憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

食事の後に

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折り畳み、広げる手間を惜しまぬのであれば。振動が少なく、これまでよりも安全に運べるのであれば。実にそういった工夫を感じる用意の下、どうにかこうにか少年たちは隣国におけるテーブルマナーの講習を乗り切った。オユキとしては、寧ろより馴染んでいる物であり、改めてというものでしかない。しかし、そこに慣れがあるからこそ、やはり細かい所では至らぬと、そのように注意されるものだ。これまで散々トモエや義父にされてきたように。

「さて、それでは皆さんも交えて、少し予定をお話ししましょうか。」
「ふむ。確かに、今に相応しい話題ではありますな。これが壁の外でなければ。」
「その辺りは、護衛の方々を信じるしかないでしょう。」
「オユキ、そう言うのであれば。」
「信頼していますよ。」

そう話すオユキが、しっかりと武器を身に着けている以上、その感想も最もではある。武装という程大それた格好はしていないが、いつもの武器だけはしっかりと持ち込んでいる。お世話になったと言ってもいい物かは分からないが、こちらに来た時から変わらず持っている荷物、革鎧は流石に身に着けていない。

「さておき。皆さんが言われている事は、隣国との、年近い相手と話を重ねる事。そして、こちらに招く事。後は、そこで暮らす人々が望んだときに、それぞれの領に連れ帰る事。大きくはこれでしょう。」

自国の中で起こる争いが、他国との間で起きぬわけもない。そして、何某かの協定が出来る前に、今回は神国が一方的に仕掛ける事が出来る。

「ご存知でしたか。」
「いえ。想像の範疇でしかありません。後は、これは聞かれれば認めても良いとして、そうでないものは、魔術、魔道具の知識を持つ相手、魔道具、そう言った物も言われているでしょうが。」

魔道具の製作、それに必要なのは知識だと言い切ったのは、これから向かう先で魔術師という称号を得てきた者だ。
オユキが、他にもいくつか、そう考えながら少年たちを見れば、対応が解らずただ固まるばかり。

「あの、皆さん。せめてこれまでの動きは続けませんと。」
「これでは、簡単な探りで直ぐに全てが漏れそうですな。」
「ええ、ですから、大きな方針だけ。」

オユキと先代公爵がそのように話せば、何やらよくない事かと少年たちが緊張をするが。

「あの、皆さんが行う事にしても、魔国の国力に打撃を与える振る舞いですから。」
「立場を変えて考えてみよ。国同士で無くとも、他領の者が現れ、民を連れ出していこうと、産物を持ち出そうというのだ。」
「それは、しかし、陛下の宣言もありますし。基本的な取り決めは。」
「それらがあるから、飲み込んでいるのだろう。しかし、現状隣国とそこまでの取り決めは存在しないのでな。」

では、彼らにそのような事を頼んだ人間は何を考えているのかと言えば。

「今回、私たちが運ぶもの、その利益と相殺するわけです。そして、匙加減は私たちで分かる物ではありません。」
「成程。それでオユキ殿も、先代アルゼオ公爵を。」
「本来は王太子様の仕事となったでしょうが、まぁ、そちらは置いておきましょう。」

そして、オユキはのんびりと食後の飲み物に口を付けながら話を進める。

「今後の事、それを考えた際に、私から皆さんに言えることは今回の引率者、そちらの言う事をよく聞くように。それ以上の事はありません。」
「今回の枠は、アルゼオ公爵家が、ですか。」
「ええ。その通りです。」

さて、過剰に力を入れ、万が一があるかもしれぬ相手に対しての釘さしは十分。後は、現地入りの前に再確認をした上で、きちんと様子を見て、それで十分だろうとオユキとアルゼオ公爵の間で頷きを作る。

「今後というのであれば、オユキ殿は、何か彼の国で。」
「正直な所を申し上げれば、今回についてはこれと言って要望が無いのですよね。」

ファルコから聞かれるが、それにはただため息とともに返すしかない。

「しいて言うのであれば、円滑に職務を遂げられる事、それ以外には。それにしても、今はそちらを行うのは陛下からお借りした相手と、先代アルゼオ公爵に頼む事ですから。」
「そう、なのですか。」
「はい。見て回るのは後程改めて、それで十分ですし。」

オユキがそう取り繕って話していれば、トモエも席に合流してくる。アルノーと始まりの町からついて来ている子供たち、そちらに片づけは任せてという事になったのだろう。何分、数がとにかく多い旅だ。料理ができる、それも十分以上に、そのような人材は当然遊ばせておく手はないからと。誰もそのような事は直接口に出しはしないが、だからこその圧力というものが生まれている。そして、オユキにしてもトモエが作ったものをやはり喜ぶからと、自然とトモエ自身もそちらに向かっていることもある。ついでという訳ではないが、程よく雑な料理と言えばいいのだろう。アルノーは今子供たちに色々と教えている最中という事もあり、個別の完成度が高い料理を作らなければならない。貴族階級、いよいよこういった旅とは縁遠い者達としては、先代アルゼオ公爵を始め、神国からの書状を運ぶ文官やアルゼオ公爵が頼んでいる幾人かも存在している。そちらにも料理を出さねばならないのだから、一食だけとはいえ。

「そこは正直に、見るべきものに現状見当がついていないと、そう言っても良いものかと。」
「神殿は外す気はありませんが、今度ばかりは仕事の側面が強いので。」
「それは、流石にそうなりますか。」
「ふむ。叶えられぬ事はありませんが。」
「そうなれば、滞在を伸ばす必要が出るでしょう。」

流石に、ついでに観光とはならない。引き渡すにしても、今度は国内の事ではない。色々な煩雑が、今から想像するだけで眩暈を覚えるようなことが待っている。

「確かに、そればかりは。」
「渡したついでに、少し神殿に泊めていただいてというのは。」
「それが出来たとして、その、以前マリーア公爵の領都での事のように。」
「その、だとすると。」

そう言えば、その辺りも話していなかったかと。トモエがどうした所で、知らぬものを楽しみにしている風でもあるため、オユキは改めて細かく話はしていない。しかし、過去説明したときに、周辺の情報もほとんど話していなかったなと、改めて反省をしながら。

「神国とは異なり、過去と変わらぬのであれば、知識と魔の神を祀る神殿は、都市の内部にあります。」
「過去は別としていましたが、342年前に50代国王陛下と当時の筆頭魔術師の意見もあり遷都し、今は神殿を中央にした王都となっています。」
「この世界で、遷都、ですか。」
「知識の研鑽を、積み上げた書籍を礎に、未だ埋められぬ白紙の塔を塗り替えるならば、彼の神に届けと、それを忘れる事がないように。確か、そのような話でしたな。」
「それはまた、剛毅な事ですね。」

その心意気に、胸を打たれるのはトモエばかりではなくオユキもだ。目標として掲げる物は確かに違うが、根底にあるものは等しい。

「オユキさんは、いよいよ楽しめそうな場となりそうですね。」
「生憎と、こちらの事は分からぬ物ばかりですから。」
「ああ。学術の森、その深奥から出る事が難しければ、確かに得られる物も。」
「ええ。その辺りも含めて、改めて後日で。」

観光として、あまり仰々しくなっては困るのだ。そうなってしまえば、仕事という側面が、どうしても強くなってしまうから。オユキとトモエ、どちらとも多くの者がそうするように等とはとても言えはしないが、あまり人目にさらされることが当然であるような、そう言った生活は送っていなかった。それこそ、旅行先に向かってしまえば、猶の事というものだ。非日常を提供するためのサービスというのは、過去何処までも充実していた。

「あの、オユキ殿、門を使うのですか。」
「はい。私共が使うと言えば、断れませんよ、現状、どなたも。」

運んだのは、どころでは無い。それを神々から与えられたのはオユキとトモエであり、方々の神殿に対しても、任せるという形をとっている。

「所有権と言いますか、付随する権利を全て手放さない、そのように言葉は選んでいますから。」

このあたりをさして、アベルに隠す気もなく己の都合を差し挟むなどと言われるものだが。

「強力な手札です。早々、完全に手放したりなどしませんよ。」

オユキが笑いながらそう話して見せれば、慣れたファルコからは、またかと言わんばかりの苦笑いだが、残りの二人からは、何やら恐ろしいものを見たと、そのような視線が向けられる。ただ、その視線に対しては。

「お二人も、思い違いされませぬよう。この程度、誰も彼もが行う事です。」
「本来であれば、それをさせぬよう交渉を進めるのですがな。」
「私どもについては、私どもにしても想定外の事ですから。」

そして、それにしてもそこで失敗をして、他が入る隙を与えない。勿論総括として、オユキの評価として失敗したと考える事はあるが、他からの分かりやすい範囲として。事これらの事柄に対しては、オユキにしても、トモエにしても。起きた出来事に対して、求めている結果というのが、あまりに釣り合っていない。

「しかし、起動には相応に。」
「数人部であれば、一週間も職務に励めば手に入ります。それと、事前に共有している事ですね、それにしても丸兎を基本として換算した物です。他で試す事も必要ではありますから。」
「それも、織り込み済みなのですか。」
「カナリアさんを始め、魔術師ギルドの皆様から散々に恨み言は言われそうなので、そちらへの手土産を持ち帰ることも、ですね。」

ミズキリの話では省略されていたが、門の起動には調整した魔石の方がという話にまとまっていた。魔道具向けに、ただ一般的なものにという訳でもなさそうだと、そう言った報告もある。今後、そちらについては、大いに励んでもらうしかない。

「その辺りは、アルゼオ公爵の交渉能力に期待をしているのですが。」
「研究用にと、随分と余分を言われそうですな。」

ただ、大変だと口にしながらも、先代アルゼオ公爵は随分と楽しそうに笑う。

「その、今の話を纏めると、オユキ殿の求めるところというのは。」
「はい。正直一週程で、戻れれば良いなと。」

そう、今回の仕事、それに対してオユキが切りたい期限というのはその程度の期間なのだ。

「ジークとアンから、また何かあるだろうと、そういった事を。」
「流石に、知識と魔の神はいよいよ範疇外と思いますが。」
「しかし、先の出来事では。」

そう、そう言った事もひっくるめて。先代アルゼオ公爵に後をすべて任せて、オユキとトモエは、さっさと始まりの町に一度戻りたいと考えている。なんだかんだと長旅は堪える。そして、一度用意してしまえば、王都にしても、隣国の神殿にしても、始まりの町から気軽に移動ができる距離になる。
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