憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

旅の疲れを癒して

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あくまでも一伯爵の暴走。そうされた事件の後処理などもあり、神殿では予定されていた事だけを熟して早々に王都に戻る事となった。今回の滞在先については、色々とあるため、最初から別邸ではなく公爵家の本邸、勿論建物としては分かれているが、王城を直ぐ近くに臨むそこで。

「流石に冷えてきていると、そう感じる様になって来ましたね。」

少年たちは、揃って疲れ果てて既にここに来る迄の馬車の中で眠りに落ちていた。明日も一日、今回の移動に従事した者達は休養日となっている。

「それと、オユキさん。」
「いえ。ここでなら構わないでしょう。」

新たに得た、戦と武技からの功績。それを示すトモエには、オユキが首を横に振る。

「アベルさんと、タルヤさんは。」
「お二人とも、既にご存知の事でしょうから。」

神殿でトモエの持っていた疑問、それに対してそう考えても問題が無いだろう。その部分だけを口にした。神々の新たな奇跡を運ぶという行為であり、参加者はやはり多かったのだ。

「あの場は、トモエさんも気が付いていたでしょうが。」
「ええ、状況によってはそうしようと、そのような考えを持っていただろう方も多かったですね。」
「それと同じ理由、ですね。」

様子見をしたい、そう考えるものは実に多い事だろう。そう言った人間に対して、神国はあなた達を喜んで受け入れる事だろうと、そう宣言をして種を蒔いただけだ。そして、それを気にして護衛としての戦力がしっかり置かれているという事になる。

「お二方も、その、流石に私も疲れていますから。」

流石に、いつもの時間を豊かなものにしてくれるあるノーにしても、糸が切れたと言わんばかりに休んでいると聞いている。当然の帰結としか言えないのだが。意外な事と言えば、見るからにか弱いとそう見えるヴィルヘルミナが、まったく変わらぬ様子であったことだろうか。本人は、神殿の景観をもっと見ていたいと、そのような風情ではあったのだが、主役が別だとの理解もあるためそこで何があったわけでもない。久しぶりの光景に、心が動かされるものがあったようで、今は早々に与えられた部屋に。

「その辺りは、まぁ、経験相応で何よりだ。」

そして、招いた相手が入ってくる。

「公爵様のご様子は。」
「明日一日は、無理だろうな。」
「机仕事ばかりの身には、さぞ苛酷でしょうとも。」
「それと、オユキ様、こちらを。王太子妃様から。」
「明日にしたいものですが。」

ただ、この場で公爵を経由せずに渡される以上は仕方ないと、早速渡された物をオユキはトモエと確かめる。

「私が、王太子妃様をお誘いしなければ、ですか。」

何やら、またよくわからぬ要望だと、オユキは首をかしげる。関係性という意味では、散々に示したものではあるし、どちらかと言えばオユキが優先するのは代替わりが近い相手だ。そして、あれこれと手配を頼んでいるのは公爵夫人と王妃でもある。

「その、オユキさん。今は、オユキさんがお付き合いをしなければ。」
「いえ、内向きの事は。」

そこまで言って、オユキはようやく勘違いに気が付く。

「そう言えば、そうでしたね。」
「その辺り、公爵も気が付いてないからな。一度時間を取って、話しておけよ。」
「公爵夫人は気が付いているようですし、既にそちらから話が行っている物かと。」
「流石に、神々の覚えめでたい人間が隠しているかもしれない事を、易々と話せやしないんだよ。」
「成程。それにしても、王太子妃様からというのが、本来かとも思いますが。」

ただ、それにしてもというものだ。

「王家としては、王妃様が。王太子妃様からは、オユキ様に向けて心遣いを行うにしても。」
「流石に、王太子妃様が王妃様とは別に、それも難しいですか。しかし、公爵様を通さずにというのは。」
「お返事は、公爵様から。」
「公爵に対して、私個人がそれを望む程度には、そう見せよという事ですか。」
「あの、オユキさん。そればかりではなく、王太子妃様の生国へ行くわけでもありますから。特に、産後でもあり、多少の里心も。」

そうトモエに言われて、オユキは少し考えてみるが心当たりが無い。

「嬢ちゃんたちも良く言うが、本当に妙なところが抜けてるな。仕事じゃなく、我が侭を言いたいんだよ。」
「ええと、成程。」
「どうしても物を運ぶのが難しい、その状況下です。多くの物を諦めたでしょう。しかし、私たちが戻る時には、そこに融通が利きます。」

最低限、それだけを運び。それこそ次に生まれた国の地を踏めるのはいつになるかもわからない。そう言った覚悟はもっていたであろう。だが、突然状況が変わった。結局壁の外に向かう必要はあるが、それこそ大した距離でもない。生まれた子供がいる以上、両国の関係の上での婚姻でもあるため、紹介も必要になる。ただ、それがすぐの事かと言えば、当然そんなわけもない。国王その人は、どうした所で行かねばならないが、そこから先は新しい外交の形を決めるためにと利用される。門の起動にかかる費用というのも、かなりの物なのだ。落ち着き、王太子妃の順番がいつ回って来るのかとそれを考えれば、決まっている。お披露目を行うべき子供が、安息の守りの外に出ても問題が無い、そうなってからとなる。遠く、あまりに困難であればそれを考えずとも済むのだが、これからはそうでは無い。

「それ以外にも、次の代としてお付き合いの主体は、王妃様から移るわけですから。」

そこから少し、トモエから、あれこれとオユキは話をされる。すっかりと主題から変わってしまっているが。己の子供に対する祝祷、安全の保障、それに対するお礼を母として当然望むのだという事から始まり、どうせ礼品としてねだったのもトモエが飾ることを好むからと刀剣や武具の類だけだろうと。

「理解は、しました。」
「面倒だと、そう顔に書いてあるがな。」
「ええ、まぁ。さて、そちらについては、誘うにしても場の用意もありますから。」
「俺から、メイの嬢ちゃんを誘った形式を報告しているな。」
「では、公爵様に頼んで、それに近い形としましょう。ただ、そうなると今あるものは季節に合いませんね。」
「オユキさん、その辺りを頼んでみれば良いのですよ。」

どうにも話が戻ると、恐らく、背後には公爵夫人の提案もあるのだと、オユキにもそれが分かるためそちらは休日が終わってから改めてとして、いよいよ話を戻す。

「さて、神殿での事は、風向きを見たい方々向けの撒き餌です。」
「だろうな。戻ってからこっち、王都はおかげで少々騒がしいもんだ。」
「この程度の離間策は、当然行っていると思いましたが。」

言葉一つで、一切の費用なく行える策を取らなかったのかと、オユキが不思議に思ってアベルに尋ねればそこそこ力を入れて、頭を掴まれる。

「ラスト子爵と、アルマ男爵。何処が寄り親か、そういやお前興味を示さなかったな。」
「ああ、そちらが前例になりましたか。」
「アルマ男爵がな。」
「となると、行商人に爵位を与えて歓心を買ったという訳ですか。となると、最低限の用意は考えていたようですね。不足甚だしいですが。」

今神国の庇護を離れる、その最も大きな問題が今後間違いなく起こる人口増加だ。それに対して、耐えうるだけの基盤を作らなければならない。いくらダンジョンがあったところで、一都市では限度がある。始まりの町という長閑な場ですら多くの者が頭を抱え、実際に何かが起こる前に打てる手は全てとばかりに動き回っているのだ。勿論、オユキの手元に他領の情報など回ってこない。しかし、他の領にミズキリやオユキの様な、いよいよ例外と呼べるだけの異邦人がいるのかと言われれば、首をかしげるしかない。そうであれば、行うべきことを行っていないのだから。

「やはり、そうですか。だとすれば。」
「ええ。歴史が示すとおりになるでしょう。そして、拠点を増やすことが神に与えられた定め。それを果たせなかった領主に対して、どうなるかと言えば。」

前提とされていたものが、無くなる。つまり、そこに居るのは管理権限を失った者になる。

「それを避けるためには、この国と取引ができるだけの物を持たなければなりません。しかし、ダンジョンが生まれたため、凡そ必要とされる資源というのは発生しなくなります。本来は各領がそれを利点と見て、納めるべきものを独自にする。それが確かに有効ではあったのです。
 しかし、アイリスさんの祖霊の加護が土地に与えられる事となり、それが無い場所とはまた差が。」
「無理を、望みますか。」
「はい。その結果、上手くゆけば良し。失敗したとして、流石に無体は無いでしょうから。」
「そちらの二つの家が、王太子妃様を疑ったわけですね。まぁ、地図としては神国の中に、他国がある。その様な状況になって、終わりでしょう。その状況で独自として運用できるなら、確かにその能力を新たに認められ、今後形も変わっていくでしょう。」

前提は、何処まで行っても変わった予定。本来であれば、それこそ独立など考えはしなかっただろう。別の方法でこの国での立場を変えられたのだから。
独立を望む、その流れはオユキも当然と考えている。ただ、そのための動きがあまりにお粗末、そのような感想しか出てこない。だから、今となってはミズキリも同じく、それらの行動は失敗するとそう考えを改めた。そして、それらがどうやら表に出ていたのだろう。そこを、独立に失敗した時に起こることを、トモエがどうしても気にしている。

「それぞれの領都として、壁に囲われている場所は、難しいのです。」
「そこは、流石に。ただ。」

トモエにしてもオユキにしても。敵と見てしまえば容赦はないが、そうでないうちは出来ることくらいはと、嘆きなど少なければそれでよいと考える。

「一応、解決策はあります。」
「ですが、タルヤさんでは。」
「はい。私達が過剰に力を行使すれば、その負荷は大地に。如何に新たな加護が有ろうとも、現状では。」

大地からいくらでも吸い上げてしまえと、そのような存在であるからこそ、食料の不足が起こると分かり切っている現状では頼りにできない。寧ろ、そちらの方向でこそ、色々と頼むことになるだろう。

「しかし、難しいだろう。どうした所でそれぞれの領の持つ、魔石という義務がある。」

溢れで得た物を、始まりの町から公爵の領都に運んだように。王都というあまりに大きな都市、それを囲む壁を維持するための魔石等考えたくもない領だろう。そして、それを税として徴収する。それ以外にも、多くの物を。王都以外に己の版図を持つ者達が、不満を覚えるそれ。

「明日、皆さま休みとそうなっているのでしょう。」

解決策は、幸いな事に存在しているのだ。
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