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18章 魔国の下見
目を覚ましたなら
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覚醒は珍しくといってもいいのだろう。オユキの方が早かった。
生憎とトモエ程周囲の気配、足音、息遣い、かすかな身動ぎの音、そのような物で判断ができるほどの能力は生憎と身に着けていない。こちらに来たばかりの頃にトラノスケが口にしていた、少々ゲーム的な技能。それに近しい形として、間合いの内にいる相手の数、漠然とした地形と行った物は、ぼんやりと脳裏に描けるようになってはいるのだが。
「トモエさん。」
声をかけたところで、珍しく、それこそ年に数度あるかないか、こちらに来てからは初めての事だが、ただ聞こえたオユキの声に体を寄せる動きがトモエからは返ってくるだけ。
どうにも、早々にオユキが意識を手放したから、トモエに相応の負担が向かったという事であるらしい。
オユキは、それこそなければいいと考えているのだが。
「相も変わらず、ままならぬものですね。」
年を重ね、経験を積み。それでもどうにもならぬ事が、果たしてこれまでどれだけあったことだろう。足を進めた先には、それに相応しいだけの困難が。足を止めれば、向こうから心構えを作る暇もなく。いよいよ老境に差し掛かり、向き合うものが己の生命の灯だけとなってからの日々。それとは比べるべくもない目まぐるしさ、かつて衰えを感じながらも対処し続けた日々と同じものが、こちらにはある。それを楽しいと思うだけの気概を失ってはいないが、余暇ともまた違う、本来であれば失われるだけであったはずの物が手元にある。そこに生まれた欲。それが、改めて先を求めるからこそ己を苛む茨のように。
「目が覚めましたか。」
「シェリア様、ですか。」
そして、オユキの小さなトモエへの呼びかけですら聞き逃さなかった相手から声がかかる。それも、オユキとしては少々意外な。
「はい。入室の許可を頂けますか。」
「ええ。トモエさんが寝ていますので、扉からあまり離れぬように。」
珍しく、トモエが深く寝入っている。
それを邪魔したくないという気持ちと共に、この状態のトモエにオユキ以外が、今となっては他に気を許しているのはアドリアーナくらいしかいない為、間合いに入れば跳ね起きるからと。
「成程。畏まりました。」
そして、静かに開かれた扉から、足音をわざと立てながら、シェリアが、久しぶりに見る姿が現れる。
「ニーナは王太子妃様への報告がありますから。」
「シェリア様も、かなり忙しいと伺っていましたが。」
「その、最初はご想像の通り、河沿いの町、オユキ様とトモエ様の齎してくださった確かな成果、そこに関わることを望んでいたのですが。」
シェリアからは、数度見た彼女が困ったものだと、そう言いたげなため息が。
「伯父さまが、家督を譲った上で余生をと望まれましたので。」
「ローレンツ様もですか。甘やかされている、そのように感じてしまうものですが。」
「事は国の大事、補佐を行うにも万全を期さねばならぬと、王太子様が号令を取られておりまして。」
「まぁ、外交政策のかなめと呼んでも構わないでしょう。」
「後は、実務的な部分でしょうか。やはり、トモエ様にしてもオユキ様にしても、戦と武技の神より頂いた位ですから、そこから離れる事を望まないでしょうと。」
「ええ。流石に刀を置くのは、己の生を全うするその時。かつての頃より、そのように決めていますから。」
さて、どのタイミングでオユキが己の体を起こそうか、そのように考えながらものんびりとシェリアと言葉を重ねていれば、他人が部屋に入ってきた、それを契機として眠りの浅くなったトモエもいよいよ目を覚ます。
「オユキさんの方が、早く目を覚ましてしまいましたか。」
「私が寝ていた、といいますか意識を戻さなかった期間は二日はあるでしょうから。」
「いいえ、お二人が目を覚ますまでに、今日までに五日過ぎています。オユキ様に関しては六日ですが。」
どうにも、今度ばかりは、揃って随分と寝過ごす羽目になったらしい。
「それはまた、今日はこの後、色々と面倒が控えていそうですね。」
「いいえ。そのような些事は一切寄せ付けませんとも。ええ、今度ばかりはきちんとお休みいただきますよ。」
トモエが目を覚まし、周囲に控えた人員を把握し受け入れたからだろう。シェリアがようやく扉から離れ、未だベッドに揃って頭を並べているオユキとトモエの側に近づいてくる。扉側にはトモエが寝ているため、どうした所でオユキが判断の基準と出来る物は、大まかな部屋の配置、置かれた家具と行った物になるが、それだけでも十分始まりの町、己の家と認識が追いつき始めている場所だと分かる。ただ、その判断を行うまでに時間が空いたのは、多少なりとも模様替えが行われているという事もある。季節が巡るだけの期間を、旅に費やしたのだ。主人が不在とはいえ、だからこそ、戻った屋敷の主が不備を感じる事がないようにと務めた者達の働きの成果なのだろう。
「改めまして、お久しぶりですシェリア様。部屋の外にはタルヤ様も居られるようですが。」
「ええ。この町に花精がまとめて足を運んでいることもありまして、先日ようやくと言った所ですが。」
「ニーナ様と入れ替えという事でしたら、お二方とも、それこそ。」
タルヤにしても、シェリアにしても。王都で役職を得ているのだ。タルヤは長く王都を支えた防衛戦力の筆頭として。シェリアは、オユキが持ち込んだ種々の事柄に対して、神々の覚えめでたい相手に配慮した選択を過不足なく行う為の理解者として。
「優先順位、オユキ様もご理解頂いている事柄かと。我が国は、マリーア公爵からの訴えを王太子妃様、王太子妃様が認めた事で、確かな安息を与えるべき相手が今はいるのだと、そう決定を行いました。」
「それは、陛下が随分と難色を示しそうですが。」
「生憎と、その陛下は王太子様への引継ぎ、それを見極める為と公務をほとんど休まれていましたから。」
要は、長く玉座と国を守るためにと働き続けて身動きが取れなくなった、それ以外の振る舞いが難しくなった相手がその席を空ける期間にこそできる事をと、大いにパワーゲームを楽しんだ者達が居るらしい。
「ユフィさんも、一枚かんでいそうですね。」
「ええ。そろそろ、疲労が目に見え得る頃だと、教育焼くを通して王太子様に。」
「ミズキリの手配、その深謀遠慮にはいよいよ及ぶ気がしませんね。」
オユキのこれまでの振る舞いに対してあれこれと苦言を呈することはあるのだが、必要な所に必要な人員を配置する、それを決して町破う事が無いのがミズキリという人間なのだ。流石に、オユキもこの点に関しては生前から及ぶ気もしない。そして、こちらの世界に来てからは、経験に、知識にまたあまりにも分かりやすい隔絶が生まれている。
「殿下から、彼のものをもう少し、そのように内々に。」
「橋の中程、そこにミズキリの望む拠点もあるでしょう。それに腰を落ち着ければ、今度はそちらに関連することで忙しくなるでしょうから。」
「異邦人たちの国、ですか。」
「ええ。ただ、そうですね。」
ここ暫く、オユキはトモエから数度そうした促しを受けていることもある。オユキ自身として、確証を得ていない事、それが難事であれば猶の事口にしたくないという事もある。己が解決策を持たぬ事、それに対して何某かを行うのには抵抗がある、というのも本音として確かにそこにある。
結局何を行うかと言えば、巻き込んで、後は知らぬと、そうするのと変わりないのだから。
「甘えても良いのでしょう。トモエさんがそう示してくれましたから。」
ただ、多少なりとも甘えを己に許さなければ、オユキ自身今後目的すら果たせぬとその理解はあるのだから。
「もう少し、広範な意味合いを持つものです。何時成し得るのか、それは分かりません。」
オユキの言葉には、開け放たれた扉から顔をのぞかせていたクララも耳を傾けている。どうにも、河沿いの町、そこにも確かに築かれたであろう橋、その周辺施設に関して話を詰めようと、走れば半日で移動できるからと駆け抜けてきたのか、対岸にあるこれから散々交渉を抱える事になる相手、その情報を事前に仕入れるために動いているのか。それにしても、彼女の妹の方が適任だと、その判断を下さざるを得ないほどではあるのだが。
「異邦、そこと繋ぐための門。それをミズキリは望んでいますよ。」
試練として、あまりに難易度が高いのだミズキリという人間に与えられているものは。
人ではとても及ばぬ認識能力を持つ相手、直接会っただけという制限があるかもわからない、ただ人の思考など当然と読み解くだけの隔絶した存在。そのような相手が、この世界の先を考え、計画を立てる。それに役立てと、助言をしろと言われて行わねばならないのだ。ただ唯々諾々とこちらに暮らす者達の手を借りて、方々に顔を出すだけのオユキやトモエとは根本から違う。そうする者達をいつ、どこへ、それすら神々と共に考え、実現が可能であると説き伏せる。費やした時間もさることながら、求められる才覚、経験、知識、その全てが途方もないという事は嫌でも分かるというものだ。
では、それほどの人物が、気の遠くなる時間を費やして得られる成果とは何か。
過去、ミズキリと数多の口論を重ねたオユキだからこそ、思いつくものもある。トモエをして夢想家と評される人物がなにを考えているのか。不足を抱えているのは、こちらの世界だけなのか。
「川の中程、恐らく、意味があって、そこ以外が難しいというのでもあるでしょうが。」
「かつての一団を、そう、オユキ様は。」
「ええ。かつてこの世界で興した一団も、異邦の地で興した一団も。ミズキリという人間が原動力として働きかけた物に違いありません。」
「ですが、世界の切り離しは、創造神様の言葉は。」
シェリアの疑問も最もではある。しかし、それに対しては実に分かりやすい返答もある。
「親元を離れて、改めて。そういった意味合いと取る事も出来ますから。」
今はまだこの世界も生かされている世界だとして。それが独立したからと言って、何もそこにあった関係が全て失せる訳でもない。
「ただ、それは、まだ先の話です。ミズキリは今から備えるでしょう、それだけの事ですから。」
少なくとも、オユキとトモエにとっては、選択を行った先、そこからさらに巻き起こる、己が関わるともわからぬ五日の話でしかない。過去の関係、それがあるから手伝いはするが、所詮はそこまでなのだと。
生憎とトモエ程周囲の気配、足音、息遣い、かすかな身動ぎの音、そのような物で判断ができるほどの能力は生憎と身に着けていない。こちらに来たばかりの頃にトラノスケが口にしていた、少々ゲーム的な技能。それに近しい形として、間合いの内にいる相手の数、漠然とした地形と行った物は、ぼんやりと脳裏に描けるようになってはいるのだが。
「トモエさん。」
声をかけたところで、珍しく、それこそ年に数度あるかないか、こちらに来てからは初めての事だが、ただ聞こえたオユキの声に体を寄せる動きがトモエからは返ってくるだけ。
どうにも、早々にオユキが意識を手放したから、トモエに相応の負担が向かったという事であるらしい。
オユキは、それこそなければいいと考えているのだが。
「相も変わらず、ままならぬものですね。」
年を重ね、経験を積み。それでもどうにもならぬ事が、果たしてこれまでどれだけあったことだろう。足を進めた先には、それに相応しいだけの困難が。足を止めれば、向こうから心構えを作る暇もなく。いよいよ老境に差し掛かり、向き合うものが己の生命の灯だけとなってからの日々。それとは比べるべくもない目まぐるしさ、かつて衰えを感じながらも対処し続けた日々と同じものが、こちらにはある。それを楽しいと思うだけの気概を失ってはいないが、余暇ともまた違う、本来であれば失われるだけであったはずの物が手元にある。そこに生まれた欲。それが、改めて先を求めるからこそ己を苛む茨のように。
「目が覚めましたか。」
「シェリア様、ですか。」
そして、オユキの小さなトモエへの呼びかけですら聞き逃さなかった相手から声がかかる。それも、オユキとしては少々意外な。
「はい。入室の許可を頂けますか。」
「ええ。トモエさんが寝ていますので、扉からあまり離れぬように。」
珍しく、トモエが深く寝入っている。
それを邪魔したくないという気持ちと共に、この状態のトモエにオユキ以外が、今となっては他に気を許しているのはアドリアーナくらいしかいない為、間合いに入れば跳ね起きるからと。
「成程。畏まりました。」
そして、静かに開かれた扉から、足音をわざと立てながら、シェリアが、久しぶりに見る姿が現れる。
「ニーナは王太子妃様への報告がありますから。」
「シェリア様も、かなり忙しいと伺っていましたが。」
「その、最初はご想像の通り、河沿いの町、オユキ様とトモエ様の齎してくださった確かな成果、そこに関わることを望んでいたのですが。」
シェリアからは、数度見た彼女が困ったものだと、そう言いたげなため息が。
「伯父さまが、家督を譲った上で余生をと望まれましたので。」
「ローレンツ様もですか。甘やかされている、そのように感じてしまうものですが。」
「事は国の大事、補佐を行うにも万全を期さねばならぬと、王太子様が号令を取られておりまして。」
「まぁ、外交政策のかなめと呼んでも構わないでしょう。」
「後は、実務的な部分でしょうか。やはり、トモエ様にしてもオユキ様にしても、戦と武技の神より頂いた位ですから、そこから離れる事を望まないでしょうと。」
「ええ。流石に刀を置くのは、己の生を全うするその時。かつての頃より、そのように決めていますから。」
さて、どのタイミングでオユキが己の体を起こそうか、そのように考えながらものんびりとシェリアと言葉を重ねていれば、他人が部屋に入ってきた、それを契機として眠りの浅くなったトモエもいよいよ目を覚ます。
「オユキさんの方が、早く目を覚ましてしまいましたか。」
「私が寝ていた、といいますか意識を戻さなかった期間は二日はあるでしょうから。」
「いいえ、お二人が目を覚ますまでに、今日までに五日過ぎています。オユキ様に関しては六日ですが。」
どうにも、今度ばかりは、揃って随分と寝過ごす羽目になったらしい。
「それはまた、今日はこの後、色々と面倒が控えていそうですね。」
「いいえ。そのような些事は一切寄せ付けませんとも。ええ、今度ばかりはきちんとお休みいただきますよ。」
トモエが目を覚まし、周囲に控えた人員を把握し受け入れたからだろう。シェリアがようやく扉から離れ、未だベッドに揃って頭を並べているオユキとトモエの側に近づいてくる。扉側にはトモエが寝ているため、どうした所でオユキが判断の基準と出来る物は、大まかな部屋の配置、置かれた家具と行った物になるが、それだけでも十分始まりの町、己の家と認識が追いつき始めている場所だと分かる。ただ、その判断を行うまでに時間が空いたのは、多少なりとも模様替えが行われているという事もある。季節が巡るだけの期間を、旅に費やしたのだ。主人が不在とはいえ、だからこそ、戻った屋敷の主が不備を感じる事がないようにと務めた者達の働きの成果なのだろう。
「改めまして、お久しぶりですシェリア様。部屋の外にはタルヤ様も居られるようですが。」
「ええ。この町に花精がまとめて足を運んでいることもありまして、先日ようやくと言った所ですが。」
「ニーナ様と入れ替えという事でしたら、お二方とも、それこそ。」
タルヤにしても、シェリアにしても。王都で役職を得ているのだ。タルヤは長く王都を支えた防衛戦力の筆頭として。シェリアは、オユキが持ち込んだ種々の事柄に対して、神々の覚えめでたい相手に配慮した選択を過不足なく行う為の理解者として。
「優先順位、オユキ様もご理解頂いている事柄かと。我が国は、マリーア公爵からの訴えを王太子妃様、王太子妃様が認めた事で、確かな安息を与えるべき相手が今はいるのだと、そう決定を行いました。」
「それは、陛下が随分と難色を示しそうですが。」
「生憎と、その陛下は王太子様への引継ぎ、それを見極める為と公務をほとんど休まれていましたから。」
要は、長く玉座と国を守るためにと働き続けて身動きが取れなくなった、それ以外の振る舞いが難しくなった相手がその席を空ける期間にこそできる事をと、大いにパワーゲームを楽しんだ者達が居るらしい。
「ユフィさんも、一枚かんでいそうですね。」
「ええ。そろそろ、疲労が目に見え得る頃だと、教育焼くを通して王太子様に。」
「ミズキリの手配、その深謀遠慮にはいよいよ及ぶ気がしませんね。」
オユキのこれまでの振る舞いに対してあれこれと苦言を呈することはあるのだが、必要な所に必要な人員を配置する、それを決して町破う事が無いのがミズキリという人間なのだ。流石に、オユキもこの点に関しては生前から及ぶ気もしない。そして、こちらの世界に来てからは、経験に、知識にまたあまりにも分かりやすい隔絶が生まれている。
「殿下から、彼のものをもう少し、そのように内々に。」
「橋の中程、そこにミズキリの望む拠点もあるでしょう。それに腰を落ち着ければ、今度はそちらに関連することで忙しくなるでしょうから。」
「異邦人たちの国、ですか。」
「ええ。ただ、そうですね。」
ここ暫く、オユキはトモエから数度そうした促しを受けていることもある。オユキ自身として、確証を得ていない事、それが難事であれば猶の事口にしたくないという事もある。己が解決策を持たぬ事、それに対して何某かを行うのには抵抗がある、というのも本音として確かにそこにある。
結局何を行うかと言えば、巻き込んで、後は知らぬと、そうするのと変わりないのだから。
「甘えても良いのでしょう。トモエさんがそう示してくれましたから。」
ただ、多少なりとも甘えを己に許さなければ、オユキ自身今後目的すら果たせぬとその理解はあるのだから。
「もう少し、広範な意味合いを持つものです。何時成し得るのか、それは分かりません。」
オユキの言葉には、開け放たれた扉から顔をのぞかせていたクララも耳を傾けている。どうにも、河沿いの町、そこにも確かに築かれたであろう橋、その周辺施設に関して話を詰めようと、走れば半日で移動できるからと駆け抜けてきたのか、対岸にあるこれから散々交渉を抱える事になる相手、その情報を事前に仕入れるために動いているのか。それにしても、彼女の妹の方が適任だと、その判断を下さざるを得ないほどではあるのだが。
「異邦、そこと繋ぐための門。それをミズキリは望んでいますよ。」
試練として、あまりに難易度が高いのだミズキリという人間に与えられているものは。
人ではとても及ばぬ認識能力を持つ相手、直接会っただけという制限があるかもわからない、ただ人の思考など当然と読み解くだけの隔絶した存在。そのような相手が、この世界の先を考え、計画を立てる。それに役立てと、助言をしろと言われて行わねばならないのだ。ただ唯々諾々とこちらに暮らす者達の手を借りて、方々に顔を出すだけのオユキやトモエとは根本から違う。そうする者達をいつ、どこへ、それすら神々と共に考え、実現が可能であると説き伏せる。費やした時間もさることながら、求められる才覚、経験、知識、その全てが途方もないという事は嫌でも分かるというものだ。
では、それほどの人物が、気の遠くなる時間を費やして得られる成果とは何か。
過去、ミズキリと数多の口論を重ねたオユキだからこそ、思いつくものもある。トモエをして夢想家と評される人物がなにを考えているのか。不足を抱えているのは、こちらの世界だけなのか。
「川の中程、恐らく、意味があって、そこ以外が難しいというのでもあるでしょうが。」
「かつての一団を、そう、オユキ様は。」
「ええ。かつてこの世界で興した一団も、異邦の地で興した一団も。ミズキリという人間が原動力として働きかけた物に違いありません。」
「ですが、世界の切り離しは、創造神様の言葉は。」
シェリアの疑問も最もではある。しかし、それに対しては実に分かりやすい返答もある。
「親元を離れて、改めて。そういった意味合いと取る事も出来ますから。」
今はまだこの世界も生かされている世界だとして。それが独立したからと言って、何もそこにあった関係が全て失せる訳でもない。
「ただ、それは、まだ先の話です。ミズキリは今から備えるでしょう、それだけの事ですから。」
少なくとも、オユキとトモエにとっては、選択を行った先、そこからさらに巻き起こる、己が関わるともわからぬ五日の話でしかない。過去の関係、それがあるから手伝いはするが、所詮はそこまでなのだと。
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