憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

旅立つのは

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少年達の試しは、恙なく終わった。
それぞれに思うところもあり、何事もなくという訳ではなかったが、五人それぞれに改めてトモエが覚悟を問うためにと、相応の圧をかけた場においても教えた通りのことは出来た。そして、それ以上の成果など存在しはしない。
トモエから、技を教えた物として、武器を与える。そうであれば、昔から、何時からかは分からないとトモエも義父もオユキに話したが、変わらぬ覚悟を試す場というのが折々に。
人を殺す。そのような技を磨くからこそ。凶器を手に持つからこそ。

「何度経験しても、この寂しさばかりは、慣れませんね。」

連れ歩く物では無く、今日は送り出すものとして。
生憎とメイは新年祭の場に出席しなければならないため、代理としてまた別の人員が引率を行っている。
今は、実に多くの人間が新たに生まれた門、その前に並んで固唾を飲んで見守っている。果たして、これがどうなるのかと。

「かつての神よ。運ぶものよ。古くから変わらぬ裔の声を聞け。」

祭祀の主体は、神殿の者達ではなく、しっかりと対価をせしめた者によって。
まぁ、正当な者ではある。この忙しい最中に、移動を願う者達からも誠意を見たいと言われたことにしても。しかし、如何に準備運動は良しと出来たからとはいえ、未だに森に入れるような能力はない。毒であったりに対応するだけの能力も、そもそもトモエの教えに含まれてもいない以上身に着けているわけもない。
その程度の相手を、異空と流離が運ぶのかと難色を示されながらも、結局は彼らが持ち帰った肉に喜んだ者達も多く、結局はどうにかなった。過去の逸話であるため、それに影響を受ける始祖はともかく、末裔たちの方は食の好みは千差万別という事であるらしい。
加えて、この場を貸すことを承諾している水と癒しの神に向けては、一先ずの品をアルノーとトモエで用意したうえで納めてもいる。当然、この場に顔をそろえている者達から、実にあれこれと持ち込まれてもいるが。

「そうですね。最期に見送ったのは、あの子でしょうか。」

如何にトモエとオユキが健勝であったとはいえ、そこは人の世界。事故などいくらでもある。治らぬ病もある。間に合わぬことも。事身内という意味では、1度だけしかなかった、トモエとオユキがそうあるようにと、今もそうであるように心を砕いた結果として、その一度だけしかなかったが。

「あの時とは違いますからね。」
「そうですね。あくまで、今はこの一時。」

隣国迄足を延ばし、そちらでまた忙しなさの中でも、己の楽しみを果たせば戻って来るのだ。そこでまた会う事が出来る。

「それ以外となると、やはり、相応に前ですね。」
「ええ。あの子は結局私が在る間には、そう言う話を見つけられませんでしたし。」
「あの子は、まぁ、難しいでしょうね。」

トモエの言うあの子。かつての世界で、廃れていくものにすっかりと傾倒してしまったのだ。まずは、そのような精神性を良しと出来る相手を探すという、それはそれは難しい関門を突破しなければ話にならないのだ。その後には、認められるだけの強さを示してと、また愉快な難問が控えている。

「なんにせよ、これで一先ずはというところでしょう。」
「そうなのですか。」
「ええ。後はいよいよ、まぁ、大仕事はありますが顔を出すのが主体ですから。」
「新年の物は。」
「そちらはいよいよ、出発前ではありますし、まぁ、道中はここまでと同じですから。」

新年祭。何やら国王その人の方でも色々と考えがあるというのは、聞こえてきている。
王妃にしても、観光の開設を行ってくれている折に、随分と思わせぶりな事を言った物だ。

「オユキさんは。」
「想像は付いていますが、流石に此処では話せませんね。」

流石に、耳目が多すぎる。国王その人が、当日まで多少の心構えを作らせはしても、公示を差し控えている事でもあるのだ。おいそれと口に出して良いものでもない。

「それと、もしかしたら、そう言う予想もありますから。」
「では、私は当日を楽しみにしていましょうか。ただ、私の方でも、当日は魔物の狩りではなく、前回と同じになりそうではりますが。」
「屋外で料理を行える方というのは、少ないでしょうから。」

トモエは未だに渋っている。少年たちもいないため、改めてのびのびと刀を振るうつもりであった所に、アベルと公爵からそのような話が持ち込まれている。既にいる料理人たちは、何処まで行っても、現在の状況に慣れた料理人たちだ。それぞれ、応用が利くだけの素地は身に着けているだろうが、それでも経験が無い以上は何かと手間がかかる。当然、そうなれば、当日の人出を賄い切れる物では無くなる。
それこそ、始まりの町と同じように、許可さえ出れば、随分と賑やかな事にはなるだろうが、そちらで作られた物を回しても良いのかと言えば、また話も違う。王都には、しっかりと不破の種が存在している。口に入れる物は選ばなければならない。そして、問題なく口にできる料理を用意できる相手はと考えていけば、誰に白羽の矢が立つのかという話になる。オユキはいよいよ飾り物であり、既に少しづつ、回復の様子を見ながらという事だろうが、日々溜まっている木々と狩猟の神の聖印を下賜する役目がある。
アイリスの方は、それに合わせて、改めて祖霊の力をこの地に降ろし、獣人たちのまとめ役を頼まれていることもあり実に忙しい。最も、アイリスにしても料理という意味では、とりあえず肉を焼けばよいと、その程度であるというのは窺い知れているため、誰も頼みはしないのだが。

「仕方ありませんね。」
「お手数かけます。」

オユキの方でも、そこにはどうにもならない流れがあるのだと。そう遠回しに言えば、トモエもやむを得ないと留飲を下げる。トモエよりも多くを我慢する相手が隣にいるのだから。

「そろそろ、ですね。」
「以前は私も見ることは叶いませんでしたが。」

追加の異邦人。それが訪れるときに、始まりの町で一度開いたのだとは聞いている。しかし、生憎とその頃にはオユキを抱えてトモエも教会に入っていた。そして、そこから相応の時間治療に説教にと、そのような事に時間を費やしていればすっかりと終わっていたのだ。その辺りも、恐らく元々の計画という事なのだろうが。
現在配置されている人員にしても、オユキとトモエも顔を出して話をすれば、また身の振り方が変わっただろう。だからこそ、ミズキリが主導を行える状況になった。

「そう言えば、王都に来られているのでしたか。」
「話は聞きましたが、流石に隣国には間に合いそうにないと。」

かつて秘書業務を頼んだ相手は、オユキ達よりもだいぶ早くに王都に来ている。そして、今はこちらの世界で、そう言った業務を行う為に必要な知識を身に着けてもらっている最中だ。今は始まりの町の屋敷、今後の拠点となるその屋敷を任せているゲラルドは、流石にメイに返さなければならない。本人に確認は取っていないが、リース伯爵家がマリーア公爵家から別れたときにそのまま付いて言ったような人物だ。取り上げてしまえば、困るの者は実に多いというものだ。

「シェリアさんは。」
「流石に、交替ですね。」

そして、ここまでである程度顔なじみになった相手にしても、此処で一度盛大に入れ替えがある。
問題があった者達をどうするのか、その話し合いにしても大過なく勤めあげた者達として監督責任を問われもする。また、問題を起こさなかったからこそ、これまでの事にその者達は関係が無かったのだとあらためて証明が出来た。だから、元の道に戻る。加えて、トモエとオユキが好む在り方というのに、最も身近に触れた人間として、方々から話を求められるという仕事も待っている。こちらも、同行は出来ない。
だから、オユキは、トモエも。王都に来るまでの期間をできるだけ伸ばしたかった。
何処まで行っても、王都に来てしまえば次への話が始まる。身の回りに、僅かに増えた慣れた顔ぶれというのが、特に時間を使った相手というのがいなくなる。

「そうですか。何度繰り返しても、慣れませんね。」
「慣れたくは、やはりないですから。」

フスカが、こちらの神職に比べれば少々挑戦的ともいえる口上を謳いあげれば、いよいよ閉ざされていた門が開く。平時は、一体何処から開くのかと疑問に思うばかりの作りだが、どうやら両開きであるらしいと、今更ながらにそんな事をトモエとオユキは思う。
そして、少年たちは、それが決まりでもあるため、振り返らず光渦巻く門の中へ。
トモエが、一先ず良しと武器を渡したときに、随分とぐずった少女たちは、いよいよ昨夜は誰憚ることなく泣きながら、一時の別離を惜しんだ。次が必ずあるからと、そのような約束があったとして。教会を離れる時、少し離れた場所へ行くときには、そのような様子もなかったが、やはりまた戻るのだと決めている事と、そこから離れていく誰かがいる事は、大きさが違うものであったらしい。

「全く、あの子たちは。」
「頼もしい限りですね。」

振り返ることは許されない。言い含められたことはそれだけだと。
門に向けて、それぞれがトモエの手によって渡された武器を掲げて進んでいく。作法としては、大いに問題があるし、こういった事を見逃しはしない相手の目もあるだろうから、後でお叱りを受けるだろう。ただ、それにしても、仕方のないと、そう言った柔らかさを伴っての事にはなるのだろうが。
確かに、預けた流派の名前、トモエとオユキをこちらの世界で表す紋章を掲げた各々の武器から靡かせて、少年たちが消えていく。言いたいことは、確かによくわかる。武器を、渡したそれをどう使うのか、じつに分かりやすい彼らなりの示し方ではあるだろう。
後は、少年たちが預かった物を、先導役の者が代官としての権限を使うのか、それとも未だにトモエとオユキに知らされていない方法か。間違いなくたどり着いたかどうかは、そのうち分かるだろう。最も、神の名を使ってまで行った事だ。その末裔が自信ありげな様子を見れば、まず間違いはないと、そう判断できることでもある。

「次に会うときには、またお土産など、色々と持ち帰れると良いのですが。」
「ええ、そうですね。」

そして、かつてあったように。また会う時が出来る時には、やはり新しい場所に行った者として、あれこれと。それが出来ればと話をしながら。どうした所で、これまでばかりを考えてしまえば、寂しさは募るばかり。誤魔化しでしかないが、それが上手くできるだけの積み重ねがあるのだからと。
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