憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

そして、夜

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身内と、少なくともオユキが既にそう認識している相手を主体とした者達を集めて今後の事を確認する時間というのも、直ぐに終わる。オユキは明確なマナの不足というのはあるが、季節というものが良く働いており、なんだかんだと一月も移動の最中馬車に押し込められていれば、相応に回復する。問題を抱えているのは、今度ばかりはアイリスの方になっている。見た目については、ある程度問題が無い、そのように判断できるほどに回復しているのだが、やはり見た目以外はまだまだという事であるらしい。
本来の得意と祖霊の抱える物の違い、そう言った物もあり色々難しいと、カナリアからはそう話をされているが。

「この後しばらくは。」
「はい。四日ほど、いよいよ宿泊できる施設、拠点は存在しません。」
「それを考えれば、此処で改めて数日をとも思いますが。」
「アベルさんが問題ないと、そう言い切った以上、そうなのでしょうと私からはそのように言うしかありませんね。」

個々から四日間。護衛を職務とする者達は、非戦闘要員を抱えて人里からいよいよ離れた地域。これまでも、襲撃の類はあったと聞いているし、先代アルゼオ公爵にしても危険域と考えていると分かりやすい緊張を讃え始めている、そのような場所を通過することになる。

「魔物の指標である淀み、それは人の営みでという話でしたが。」
「恐らく一助でしかないのでしょう。近い物としては、化石資源と考えるのが良いのではないかと。」
「地表、となりますけど。」
「あちらでも、圧力が要因として。それ以外にも色々理由はありますが。」
「納得がいくだけの理屈は、用意されているという事ですね。」
「はい。その辺り、手を抜く方々では無いでしょうから。」

移動の最中、ファルコとその連れである二人。ついでとばかりにサキにしても、既に散々魔物の相手をしている。流石に拠点のすぐ側とは言え、人が営みを行う規模が少なくなっていく。恐らく、必ずという訳でもないが主要な町から離れてしまえば、やはりそこに発生する魔物は多く、強力になっていく。そう言った相手を回しはしないが、これまでの鍛錬の場に比べれば強力な相手をどうにか熟し、当然のようにトモエの指導も受けるのだ。ファルコはどうにか先の話し合いに参加できていたが、他の三人は訓練が終われば食事の最中に眠る、そのような光景も既に見慣れた物になっている。

「ここまで、旅行が大事になるとは。」
「魔物がいる、そして人の生活圏に応じてですから。」
「何と言いましょうか。」
「ゲーム的、そう言うしかないものでしょう。勿論、そこに納得のいく理屈はありますが。」

循環を前提としている。だからこそ、人が介在しない、利用しなければただそこに溜まり淀むのだと言わんばかりに。

「であれば。」
「いえ、そこにやはり再現性というものが壁として存在します。」

とうに誰かが気が継いだろう。トモエのその見解に対して、オユキから返せるものは、その一言に尽きる。かつての世界にしても、結局のところ現実で出来ぬ事を求める者達が多かったのだ。要は、加護、武技、そう言った物を頼む者達が。そのどれもがマナを消費して行う事柄であり、だからこそ、淀み、使用した後に生まれる、何かがそこに溜まる。そして、魔物を育てる。

「しかし、そう言った事であれば、気が付く人も多そうなものですが。」
「そこも同じく、再現性が立ちはだかりますから。」

そして、過去。ゲームという範囲であれば、始まりの町という、人口が最大となっていた箇所が存在している。その近隣の魔物と、王都や他、そことの差に気が付かなかったのかと言われれば、オユキの答えは繰り返しとならざるを得ない。人里、既にゲームとして用意されている場所では、再現事件を行う事など実質不可能であり、それ以外、プレーヤーが独自に得た拠点では、あまりに違う結果が得られる。何処にでも作れるわけでは無い。教会で事を行い、定められた場所に。そこには、世界樹から伸びた根が存在しており、淀みを吸い上げ浄化するという仕組みが置かれている。それこそ、循環を司るからこその水と癒しだと言わんばかりに。それに気が付く事が出来なければ、計算に組み入れる事が出来なければ未知の要因がそこにある。そのように考えるしかない。

「つまるところ、イデオロギーの差異というしかないのでしょうが。」

ゲームであり、創造物である。極めつけとして、それはこれまでの延長としての電子データ。論理計算式以外の介在余地が無い存在だとして、そこから回答を求める物たち。対して、異なる世界なのだとそれを受け入れようとする者達。それぞれがそれぞれに、その枠組みで実現可能な手段を論じ、そしてそこから導出される解答に近い現象がそれぞれに起こるように設計されているこの舞台に翻弄された。要は正解が複数ある。そして、表層的と言えばいいのか、実験としてミニマムな定義をしたときに、それぞれが正しく見えるようになっている。しかし、そこから先は、少しでも範囲を広げれば、途端に複合的になる。そして、それを為すためには協力が不可欠ではあるのだが、神の不在を証明する学問の徒と、空想でしかないはずの神を実在するものとする者達の間では断絶が生まれる。
此処でも同じ。手をとり合う。手をとり合え。いよいよこちらで繰り返し聞いたその言葉が、根底にある。

「相互理解と言えばいいのでしょうね。」
「はい。」
「優しい人達であったのですね。」
「それは、どうでしょうか。」

トモエがそのように評するのだが、それに頷くには随分とそれ以外に向ける手が用意されすぎているようにオユキは感じてしまう。

「それにつけても、やはり気兼ねなくというのは難しいですか。」
「現状で安全を買う事を選んだ以上は、やはり難しいですね。」
「私ではどうにもならぬ類の相手が多いのは、分かりますから。」
「後の大きな移動は、アイリスさんの国に向けた物でしょうか。他の神殿へは月と安息からであれば、まだ近くなりますから。」

そして、少し今後の話も。

「そう言えば、ロザリア司教から伺ったのは、王都からの距離でしたか。」
「はい。始まりの町まで、以前の馬車を使って普通に移動をする、その時間を基礎としたものです。いえ、そのはずです。」
「ええ。そうでなければあと四年ではとてもでは無いでしょうが。」
「一応、私からマリーア公爵に頼んで、概算して頂いた計画はありますが。」

そして、オユキの方でも残りの期間、それが実現可能であるかはやはり判然としなかったため、マリーア公爵を頼んで門と新しい馬車を組み込んだ上での移動にかかる期間を計算してもらっている。

「移動、この行為だけで凡そ2年近くは費やすことになりますが。」
「その程度で済んで僥倖と言えばよいのか、冗談のような広さに目前を覚えるといいますか。」
「そして、高々一つの大陸の話、ですか。」
「はい。」

周囲の景色との対比はあまり意味がない。そして、仕組みであれ生物であれ。初速と最高速は全く違う。ただ、この度の道中オユキとメリルが暇に飽かせてという訳でもないが、色々な実験の課程として、現在の馬車の最高速をどうにか測ってみたりなどもしている。具体的には、休憩時間中に護衛の幾人かを頼んで、移動中の速度それで移動を行ってもらう事として。計測機器は生憎持ち込んでいないため、生物の感覚による尺度という誤差が非常に大きいだろう導出にはなったが、それにしても結果は愉快なものであった。トモエにしてみれば、移動の最中、たまに覗く外の景色でよもやと考えていたことが現実となったと、その程度ではあるが。

「オユキさんから聞いた話よりも、広いですよね。こちら。」
「ええ。やはり機器の限界があったという事なのでしょうね。」

当初と言えばいいのか、トモエに説明するときには公爵領がユーラシア大陸程の大きさだと、そのようにオユキは話したものだが、実態はそれを遥かに超えそうだという事がよくわかった。数倍では済まない、そのような広大な面積があるのだと。

「かつては万有引力は働いていると、現実と同様の実験を行い証明した方もいますが。」
「確か、金属球を使うのでしたか。」
「はい。相応に長い棒、風の影響を受けない空間など、苦労があったとは聞いていますが。さておき、そこでは同様の現象があったと。そして、そこから重力定数を求め、質量を。一般的な惑星と言いますか、掘り返せるとこまで掘り返したものの成分をある程度分析しながら平均密度を計算し、概算として全体の質量というものを求めたわけです。」
「その、距離が関係あったようにも。」
「一応物体間への作用に関しては、それぞれの重心を起点に。確かに、言われて考えてみれば、そこで疑念を覚えるべきでもありましたか。原子論周りは、確か早々に研究が頓挫したと聞きましたし、電子顕微鏡を用意する計画はあったはずですが、流石に間に合いませんでしたから。」

特にここ暫くはどうした所で同じ顔が側にいる事もあるし、移動の最中はどう取り繕ったところで暇を持て余す。その時間に、勿論サキやトモエも交えてあれこれと話、時には先代アルゼオ公爵夫人によるマナー講座などを受けてもいるが、それにしても時間が余っているため、オユキもこれまで以上にこちらを楽しんでいる。
簡単な切欠、トモエが己の疑問として挙げる言葉に、実に饒舌に、己の思考に目を向けているため、何処か遠くを見ながら答えが返ってくる。

「その、当時はマナというのは。」
「第四の力と考える向きが主流でしたね。それこそ、肉眼では難しいものを計測する機器が出来ていればというものでしょうが。いえ、実のところ魔石ですね。魔物の核であり、マナと関係の深い結晶。これを使って何某かの実証をという向きはあったのです。しかし、質量を確かに持つというのに、経年劣化というには早い速度で質量が失われる。彼の数式によるエネルギー変換とも会わぬという話でしたから。」
「私でも知っている有名な数式ですね。しかし、あちらは光速と言いますか絶対的な速度が。」
「一応、こちらでも測定は行ったと聞いていますが、確かにそこにも疑問を持つべきでしたね。かつては木星の衛星の蝕を使ったはずですが。」
「ええと、天動説の。」
「天動説自体は紀元前ですし、それで有名な方の物は速度に対して実験環境が釣り合わなかったので測定できるものでは。」

話題はすっかりと当初話そうと考えていた事。今後の予定であったり、トモエとオユキ、数日は確保する自由時間で、初めて訪れる地を如何に楽しむか、そう言った部分からすっかり離れてしまっている。それでも、トモエはかつてのようにオユキの話をただ楽しんで聞く。かつてとの違いは、聞いているうちにトモエが寝ていたものだが、今は話と思考に疲れたオユキが眠りにつくかとなっているのだが。
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