貸すだけだ。

「そっか。なら、やっぱありがとな。」
「ええ。どういたしまして。そう言えば、ティファニアさん達は。」

そして、面倒を見ていたのは何も今この場にいる五人ばかりではない。ファルコもこちらに一緒に戻ってくることになったとは聞いているが、そちらはそちらで各種の報告に追われ、彼の奏上した案が採用されたことで、魔物との戦いに身を投じている彼の賛同者の同行の確認も待っている。何となれば、今暫くはオユキよりもよほど忙しく動き回らなければならないだろう。

「ああ、ティファ達か。そっちはリーアの方が詳しいだろ。」
「その、新しい教会の人出は一先ず足りていたはずなんですけど。」

そして、言い難そうにアドリア―名が話す所によれば、他国との窓口になる教会、それが一先ずといったものでしかないのは如何なものかと、そう言う話が上がったらしい。そして、メイが頭を抱えながらも、どうにかダンジョンで私財をやりくりしては、荷物を送りだすことになった。そして、一般的な神職の相手。体を鍛える機会などそれこそ日々の清掃や祭具の整理程度しかない相手。石材をポンと渡されてどうにか出来るはずもない。
そして、そこで頼りになるのがトモエとオユキだけでなく少年たちも量産したトロフィーを運んだ実績を持つ子供たちだ。流石に一人でという訳にはいかないが、数人がかりで巨大な鉄の塊を運んだり、人を一飲みにするほど巨大な魔物の頭部など色々な物を運んでいたのだから。

「で、俺らも荷物運んだついでに、ちょっと手伝ったりはしてるけどさ。」
「ね。私たちも暫く教会に泊まるって言ったんだけど。」
「ああ。」
「皆さんは、そうですね、その時間があればそれこそ資材を集めてくれと頼まれるでしょうね。」
「はい。メイ様からも、他の人達からもそう言われて。」

結果として、教会を整える為という名目で初めから配置されていた子供たちはそのまま残さざるを得なくなったらしい。当然、河沿いの町の周囲にも魔物はいる。教会は今は壁で囲い安息の守りの内にあるらしいが、それまでの間は魔物相手すら手伝っていたようでもある。

「それと、今は新しくできた橋を見たい人も多くて。」

そして、実にわかりやすい巨大な建造物、新しい奇跡。物見高い者達が教会のすぐ隣にあるそれを一目見ようときたのなら、その後改めて神の御業に畏れ敬おうというのなら、もてなすのが教会の仕事だ。

「で、結局あっちはあっちで忙しくって、暫くはどうにもなんねーってさ。イマノルのおっさんも、会うたびにあんちゃん達に勝手に使ってること謝ってくれって。」
「皆さんの意に沿わぬ事であるなら苦言も呈しますが、本人たちも望んでの事でしょうから。」
「ま、俺らもあいつらも慣れてるからな。」
「ああ。確か今は新たな水路を作ってはどうかと、そう言う話になっているんだったか。」
「えっと、アマギさん、でしたっけ。オユキちゃんの知り合いらしいんですけど、物資を大量に輸送するなら水路を使うのが効率がいいとか、そんな話が出てて。」
「私は、正直その辺りは詳しくないのですが、大量輸送のコストが低いとかそういった話だったかと。」

ただ、それは魔物がいない世界での話。こちらではまた別の尺度による検討が必要になるだろう。そして、今その議論がまさに行われているという事らしい。

「馬車は、今後多少変わりますが、やはり運べる量が少ないですから。」
「別に水の上でも変わるとは思わねーけど。」
「いえ、陸よりもよほど容易です。ただ、今の川幅だとどうなのでしょう。いえ、それもあって水路をという事でしょうか。」

トモエの記憶にあるものを探って、あれこれと考えようとはしてみる物の、概論として空運、陸運、海運。その三形態におけるコストの比較位しか記憶にないのだ。

「えっと、そういった事もあって、それに他にも設備を作りたいとかって。」
「ええ。始まりの町や、門を使って王都を考えてもいるでしょうが、一時的な物としても迎賓館の用意はいるでしょう。」
「そうなんです。今回も、魔国の王妃様を早々に王都にって、ようやく陛下が王都に戻りましたし。」

セシリアの言葉に、トモエとしてははっきりと意外な事が含まれていた。

「あら。そのような流れに。」
「あ、そっか。オユキちゃんもトモエさんも、今日目を覚ましたんでしたっけ。」
「あー、アベルのおっさんが、イマノルのおっさん連れてきたから何事かと思ったら、魔国から王妃様がついて来てたらしくてさ。」

オユキの予想では、半々と言えばいいのか、そう言った方向性もあるだろう、魔国にあまりに明確な利益を齎したものが直ぐに戻る必要がある事態が起きれば、そうなるだろうといった話は出ていた。しかし、他の者は、そこまでの信頼関係は無いからと、まずは外交担当として誰かが送られるだろうと話していたのだが。如何に神々の奇跡とは言え、やはり見ず知らずの新たな事柄。王族というあまりに責任が重い立場の存在が、気軽に使うわけにはいかない。少なくとも、他の誰かが安全を証明しないうちは。

「なんだか、国王様悲しそうだったよね。」
「あー、なんか休暇が終わったとか、そんな事言ってたけど。」
「ジーク、耳いいよね。」
「って言うか、お前らがなんか距離取りたがってたせいで、俺がどうしても側にいなきゃいけなかったからだろ。」

オユキであれば、それに対して色々と予想も働かせるのだろうがトモエから見れば、過去よく仕事に専心する者達に対しての感想を茶飲み話として持ち出した時と同じ結論にしかならない。結局は、場を守ることに主眼を置く者達からしてみれば、悪童たちが何かしている、その程度の事に過ぎない。そこにあえて感想を付け加えるのなら、如何に一つの枠組みで強権が振るえたとしても、外に出れば流れに翻弄されるだけの手合いでしかないのだと。

「意外と、場を整えるといった仕事に置いて、目立つための方々は計画段階では排除されますからね。」
「そんなもんか。」
「ええ。役割の違いというものです。」

そして、子供たちに向けて分かりやすく説明しようと考えれば、トモエにしても極論しか選べない。
説明を受け、自身ではどうした所で理科の及ばぬ相手は、それをただそのような物かとうのみにしてしまうからこそ。今後それぞれが今日見を持つというのなら、詳細を知りたいというのなら、それこそオユキに聞いてくれとしかトモエはいえないのだから。

「ジーク、それと。」
「ああ。いや、俺としてはそれが大事で、あっちは断ったんだけど。」
「でも、ルイスさんも。」
「おや、他に何かありましたか。」

シグルドとしては、既に終わった話だとしてセシリアがかけた言葉を受け入れない構えを見せている。そこにあるのがトモエにとって厄介だと考えていると分かるからこそ、トモエは水を向ける。

「あー、あれだ、前に領都であんちゃんが蹴散らしたのがさ。」
「そういった流れですか。」
「俺は断ったんだけど。」

どうにも、以前蹴散らした相手が傭兵達の追い込みに耐えた事でまた増長しているという事らしい

「それこそ傭兵の皆様で十分かと。」
「俺たち相手なら勝てるって言いだしてさ。許可が無いからって断ってるけど。」
「怪我をする覚悟が相手にあるのなら、許可は出せますが。」

そして、それはこの少年たちにしても同様。相手に怪我を、下手をすれば致命傷となる事を行っても良いとういった覚悟があるのならば、トモエは許可が出来るのだが。
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