憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

晴れ舞台を見守って

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有難い事に、こちらの神殿に品を治めるにあたってオユキとアイリスの仕事はほとんどない。
それについては、散々に予定の変更で振り回したため疲労の滲む勅使から預かった書簡に、記載されていた。勿論、不穏な文言として新年祭に纏わる事で、また一騒動あるだろうからと。だからこそ、そこまでの間に旅の疲れも含めて回復してくれと。勿論、オユキとして譲れないところはある。少年たちは、口にこそ出しはしないが、オユキとトモエに新年祭までに少年たちを始まりの町に戻す、その前提で動いていると、それを示せば喜んでいた。だからこそ、そこを動かす気はない。では、門を作るのは誰がと、まぁそう言う話になる。そして、いつかと。

「確かに。」

そして、こちらでは以前見る事の無かった、大司教を名乗る人物に。
勿論、主体としての受け答えは国王陛下その人が行っている。ただ、受け渡しという動作を行うのは3人になった持祭の少女達。周囲から実にはらはらと、以前のこともあるためまぁ、心配の視線が多い。それでも、何処までも真剣に。本来であれば、倍以上の人数で運ぶような物だ。重さも、オユキとトモエは感じないが大きさ相応。これまで、散々に魔物を狩ってきた、その加護を頼んだところで、ふらりふらりと実に危なっかしい。しかし、ここまで散々一緒に行動した者達は、できない等とは思わない。やり遂げるだろう。万事恙なくとはいかなくとも、及第点を出せる形で、間違いなく。だから、心配は、まぁ今後に向けての物だ。

「また、始まりの町に戻ってからは御小言を頂きそうですね。」
「準備が足りない、それが常とは言え、では次を考えればとそう言う話は出るでしょうからね。」

オユキの出番はまだ先。少女たちが定められた場所に物を置き、そこで必要なやり取りが終わればそれからだ。では同じくここまで巫女として運んできたアイリスはと言えば、そちらはこの門については無関係だ。しかし、神殿が側にある場所、水と癒しのお膝元に祖霊に依る豊饒の加護を与える為、その話をしなければならない。
神殿、滅んだ世界の欠片。そこに居る最高位の神職。まぁ、此処にしても確認は出来ていないが、分けられた物だろう。始まりの町と同じように。ではそういった存在が確実にいる。そこから、一応は貴族というのが神々からの信任を得てという経過を得るというのに、そこから離れる事を考えるものがどうなるのか。オユキとしては、正直考えるだけで頭痛を覚える結果が目に見えるようではある。オユキなどより、これまでの人生をそちらに費やしてきたマリーア公爵も国王陛下その人は、それ以上だろう。

「それにしても、既に決まっているのですね。」
「神々は、人の自由な歩みを妨げません。神国を名乗るのなら、猶の事。」
「ですが。」

そう言う事に不慣れなトモエですら、その決断の結果に疑念を覚えるのだ。

「そればかりは、どのような形になるか、でしょうか。」

顛末は今もこうしてこそこそと話す、トモエとオユキの側についているユリアから、動き回ったために崩れたからと簡単に手直しをされている間に一応聞いた。今回の暴走は、一伯爵によるものであったらしい。国境として、最も近い位置にある辺境伯でもなく、公爵その人でもなく。

「ここまでの事が有り、これまでが有り。それでもと望むのは。」
「ことこれについては、これまでが有るからこそ、でしょうか。」

思えば、その辺りの予想を話す席にはトモエが同席できていなかった。始まりの町で、メイにアベルにミズキリにと。そう言った顔をそろえる度に話したものだ。そして、そう言ったと気にはトモエは魔石集めに精を出していた。

「そもそも、神国が地方領主に対して相応しいものを返せるのか、そこが最も大きい論点です。」

領主に対して与えらる管理者権限、それについてはミズキリの証言で何処までも拠点ごとであると、それが明確になった。貸与された物であっても、管理ができるものが触れているのであれば、必要な事を行えば己の物と出来る。セキュリティとして、それはどうなのかとオユキにしても心の底から思いはしたが、貸与する側はそこまで考えて行うものだと言われれば、まぁ納得は出来る。そもそもそこまでの事をできないようにしてしまえば、国王、その権限を与える者が行わなければならない業務は、人が賄えなくなると、その予想もできる。
どれだけの数があるかもわからない拠点。それに対して領主が望む変更、それをいちいち国王その人が許可を出さなければならないと言われれば、とてもではない業務量を熟す必要が出て来る。だからこそ、既に独立した場所とすることができる素地はある。

「ダンジョンの話が出た折に、戦力がとは聞きましたが。王都に頼らねばならないなら。」
「では、王都の騎士団に、独立を望む領から出向している者がいないかと言えば、勿論そんな事はありません。」

そして、公爵は、当然その位に相応しい規模の領地を持っている。生憎とこちらの世界の、この国の税制や封建制に伴う義務と権利がどうなっているかはオユキは分かりはしない。精々知っている税の仕組みなど、最初に説明を受けたギルドからの物だけだ。こうした公としての仕事で得た物と、トモエやオユキが個人の活動として得た物、それだけは分けるように頼んでいる。そして、この二人が日々の生活として考える金銭というのは、そこからの物に絞られる。

「ですが、ここまでの事が有って。」
「恐らく伝えていません。」

その選択を悪意と取るか、選別と取るか。まだ、このような大事が無い時点で、予測は伝えた。勿論、そのような事が無くともそれに向けた準備は行われていただろう。そこでの行動を見た上で、己の領だけでと望む相手と、そうでは無い相手、その選別が行われた事だろう。
国王は、寧ろ喜んだに違いないのだ。この世界で、何処までも地方の管理が難しいこの世界で、その職務を行わなければならない困難は想像に難くない。そして、隣国との関係性で残らなければならない二つの公爵家、それと今回のあまりに大きな過失もあるため、神の定めた位に従うと振舞わなければならない公爵家。それで十分でもある。こちらの世界の統治者は、何も己の版図を広げる事に腐心していないのだ。

「前提として、版図を広げる、その仕事は神々に与えられる責務ですから。」
「逆説的に、そのてこ入れが無ければという事ですか。」

そう、自領ですら現状ままならない所ばかり。

「はい。」

神々が、ミズキリだけという訳でも無いだろうが組んだ予定、それを守るために。
そうして話している視線の先で、少女たちがどうにかこうにか定められた場所に、大きな荷物を置く。本来であれば、それを当然としたうえで次に動きを取らなければならないのだが、互いに視線を交わして大きく息をついている。トモエとオユキにしてみれば、微笑ましさとして受け取れる。

「そして、公爵という位を持つからこそ、今になって翻すことは出来ません。」

後はもう独立した領、この国にとってみれば新たな取引相手。しかし、その相手にしても、神国が必要とするものを提供できるのか否か、それを何処までも査定される相手になる。その流ればかりは、かつての世界と変わらない。企業から、その一部を切り取る形で独立したとして。だからこそ、求められる事が叶わないのなら切り捨ててしまえば済むのだから。オユキとしては、それに思うところが多く有り散々にミズキリとやり合いもしたが。こちらでは、それをしようとも思わない相手だ。顔も知らぬ誰かのために、そこまでするつもりはオユキもさらさらない。

「オユキさんであれば。」
「あり得ない選択ですね。」

公爵に対して、オユキからの疑義として。離反する公爵領の寄子たちがどう動くのか、その問い合わせをするほどに。この国と言えばいいのか、大本の仕組みと言えばいいのか。そこから存在していたギルド。かつての世界の物と変わらない同じ職業の者達による寄り合い。そこで雑事を引き受ける国から派遣された人員。それが全て引き上げるのだ。生活が立ち行かないのは目に見えている。狩猟者、その立場の低さがある以上、そこのインフラに介入し、同行を定めるだけの者がいなければ、破綻することは実に想像に容易い。恐らく、その辺りを私設の騎士団で賄うとそう考えての事だろうが、それにしても自身の領地、その全てを賄えるような物では無い。
現地採用の者達もいるだろう。それを考えて、算段をしているのだろう。だが、何処まで行っても、想定の甘さというのが感じられてならない。

「ですから、神国としては、非常に利益が大きいのですよね。勿論、対外的には悪評となりますが、それを覆すものを私たちが運びますから。」

本来であるなら。神国の国王は、己の血縁。それにすら離反されるという悪評を、管理の多くを頼む為にとした、広い版図をより効率的な物にするための物にと、譲歩を望むことが出来た。しかし、その前提は既に覆っている。要は、ミズキリの描いた計画と、大いに変更のあったそれと。
何処まで行っても、オユキとトモエがマリーア公爵の麾下として守られていた、それがここで致命的な情報となる。
そして、こうした新たな奇跡が大々的に布告され、離反する公爵との関係があるからと、それに従わなければならない者達にしても、レジス侯爵家、ラスト子爵家、アルマ男爵家の前例を元に出来るだけの者がそこにはある。

「結果としてこの国は、版図が減る代わりに、一度に人手が手に入るわけですか。」
「ええ。そしてそれを支えるお者が、アイリスさんから。それと、まぁ私たちの行いですね。」

己の望みとは異なる振る舞い、生命の危機に陥るような出来事。

「これまでを考えれば、まぁ、悪くない結果でしょう。」

国というあまりに大きな枠組みに対して、高々個人のその程度で得られるものがある。それを考えれば、悪くはない結果だというのが、オユキのこれまでの総評だ。

「上々では無いでしょうか。これで、私たちのだけでは無く、多くの方々の生活が安泰になるのでしょうから。」
「失われる拠点、元来の予定としてのそれに対しての補填はいるでしょうが。」
「恐らく、その辺りがこれまでですよ。」

トモエの言葉に、オユキはなるほどと、そう思う。
だからこそ、思い付きでしか無い事に、古い祭りを持ち出した。誓願を行う儀式を持ち出して神と確かなつながりを得るt前に笹針と糸が形を変えた功績を持つものが増えた。そして、それは王都でも。

「だとすると、まだ何かありそうですね。」
「そのために、こちらに来る顔触れが変わったのでは。」
「そちらは、それぞれで引き取って頂きたいですね。」

そして、神殿の外で、どうした所で門が行われるのは神殿の外だ。その様子を実に楽し気に見守るヴィルヘルミナがいる。さて、彼女の目的は王祖の眠る地、そこを訪う事で間違いなさそうだぞと。
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