憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

久しぶりというには短く

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知るべきでは無い事は、教えるべきではない。
さて、その言葉を悪くとるものが随分と前の世界では多かった。そんな事をオユキとしてはぼんやりと考えてしまう。領都で、それこそ以前教会で散々目立ったというのに、やはりシェリアがオユキの代役を買って出てくれている。
この世界、確かに神が存在し、そこから直接役割を得るというのに、他の者でも構わないのだろうかと。そんな疑問がトモエからも上がりはしたのだが、本人の許可があれば問題がないし、そもそもそれを理解したうえで振舞える人員として、シェリアが用意されているわけでもある。また、ここまでの公示の旅、マリーア伯爵にしてもシェリアが巫女であると、決して直接口にはしていない。アイリスも置いたうえで、巫女と呼ぶことはあっても、決して複数形で呼ぶことをしなかったのだ。

「随分と、手間をかけてしまいましたね。」

確かに護衛対象の存在が明るみに出てしまえば、単純に危険性が増える。ならば代理を立ててというのは、実にわかりやすい。情報を公開することで、危険性が増す。その辺りの理解は勿論オユキにもあるわけだが、既に広く姿を知られている領都までとは思ってもいなかった。

「何、然したる問題でもない。外遊の折などは、それこそ別を用意したりと、そう言うこともあるのでな。メイ、こちらの予定だが、始まりの町に引いた水源、それについての計画がされていない。」
「そうですわね。数方向に向けて、同じ規模。そう言うこともありますものね。それなのですが、行動を見るに採取の一環ではないのかという声もあり。」

そして、馬車の中では、リース伯爵家の親子が書類仕事に勤しんでいる。
既に一行はしっかりと領都の中に入り、実に仰々しく以前縁を得た水と癒しの教会へと向かっている。生憎と、運んでいる新しい奇跡、それを司る神の教会は未だにこの世界に存在していない。ならば、やはり創造神かという話も上がりはしたのだが、新しい水と癒しの教会の話もあり、本教会、領都に最初に用意された教会でもあるそこ一先ずはとなっている。そちらにも巫女がいる為、話も早いだろうと。

「ふむ。別で用意したのか。」
「ミズキリが好きらしく、随分と熱を入れて。それと、先の一件だけですが。」
「うむ。オユキ殿は。」
「流石に都市計画までは、知識に無いですね。組織として、というよりも。ミズキリの懸念として、水源の管理の全てを現状メイ様では行えない、それでしょう。」

ただでさえ始まりの町、その管理者権限の一部を教会から直々に渡されている。未だ代官なり領主なり、実際はマリーア公爵の領地ではあるが、置かれていない川沿いの町に関しても行わなければならないのだから。

「レジス候子息と、ラスト子爵子女はどうか。」
「お二方とも、騎士団におられたわけですから。」

そう応えるメイの溜息が随分と。

「既にレジス候本人が護衛も兼ねて、魔国へと向かったのだ。流石に今から変えるのは。」
「それもあって、公爵様から経験を積ませよという事なのではないかと。お聞きになっていないのですか。」
「マリーア伯の子息も居られるからこそ、そう言う形か。このあたりについては、我のあずかり知らぬところではあるな。何分、移動のための準備で、な。」

そして、今こうしてメイがオユキやミズキリ、ケレスといった者達を巻き込んで作った計画書。勿論経過報告はしているし、それと重複する箇所も実に多いが、完成としたそれを読みながらリース伯爵も実に味わい深い顔をする。
王都までの移動、表立っての交渉でマリーア公爵の手が埋まったのだろう。前回の王都までの道行きを共にした、リース伯爵にその仕事が回ってくるのは実にわかりやすい流れだ。勿論、移動の準備に含まれるのはそれだけではない。

「オユキ殿もメイが読んだ後に。」

そして、リース伯爵からメイにも計画書が。

「拠点の作成自体は人の手で行えるのでしたか。森を拓きますか。」
「その案も確かに出たのだが、時間がかかりすぎるとなってな。」

そして、内容をみずとも予想のつく範囲だと、オユキはそれに関して話を。最も手ばかりは、変わらず動かし続けているのだが。既に公爵経由で、今回の事を喜ぶ手紙というのが、愉快な量届いていた。民衆に向けては知らされていないが、為政者、その枠組みの中では当然共有しなければならない情報なのだ。今後の魔石、その取扱いについても多大な影響を与える。魔術師たちにしてもそうだ。十分な量が得られている場所などほとんどない、だというのに大量に使う予定がある新たな奇跡が。

「となると、水源との間に挟むわけにはいかないでしょうから。」
「森側に、川をまたがぬようにずらして、となるな。流石に現状のあの町では、他国からの相手を賄いきれぬ。」

それこそ、それが出来る様にしろと、そう言う話をするのであれば町を更地にして、そうせざるを得ない状況になる。始まりの町にしても、教会から正門迄まっすぐと道は伸びているのだが、その道幅も十分広いという訳でも無い。勿論、門の幅から考えれば十分な物だが、往来が頻繁にとなればまた不足も起きる。どうした所で利用には時間がかかり、それを教会の横に置かれた門、その側で待機させてという訳にもいかない。
トモエとオユキがこちらで初めて覗いた雑貨屋、そちらについても間もなく。
以前の世界で言えば、大型の駅が作られるため、その周辺を整えなければいけないとそう言う事になる。

「それで、確か丸兎の毛皮を大量に得ていると聞いている。」
「確かに、敷物には良さそうですね。」

トモエがすっかりと気に入っている、寝室に置かれた敷物も丸兎の毛皮を継いで作ったものだ。

「宿場町とそう言う言葉があるかは分かりませんが、迎賓館も含めたものになりますか。」
「将来的には、一つに纏めるがな。」

どうした所で、先に用意しなければならないものがある。そちらを優先してしまえば、産業といった部分は無視した計画になっている事だろう。要は、想定通りに始まりの町から供出せよと、そう言う形になる事だろう。

「魔物がどう変わるか、それ次第とはなりそうですね。」
「今しがた確認した報告書では、方角によって分かれてもいるようである。」
「始まりの町、その名前の意味を考えれば、最も程度の低い魔物も残るとは思いますが。成程、それもあって間におかずに川沿いですか。」
「うむ。過去に幾度かそういった方向性での拡張を行ってもおる。その時にも、町を伸ばす方向と逆であれば変わらぬと、そう言う記録もあったのでな。」

それこそ、この短い期間で、多くの人員を導入して過去の記録を漁ったことであろう。

「ですがお父様。」
「人が足りぬ、それは分かっておるのだがな。」
「ファルコ様が行う事もありますが。」
「そちらについては、未だ調整中の事柄が多いとマリーア公からは伺っておる。」

そして、馬車の中で仕事に精を出す者達からの溜息が揃う。

「それとメイ、こちらが本題になるのだが。」
「手元に戻った物もあります。既にオユキとアベルから。」
「相変わらず用意のいい者達だ。それだけは、幸いな事だとそう喜べるものだな。」

先の襲撃、勿論既に先に人を送り、顛末の概要の報告だけは終わっている。ただ、詳細については確認すべきことも多く。ここまでの道中、どうにか用意したそれをメイがリース伯に渡す。
とはいっても、メイが主体として報告しなければならない事など、要点だけだ。しょるにしても、概要としての纏めがあり、後は方々からの報告書が概要として添付されている物でしかない。
旅に同行させていない、汚染が軽度であった者達。始まりの町で、残した戦力の下、散々に絞られている者達からも、徹底的に訓練で疲弊させた後に何気ない素振りで聞き取りを行い、隠すことに気が回らぬだろう状況で聞き取った情報として、実に多くの事柄が。それこそ、未だに領都で家を維持している相手、王都にいるもの。神国から独立するだろうと踏んでいる公爵、その土地で暮らす貴族の家の名前であったりと、それはもう愉快な量の情報が並んでいる。
サキから聞いた事、彼女が一切の表情を浮かべずにただ書きなぐった情報、それらを踏まえて考えても魔物を操るために魔石は使われている。まずは、それを汚染し、それを使ってという事ではある。ただ、人里から離れてしまえば、当たり前のように魔物は強力になる。如何に襲われぬからと言え、そう言った存在は人が加護も持たずにどうこうできる様な物では無い。そもそも、必要な道具を得る事ですら難しいのだ。鍛冶に限らず、人が暮らせばその発展が示すように火の存在は斬り華図事などできない。各拠点では、立ち上る煙をどうにかするための魔道具が存在しているらしいが、それこそ神の奇跡によるものだ。そこから離れた者達が作れる物では無い。
では、そう言った存在がいると分かっている、拠点としている。その分かりやすい証拠となる立ち上る煙が見つからないのは何故かと言えば、勿論それに限らず供出している者達がいると、そう言う話だ。魔道具であれば、魔石を燃料にさえしてしまえば、誰にでも扱えるのだから。

「では、巫女様。」
「ええ、それもあって月と安息の神から問答を行えと、言われているのでしょうから。」

短い期間ではある。しかし既に判明した相手を残したまま、領都から連れ立って出るという事は無い。危険は無いと言ってもいいだろう。それこそ前回にしても、トモエとオユキしか怪我人などでていない。それも直ぐに治る程度のものであった。だが、気が付いた危険因子に対して、何も手を打たないわけもない。

「どうにも、ここ暫く特定の者達だけで集まる風であったわけだ。」
「良き友人、そう思える相手もいたのですが。」
「セセラ家と同じであろうよ。家全体が汚染されているのかと言えば、そうでは無いという事であろう。」

連座という概念がこちらに無い事は、オユキとしては実に喜ばしい事ではある。そして、特にと考える相手がいたのだろう。手元の紙に少しリース伯が書きつけたと思えば、仕切りとして使っている布、カーテンと呼ぶには難のある物だが、それを空けてそこに控えている物に渡す。
それこそ、この容易にはアベルもローレンツも関わっている。公爵にも共有が終わっている。こうして実にわかりやすく目を引く振る舞いを行うその背後では、捕り物が行われている事だろう。

「既に、動き出しているはずですが。」
「うむ。この後のためであるな。面倒は、早々に片づけてしまいたい。」
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